8月9日 晴れのち曇り

この日の朝の雲海は実に見事だった。波ひとつたっていない、これほどまっさらな雲海は初めて見た。それでも午後は雨になるに違いない。昨日は8時には雲に包まれてしまったので、赤石岳には早いうちに登っておきたい。昼までに赤石小屋まで下れば、濡れずに済むだろう。・・・待てよ。前回は赤石小屋から椹島まで2時間40分で下っている。ということは、15時に椹島下山も可能なんじゃないか? 樹林帯の中なら雷もそう恐くはない。濡れたって、椹島なら乾燥室もある。風呂だってあるし、朝寝もできるし、朝一番のバスで帰れる。こりゃもう下りるっきゃない!!
4:44 荒川小屋発(2590m, 16.9℃)


夏山の朝はほんとうにすばらしいなあ。
5:25 大聖寺平(2695m, 19.0℃)

ここから標高3000mの台地までは前回シャリバテで非常に苦しんだ急登だ。歩幅を意識的に小さくして、じわりじわりと登っていく。道は小石が多く、大きな段差はほとんどないのでこういう歩き方が有効だ。
30分ほど経ったところで一度立ち休憩を入れようと思ったが、相棒は、寒いので止まりたくないという。確かに寒い。このあたりは西斜面なので朝は完璧に日陰に入っており、これだけの急登なのにほとんど汗をかいていなかった。引き続きじわりじわりと登っていく。
6:34 3000m台地(2995m, 21.7℃)

オンタデが咲き誇る道を進む。大好きな朝の稜線歩きだ。
7:03 小赤石岳(3045m, 23.9℃)

ここから石くずの道をゆるゆると下る。
7:16 赤石小屋への分岐(3015m, 23.3℃)

赤石岳は遠くから眺めても堂々と尾根を張り出して立派だが、ごく近くから山頂部を見るだけでもすっきりとしていい形だなあと思った。昨日登った悪沢岳は本邦第6位だが、この赤石岳はそれに次いで第7位の標高を誇っている。また、あまり知られていないが、一等三角点のある山では一番高い山だ。それに、南アルプスは本名が赤石山脈であり、この山の名前を冠しているのだ。まさに盟主の名に恥じない実に素晴らしい山なのだ。
7:39 赤石岳登頂(3085m, 23.9℃)

展望は360度だが、東の富士山は、まだ朝早いためにまぶしすぎてよく見えない。大聖寺平ではきれいに見えていた中央アルプスはいつの間にか雲に包まれていた。南北に南アルプスの山々が連なっている。北岳はやはり間ノ岳の後ろで見えない。また塩見は荒川中岳の真後ろでほんのちょっぴり頭を出しているだけで、あの特徴的な姿を全て見ることはできない。南の聖は頂上付近まで緑に覆われてバカでかく、いかにも南アの山だ。あそこまで行くはずだったのだと思うとちょっぴり悔しかったが、まあしかたない。周囲の人々はみな口々に「来年は聖に登ろう」というようなことを言っていた。
8:44 赤石岳発(3115m, 27.3℃)


山頂小屋でトイレを済ませ、日本一高いところにある一等三角点にタッチしてから下山開始。
9:00 分岐(3060m, 31.2℃)

これからいよいよ椹島への下降にとりかかる。椹島の標高は1100m。山頂は3120mだから、高度差は2000mになる。荒川小屋 - 山頂と500m登ったあとなので、これがどう影響してくるだろうか。過去に通って概要は知っている道だし、途中に小屋もあるし、まあなんとかなるだろう。
9:10 分岐発(3070m, 31.7℃)


9:49 水場(2850m, 36.5℃)
さらにジグザグは続く。沢音が聞こえてくると、水場に着く。日を遮るものがなく、暑い。水はじゅうぶんに残っていたが、この暑さでやられそうな気がして、念のため水筒を1本満タンにした。水は生ぬるく感じた。沢沿いに下って道が左に曲がり、沢を離れると、なんと富士見平まで登りになる。
11:07 富士見平(2765m, 28.7℃)


冬ルート入り口の標識からわずかで富士見平に着いた。神経を使う歩きが続き気づかなかったが、いつの間にか山はすっかりガスに包まれて展望はゼロだった。
11:39 赤石小屋(2575m, 25.7℃)
ここの水場はテント場の奥のちょっと下ったところにあるので、ちょっと今は行きたくない。幸い先ほどの水場で補充した水があるし、ここではペットボトルを1本買うにとどめた。軽食をとり、足を休める。頂上からここまで、山と高原地図のコースタイムとほぼ同タイムだった。昭文社に操られているような気がした。小屋から椹島までは3時間30分。前回は荷物が軽かったとはいえ、2時間40分で下りている。遅くとも15:30には着けるだろうと判断した。
11:58 赤石小屋発(2590m, 28.5℃)

足を休ませるため、こまめに休憩をとる。この道は目標がまったくなくてペースがつかみにくい。数分置きに地図をチェックして現在位置を確認しながら歩いたが、どうやら予定よりかなり遅れているようだ。
13:47 標識

なにはともあれ、ようやくポイントがあって少しほっとした。
14:07 林道出合(1960m, 27.4℃)

高度計を見ると、着実に下っているのがわかりちょっぴりほっとする。1500mを指したあたりから植林帯になり、尾根の突端に出る。ここで左に曲がって尾根筋を離れ、斜面をジグザグに急降下すると、しだいに川の轟音が聞こえるようになり、道路や橋が見えてくる。とうとう、赤い鉄階段の登山口に到着だ。林道を横切って林の中を数分下ると椹島だ。
15:48 椹島着(1275m, 29.7℃)
結局赤石小屋から3時間50分かかった。山と高原地図では3時間30分だから、20分オーバーだ。それでも、林道出合 - 椹島はコースタイムどおりだったので、赤石小屋 - 林道出合の間がペースが落ちていたのだ。赤石小屋から上もコースタイムどおりだったから、この区間がよほど我々に合わない道だったのだろう。そういえば大きな段差が多かったかもしれない。また、「椹島まで1時間30分」の標識からちょうど2時間だった。とてもキツかった。ザックを下ろしてからしばらくはまともに歩けなかった。
椹島の夜

ロッジでは宅配を扱っているので、ザックの中身をほとんど空にして送ることにした。25kgまでで1600円。これで帰りのバス荷物料金1280円×2人よりも安上がりになった。それになにより軽い荷物で楽々帰れる。ただ、荷物は毎日発送しているわけではないので、山で着た芳しい衣服は自分で持ち帰ることにした。
興奮しているせいか、夜はなかなか寝付けなかった。夜中に何度か目が覚めた。夜のうちに雨はあがったようだった。