ピコ通信/第167号
発行日2012年7月24日
発行化学物質問題市民研究会
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URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 2012年6月27日〜7月2日 プンタデルエステ、ウルグアイ 水銀に関する第4回政府間交渉会議(INC4) 参加報告
  2. 水俣の教訓 共同声明への環境省回答と当研究会コメント
  3. 7・16 さようなら原発10万人集会 17万の市民が原発NOを突きつけた
  4. ドイツの原子力発電所周辺の子どものがんと白血病−KiKK報告書 セバスチアン・プフルークバイルさん
  5. 調べてみよう家庭用品(53)トピックス(3)
  6. お知らせ・編集後記


2012年6月27日〜7月2日 プンタデルエステ、ウルグアイ
水銀に関する第4回政府間交渉会議(INC4) 参加報告

■はじめに

 国連環境計画(UNEP)の水銀に関する第4回政府間交渉会議(INC4)が6月27日〜7月2日に南米ウルグアイのプンタデルエステで開催され、約130ヶ国・地域から政府代表、国際機関、NGOs、研究機関、大学、産業界など約600名(そのうちNGOsは26ヶ国から約50人以上)が参加しました。
 当研究会の安間 武が、第1回(2010年6月ストックホルム)、第2回(2011年1月千葉)、第3回(2011年10-11月ナイロビ)に引き続き、今回も国際NGOsの一員として参加したので、会議の概要を紹介します。

■INC4における主なる討議
 事務局はINC4開始の約3か月前に討議用条約テキスト準備しました。また会議直前にはいくつかの国及び地域が単独又は共同で特定の条項について提案書(会議室ペーパーCRPs)を提出しました。
 委員会(INC)は、主要な条項のグループ毎にコンタクト・グループ(CG)を立ち上げ、CGは本会議の合間、昼食時間、及び本会議終了後深夜まで集中的に重要条項を討議し、その結果を会議室ペーパー(CRPs)として事務局に提出しました。
 以下に、INC4での主な議論の概要を紹介します。なお、C項〜G項の報告はIISDの報告書に基づいています。

