荒川三山・赤石岳縦走 2004年8月6日 - 10日 山小屋利用

8月6日 曇

本日は登山口の椹島への移動日だ。
椹島は遠い。静岡からバスを乗り継いで4時間半かかる。静岡までの電車や、乗り換えの待ち時間も含めると、移動だけで一日がかりだ。たとえば大雪山は、朝一番の飛行機に乗ればその日のうちに旭岳山頂を往復することも可能だから、隣の県なのに北海道よりも遠く感じる。

静岡

畑薙第一ダム行きのしずてつジャストラインバスの始発は静岡鉄道の新静岡駅なので、席を確保すべく、JR静岡駅から10分弱歩く。バスターミナルは新静岡の駅ビルと直結しており、地下の食品売り場はすでに開店していた。ザックを乗り場に置いて、地下のパン屋で、今日の昼食と明日の朝食の分のパンを買う。
バスを待っていると、係員が登場し、みなのザックの重さを量り始めた。10kg超の荷物は荷物料金を徴収される。我々は幕営装備なので余裕オーバー。荷物料金は大人運賃(2550円)の半額(1280円)で、かなり痛い出費だが、まあ10.5kgとかでぎりぎりオーバーするよりは気分はすっきりする。それにしても並んでいる人たちのうち、半数以上は10kg制限をクリアしているようだ。南ア南部といえばでかい荷物で縦走するというイメージがあるが、今や食事つきの小屋が整備され、少ない荷物で楽々歩けるようになった。我々が時代遅れなのだろう。

畑薙へ

バスの席は半分ほど埋まり、新静岡駅を出発し、まず静岡駅へ。ターミナルはすげー人だった。で、結局バス2台を連ねて畑薙第一ダムへ向かうこととなった。出発後の1時間は運賃の徴収やら登山計画書の配布やらで忙しなく、あっという間に最初のトイレ休憩地点の横沢へ。売店は閉まっていた。ここからカーブの連続する山道をまた1時間ほど走り、大井川鉄道の井川駅前で2度目のトイレ休憩。駅の売店で行動食用にドライフルーツを買った。この時点で12:30過ぎ。空腹を感じ、揺れる車内でパンをかじった。

乗り換え

行列
送迎バスを待つ行列(右奥は臨時乗降所の看板)
畑薙第一ダムから椹島へは、この山域の山小屋を経営している東海フォレストの送迎バスで向かう。今回は1時間半ほどの待ち時間だが、臨時便が出ていればいいなあ。などと思っていたら、ダムのずいぶん手前でバスを降ろされた。ただの山奥の道端だった。なんと夏のハイシーズンだけの臨時駐車場(原っぱ)が出来ており、乗り継ぎの送迎バスもここが出発点となるのだという。ダムの売店でジュースでも買ってのんびり過ごそうと思っていたが、売店はおろか、自販機すらない。うほー、昼飯買っといてよかったあ。ペットボトルのお茶もまだ残っているので、干上がることはなさそうだ。6年前は8月末とはいえ、確かに、ダムで乗り換えたのだ。

椹島へ

乗り換え場所には送迎バスが止まっていたが、先に並んだ人たちで満員となり、運転手は「20分ほどで次のバスが来ますから日陰で待っててください」と言い残して去ってしまった。それから40分ほどして送迎バスがやってきた。今度は10人と12人の団体がいたせいもあり、我々はまたもや乗れなかった。運転手は「20分ほどで次のバスが来ますから涼しいところで待っててください」と言い残して去ってしまった。それから40分ほどして送迎バスがやってきた。というわけで合計80分待ち、結局乗ったのは15:00の定期便になってしまった。ひと悶着あったものの、乗客は半分ほどだったので席を二人分使うことができた。ザックが大きかったので、この点だけはラッキーだった。
送迎バスにはひとり3,000円を払って乗り込む。しかしこれは運賃ではない。あくまでも「送迎バス」なので、施設利用券を購入する、というかたちだ。その利用券は東海フォレストの山小屋に宿泊する際に3,000円券として使うことができる。しかしそれより気がかりなのは帰りのバスだった。「送迎バス」なので、山小屋利用者しか乗せてもらえないのだ。東海フォレストの登山情報ページを見ると、いずれかの山小屋に素泊まりでもすれば利用できるように読み取れたのだが、さきほどの臨時バス乗り場には「1泊2食」が必要と書いてあった。実際、6年前は1泊2食が条件だった。今回我々は椹島では1泊夕食のみとし、朝はパンを食べて4時に出発、あとは全てテント泊の予定だ。このままでは帰りは畑薙ダムまで5時間林道歩きとなるのだろうか? 椹島ロッジの受付で確認したら、1泊夕食のみでも大丈夫というので一安心。
ロッジでは個室をとった。6畳のこじんまりとした部屋にはテレビもある。椹島は6年前とは少し様子が変わっていた。2003年にウッディーで瀟洒なレストハウスが出来、以前の受付や食堂が廃止されたのだ。したがって、バスを降りる場所も違っていた。
19時過ぎに雷鳴とともに激しい雨が降り始めた。明日は止むだろうか。

