ピコ通信/第158号
![]()
目次 |
欧州委員会2011年10月18日
ナノ物質の定義に関する勧告を発表 2010年の科学委員会(SCENIHR)の助言から大きく後退 ナノの範囲を狭める 欧州委員会は、2011年10月18日、ナノ物質に関する定義を発表しました。ナノ物質の定義は、規制の対象を明確にする上で極めて重要であり、OECDを始めとする国際機関や各国機関により様々な議論がなされ、検討されてきました。欧州連合では昨年10月から11月にかけて、ナノ物質の定義がパブリック・コンサルテーションにかけられましたが、その結果を反映したものが、今回発表された最終勧告です。 ■勧告されたナノ物質の定義 少し、難しい用語や概念が使われていますが、ここでは欧州委員会の勧告をそのまま紹介し、いずれ、分かりやすい解説をしたいと思います。
欧州委員会の10月18日の発表は、ナノ物質の問題に関心を持つ世界中のNGOに瞬く間に広がり、その内容についての検討が直ちに始まりました。特にナノサイズ粒子の数が50%以上とする定義や、粒子径を100nm以下とする定義に批判が出ています。 欧州委員会自身が設置した科学委員会(SCENIHR)の2010年の意見は、「粒子数分布の閾値は0.15%」を勧告し、「ナノ物質の上限100nmという数値には科学的な根拠がない」としています。このように、今回の欧州委員会の勧告は科学委員会の意見から大きく後退しており、この勧告はナノ物質の範囲を大きく狭めるので、産業界にとって好都合であり、また欧州委員会には常に産業界の強い働きかけがあったと言われています。 ■地球の友オーストラリアの批判 ナノの問題に積極的に取り組む国際NGOのひとつである「地球の友オーストラリア」は、ウェブサイトで次のように批判しています。 欧州委員会 ナノ定義への産業側の圧力に屈し、
人々と環境をリスクに曝す 数ヶ月に及ぶ協議の後、欧州委員会はナノ物質の定義を発表した。激しい産業側の働きかけを反映し、科学委員会の助言を拒絶するものであった。ナノ粒子含有の閾値、"サンプル中のナノサイズ粒子数が50%以上"は、欧州委員会自身が設置した「新規の及び新たに特定された健康リスクに関する科学委員会(SCENIHR)」の勧告(0.15%)よりも333 倍も大きな値である。欧州委員会の定義はまた、ナノ物質の上限サイズを100nmに固定するものであるが、SCENIHRはこの100nmという上限値には科学的根拠は何もなく、これまでのナノ毒性研究でこの値より大きな粒子においてナノ特有の毒性が見出されているということを警告していた。地球の友オーストラリアを含む世界のNGOは、300nmのサイズまでの粒子をナノ物質の定義に含めるよう要求していた。 欧州委員会は、これらの定義は、ある製品がナノ特有の健康又は環境評価を受けるべきかどうかについての意思決定を含めて、将来のナノ物質の規制を強化するものであると勧告している。 しかし、もしこれらの定義が規制に適用されるなら、例えば、サイズが 95nm の粒子数が45% 、105nm の粒子数が55% からなる物質は、ナノ物質として規制されないということを意味する。 別の言い方をすれば、サイズが大きい時には示さなくても、サイズが小さくなると同じ材質でも新たな毒性を示すことが知られているナノ物質について、この定義に従えば、たとえ、ほとんど半分近くの粒子がナノサイズであっても、それは安全評価やラベル表示の対象とならないということを意味する。 欧州委員会は定義の中で、この"抜け穴"について、"環境、健康、安全、又は競争力に関する懸念について正当化される場合には、50%以下の閾値にしてもよい"と述べているが、実際にはそれは無力である。あるナノ物質が危害を及ぼすだけでなく、さらにサンプル中の粒子のある特定の分率が危害を及ぼすことを人々が証明するのは、非常に大変なことであり、実際には不可能である。 欧州委員会の定義は、ナノテクノロジーの予防的な管理の主張をあざ笑うものである。科学を産業権益に売り渡したと見られるのを避けたい国は、この定義の採択もまた避けるべきである。 (まとめ/日本語抄訳:安間 武) 関連情報 ■EU関連機関の情報/意見
|