市民団体共同声明「水俣の教訓」への
環境省回答と当研究会コメント


オリジナル:Response to the Joint Statement (No. 1), 22 June 2012
To: Mr. Takeshi YASUMA (Citizens Against Chemicals Pollution (CACP)) From: Teruyoshi HAYAMIZU, Director, Environmental Health and Safety Division, Environmental Health Department, Ministry of the Environment, JAPAN (pdf)

掲載日:2012年7月22日
更新日:2012年7月31日
安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/CSO/Minamata_lessons_MoE_reply_jp.html


 2012年1月23日、当研究会、水俣病被害者互助会、及びグリーン・アクションは連名で外務大臣、経済産業大臣、及び環境大臣向けた、市民団体共同声明 ”水銀条約に水俣の教訓を反映するよう求める” (日本語版)を送付し、また世界のネットワークを通じて世界中のNGOsに英語版を配信しました。この共同声明には国内の個人・団体から150筆、海外の個人・団体から353筆、合計503筆の賛同を得ました。

 この共同声明に対し、2012年6月22日に、環境省から(当方の要求により英文で)回答がありましたので、海外NGOsにはネットワークを通じて直ちに英語版を送付しました。
 また、当研究会による環境省回答の日本語要約と当研究会のコメントを作成したので、ここに掲載します。なお、掲載した内容は、必要があれば更新することがあります。


■環境省回答の要約
(文責:当研究会)必要に応じて、オリジナル(英文)を参照ください。
1. 水俣の教訓
  • 水銀条約は世界の水銀汚染と人の健康と環境を保護する上で非常に重要である。
  • 日本は水俣病を経験した国として水俣で起きたような健康被害と環境破壊が世界中のどこの国でも決して繰り返されないよう条約策定に積極的に貢献する。
  • 2013年の外交会議のホスト国となり、条約名を"水俣条約"としたいので、水俣の教訓を条約に含めることは重要である。
  • 水俣の教訓については様々な意見があり、第14条「汚染サイト」だけに関連するものではないと考える。
  • 水俣病の原因となった汚染源は、アセトアルデヒド製造プロセスで使用された水銀触媒である。
  • したがって水俣病の原因と直接関係するのは第7条「水銀が使用される製造プロセス」であり、その他の様々な条項もまた関連すると考える。
  • 少なくとも最も重要な水俣の教訓のひとつは民間分野と政府が水銀汚染に対する防止措置をとることである。
  • このことを達成するためには、効果的な国際条約が合意され、措置が国際的に促進されることが重要であり、したがって積極的に水銀交渉に関与している。
交渉中の条約の個別条項
@)第7条(水銀が使用される製造プロセス)と付属書D
 水俣で過去に使用されたような水銀が触媒又は電極として使用される製造プロセスは、交渉中に主張してきたように、技術的に困難なプロセスを除いて広く禁止され、水銀の例外使用は厳格に管理されるべきである。

A)第18条(情報交換)
 水銀曝露に関連する健康影響についての疫学的情報の交換を提案している。

B)前文(Preamble)
 前文で水俣の教訓に触れることを検討している。ストックホルム条約では汚染者負担原則が前文で述べられている。

 日本の経験について、"水俣病の教訓と日本の水銀管理"と題するブックレットを作成し、それを全ての国連言語に翻訳し、参加者に配布することにより、情報を共有しようとしている。

