荒川三山・赤石岳縦走 その3

8月9日 晴れのち曇り

夜明け
荒川小屋からの見事な夜明け
昨日と同じく雨は夜半に降り止んだ。人数が少ないせいか小屋は昨日よりさらに寒く、明け方は13℃ほどだった。Tシャツ1枚で寝たので、夜中に寒さで何度か目が覚めた。
この日の朝の雲海は実に見事だった。波ひとつたっていない、これほどまっさらな雲海は初めて見た。それでも午後は雨になるに違いない。昨日は8時には雲に包まれてしまったので、赤石岳には早いうちに登っておきたい。昼までに赤石小屋まで下れば、濡れずに済むだろう。・・・待てよ。前回は赤石小屋から椹島まで2時間40分で下っている。ということは、15時に椹島下山も可能なんじゃないか? 樹林帯の中なら雷もそう恐くはない。濡れたって、椹島なら乾燥室もある。風呂だってあるし、朝寝もできるし、朝一番のバスで帰れる。こりゃもう下りるっきゃない!!

4:44 荒川小屋発(2590m, 16.9℃)

登山道
モルゲンロートに染まる登山道
中央アルプス
島のような中央アルプス
本日もカッパ上下を着込んで出発。が、林はすぐに終わり、見晴しのよい、のびやかな気分のいい道となる。ここで日の出を迎えた。悪沢の巨大なシルエットに息を呑みつつ、朝焼けの縦走路を進む。雲海はまだ美しさを保っていた。道も歩きやすいし、もう気分は最高。大聖寺平が近づくと西が見渡せた。西の雲海も完璧に凪いでいて、中央アルプスがまるで島のように見えた。
夏山の朝はほんとうにすばらしいなあ。

5:25 大聖寺平(2695m, 19.0℃)

登山道
小赤石への登りを見上げる
ケルンの近くで最初の休憩。早速ザックを降ろしてカッパを脱ぐ。椹島まで下る気満々なので、できるだけ重い食糧を減らすことを心がけ、まずウィダーインゼリーを飲んだ。
ここから標高3000mの台地までは前回シャリバテで非常に苦しんだ急登だ。歩幅を意識的に小さくして、じわりじわりと登っていく。道は小石が多く、大きな段差はほとんどないのでこういう歩き方が有効だ。
30分ほど経ったところで一度立ち休憩を入れようと思ったが、相棒は、寒いので止まりたくないという。確かに寒い。このあたりは西斜面なので朝は完璧に日陰に入っており、これだけの急登なのにほとんど汗をかいていなかった。引き続きじわりじわりと登っていく。

6:34 3000m台地(2995m, 21.7℃)

小赤石・赤石
ようやく小赤石と赤石が見えた
日が差してきて、上が空だけになったら3000m台地に到着。標高差300mを休憩なしで1時間で登れた。目指す赤石岳が間近に見えた。多少のアップダウンがあるが、見た感じ、あと1時間くらいといったところか。見渡してもまだ雲が湧いているところはない。なんとか晴れているうちに山頂に立ちたいものだ。
オンタデが咲き誇る道を進む。大好きな朝の稜線歩きだ。

7:03 小赤石岳(3045m, 23.9℃)

小赤石
小赤石岳の山頂標識と富士山
小赤石の山頂部分は細長い台地のようになっており、山頂標識はその一番南(赤石寄り)に立っている。
ここから石くずの道をゆるゆると下る。

7:16 赤石小屋への分岐(3015m, 23.3℃)

赤石岳
分岐から赤石岳を見上げる
分岐は最低鞍部ではなく、少し小赤石寄りについている。ここにザックをデポし、水とカメラと軽食だけを持って山頂に向かう。
赤石岳は遠くから眺めても堂々と尾根を張り出して立派だが、ごく近くから山頂部を見るだけでもすっきりとしていい形だなあと思った。昨日登った悪沢岳は本邦第6位だが、この赤石岳はそれに次いで第7位の標高を誇っている。また、あまり知られていないが、一等三角点のある山では一番高い山だ。それに、南アルプスは本名が赤石山脈であり、この山の名前を冠しているのだ。まさに盟主の名に恥じない実に素晴らしい山なのだ。

7:39 赤石岳登頂(3085m, 23.9℃)