■C 水銀供給とD 水銀の国際貿易
  • EUは水銀の一次採鉱禁止を強く求め、アフリカグループ、スイス、フィリピン、ノルウェー、日本、オーストラリアは水銀の一次採鉱の廃止を支持。
  • 中国は、条約で許容された製品や塩ビモノマー製造装置への水銀供給を確保するための必要性を強調し、既存及び新設の水銀採鉱に柔軟性を求めた。
  • ノルウェーは一次採鉱以外の主要な水銀供給源も廃止を求めたが、日本は特定の用途については管理された供給を維持すること、及び水銀と水銀化合物の明確な定義を求めた。
  • いくつかの国は、特定の活動での副産物として出る水銀及び水銀化合物の処分への要求はリサイクル活動に影響を及ぼすと強調して、非鉄採鉱と精錬をリストにすることに反対した。(参考:日本は現在、主に非鉄金属精錬の副産物から年間約100トン弱の水銀を抽出して輸出している。)
■E 製品とプロセス
  • 議論の中心は、リストされたものだけを禁止し、それ以外のものは許可する"ポジティブ・リスト"アプローチか、リストされたものだけを許可し、それ以外は禁止する"ネガティブ・リスト"アプローチかであった。
  • アフリカグループ、IPEN(国際POPs廃絶ネットワーク) 、ZMWG(ゼロ・マーキュリー・ワーキンググループ)及び セーフマインドは"ネガティブ・リスト"アプローチを支持した。
  • アメリカとカナダは"ポジティブ・リスト"アプローチを支持、アジア太平洋グループは、猶予期間をもつポジティブ・リスト・アプローチを支持した。
  • 日本は産業プロセスにおける水銀の一般的禁止を強く支持した。
  • ラテンアメリカ・カリブ海グループ(GRULAC)とニュージランドは、代替品が開発され、利用可能となるのに合わせて水銀添加製品の段階的な廃止を求めた。
  • 中国は塩ビモノマー製造での水銀を半減するという計画を強調し、スリランカとともに、伝統的な薬品で使用される水銀成分の除外を求めた。
  • ZMWG及びIPENは、例外使用を除いて水銀添加製品と水銀使用プロセスの禁止を求めた。
  • アフリカグループは水銀添加製品をアフリカに輸出しないよう求めた。
  • EUは、水銀条約に免除を含めるべきではないと述べ、フィリピンと共に、許容用途免除は数量と期限で制限され、厳格な見直しと管理メカニズムの対象とすべきであると述べた。
  • WHOは国際小児科学会とともに、ワクチン中でのチメロサール(防腐剤)の使用について、混合ワクチンの代替は冷蔵が必要で高価になるので、多くの途上国では実行可能ではないと述べた。
  • セーフマインドは健康分野、特に医薬品及び歯科産業での水銀使用の禁止を求めた。
  • ある人権団体はチメロサールを"沈没しつつある船"と呼び、毒性のないワクチンの利用を求め、脆弱な集団の水銀曝露防止措置をとるよう求めた。
  • 世界歯科連合と国際歯科研究協会は、個別の国情が考慮されるなら、歯科アマルガムの使用の削減を支持するとした。
  • 欧州照明企業連合は、"主流"照明機器での水銀制限は可能であると述べた。
■F 人力小規模金採鉱(ASGM)
  • CGはASGMに関して国家行動計画に含めるべき要素を討議し、特に子どもと妊娠可能年齢の女性、妊婦を含んで脆弱な集団の水銀曝露を防ぐ戦略を含める必要性に同意した。
  • CGはASGMにおける水銀使用を削減し、実行可能な場合には廃絶するための措置を締約国がとらなくてはならないことに同意した。
  • ASGMで使用する水銀の国際貿易に関する最終案には3つのオプション(選択肢)がある。
    1. ASGM向け水銀貿易を原則禁止するが、許容用途免除により例外が認められる。
    2. 全鉱石アマルガム化を除外するなら、そのような貿易を許す。
    3. ASGMでの水銀使用を自主的に禁止している締約国との貿易を禁止する。
■G 排出と放出
  • 議論の中心のひとつは、第10条(大気排出)と第11条(水と陸地への放出)を分離したままとするか、統合してひとつの条項にするかであった。
  • GRULACは、大気排出と陸地及び水への放出を全体的な方法で対応するために、ひとつの条項に統合する提案を行なった。
  • IPENは、全ての媒体への排出と放出が対応されるべきであると述べ、ZMWGは、ひとつの媒体から他の媒体への移動が管理されなくてはならず、閾値の策定が必要と述べた。
  • もうひとつの議論は、可能性あるふたつのアプローチについてであった。
    • "A":各国の状況を反映するための柔軟性を許しつつ、排出を管理及び/又は削減するために特別の措置を実施することを締約国に義務付けるアプローチ
    • "B":排出を管理及び/又は削減するための措置を作成することを締約国に義務付けるアプローチ
  • インドは、中国との共同提案でアプローチBを支持し、柔軟性と共通ではあるが差異のある責任を強調し、また石炭火力発電は開発にとって非常に重要であると強調した。
  • アフリカグループは、アプローチAを支持し、規制措置の実施のために新たな財源と技術的支援を要求した。
  • アジア太平洋グループは、同地域の多くの国はアプローチAを支持したと述べた。
  • アメリカは新たな排出源のための利用可能な最良の技術(BAT)の使用は柔軟性のあるアプローチを反映するものであり、既存の石炭火力プラントの閉鎖を求めないと述べた。
  • イラクはサウジアラビアとともに、BATの実施のために開発途上国への援助の必要性を強調し、条約の下に規制されるべき水銀排出源としての石油とガス分野の除外を求めた。
  • イヌイット北極評議会(ICC)は、北極圏の集団は世界的な排出と魚からの水銀に曝露しており、水銀の排出と放出を削減するための強い規制措置を採択するよう求めた。
  • CGでは、締約国は大気排出を削減すべきなのか、管理すべきなのか;目録の開発は義務的なのか、もしそうなら財政的及び技術的援助の対象となるのか;BATはある閾値を越える新たな大気排出源について義務的なのか、ある柔軟性が許されるのか;などが議論の焦点であったが、これらはINC5でさらに検討されることとなった。
■H 保管、廃棄物、汚染サイト