2. 第14条(汚染サイト)
  • INC3コンタクトグループで討議されてきたが、汚染サイトの問題は、国際的な問題というより、ローカルな問題であり、国際条約の中で扱うのはむずかしい。
  • 水銀汚染サイトの浄化は技術的に難しい。
  • したがって現状の条文案は適切である。
  • 政府の作業が特定されるような条約本文中で汚染サイトへの責任を述べるのはふさわしくない。前文での記述が適切である。
  • 被害者への責任に関し、国際条約の中に"補償の問題"を含めるのは難しい。
  • 水銀汚染による被害の調査は、現状の第20条(研究、開発、監視)の(C)項が人の健康と環境に及ぼす水銀と水銀化合物の影響の評価を含んでおり、適切である。
  • 水銀汚染に関連する原因と事実に関する全ての情報の開示については、前述の通り第18条(情報交換)で水銀曝露に関連する健康影響についての疫学的情報の交換を提案している。
  • 水俣病に関連する様々な国内問題は条約交渉内容に関わらず別に議論されるべきである。
3. 水俣市の水銀スラッジ埋立地
  • 共同声明中の水俣湾から浚渫された水銀汚染スラッジの埋立地はいわゆる"エコパーク水俣"を意味すると考える。
  • エコパーク水俣を所有し管理する熊本県から、環境状況を把握し埋立地の安全性を確認するために、毎年、水質、底質、地下水、生物相について定期的に環境監視を実施しているとの報告を受けているが、結果は現在までのところ問題を示していない。
  • 熊本県は埋立地の耐震性と経年劣化の確認、及び将来の対応を議論するために専門家委員会を設立し、議論がなされている。
  • いわゆる"八幡プール"は、工業排水中の水銀残渣堆積で汚染されている疑いを指摘されていることは承知している。
  • しかし、周辺の海水、地下水、滲出排水の監視が実施されたが、その結果は何も問題を示さなかったと報告を受けている。
  • 昨年水俣で開催した水銀に関する説明会で、現地の市民から地震が起きた場合の埋立地の安全性に関する不安を直接聞いた。
  • もし将来、不安が生じたら、エコパーク水俣所有の熊本県と八幡プール所有のJNCが適切な措置をとると信じている。環境省もまた、必要な協力を行なうであろう。
  • これらの水俣の埋立地の問題は、第14条とは関係なく、国内問題として必要な措置がとられると信じる。
4. 水俣条約という命名

 条約を"水俣条約"と命名することは水俣に関連する問題を終らせるということを意味しない。逆に、条約を"水俣条約"と命名することにより、将来、水俣に関する問題を思い起こさせることにより、未解決のまま残された様々な問題を含んで、国際的な水銀管理を推進できると信じる。その意味で、"水俣条約"と命名することは意味があると信じる。"水俣条約"の命名は国際的に支持されている。この目標を達成するためにあらゆる努力を継続したい。


■環境省回答に対する当会のコメント
  1. 50年以上の水俣の悲劇の歴史の中で様々に語られてきた教訓のうち、水銀使用プロセスの廃止を第7条で主張することには賛成であるが、水銀条約に反映すべき水俣の教訓は、それだけでは不十分である。

  2. NGOsが共同声明で主張する極めて重要な水俣の教訓は、50年以上にわたり水俣の被害者を苦しめ続けてきた原因は、"汚染者と行政の責任がきちんと問われず、汚染者の許しがたい行為と、行政の汚染者擁護、不作為、及び不誠実が許された"ということである。(12/07/31)字句追加

  3. 回答は、50年以上にわたり水俣の被害者を苦しめ続けてきたことに対する汚染者と行政の責任及び、それらを水俣の悲劇の教訓とすることについて、何も触れていない。(12/07/31)追加

  4. 第14条に水俣の教訓を反映するということは、サイトを汚染し、地域の人々に被害を与えたことに対する汚染者と行政の"責任"を求め、汚染サイトの修復と被害者の補償をさせることである。

  5. 水俣の教訓を第14条に反映することは、水俣の悲劇を経験した日本政府の責務であると考えるが、国際条約に補償の問題を含めるのは難しい、汚染サイトの浄化は技術的に難しいなどを理由に、実現のための努力はなされなかったようにみえる。

  6. 汚染サイトの問題は、日本政府が主張するような"ローカルな問題"では決してなく、世界に共通な"国際的な問題"である。

  7. 第14条に水俣の教訓が反映されていないなら、また水俣問題が解決していないなら、"水俣条約"と命名することは恥ずべきことであり、水俣の被害者の尊厳を損なうものである。

  8. 水俣の汚染地等については、必要に応じて別途コメントする。
(文責:安間武)



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