8月7日 曇のち雨

心配だった雨は夜中にあがり、星が見えていた。部屋でそそくさとパンを食べる。今日は中岳避難小屋まで、コースタイム11時間の長丁場だ。4時出発なら15時頃には着けるだろう。それまで夕立に遭わずにいられるだろうか。せめて千枚小屋までもってほしい。

4:15 椹島発(高度計:1100m, 温度計:25.6℃)

朝露対策でカッパ上下を着込み、まだ暗いのでヘッドランプを点けて出発。ロッジの敷地を奥(北)へ進み、林の中の斜面をぐいぐい登っていったん林道に出る。標識にしたがって林道を少し進み、大きな橋の手前が千枚岳方面への登山口となっている。暗いと見落としそうだ。ここから山道となり、谷をトラバースする感じで進むと小さな吊り橋に到着し、川の左岸に渡る。ここまでで30分経過。もうヘッドランプは必要ないほど明るくなった。意外にも暑いのでカッパの上着を脱いだ。

新道

新道
ずるずる滑る木のハシゴ
左岸の斜面を斜め上に登っていく。少しすると通行止めの看板が出現。看板の先は最近廃止された登山道で、6年前に通った道だ(1/25000図にはまだこの道が記載されている)。ザレザレのトラバースで、滑落しそうで怖かったことを覚えている。新しい道は右に曲がり、斜面を直登するようになる。岩ゴロの急登で、まだ新しくとても歩きにくい。中部電力の小さな道標のあるところで緩い尾根に出る。ここで左折し尾根伝いに行くようになると、土の歩きやすい道になった。最高地点の鉄塔を過ぎ、徐々に下ると、突然悪路が出現。厳しい段差やずるずる滑る木のハシゴ(ひょっとしてこれは階段なのか?)にかなりてこずった。小石下との鞍部に到着した頃にはすでに予定を1時間もオーバーしていた。この鞍部は廃止された登山道と合流するところだ。おそらく以前の道だったら半分以下の時間で通過できただろう。中岳まで行くには千枚小屋12時着がタイムリミットだろう。できれば11時には着きたいが、これでは12時もあやしい。
ここで、暑くなったかつりんはカッパの下を脱いだ。そしてこのとき登山靴を脱いで初めて気付いた。なんと、靴の中敷がない。今回、アプローチはサンダル履きで、登山靴は袋に入れて持ってきたため、中敷を忘れたことに気付かなかったのだ。今朝、ロッジで靴を履いたときも暗くてわからなかった。足裏がごつごつして歩きにくいなあとずっと思っていたのだが、これでは当前だ。気分が真っ暗になったが、歩けない訳ではないし、構わず進むことにした。にしても、こんなんで歩きおおせるんだろうか・・・

6:46 小石下(1525m, 24.5℃)

深い森を進んで小石下へ。小高い丘で、頂上付近だけ木がなく見晴がよいのだが、この日は山の眺望はなかった。誰もいなかった。我々とほぼ同じ時刻に出発したパーティが他にふたつあったが、どちらもずいぶん先に進んでいるのだろう。

8:16 清水平(1795m, 23.9℃)

再び深い森を進む。ここから尾根の西斜面をトラバースするように道が付いている。ちょっとぬかるみもあるが、まあまあ歩きやすい。このあたりで初めて下りの人に会った。西にせり出した支尾根を回り込むと沢の音が聞こえた。道はトラバースをやめて斜面を登るようになると、上の方に清水平の水場が見えた。足裏がどうしても気になるので、いつもは1枚の靴下を2枚にしてみたら、案外しっくりきた。クッション性も少しはいいだろう。