▼本会議におけるNGOの第14条(汚染サイト)に関する発言
 第14条 汚染サイトに関し、IPENのジンドリッヒ・ペトロリク(Arnika/チェコ)が初日の6月27日に本会議で発言を行なった。その概要は次の通りである。


ジンドリッヒ・ペトロリク(Arnika/チェコ)photo by ENB
 汚染サイトの条文は、条約のお飾りの家のようなものだ。"適切なら"、"努力しなくてはならない"、"実行可能なら"、"策定してもよい"。 これらの言葉は 、"条約は何もしない"と言っている。
 この自主的なアプローチは水俣の悲劇的歴史からの教訓を無視し、被害者への補償を無視している。次の原則が盛り込まれなくてはならない。
 ・汚染者負担原則に基づく補償と汚染サイト修復の責任
 ・汚染サイト目録の作成、特性化、優先付け、国家実施計画への導入
 ・汚染者による.被害者への補償

 汚染サイトの問題を地域(ローカル)の問題とする主張には同意しない。水銀汚染は世界の問題である。
 もし水俣条約と名づけられるなら、被害者と彼等の正当な要求は敬われ、水俣の悲劇は条約に適用されなくてはならない。

▼第14条 汚染サイトの結論
 CGの結論は、汚染サイトの修復、被害者への補償などに対する汚染者と政府の責任を求める記述がなく、リスク削減戦略やガイダンスを策定することだけが強調されたものになりました。

▼IPEN・当研究会 共同プレスリリース
 IPENと当研究会は6月30日に下記に概要を示す共同声明を英語、日本語、スペイン語、チェコ語、ロシア語、中国語の六ヶ国語で発表し、全世界に発信しました。

新たな水銀条約交渉は、"水俣条約"と呼ばれるに値しない方向に進んでいる
汚染サイトの浄化も被害者の補償も求めていない

(概要)
 今回発表された条文は、汚染サイト浄化のための義務的な行動を求めていない。
 汚染された地域の人々から水銀条約はどのような行動を求めているのかと訊ねられたら、我々は、締約国は何も要求されておらず、何もしないことが許されていると答えなくてはならない。(IPEN 重金属ワーキング・グループ共同議長ジンドリッヒ・ペトロリク)

 現在の条約案の文言の下では、水俣湾で起きたような汚染サイトがあっても、それを特定し、浄化し、被害者に対応すべき義務が求められていないので、無視されることになる。もし条約の文言自体が水俣のような惨事が将来起きることを許すなら、世界水銀条約を'水俣条約'と命名するのは恥ずべきことである 。(化学物質問題市民研究会 安間 武)

 汚染者は、水や陸地を不注意に汚染しても、彼等に支払いを求める又は被害者の補償を求めるために、条約を誰も利用することができないということに満足するであろう。各国代表者等はこの負担を被害者や納税者にかけようとしている。(IPEN INC4 議長フェルナンド・ベジャラーノ)

 "我々は、締約国は汚染サイトを特定し、特性化し、浄化のために最悪の汚染サイトを優先付けることが義務付けられるべきであると信じる"(IPEN 上席科学アドバイザー、ジョー・ディガンギ)

 条約が2013年1月に予定されている会合で最終的に決まる前に、IPEN は交渉会合の担当者らに対し、この決定をもう一度見直し、行動を義務的なものとし、汚染者と政府に汚染サイトの修復に責任を持たせ、汚染による被害者を補償させる条文を含めることを強く求める。

