黒部源流域の山を歩いた6日間・第5日目 2002年7月19日 - 25日 テント縦走

7月24日 晴れ

2時に起床。外を見ると、2年前にチャレンジしたときと同じような大快晴。風がほとんどないのが違うところだ。エスプレッソパスタに餅を入れて食べ、サブザックに防寒着や水筒、食料を詰めて出発。
4時出発、6時登頂、8時までに帰着、テントを撤収して10時までに出発。できれば今日中に鏡平まで、双六で情報収集して鏡平山荘が混んでいそうなら双六止まりという大雑把なプランをたてた。

4:15 出発

闇に浮かぶ槍ヶ岳
闇に浮かぶ槍ヶ岳
あたりはまだまだ暗い。小屋の前からは北鎌尾根がぼうっと浮かび上がっているのが見えた。そして目の前の鷲羽は、真っ黒な巨体でのしかからんばかりに迫っていた。
小屋の前から北に、人ひとり分くらいの幅のハイマツの間の道を行く。登りで暑くなることを想定し下半身はスポーツタイツに短パンといういでたちでいた。ハイマツの朝露がタイツを通して染みてきて冷たい。
道は、山頂から一直線に張り出した尾根の東斜面をトラバースするように鞍部まで下り、そこで稜線に出る。そしてそのまま尾根を直登するわけである。少しザレてはいるもののよく踏まれて歩きやすい道を、ジグザグを切りつつ登ってゆく。

4:40 夜明け

鷲羽岳の登り
鷲羽岳の登り
周囲はずいぶんと明るくなってきた。ヘッドランプのスイッチを切っても大丈夫。黒部五郎が淡く光りだしてきた。槍の上空がサーモンピンクに染まる。道はひたすらジグザグに登ってゆく。1〜2mくらいの間隔で短くターンを切っていく。2歩進むとターンする感じで、右に曲がると槍、左に曲がれば黒部五郎が視界に入ってくる。頭の中でリズムが「ヤリ、ゴロー、」の4拍子のリピートになった。
「ヤリ、ゴロー、」のジグザグを過ぎると、稜線の少し西側を進むようになる。2年前は西からの強風で吹き飛ばされるんじゃないかとひやひやしたあたりだ。今日は東からゆるい風が吹いているだけで、眺めもいい。祖父岳や、3日前にこの鷲羽を眺めた黒部源流の急登も見える。やがて五郎は真後ろになり、槍は尾根に隠れてしまい、今度は「レンゲ、ジー、」になった。

続・夜明け

三俣蓮華岳に日があたってきた
三俣蓮華岳に日があたってきた
三俣蓮華に日があたった。後ろを振り返ると黒部五郎にも日があたった。高度をあげると、双六岳と丸山との鞍部から、ひょっこりと笠ヶ岳が頭を出した。大快晴だ。北アルプスのすべてがここにある、そんな風に考えたら、胸の奥のほうが熱くなってきた。この山行中、もう何度目の感動だろう。涙目で歩けなくなってしまい、側の大石に腰掛け、夜明けの山々をしばし眺めた。今日こそは頂上まで行けると確信した。

5:18 鷲羽池分岐

鷲羽池
鷲羽池
頂上らしきところが見えてきて、斜度が少しゆるくなった。岩陰に、少し先を歩いていた相棒が待っていた。そこに、尾根が切れ込んでいていて、東側に入り込めるところがあった。覗き込んでみると、そこは2年前に強風と濃いガスのために撤退を決めた地点であった。うわー頂上すぐ近くだったんだ! あの時は視界は20mくらいだったと思う。今は眼下には鷲羽池が見えた。晴れていればなんのことはない。それにしても、こんな頂上直下まで登っておきながら、よく引き返したなーと我ながら感心。でもあの時はそれが正解だったのだ。あの日は登頂したところで、周りは何も見えなかったのだから。
相棒も途中の景色にはいたく感動していたようだ。今こんなんじゃ、頂上に着いたらいったいどうなるんだろう。あんまり期待するとかえってがっかりすることが多いから、あまり期待しないで地道に歩いていこう。そんな話をした。

5:39 鷲羽岳登頂

鷲羽池と槍ヶ岳
鷲羽池と槍ヶ岳
とは言うものの、湧き上がってくる期待と感動は抑えようがなかった。山頂が間近に迫ると、登るのがもったいなくなってきた。しかし登らないのももったいない。自分の心はもうどうにも収拾がつかなくなってきた。最後は一歩一歩、踏みしめながら歩き、喜びを噛みしめながら、ようやく登頂した。
東は朝日がまぶしてよく見えなかったが、360度の大展望が広がっていた(ぐるぐる写真)。日が強くなりはじめたので意外に暑かった。しかし日陰に入ると寒い。テルモスで持参したお湯で紅茶を淹れて飲む。あたたかく、甘かった。至福のひとときであった。