9:14 蕨段(1980m, 26.5℃)

蕨段
誰もいなかった蕨段
ひたすら深い森を進む。このあたりの木は明治末期に伐採され、その後植えた木が森を形成しているという。
蕨段に到着。森の中の明るい小広場といった感じのところ。やはり誰もいず、とても静かだった。そしてやはり予定を1時間オーバーしていた。

9:43 見晴岩(2045m, 26.1℃)

登山道
深い森の中を一直線に登る
蕨段からは尾根の西側に出て、開けたところが見晴岩だ。このすぐ上には林道が走っていて、以前はそこで昼食をとったが、今回はそんな余裕はない。展望もないのですぐに通過し、またまた深い森に入る。

11:25 駒鳥池

登山道
深い森の中を一直線に登る
登山道
深い森の中を進む
見晴岩からは大したイベントもなく、森の中を淡々と登る。緩い尾根をひたすら一直線に登っていくなど、単調そのものだ。タイムが気になり焦っていると、ようやく駒鳥池の入口に着いた。腰を下ろして気を落ち着ける。ここまで来れば小屋まではあと40分ほどのはず。12時ちょっと過ぎには着けるだろう。池は数分下ったところにあるようだが、もちろん寄らずに先を急ぐ。

11:57 千枚小屋着(2500m, 24.5℃)

千枚小屋
千枚小屋の花畑
道が大きく左にカーブして斜面を斜め上に登るようになると花が多くなってきて、花畑で名高い千枚小屋が近いことを思わせる。シシウド、トリカブト、などなど。最後の急坂を登りつめるとようやく千枚小屋だ。なんとかタイムリミットの12時には間に合った。椹島から実に7時間40分かかった。

12:18 千枚小屋発(2525m, 29.8℃)

花畑
花畑の中を行く
雲が多く雨が心配だったが、空は明るいので、中岳まで行くことにした。展望はないだろうが、前回悪沢は快晴の頂上を踏んでいるのでまあいいだろう。中岳山頂には水場がないのでここで4リットルほど補給して、出発。小屋のすぐ裏の花畑の中に付けられた道を登ってゆく。シシウドやトリカブトが盛りで、マルバダケブキも見え、花畑はにぎやかだ。
しかし10分も登ると、シャーっという音が聞こえてきた。雨音みたいだなと思った矢先、まったく唐突に雨が降り始めた。うへえ、さっき晴れ間が見えたのに。もうこうなっては堪らない。即刻撤退を決め、千枚小屋へ一目散に駆け下った。

千枚小屋にて

千枚小屋ではテントは張らずに自炊小屋に泊まることにした。雨が止まなかったこともあるが、まだ新しい自炊小屋が快適そうだったからだ。寝具なしの自炊は百枚小屋で、寝具付きは月光荘。我々はもちろんシュラフを持っているので百枚小屋に入る。百枚小屋も以前は本館前の小さな三角屋根の掘立て小屋だったが、そちらはすでに使用禁止の張り紙があった。新・百枚小屋は40人収容で一部2階建てのきれいな建物。先客は4人パーティ1組だけだった。小屋に入って少しすると雷が激しくなってきた。ピカッからドーンまで1秒くらいのものもいくつかあり、その度に小屋はぐらぐらと揺れた。あのまま稜線に行っていたら、と思うとぞっとした。
16時になってから夕食の準備を始めた。夕食は一番重量のある、うな丼と豆サラダにした。本館の入口に天気図が貼ってあったので、気象通報は聞かなかった。このまま6人だけかなあと思っていたら、16:30頃からずぶ濡れで到着した人たちが次々とやってきて、結局18人にまで増えた。
天気予報を聴くと明日も今日とほとんど変わらない天気だということだった。つまり「晴れのち曇り、午後山沿いでにわか雨か雷雨」という夏のお決まりパターンだ。大気は今日ほどではないが引き続き不安定。百間洞まで行く予定だが、午後の行動は控えた方がいいと思われた。しかたないので、いちおう早出をして、最低でも荒川小屋までは行くことにし、その後は天気次第にすることにした。
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