■IPENと化学物質問題市民研究会の水俣を敬うキャンペーン


安間武(当研究会)とフェルナンド・ルグリスINC議長
 INC4の初日に、本会議場に隣接するロビーで、国際POPs廃絶ネットワーク(IPEN)と当研究会は共同で、"水俣を敬うキャンペーン"の一環として、水俣ポストカード(上写真)と水俣連帯リボンを会議参加者に配布し、また坂本さんの代理として、当研究会の安間がポストカードとリボンをルグリスINC議長に手渡しました。

 ポストカードの表には、INC2(2011年1月千葉)で水俣被害者の坂本しのぶさんが、フェルナンド・ルグリスINC議長と握手している写真と、INC4に向けての坂本しのぶさんのメーセージを英文で記載しました。坂本さんのメッセージは次のようなものです。

 加害責任の検証、全ての被害者への補償、水俣湾などの水銀ヘドロ埋め立て問題、水俣病の全容解明など、水俣病はまだ解決していません。このような悲劇を二度と起こさない、被害者を苦しめることのない、強い水銀条約にしてください。

 ポストカードの裏はIPENと当研究会のメーセージが次のように書かれています。

水俣:
世界を悲しませた汚染サイトと被害者
現在のINC4条約案は、汚染サイトへの義務を含んでいない。
もし、水銀条約が、水俣で起きたような汚染サイトの惨事を防ぐための義務を求めないなら、そのような条約を"水俣条約"と呼ぶことができるであろうか?
INC4の結果次第で、水俣被害者と将来の世代を敬うことにもなるし、名誉を汚すことにもなる。

(文責:安間武)


水俣の教訓 共同声明への環境省回答と
当研究会コメント

当研究会は他団体と共同で、本年1月及び2月に日本政府に対し下記の声明を提出し、文書による回答を求めていました。
水銀条約に水俣の教訓を反映するよう求める(2012年1月23日)
日本政府に水銀輸出禁止法の制定を求める(2012年2月29日)

 環境省からINC4開始直前の6月22日に(当方の要求により英文で)回答がありましたので、直ちにネットワーク経由で世界中の国際NGOsに知らせました。 「水銀輸出禁止(英文)」に対する環境省の回答は別途ウェブで紹介することとし、ここでは「水俣の教訓(英文)」に対する環境省回答の要約と当研究会のコメントを紹介します。

なお、環境省回答の要約及び当研究会のコメントは当研究会のウェブに掲載しました。(水俣の教訓水銀輸出禁止)今後、必要があれば更新することがあります。

■環境省回答の要約(文責:当研究会)
1. 水俣の教訓
  • 水銀条約は世界の水銀汚染と人の健康と環境を保護する上で非常に重要である。
  • 日本は水俣病を経験した国として水俣で起きたような健康被害と環境破壊が世界中のどこの国でも決して繰り返されないよう条約策定に積極的に貢献する。
  • 2013年の外交会議のホスト国となり、条約名を"水俣条約"としたいので、水俣の教訓を条約に含めることは重要である。
  • 水俣の教訓については様々な意見があり、第14条「汚染サイト」だけに関連するものではないと考える。
  • 水俣病の原因となった汚染源は、アセトアルデヒド製造プロセスで使用された水銀触媒である。
  • したがって水俣病の原因と直接関係するのは第7条「水銀が使用される製造プロセス」であり、その他の様々な条項もまた関連すると考える。
  • 少なくとも最も重要な水俣の教訓のひとつは民間分野と政府が水銀汚染に対する防止措置をとることである。
  • このことを達成するためには、効果的な国際条約が合意され、措置が国際的に促進されることが重要であり、したがって積極的に水銀交渉に関与している。
交渉中の条約の個別条項
  1. 第7条(水銀が使用される製造プロセス)と付属書D
    水俣で過去に使用されたような水銀が触媒又は電極として使用される製造プロセスは、交渉中に主張してきたように、技術的に困難なプロセスを除いて広く禁止され、水銀の例外使用は厳格に管理されるべきである。
  2. "第18条(情報交換)
    水銀曝露に関連する健康影響についての疫学的情報の交換を提案している。
  3. B)前文(Preamble)
    前文で水俣の教訓に触れることを検討している。ストックホルム条約では汚染者負担原則が前文で述べられている。
 日本の経験について、"水俣病の教訓と日本の水銀管理"と題するブックレットを作成し、それを全ての国連言語に翻訳し、参加者に配布することにより、情報を共有しようとしている。