6:40 下山開始

下りの道を俯瞰する
下りの道を俯瞰する
気が付いたら1時間も頂上にいた。頂上には、最初の30分くらいは他には単独行者が2人いただけだった。それから徐々に人が増えてきて、下山するときには10人以上の大パーティがやってきた。
往路をそのまま下った。登りの人が増えてきて、行き違いで結構時間を食った。「ヤリ、ゴロー、」のあたりから駆けるように下っていった。

7:38 三俣山荘着

山荘に到着すると鷲羽は雲の中だった
山荘に到着すると鷲羽は雲の中だった
ちょうど山荘に着いて鷲羽を振り返ると、なんと雲に覆われてしまっていた。我々はずいぶんとラッキーだったのだ。
さて、腹が減ったが食料が残り少ない。いつも余り過ぎるので、今回は軽量化という意味も含め少なめに持ってきたのだ。そこで山荘で食事をとることにし、テントを撤収しパッキングを済ませてから、展望レストランに行ってざるそばを食べた。営業小屋がない地域だったら残りの食料から行動を計算するところだが、北アルプスのメジャーコースはこういう点での緊張感がちょっと足りない。

9:29 出発

ハクサンイチゲの花畑の向こうに三俣蓮華岳
ハクサンイチゲの花畑の向こうに三俣蓮華岳
もう日も高くなってかなり暑い中をじわりじわりと登っていく。三俣蓮華岳の肩への道は周囲が花で美しく、楽しい。

10:45 三俣蓮華岳

これから歩く稜線と笠ヶ岳
これから歩く稜線と笠ヶ岳
鷲羽は再び雲から出てきたが、槍が雲に隠れてしまった。我々が鏡平を通るときはいつもそうだ。双六というとなだらかなイメージがあるが、この稜線は実は結構なアップダウンがある。13時までに双六小屋に着けたら鏡平に行くことにして出発。

11:30 丸山

丸山で見たライチョウ
丸山で見たライチョウ
山頂のすぐ手前でライチョウに出会った。親が警戒しているようだ。子どもがハイマツの間をちょこちょこと動いているのがわかった。驚かせてはいけないとは思うのだが、目の前にいられるとつい見てしまう。とっとと逃げてくれ。
休憩しながらここで再び作戦会議。最終日を考えると少しでも下山口近くにいた方がいいには違いないが、この見晴らしのいい気持ちいい稜線を急いで通り過ぎてしまうなんてもったいない。というわけで、今日はもう鏡平に行くのはやめて、この稜線をゆっくりと楽しむという結論に達した。すると、我々が鏡平に行かないことを察したらしく、槍ヶ岳の雲が晴れてきたのだった。
道はよく歩かれているので歩きやすい。高原状で眺めもよいし、楽しい道だ。日差しは強く暑いが、時折吹いてくる風が冷たく心地よい。

12:40 双六岳

双六止まりが決まり思いっきりペースダウンしてゆっくりの到着。笠と穂高以外の周囲の山は全て見えた(ぐるぐる写真)。
山頂は日を遮るものがなくまさに酷暑と言えた。風もなくなってしまった。

13:56 双六岳発

双六の稜線を歩く登山者
双六の稜線を歩く登山者
このまま下りてテントを張ったところで暑くて中にいられないだろうし、どうせなら景色のよい山頂にいるか、ということでだらだらと1時間あまりも過ごしてしまった。
時間はたくさんある。昨秋訪れて気に入っている稜線のなだらかな道で、相棒と写真を撮りあったりしながらゆっくりと歩いていく。巻道との分岐近くに雪が解けたばかりで不明瞭なところはあったが、なんと言っても視界が良好なので迷うこともなかった。

15:10 双六小屋着

夕暮れの双六キャンプ場と笠ヶ岳
夕暮れの双六キャンプ場と笠ヶ岳
なんと最終日にして初めて気象通報の前にテント場に着いた。でも明日はもう下山日、天気図つけなくてもいーや。玄関の雰囲気では、小屋はさほど混雑していないようだった。空いていたら小屋泊まりにしようかとも思ったが、あとで混んだらイヤなので、予定通り幕営することに決めた。

双六小屋にて

受付を済ませて、小屋前のベンチのひとつに陣取り、名物のおでんを食べた。美味である。また、体調を考え、これまでアルコールは控えていたが、ついにビールに手を出した。天気もいいのでそのまま夕食に移行。今日の夕食は遅ればせながら土用の丑にちなんでうな丼。また、隣に座った女性から牛タンスモークを1枚と、きゅうりをもらった。
明日の食料が乏しいので、小屋でクッキーやらを買い込んで行動食を補充する。食後にテント場に移動。やたらと怒鳴り声でしゃべる高校生のやかましいパーティが2つもあったので、彼らから一番離れた、双六池のすぐそばにテントを張った。双六は何度目かの幕営だが、こんなに風もなく穏やかなのは初めてだった。よほど疲れていたのだろう、高校生の叫び声も苦にならず、19時には眠ってしまったと思う。
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