黒部源流域の山を歩いた6日間・第3日目 2002年7月19日 - 25日 テント縦走

7月22日 曇り一時雨

お待ちかねの入浴日。サブザックに必要な荷物だけを詰めて、雲ノ平を基点に日帰りで高天原温泉に入りに行くのだ。帰りはゆっくり歩いて5時間くらいかかるだろうか。すると遅くとも12時には高天原を出立したいところだ。

6:10 出発

朝もやの雲ノ平山荘
朝もやの雲ノ平山荘
テント場から岩のごろごろした道を西に登ってゆく。登りきったところで木道が出現し、右にスイス庭園への道と、左に山荘方面つまりギリシャ庭園への道を分ける。木道をゆるゆると山荘の下まで行ったところで、北(右)に高天原への道を分ける。木道はそのままアラスカ庭園の方に続いているが、高天原への道は木道ではない。入り口には小さな看板があるだけなので、木道ばかり追って歩いているとうっかりすると見逃してしまいそうだ。いかにも溶岩らしい巨岩が体積した、見るからに歩きづらそうな道がハイマツの間に続いている。
地図で見ると、小さな丘をふたつ越えて、そこからずーっと下るようだ。

7:10 奥スイス庭園

奥スイス庭園と雲の水晶岳
奥スイス庭園と雲の水晶岳
ひとつめの丘の北斜面には雪が残っていて、距離は短いが渡らねばならなかった。下りはちょっと緊張する。
ふたつの丘との鞍部は奥スイス庭園である。晴れていれば水晶岳の眺めがすばらしいようだが、今日は厚い雲に覆われている。時期的なものか、花もあまりなかった。
ふたつめの丘のてっぺんに無人のコロナ観測所があり、中年男性が小屋のものらしい弁当を食べていた。聞けば、この方は朝4時に高天原の小屋を出て、だいたい3時間でここに到着したということだ。道の状況などを教えてもらってから礼を言って別れ、下りにかかる。

下り

見晴らしのよいぬかるみ道
見晴らしのよいぬかるみ道
樹林帯の不安定な手作りハシゴ
樹林帯の不安定な手作りハシゴ
すぐに樹林帯に入るかと思いきや、意外にも眺めのよい、しかしぬかるんだ道が続く。比較的平坦だ。なるほど、だから水溜りができやすいのか。
と思っていると、いよいよ樹林帯に入る。とたんに斜度は急になり(そのかわり水溜りもなくなり)、木の根の張り出しが大きくなってきた。難所には右のような手製ハシゴがかけられているが、個人的には、手製のハシゴだったらロープの方がラクだと思っているので、このハシゴ自体が自分には「難所」に思えた。(ハシゴ作った方ごめんなさい)

8:42 高天原峠

高天原峠道標
高天原峠道標
この山域の道標は写真のような形をしていて、下の方に一言アドヴァイスが書いてある。この高天原峠は「あせらずに行こう、お花畑と温泉が待っているよ」であった。ちょうど休憩中の女性がいて、ニッコウキスゲが満開だという。もういてもたってもいられなくなり、休憩もそこそこに、逆にあせって出発したのであった。
峠を過ぎると道は再びゆるやかになり、快調に歩いていく。目の前に忽然と水晶岳が姿を現すと、そこはもう岩苔小谷の沢である。一本丸太の橋を、張ってあるロープでバランスをとりながら渡り、なおもしばらくぬかるんだ道を行く。

9:35 高天原

高天原の眺め
高天原の眺め
もうそろそろかなと思ったところで、林の中にぽっかりと開けた小湿原が出現し、ワタスゲの穂が揺れていた。ぬかるんだ道に渡してある木片に乗ってワタスゲを楽しみながら通り抜けた。次にその向こうの木々の奥が明るく開けているのが感じられ、急いで林を抜け出ると!
ワタスゲの穂と、ニッコウキスゲの咲き乱れた湿原の端に出た。ここが高天原だ。どうやら花のちょうど盛りの時期に合ったようである。ワタスゲとニッコウキスゲの比率もいい感じだ。本来ならバックを飾るはずの薬師岳が雲に隠れているのがちょっと残念だが、それでも充分に美しい、夢のような風景であった。

温泉へ

道中急いで食べ物をロクに口にしなかったので腹ペコだ。上の写真の林の中に高天原山荘があり、山荘前のベンチで軽く腹ごしらえをする。そしていよいよ本日のメインイベント、温泉へレッツゴー! 温泉へは道をずいぶん下っていく。これはつまり帰りは汗かいて登らないといけないということだな。
・・・しかしなんと風呂は掃除中であった。10時頃は入る人が一番少ない時間なのかもしれない。「今湯を抜いたばかりだから夢の平(龍晶池)でも行ってきたら帰ってくるころはちょうどいいよ」ということで勧めにしたがい龍晶池に。龍晶池はガイドブックで写真を見て、ぜひ行ってみたいところだと思っていたが、今日はバックに姿を見せるはずの薬師岳がすっかり雲の中なので、カットするつもりでいた。その分、ゆっくり湯につかっていようと思ったのに・・・龍晶池へは女性用内湯の脇のハシゴをあがっていく。

10:32 龍晶池

龍晶池と薬師岳の山並み
龍晶池と薬師岳の山並み
林の中を15分ほど歩いて到着。ここも周囲の土手がニッコウキスゲに彩られ美しい。池の周りに踏み跡があったのでぐるりと半周して西方を見上げると、なんと先ほどまで雲の中だった薬師岳の岩峰が目に飛び込んできた。おおー、棚からぼた餅、来てよかったー。
・・・と思ってデジカメのシャッターを押した瞬間、なんと今度は雨が降ってきた・・・
頼む、降るならせめて小降りのままでいてくれーと願いながら早々に温泉に引き返す。