2. 第14条(汚染サイト)
  • INC3コンタクトグループで討議されてきたが、汚染サイトの問題は、国際的な問題というより、ローカルな問題であり、国際条約の中で扱うのはむずかしい。
  • 水銀汚染サイトの浄化は技術的に難しい。
  • したがって現状の条文案は適切である。
  • 政府の作業が特定されるような条約本文中で汚染サイトへの責任を述べるのはふさわしくない。前文での記述が適切である。
  • 被害者への責任に関し、国際条約の中に"補償の問題"を含めるのは難しい。
  • 水銀汚染による被害の調査は、現状の第20条(研究、開発、監視)の(C)項が人の健康と環境に及ぼす水銀と水銀化合物の影響の評価を含んでおり、適切である。
  • 水銀汚染に関連する原因と事実に関する全ての情報の開示については、前述の通り第18条(情報交換)で水銀曝露に関連する健康影響についての疫学的情報の交換を提案している。
  • 水俣病に関連する様々な国内問題は条約交渉内容に関わらず別に議論されるべき。
3. 水俣市の水銀スラッジ埋立地
  • 共同声明中の水俣湾から浚渫された水銀汚染スラッジの埋立地はいわゆる"エコパーク水俣"を意味すると考える。
  • エコパーク水俣を所有し管理する熊本県から、環境状況を把握し埋立地の安全性を確認するために、毎年、水質、底質、地下水、生物相について定期的に環境監視を実施しているとの報告を受けているが、結果は現在までのところ問題を示していない。
  • 熊本県は埋立地の耐震性と経年劣化の確認、及び将来の対応を議論するために専門家委員会を設立し、議論がなされている。
  • いわゆる"八幡プール"は、工業排水中の水銀残渣堆積で汚染されている疑いを指摘されていることは承知している。
  • しかし、周辺の海水、地下水、滲出排水の監視が実施されたが、その結果は何も問題を示さなかったと報告を受けている。
  • 昨年水俣で開催した水銀に関する説明会で、現地の市民から地震が起きた場合の埋立地の安全性に関する不安を直接聞いた。
  • もし将来、不安が生じたら、エコパーク水俣所有の熊本県と八幡プール所有のJNCが適切な措置をとると信じている。環境省もまた、必要な協力を行なうであろう。
  • これらの水俣の埋立地の問題は、第14条とは関係なく、国内問題として必要な措置がとられると信じる。
4. 水俣条約という命名

 条約を"水俣条約"と命名することは水俣に関連する問題を終らせるということを意味しない。逆に、条約を"水俣条約"と命名することにより、将来、水俣に関する問題を思い起こさせることにより、未解決のまま残された様々な問題を含んで、国際的な水銀管理を推進できると信じる。その意味で、"水俣条約"と命名することは意味があると信じる。"水俣条約"の命名は国際的に支持されている。この目標を達成するために、あらゆる努力を継続したい。

■環境省回答に対する当会の見解
  1. 50年以上の水俣の悲劇の歴史の中で様々に語られてきた教訓のうち、水銀使用プロセスの廃止を第7条で主張することには賛成であるが、水銀条約に反映すべき水俣の教訓は、それだけでは不十分である。

  2. NGOsが共同声明で主張する極めて重要な水俣の教訓は、50年以上にわたり水俣の被害者を苦しめ続けてきた原因は、"汚染者と行政の責任がきちんと問われず、汚染者の許しがたい行為と行政の不作為及び不誠実が許された"ということである。

  3. 第14条に水俣の教訓を反映するということは、サイトを汚染し、地域の人々に被害を与えたことに対する汚染者と行政の"責任"を求め、汚染サイトの修復と被害者の補償をさせることである。

