ピコ通信/第167号
目次 |
2012年6月27日〜7月2日 プンタデルエステ、ウルグアイ
水銀に関する第4回政府間交渉会議(INC4) 参加報告 ■はじめに 国連環境計画(UNEP)の水銀に関する第4回政府間交渉会議(INC4)が6月27日〜7月2日に南米ウルグアイのプンタデルエステで開催され、約130ヶ国・地域から政府代表、国際機関、NGOs、研究機関、大学、産業界など約600名(そのうちNGOsは26ヶ国から約50人以上)が参加しました。 当研究会の安間 武が、第1回(2010年6月ストックホルム)、第2回(2011年1月千葉)、第3回(2011年10-11月ナイロビ)に引き続き、今回も国際NGOsの一員として参加したので、会議の概要を紹介します。 ■INC4における主なる討議 事務局はINC4開始の約3か月前に討議用条約テキスト準備しました。また会議直前にはいくつかの国及び地域が単独又は共同で特定の条項について提案書(会議室ペーパーCRPs)を提出しました。 委員会(INC)は、主要な条項のグループ毎にコンタクト・グループ(CG)を立ち上げ、CGは本会議の合間、昼食時間、及び本会議終了後深夜まで集中的に重要条項を討議し、その結果を会議室ペーパー(CRPs)として事務局に提出しました。 以下に、INC4での主な議論の概要を紹介します。なお、C項〜G項の報告はIISDの報告書に基づいています。 ■C 水銀供給とD 水銀の国際貿易
▼本会議におけるNGOの第14条(汚染サイト)に関する発言 第14条 汚染サイトに関し、IPENのジンドリッヒ・ペトロリク(Arnika/チェコ)が初日の6月27日に本会議で発言を行なった。その概要は次の通りである。
この自主的なアプローチは水俣の悲劇的歴史からの教訓を無視し、被害者への補償を無視している。次の原則が盛り込まれなくてはならない。 ・汚染者負担原則に基づく補償と汚染サイト修復の責任 ・汚染サイト目録の作成、特性化、優先付け、国家実施計画への導入 ・汚染者による.被害者への補償 汚染サイトの問題を地域(ローカル)の問題とする主張には同意しない。水銀汚染は世界の問題である。 もし水俣条約と名づけられるなら、被害者と彼等の正当な要求は敬われ、水俣の悲劇は条約に適用されなくてはならない。 ▼第14条 汚染サイトの結論 CGの結論は、汚染サイトの修復、被害者への補償などに対する汚染者と政府の責任を求める記述がなく、リスク削減戦略やガイダンスを策定することだけが強調されたものになりました。 ▼IPEN・当研究会 共同プレスリリース IPENと当研究会は6月30日に下記に概要を示す共同声明を英語、日本語、スペイン語、チェコ語、ロシア語、中国語の六ヶ国語で発表し、全世界に発信しました。 新たな水銀条約交渉は、"水俣条約"と呼ばれるに値しない方向に進んでいる 汚染サイトの浄化も被害者の補償も求めていない (概要) 今回発表された条文は、汚染サイト浄化のための義務的な行動を求めていない。 汚染された地域の人々から水銀条約はどのような行動を求めているのかと訊ねられたら、我々は、締約国は何も要求されておらず、何もしないことが許されていると答えなくてはならない。(IPEN 重金属ワーキング・グループ共同議長ジンドリッヒ・ペトロリク) 現在の条約案の文言の下では、水俣湾で起きたような汚染サイトがあっても、それを特定し、浄化し、被害者に対応すべき義務が求められていないので、無視されることになる。もし条約の文言自体が水俣のような惨事が将来起きることを許すなら、世界水銀条約を'水俣条約'と命名するのは恥ずべきことである 。(化学物質問題市民研究会 安間 武) 汚染者は、水や陸地を不注意に汚染しても、彼等に支払いを求める又は被害者の補償を求めるために、条約を誰も利用することができないということに満足するであろう。各国代表者等はこの負担を被害者や納税者にかけようとしている。(IPEN INC4 議長フェルナンド・ベジャラーノ) "我々は、締約国は汚染サイトを特定し、特性化し、浄化のために最悪の汚染サイトを優先付けることが義務付けられるべきであると信じる"(IPEN 上席科学アドバイザー、ジョー・ディガンギ) 条約が2013年1月に予定されている会合で最終的に決まる前に、IPEN は交渉会合の担当者らに対し、この決定をもう一度見直し、行動を義務的なものとし、汚染者と政府に汚染サイトの修復に責任を持たせ、汚染による被害者を補償させる条文を含めることを強く求める。 ■IPENと化学物質問題市民研究会の水俣を敬うキャンペーン
ポストカードの表には、INC2(2011年1月千葉)で水俣被害者の坂本しのぶさんが、フェルナンド・ルグリスINC議長と握手している写真と、INC4に向けての坂本しのぶさんのメーセージを英文で記載しました。坂本さんのメッセージは次のようなものです。 加害責任の検証、全ての被害者への補償、水俣湾などの水銀ヘドロ埋め立て問題、水俣病の全容解明など、水俣病はまだ解決していません。このような悲劇を二度と起こさない、被害者を苦しめることのない、強い水銀条約にしてください。 ポストカードの裏はIPENと当研究会のメーセージが次のように書かれています。 水俣: 世界を悲しませた汚染サイトと被害者 現在のINC4条約案は、汚染サイトへの義務を含んでいない。 もし、水銀条約が、水俣で起きたような汚染サイトの惨事を防ぐための義務を求めないなら、そのような条約を"水俣条約"と呼ぶことができるであろうか? INC4の結果次第で、水俣被害者と将来の世代を敬うことにもなるし、名誉を汚すことにもなる。 (文責:安間武) |
水俣の教訓 共同声明への環境省回答と
当研究会コメント 当研究会は他団体と共同で、本年1月及び2月に日本政府に対し下記の声明を提出し、文書による回答を求めていました。 ▼水銀条約に水俣の教訓を反映するよう求める(2012年1月23日) ▼日本政府に水銀輸出禁止法の制定を求める(2012年2月29日) 環境省からINC4開始直前の6月22日に(当方の要求により英文で)回答がありましたので、直ちにネットワーク経由で世界中の国際NGOsに知らせました。 「水銀輸出禁止(英文)」に対する環境省の回答は別途ウェブで紹介することとし、ここでは「水俣の教訓(英文)」に対する環境省回答の要約と当研究会のコメントを紹介します。 なお、環境省回答の要約及び当研究会のコメントは当研究会のウェブに掲載しました。(水俣の教訓/水銀輸出禁止)今後、必要があれば更新することがあります。 ■環境省回答の要約(文責:当研究会) 1. 水俣の教訓
2. 第14条(汚染サイト)
条約を"水俣条約"と命名することは水俣に関連する問題を終らせるということを意味しない。逆に、条約を"水俣条約"と命名することにより、将来、水俣に関する問題を思い起こさせることにより、未解決のまま残された様々な問題を含んで、国際的な水銀管理を推進できると信じる。その意味で、"水俣条約"と命名することは意味があると信じる。"水俣条約"の命名は国際的に支持されている。この目標を達成するために、あらゆる努力を継続したい。 ■環境省回答に対する当会の見解
|