荒川三山・赤石岳縦走 その2

8月8日 晴れのち曇りのち雨

夜明け
千枚小屋の夜明け
あれだけ雨が降っていたのに、朝にはすっかり晴れていた。これで午後に雨が降るというのは信じがたいが、まあ降るんだろう。朝食には行動食にするつもりでいたパンを食べた。明け方の小屋内の温度は約15℃で結構寒かった。20人近く人が入っているのに、これではテント並だ。撤収のときに気付いたのだが、剥き出しの屋根裏が結露して雫が落ち、枕もとが結構濡れていた。寝る位置がもうちょっとずれていたら顔に雫の直撃をくらっているところだった。

4:45 千枚小屋発(2595m, 18.3℃)

登山道
カンバの並木道
今日も朝露対策でカッパ上下で出発。この時間ではヘッドランプは要らない。花畑の中のジグザグの急登を過ぎると道は緩やかになり、雰囲気のよいカンバの並木道のあたりで日の出となった。二軒小屋からの道を合わせ、道が西向きになるといよいよ森林限界は近い。道の先に標識が見え、そこが山頂のように思わせるが、これはただの道標なのはわかっている。にしても、ずいぶんと罪なところに標識を立てたもんだ。しかしここが森林限界で、見上げると千枚岳の岩峰がすぐ上に見え、10分ほどで岩だらけの山頂に着く。

5:31 千枚岳着(2845m, 19.3℃)

悪沢
千枚岳より中岳・悪沢岳・丸山
赤石岳
どでかい尾根の赤石岳
空はきれいに晴れ上がり、展望は最高級だ。北の眺望が一気に開け、南ア北部の山々がどかんと見えた。景色を存分に楽しむことにした。
丸山は丸く、悪沢はごつごつしている。聖がものすごく遠い。ここからの赤石岳の眺めは大好きだ。大きな尾根を張りだした重厚感あふれる姿で、いかにも赤石山脈の盟主に相応しい姿で鎮座している。
ここでカッパは脱いだ。この先には林はないし、岩場に裾でも引っ掛けたらたいへんだ。

6:02 千枚岳発(2865m, 23.5℃)

岩場
岩場の下はすっぱり切れ落ちている
シロバナタカネビランジ
特産・シロバナタカネビランジ
千枚岳を出るとすぐに、両手を使うところが数ヶ所ある、ちょっぴり緊張する岩稜となる。しかしこの一帯は美しい花畑で、この縦走の見所のひとつ。斜面にはマツムシソウが一面に咲いていて、ほかにもウスユキソウ、イワオウギ、ツメクサ、コゴメグサ、ジャコウソウなど、もう凄い凄い。特に、特産のシロバナタカネビランジがちょうど盛りで、白い愛らしい花があちこちで見られたのは嬉しかった。

6:30 岩場を通過

丸山
丸山への緩やかな登り
雷鳥
雷鳥と間ノ岳・農鳥岳
大喜びしながら写真をとったり花をゆっくり眺めたりして、岩稜帯の通過に30分ほどかかった。この間はほとんど標高が上がらないが、岩稜帯を過ぎるとハイマツが点在したなだらかな斜面をジグザグに登るようになる。
先行の相棒が立ち止まって手招きしている。何かと思ったらライチョウだった。親は岩の上で警戒姿勢をとり、動かない。あまり子どもの統率がとれていなかったが、モデルとしてはなかなかいい親鳥だった。

7:04 丸山(3050m, 34.2℃)

南アの山々
丸山より南ア北部の山々を望む
悪沢
丸山より悪沢岳を望む
ここも眺めが良い。しかし、やはりライチョウが出現すると天気は崩れるのだろうか、徐々に雲が湧いてきた。さっきまであんなにきれいに晴れていたのに。
悪沢が威風堂々といよいよ間近に迫ってきた。なんといっても標高は3141m、槍ヶ岳に次いで日本で6番目に高い山なのだ。

7:58 悪沢岳登頂(3145m, 31.3℃)

中岳
悪沢岳より荒川中岳を望む
丸山と悪沢は標高差は100mほど。巨岩の上をぴょんぴょんと渡る感じで、割に呆気なく登頂できる。山頂は多くの人でにぎわっていた。北部はすっかり雲に覆われてしまい、見えるのは赤石岳と中岳だけになってしまった。ここから眺める中岳はとても立派な姿だ。小さいが日陰ができている岩陰にザックを降ろし、みかんを食べたりしながら寛いだ。
そうこうしているうちに、まだ8時だというのに赤石岳も見えなくなってしまった。このまま百間洞まで行くと、この山旅の最大の目的である、赤石岳からの眺望を逃すことになってしまう。では赤石山頂小屋に泊まって明朝の晴れに期待しようか。しかし、もしこのあと雨になるとすれば、小屋は逃げ込んできた人で混雑するのではないか。混んだ小屋は大嫌いだし、山頂にはテントは張れない。というわけで、荒川小屋止まりに決定。聖への縦走は諦めて赤石小屋経由で下山することにした。

8:42 悪沢岳発(3140m, 26.6℃)