  4. 水俣の教訓を第14条に反映することは、水俣の悲劇を経験した日本政府の責務であると考えるが、"国際条約に補償の問題を含めるのは難しい、汚染サイトの浄化は技術的に難しい"などを理由に、実現のための努力はなされなかったようにみえる。

  5. 汚染サイトの問題は、日本政府が主張するような"ローカルな問題"では決してなく、世界に共通な"国際的な問題"である。

  6. 第14条に水俣の教訓が反映されていないなら、また水俣問題が解決していないなら、"水俣条約"と命名することは恥ずべきことであり、水俣の被害者の尊厳を損なうものである。

  7. 水俣の汚染地等については、必要に応じて別途コメントする。
(文責:安間武)



7・16 さようなら原発10万人集会
17万の市民が原発NOを突きつけた

 7月16日、さようなら原発10万人集会が東京・代々木公園で開かれ、17万人もの人々が全国から駆けつけました。これまでで最大の参加者数です。家族連れや団体、グループ、個人の参加者が、朝早くから続々と集まり、34度を超える猛暑の中、ライブコンサート、トークなどたくさんのプログラムに参加し、3コースに分かれて、都内をデモ行進しました。
 7月29日(日)夕方には、再び国会大包囲があります。みんなで参加しましょう!(16頁参照)
 本稿では、7人の呼びかけ人のスピーチを紹介します。
(文責 化学物質問題市民研究会)

■鎌田 慧さん
 参加者は10万を超えて未だ、会場に向かって大勢の人たちが歩いています。集会は大成功です。私たちは全国の人々が力をふりしぼって集めた750万(現在は780万)の署名を、6月15日、藤村官房長官に提出しました。しかし、翌日、政府は大飯原発の再稼動を決めました。こんな政府はありますか! 主権者の民意を、汗と涙によって集めた署名を踏み潰して平然としている、このような政府に私たちはノーを突きつけたい。
 これから福島がどうなるか、子どもたちがどうなるか全く分からない。対策もない。原発が停止していても地震があればどうなるか分からない。このような危険にありながら、まだ原発に拘っている。国民の生命と財産を守ることを無視する政府に対しては、徹底的に弾劾していきたい。
 政府は、2030年15%で逃げ切ろうとしています。絶対許せない。直ちに原発ゼロです! 政府はパブリックコメントを募集しています。徹底的にパブリックコメントをぶつけましょう。8月に出るエネルギー政策を大転換させ、原発ゼロにさせる。政府の政策案を受けて、9月か10月に大集会を開きます。みなさん、まだまだやりましょう!

■坂本龍一さん
 42年前、18歳でここにいました。その時は、日米安保改定反対の集会でした。毎週金曜日の首相官邸前抗議と同じように、多くの普通の市民が来ていらっしゃると思います。ぼくも今日、日本人、一市民として来ました。首相官邸前抗議行動等はすばらしいと思うが、残念ながらそれだけでは止まらない。このような大きな集会を開く、パブリックコメントをじゃんじゃん書く、脱原発の地方自治体首長を増やしていく。長期的には、自家発電、発送電分離などで電力会社への依存を減らしていくことです。
 言ってみれば、たかが電気です。電気のために何でいのちを危険にさらさなくてはいけないんですか。2050年頃には、電気は自家発電が当たり前の社会になっているという希望を持っています。この美しい日本、国の未来である子どものいのちを危険にさらすようなことはすべきでありません。お金よりいのちです。経済より安全です。子どもを守りましょう。日本の国土を守りましょう。
 「福島の後に沈黙していることは野蛮だ」というのが、私の信条です。