悪沢
赤石岳山頂より悪沢岳を望む(左奥は間ノ岳・農鳥岳)
とうとう、大展望の赤石岳に登頂できた(ぐるぐる写真)。山頂は結構にぎわっていた。
展望は360度だが、東の富士山は、まだ朝早いためにまぶしすぎてよく見えない。大聖寺平ではきれいに見えていた中央アルプスはいつの間にか雲に包まれていた。南北に南アルプスの山々が連なっている。北岳はやはり間ノ岳の後ろで見えない。また塩見は荒川中岳の真後ろでほんのちょっぴり頭を出しているだけで、あの特徴的な姿を全て見ることはできない。南の聖は頂上付近まで緑に覆われてバカでかく、いかにも南アの山だ。あそこまで行くはずだったのだと思うとちょっぴり悔しかったが、まあしかたない。周囲の人々はみな口々に「来年は聖に登ろう」というようなことを言っていた。

8:44 赤石岳発(3115m, 27.3℃)

聖
赤石岳山頂から聖岳を望む
富士山
雲に襲われる富士山
しかし今日も雲の湧くのが早く、北の方から徐々に雲が増え、甲斐駒と地蔵のオベリスクが隠れてしまった。富士山までもが雲に襲われていた。下山は9時の予定だったが、少し早めることにしよう。
山頂小屋でトイレを済ませ、日本一高いところにある一等三角点にタッチしてから下山開始。

9:00 分岐(3060m, 31.2℃)

小赤石
トウヤクリンドウと小赤石
登りのときは登頂が迫った興奮で気づかなかったが、分岐までの道端にはトウヤクリンドウやイワギキョウがたくさん咲いていた。
これからいよいよ椹島への下降にとりかかる。椹島の標高は1100m。山頂は3120mだから、高度差は2000mになる。荒川小屋 - 山頂と500m登ったあとなので、これがどう影響してくるだろうか。過去に通って概要は知っている道だし、途中に小屋もあるし、まあなんとかなるだろう。

9:10 分岐発(3070m, 31.7℃)

赤石
花畑から赤石岳を望む
花畑
花畑
いきなり強烈なザレ道をジグザグに下る。ガーッと下って方向を北に変えると花畑となる。前岳ほどではないがじゅうぶん美しい。しかしここも地味な花が多いなあ。

9:49 水場(2850m, 36.5℃)

さらにジグザグは続く。沢音が聞こえてくると、水場に着く。日を遮るものがなく、暑い。水はじゅうぶんに残っていたが、この暑さでやられそうな気がして、念のため水筒を1本満タンにした。水は生ぬるく感じた。
沢沿いに下って道が左に曲がり、沢を離れると、なんと富士見平まで登りになる。

11:07 富士見平(2765m, 28.7℃)

登山道
根が張り出し、桟道が待ち受ける
富士見平
富士見平で赤石岳を振り返ると雲の中だった
東尾根の南面をトラバースしながら登っていく。根が張り出したり、桟道があったり、さらにはロープまで使ったりと、お世辞にも歩きやすいとは言えない。
冬ルート入り口の標識からわずかで富士見平に着いた。神経を使う歩きが続き気づかなかったが、いつの間にか山はすっかりガスに包まれて展望はゼロだった。

11:39 赤石小屋(2575m, 25.7℃)

ここの水場はテント場の奥のちょっと下ったところにあるので、ちょっと今は行きたくない。幸い先ほどの水場で補充した水があるし、ここではペットボトルを1本買うにとどめた。軽食をとり、足を休める。
頂上からここまで、山と高原地図のコースタイムとほぼ同タイムだった。昭文社に操られているような気がした。小屋から椹島までは3時間30分。前回は荷物が軽かったとはいえ、2時間40分で下りている。遅くとも15:30には着けるだろうと判断した。

11:58 赤石小屋発(2590m, 28.5℃)

登山道
赤石小屋から下りの始まり
樹林帯の道を下り始める。小ピークへ軽く登りかえしたあと、ジグザグの急降下。大きな段差も多い。延々と続くように感じられたジグザグが終わり、少し道が緩やかになってもスピードが出ない。足にだいぶ疲労がたまっているようだ。ふんばりが効かずに、滑ってコケることが多くなってきた。
足を休ませるため、こまめに休憩をとる。この道は目標がまったくなくてペースがつかみにくい。数分置きに地図をチェックして現在位置を確認しながら歩いたが、どうやら予定よりかなり遅れているようだ。