登山道
中岳目指してザレ場を下る
悪沢
鞍部より悪沢を振り返る
今日はもうゆっくりでいい。前岳の花畑でものんびり楽しむことにしよう。
悪沢を発って中岳に向かう。最初はコゴメグサが埋め尽くす中を歩く。徐々に傾斜が増し、小さくジグザグを切った、ガレたイヤらしい急坂となる。ジグザグが大きくなり、多少滑るものの格段に歩きやすくなるとようやく鞍部に到着。いったんザックを置いて一休み。この下降には30分費やした。

10:00 中岳避難小屋着(3085m, 30.0℃)

中岳
中岳目指して登る
鞍部から中岳へはだらだらと登っていく。雲はこの付近だけ晴れていて、中岳避難小屋が見える。目的地が見えるのはいいが、暑くて困る。すでに荒川小屋止まりと決めたのでちょっと気分もだれ気味だ。
ペースがあまり上がらないままに、避難小屋に着いたのは10時ちょうどだった。我々の前では小屋番氏が忙しく立ち働いていた。いろいろやることが多くてたいへんだなあと思いながら働く姿を眺めていた。後で聞いたのだが、相棒は、まだ10時だというのに、干していたシュラフを小屋番氏が取り込むのを見て、今日はこれから雨になるんじゃないかと思ったそうだ。

10:28 避難小屋発(3085m, 34.8℃)

軽食を摂り、トイレを済ませてから発つ。朝食がパンだと腹持ちが悪くてしかたない。昨日もそうだったが、しょっちゅう行動食を食べるようになってしまう。おかげで休憩時間が長めになって、かえって疲れてしまった感じだ。
のんびりしているうちに中岳周辺も雲に包まれてしまったが、上空は相変わらず明るい。このまま荒川小屋に降りるだけでは芸がないので、前岳に行くことにした。

10:46 荒川前岳(3045m, 27.4℃)

荒川大崩壊地
荒川大崩壊地
中岳を通過して、荒川小屋への分岐にザックをデポ。そこからわずか5分で前岳だ。ここは前回はパスしたので、これでようやく荒川三山踏破だ。
山頂はどうということもない縦走路の中の小ピークという趣だった。相変わらず雲の中ではあったが、西側の荒川大崩壊地の荒々しい眺めは見ることができた。

10:55 中岳分岐(3025m, 25.5℃)

カール
中岳のカールを下って行く
分岐から再びザックを背負い、出発。最初は中岳の典型的なカールの中へと下っていく。カールの中もじゅうぶん花がきれいだ。滑りやすいザレた道をジグザグを切って中ほどまで下り、それから右(西)に向かってトラバース。カールの縁にたどり着き、稜線のようになっている縁をちょっとだけ下ると展望台。ここから右に転進して、いよいよ南アで最大といわれる前岳花畑に突入する。

花畑

花畑
荒川前岳の花畑
花畑
荒川前岳の花畑
写真集などでよく見るようなキンバイやハクサンイチゲといった花々はさすがになかったが、それでもウサギギク、ウメバチソウ、イワギキョウやオンタデなど、咲き乱れる花は若干地味目ながらも美しく、花期が終盤に近づいたハクサンフウロのピンク色のアクセントが素敵だった。タンポポの花はひょっとして白馬岳とこの辺りにしかないというシロウマタンポポだろうか。斜面の下の方ではマツムシソウやトラノオが群落を作っていた。

12:16 荒川小屋着(2620m, 27.5℃)

荒川小屋
荒川小屋が見えた
のんびりと写真を撮ったりして、じゅうぶんに花畑を堪能してから荒川小屋へと向かう。小屋が見えてからが案外長く、結局到着は12時を少し過ぎた。小屋の裏の斜面はミヤマシシウドが大群落を成し、その大ぶりな花を取り巻くようにトリカブトが咲いていた。
小屋に到着し、すぐに宿泊受付。テントを張るつもりでいたが、混雑状況を聞いてみると、今日はそれほど混まないのではないかという。ここも古い小屋を自炊小屋として使っているので、試しに聞いてみたところ、昨日はなんと2人だけ! そこで本日も自炊小屋泊まりに決定。あー、なんて軟弱なんだろう。

荒川小屋にて

旧荒川小屋
今日は旧荒川小屋に泊まる
荷物を小屋に入れると、ここの名物になりつつあるラーメンを食べた。スイカも売っていたので食べたかったが、ラーメンで腹いっぱいになったのでやめた。食べ終わって自炊小屋にもどり、まったりしていると14時ちょっと前に雨が降り始めた。遠くで雷鳴も聞こえた。ここでストップしておいてよかったと思った。本日の自炊小屋宿泊者は我々のほかには単独行者が2人の合計4人。広々として快適だった。テントは10張りくらいあった。
雨は降ったり止んだりを繰り返していた。止んだときには千枚岳に虹がかかった。虹を見るのなんて、何年ぶりだろうか。16時に気象通報を聴いてみたが、出来上がった天気図は昨日千枚小屋で見たものとほとんど変わらなかった。天気予報も同じ事の繰り返し。うーん。
夕食にマーボー春雨を食べてから、19時過ぎには寝てしまった。
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