■内橋克人さん
 会場内を埋め尽くし、外にまで溢れている膨大な参加者の方々、今日の「さようなら原発」の勇気ある声は、歪んだ国と社会のあり方を正す大きな、そして確かな力になっていくでしょう。主権者である国民、市民の「もう原発をやめて!」という祈りにも似た必死の叫びをあざ笑うかのように、平然と大飯原発が再稼動されました。3号機に続いて4号機も再稼動され、今月末には2基の原発が再稼動される予定になっています。再稼動候補の原発は全国に続々とスタンバイしています。新しい原子力規制委員会、新しい安全基準もないままに再稼動が強行されます。
 私たちの声、国民の悲願、福島の悲惨な現実は一体どこへ立ち消えさせられたのでしょうか。
 私たちがもっとも警戒しなければならない社会の空気、風潮の一つ目は、「原発反対、反対と叫んでみても意味がない。対案はどうするのか」というあざけりの空気が醸し出され始めたということです。しかし、「対案なくして反対なし」は、政府、官僚が主権者である国民、市民を脅す常套手段です。情報は隠しておいて、「お上の言うことに盾突くのはけしからん」と言うのには、承服できません。人々の魂に根付く平衡感覚や危険察知能力、命あるものに必ず備わっている畏怖心が安心社会の礎です。
 二つ目は、新しい「原発安全神話」が大手をふるい始めたことです。核武装への潜在的パワーをいかに維持するか。そこに魂胆があります。原子力基本法改正案にこっそりと「わが国の安全保障に資する」という文言が入れられて、成立してしまいました。かつて、原発100基構想というものが唱えられたこともありました。一体いつ私たちは合意を与えたでしょうか。国民的コンセンサス無きまま疾走してきたわが国は、破綻しました。「合意なき国策よ、さようなら」と、声を上げ続けなければなりません。
 福島の悲劇に学ぼうとしない政治家を、二度と再び国会に送ってはなりません。それが子ども、孫、未来への最低限の責任だと思います。

■大江健三郎さん
 昨年9月の明治公園の集会に参加しました。そして、生まれて初めての経験をしました。6万人を超える市民が集まりました。しかし、それは群集ではなかった。一人一人が個人の意志によって集まって集会を開いているということがしみじみ分かりました。その時、一人の女性が静かな、確かな声で話をされました。その言葉は私たちの胸に、魂に深く沁みこみました。私は、"さようなら原発"の運動は勝つと思いました。
 私は750万を超える署名を首相官邸に届ける時に、連れて行ってもらいました。官房長官に署名を渡しましたが、官房長官の答えは「首相の言うことを聞いてください」ということでした。そして、翌日、首相の「大飯原発再稼動することを決意した」という声明を聞きました。私は、正直、落ち込んでしまいました。
 中野重治という作家をご存知でしょうか。初期の短編に「春さきの風」(1928年)という中野さんがモデルの作品があります。民主主義のかけらもない戦前、(治安維持法で)逮捕されます。そして、妻が獄中の夫に宛てた手紙の中で「わたしらは侮辱のなかに生きています」と書きます。
 大飯原発再稼動の中で、私たちは侮辱されていると感じます。私たちは侮辱の中で生きています。そして、まさにその思いを抱いて、ここに集まっているわけであります。侮辱の中で生きていくほかないのか、そんなことはあってはならない。そういう体制は打ち破らなくてはならないと思います。しっかりやりつづけましょう。

■落合恵子さん
 何という政治、政権でしょうか。「コンクリートから人へ」と言った人たちが、「いのちより原発」を選んでしまったのです。私たちは、いのちへの、暮らしへのこの重大なる犯罪と侵略行為の共犯者になることはできません。私たちは二度と、加害者にも被害者にもなりません。そのことを約束するために、ここに集まっています。自らの存在にかけて、闘うことをやめません。闘うことを人間の誇りにしていきましょう。私たちは決してひるみません。決して後戻りしません。原発はいりません。再稼動許しません。輸出させません。すべての原発を廃炉にします。
 私たちが守るのは、たった一つ、いのちです。いのちであり、暮らしであり、田畑、海、空であり、すべてのいのち、脅かされてなるもんかと思います。原発はもとより、オスプレイも基地も全部反対です。なぜなら、すべてが命を脅かすものだからです。子どもがいて、お年寄りがいて、人と人とが集う、蚊取り線香の煙が上がって、みんなで西瓜をほおばって、あの日常を返せ!
 野田政権に聞きます。あなたたちが「国民」と言う時、いったい誰を見ているのか。今日、ここに居るのが国民であり、市民なんです。今日、この時間、全国各地で集会をし、パレードをしています。私たちはやわらかくつながっています。性懲りもなく原発を推進する人たちに、本当の民主主義とは何かを教えてあげませんか。私たちの声は、"大きな音"ではないのです。声を音と言うのは、民主主義ではありません。原発推進を、独裁を挫折させてやろうじゃないか。そして、こんなに辛い思いをしている子どもたちに、もう少しましな明日を残してから死んでいきましょう。