13:47 標識

標識
赤石小屋2時間は無理だろ
2時間ほどもすると標識が現れた。なになに、椹島まで1時間30分・・・無理だな。6年前は行けたんだろうけど。その下には赤石小屋まで登り3時間のところを、誰かがマジックで2時間に書き換えていた。おいおい、下りで2時間かかったんだぜ。
なにはともあれ、ようやくポイントがあって少しほっとした。

14:07 林道出合(1960m, 27.4℃)

登山道
石ゴロゴロで歩きにくい登山道
標識からほどなく林道出合に。林道を過ぎると平らな地形になり、すぐまた急下降が始まる。そして鉄階段があるとその下の林道に着く。ここから荒れ果てた林道をそのまま行き、また林道を離れて下りとなる。道は急というほどではないが、石がごろごろでなにしろ歩きにくい。
高度計を見ると、着実に下っているのがわかりちょっぴりほっとする。1500mを指したあたりから植林帯になり、尾根の突端に出る。ここで左に曲がって尾根筋を離れ、斜面をジグザグに急降下すると、しだいに川の轟音が聞こえるようになり、道路や橋が見えてくる。とうとう、赤い鉄階段の登山口に到着だ。林道を横切って林の中を数分下ると椹島だ。

15:48 椹島着(1275m, 29.7℃)

結局赤石小屋から3時間50分かかった。山と高原地図では3時間30分だから、20分オーバーだ。それでも、林道出合 - 椹島はコースタイムどおりだったので、赤石小屋 - 林道出合の間がペースが落ちていたのだ。赤石小屋から上もコースタイムどおりだったから、この区間がよほど我々に合わない道だったのだろう。そういえば大きな段差が多かったかもしれない。また、「椹島まで1時間30分」の標識からちょうど2時間だった。
とてもキツかった。ザックを下ろしてからしばらくはまともに歩けなかった。

椹島の夜

レストハウス
レストハウス椹
ロッジは、1泊目と同じく、1泊夕食のみで個室をとった。明朝の送迎バスは8:10なので、ロッジの朝5時の朝食は早過ぎるのだ。夕食後、夕涼みに外に出ようとしたら雨が降ってきた。さほど強い雨ではなかったけれど、しばらく降り続いた。山の上はどうだろうか。やはり下りてきてよかったと思ったのだった。傘をさしてレストハウスに行き、冷たいカフェ・オ・レを飲んだ。甘さが身に染み渡り、とても美味しかった。
ロッジでは宅配を扱っているので、ザックの中身をほとんど空にして送ることにした。25kgまでで1600円。これで帰りのバス荷物料金1280円×2人よりも安上がりになった。それになにより軽い荷物で楽々帰れる。ただ、荷物は毎日発送しているわけではないので、山で着た芳しい衣服は自分で持ち帰ることにした。
興奮しているせいか、夜はなかなか寝付けなかった。夜中に何度か目が覚めた。夜のうちに雨はあがったようだった。

8月10日 曇り

テント場
朝のテント場とレストハウス
朝食を知らせる館内放送で目が覚めた。5時だ。もう寝られなくなってしまったのでガイドブックなどを読み返したりしていたが、それにも飽きたので荷物をまとめて部屋を出ることにした。6時過ぎだった。レストハウスの前のベンチにザックを置いて、高原の朝の散歩を楽しむ。昨日10張り近くあったテントはすでにひとつもなかった。以前使われていたレストランや受付の建物はがらんどうとなっていて、寂しげだった。ここも登山小屋のように少しずつ朽ちていくのだろうか。その建物に付いていた温度計は17℃を示していた。涼しいというよりは、ちょっと寒いくらいだ。7時になってレストハウスが営業を始めたので、モーニングセットを食べた。ゆったりと落ち着いて食事ができ、とても幸せな気分になれた。
送迎バスの乗客は26人とほぼ定員いっぱい、静岡行きは20人弱で空いていた。静岡着は13時。駅ビルで昼食に寿司を食べ、電車を乗り継いで家に着いたのは17時頃だった。
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