10:55 高天原温泉

高天原温泉
高天原温泉
温泉に戻ってきたころには結構本格的に降ってきた。相棒Kは女性内湯へ。10分で出てくる約束をして、脱衣所に駆け込み、ざぶん!・・・ん?お湯が少ない?・・・よく見ると、まだ湯は湯船の半分くらいしかたまっていなかった。ほとんど寝そべるようにしてつかったが、汗も流せたことだしよしとするか。
で、湯からあがったと同時に雨は止んだのだった。

12:12 高天原山荘発

岩苔小谷の樹林の道
岩苔小谷の樹林の道
山荘に戻って冷たいジュースと白桃缶詰を買って食す。甘いものに飢えている体にしみわたる感じがした。30分ほどもまったりしてから出発した。
岩苔小谷は源流部が開けた草原になっていて花もきれいだという話を山荘のスタッフに聞き、帰りはそちらの道を選択した。愛用の「山と高原地図」によれば、岩苔乗越までのコースタイムは登りは2時間10分だ・・・イヤに短いな、と思いながら歩いていると、分岐点に出た。そこには手書きの看板があり『←岩苔乗越 3h30』。ぜんっぜん違うじゃん! 偶然下りの人が来たのでタイムを聞くと、下りで2時間30分かかったという。朝下りてきた道に変更しようかとも考えたが、帰りは違う道がいいだろうということで、そのまま岩苔乗越を目指すことにした。こりゃあ、今日もまたテント場に着くのは遅い時間だな・・・

13:15 水晶池

水晶池と水晶岳
水晶池と水晶岳
1時間くらいすると水晶池への分岐にたどり着く。池は道から北に5分くらい下ったところ。池の周囲をまわることはできず岸に着くだけで、そこは数人がやっと立てるくらいの広さだ。
実に美しい。水晶岳を正面に控え池が左右に細長く広がっており、向かいの岸にはコバイケイソウが一面に、いや、一列に群れ咲いている。それになんといっても静かだ。たどり着いたとき思わず歓声を上げてしまったのだが、それがこだまして返ってきた。それくらい静かだった。

源流部の開けた草原

岩苔小谷の開けた源流部
岩苔小谷の開けた源流部
水晶池からさらに1時間と少し登ると、ようやく樹林帯が終わり開けた草原に出てきた。目指す乗越は写真の右上のあたり。すっかり雲に覆われていた。そこかしこにハクサンイチゲが咲いている。キンバイも黄色い彩りを添えている。岩陰にはイワカガミも可憐に咲いている。
不意に感動がこみあげてきた。どうしてこんなところで、と思った。山だって見えないし、そんなに珍しい花が咲いているわけでもない。立ち止まって考えてみた。花に囲まれた長い道をゆるやかに登っていく。どうやら自分はそんなゆったりとした山歩きが心底好きらしい。美しい長い道があればピークなんていらない。・・・ん? ここではたと気付いた。北アルプス入山3日にして未だピークらしいピークに立っていないことに。

15:31 岩苔乗越着

岩苔乗越直下の花畑
岩苔乗越直下の花畑
高天原からはだいたい3時間30分で着いた。やはり看板のとおりだ。「山と高原地図」は岩苔乗越-水晶池が登りも下りもちょうど1時間少ないのではないかと思った。(ちなみに'00年版「劔・立山」)
道は長かったが、途中には水晶池もあり、最後の1時間くらいはずっと花畑の中を歩けるので、なかなか楽しい道であった。ぬかるみもキツい登りも無茶な段差もなく、比較的歩きやすい道であったといえるだろう。沢もあり、暑ければ冷たい雪解け水で顔を洗うこともできる。すれ違いも2パーティだけで静かだった。

15:42 岩苔乗越発

祖父岳を見上げる
祖父岳を見上げる
祖父岳山頂へは、途中でひとつ小ピークを越えていく。途中、短い時間だがガスが晴れて、目指す祖父岳がずんぐりとした姿を見せてくれた。地図よりはるかにアップダウンが厳しい感じだ。岩苔小谷の花畑で「ピークはいらない」と思ったのも束の間、やはり山頂を目前にすると気持ちがわくわくしてきた。
祖父岳の直下にはロープが垂らしてある難所が一ヶ所だけあった。通過するにはストックがちょっと邪魔だったが、今日は荷物は小さいので難なくクリアできた。

16:34 祖父岳登頂

ガスに包まれた祖父岳山頂
ガスに包まれた祖父岳山頂
と、いうわけで入山3日目の夕方にして、初めて名の付いた山頂に立った。しかし「ピークはいらない」と思ったのが祖父岳の逆鱗に触れたのか、山頂は濃いガスに包まれていた。霧の中に乱立したケルンが一種異様な雰囲気をかもしだしていた。

17:20 雲ノ平キャンプ場帰着

またしても到着が遅くなってしまった。祖父岳からの下りは、石に頻繁にペンキマークがあるので道には迷わずに済みそうだが、日本庭園分岐までは急な、ザレて歩きにくい道であった。大きな荷物を背負って登りたくないなあと思った。
キャンプ場に着いて周囲を見ると濡れている石などはなく、昼間の雨の影響もなかったようだ。しかしフライシートの内側についた小さな虫を追い払うのが一苦労であった。
今日の夕食はマーボ春雨とシウマイ。今日はもうテントは10張前後と少なくなっていた。そのうち半分くらいは昨日と同じテント、つまり連泊者であった。
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