■澤地久枝さん
 私たちが今こういうことをがんばってやっているのは、未来のためだと思います。今生きている人たちから確実につながっている未来に、核に汚染されてかろうじて生きながらえているという地球には絶対にしたくない。日本が率先して核を捨てて生きていくという選択をしてほしい。
 東京も食べものは汚染されています。大人は覚悟をして食べればいいけれど、小さい子どもや子どもを産むお母さん達はどうやって避けるのか、日本列島全部もう道はないんです。この状態が異様なことだと、みんな考えなければならない。
 日本政府は日本人から故郷を奪ったと思います。福島の人たちは、帰りたいけれども帰れないではありませんか。帰るということは核に汚染されることを意味している。
 即時無条件で、核は撤廃すべきです。そうなれば、原発の輸出もしなくて済みます。日本は経済大国とか言っているけれど、日本が小さな国になることを何で恥じることがあるだろうか。小さい国土に相応しい規模で、みんながこの国に生まれてきてよかったと思えるような国にしていく。この炎天下に集まっているみなさんの気持ちが、官邸にいる人、国会にいる人たちに届かなければ、この国には民主主義はないです。
 みんなが政治の主人なんですよね。男女の性別を超えて、それから私は81だけれども、81も10代も世代を超えて、やっぱり今ちゃんと物事が分かるような人たちに、みんながなっていく、ひとりひとりがなっていく。そして、「私の意見はこうだ」と言う事に何にもはばかることはないですよね、怖がることはないと思います。そこで試されるなら試されてみようじゃありませんか。

■瀬戸内寂聴さん  先程大江さんは77歳とおっしゃいました。私はこの5月で、満90歳になりました。もう、今夜死ぬか明日死ぬかと思っております。冥土の土産に、みなさんがこんなに沢山集まった姿を見たかったからやってきました。
 私はいろんな小説を書いてきましたけれども、ちょうど100年前に日本に起こった大逆事件とか、女性の青鞜の運動などを書いております。100年前にやはり日本が大変、人間の自由を奪われた時代がありました。そして、自分のためじゃなくて、人類のために、人のために、国民のために、なにか新しい政治をしようとしたら全部捕まって、なにも出来ない時代がありました。それを冬の時代と申します。
 その冬の時代を経て現在があるのですけれども、今私たちは毎日何不自由なく暮らしておりますけれども、これは全部過去の人達が様々な苦労をして、権力に逆らって、そして人間の自由を守ってきたから今日があるのだと思います。
 こういうふうに集まっても、これがたちまち原発を止めるとか、政府の方向を変えるとか、そういうことになるかどうか分からないという、非常に疑り深い気持ちを持っております。
 それでも私たちは集まらなければならないんです。なぜならば、私たちは日本の国民です。ですから政治に対して言い分があれば、口に出して言っていいんです。身体であらわしていいんです。そういう事を今の人達はあまりにしなくなり過ぎました。
 どうか力を合わせて、たとえむなしいと思う時があっても、それにめげないで頑張っていきましょう。
 人間が生きるということは、自分以外の人のために少しでも役に立つか、自分以外の人間をあるいは生き物を幸せにするか、そのために命を頂いているんだと思います。ですから、これは私たちだけの問題じゃなくて、もうみんなの問題であり、国中の問題であり、それは世界に繋がる問題です。
 だから「悪いことは止めてくれ」と、たとえ相手が聞かなくても言い続けましょう。
(まとめ 安間節子)



化学物質問題市民研究会
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