ピコ通信/第158号
発行日2011年10月24日
発行化学物質問題市民研究会
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URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 水銀条約政府間交渉委員会第3 回会合(INC3)準備のための
    アジア太平洋地域会合参加報告 2001 年9 月26−27 日 神戸
  2. 10/7 「原発の運転再開を止めよう!」 政府交渉 国の“地震による配管破損はない”シナリオは破綻 ストレステスト結果の判断基準もなし
  3. 欧州委員会2011年10月18日 ナノ物質の定義に関する勧告を発表
    2010年の科学委員会(SCENIHR)の助言から大きく後退:ナノの範囲を狭める
  4. バーゼル条約第10回締約国会議(COP10)禁止修正条項の発効条件に同意
    95年採択時の締約国数の4分の3、68か国の批准で発効
  5. 別冊宝島『原発の深い闇2』は必読です 原発マフィアの闇があばかれる 国、電力業界、財界、特殊法人、マスメディア、大学、NPOなど
  6. 調べてみよう家庭用品(48)食品添加物(7)
  7. お知らせ・編集後記


10/7 「原発の運転再開を止めよう!」 政府交渉
国の"地震による配管破損はない"シナリオは破綻
ストレステスト結果の判断基準もなし


 10月7日(金)、参議院議員会館において、「原発の運転再開を止めよう!政府交渉」が行われました。佐賀、愛媛、新潟、静岡、宮城、青森の原発立地県からの参加者を含め約90名の市民が参加。政府側は、原子力安全・保安院、原子力安全委員会などから8名が出席しました。
(主催は、美浜の会、グリーン・アクション、フクロウの会、FoE Japan、グリーンピース・ジャパン)

 交渉は、あらかじめ出されていた質問・要請書に沿って行われました。交渉の趣旨は、以下です。

 "現在、54基の原発の内、44基が運転を停止している。稼働中の原発も今後順次定期検査に入り、来年春には全ての原発が停止することとなる。このような中、政府は、停止中の原発の運転再開を進めようとしている。
 電力各社が進めているストレステストの結果を原子力安全・保安院と原子力安全委員会が評価し、首相、官房長官、経産大臣、原発事故担当大臣の4者で政治的に判断するとされている。
 電力各社は、15基の原発でストレステストを実施中。関西電力は大飯3号機のストレステストを既に終了し、9月中にもその結果を国に報告し、運転を再開しようとしている。
 しかし、ストレステストは、コンピュータ解析によって設備や機器の「裕度」(余裕度)をみるというものでしかなく、福島原発事故の実態とはなんら関係のないもの。新潟県の泉田知事は「気休めでしかない」と述べている。
 福島原発事故に重大な責任があり、さらに「やらせ」まで発覚した保安院が、運転再開についての安全判断を行うことを認めることはできない。"

要請事項
  1. 福島事故の実態を無視したストレステストや「緊急安全対策」で、運転再開を了承しないこと。
  2. 津波の前に地震動で配管が破損した可能性について、実態に即して検証すること。
  3. 「やらせ」調査の対象を全ての電力会社に拡大し、調査結果の詳細を公開し、責任を明らかにすること。
質問と回答

1.地震による配管破損の可能性について

(1)福島第一原発1号機では、地震発生から約3時間後の17:50に、早くも原子炉建屋内に入ったあたりで計器が振り切れるほどの高い放射線量が測定されている(注1)。この事実は、原子炉圧力容器から出ている配管(たとえば非常用復水器(IC)系配管)が、地震により格納容器外で破損したことを意味しているのではないか。
 それ以外の放射能放出ルートがあるなら、それを具体的に示されたい(注2)。

(注1) 3月11日中央制御室ホワイトボードに書かれていた事柄:
17:50 IC組撤収 放射線モニタ指示上昇のため. 300CPM. 外側のエアロック入ったところでOS(注:over scale振り切れ) 廊下側からシューシュー音有(東電報告 1号機当直員引継日誌)

(注2) 保安院のシナリオは、放射能を含む蒸気が、逃し安全弁から格納容器に流出→炉の水位低下→燃料損傷→格納容器の圧力が高まる→格納容器外(原子炉建屋)へ流出。

回答 逃し安全弁が開いた証拠はない(と認める)。格納容器の圧力については、18:00には格納容器の圧力は1気圧で、外の原子炉建屋と同じ。そのため、17:50に格納容器から放射能を含む蒸気が放出することはない(と認める)。
 (17:50の原子炉建屋への放射能充満という事実については)どの系統からどこを通って出たのか確定できていない。
 地震によって配管破損がなかったとは断定していない。地震による配管破損については、今後調査を進める予定。

(2)3号機について、6月のIAEAへの報告書の中で「HPCI系統(注3)からの蒸気流出の可能性がある」と記述したことは撤回していないか。

(注3) HPCI:高圧注水系。非常用炉心冷却系の一つであり、冷却水喪失事故時に原子炉へ水を注入する設備。(ポンプは蒸気タービンで駆動)

回答 撤回していない。

(3)8月19日に開かれた石川県原子力環境安全管理協議会で、原子力安全・保安院は「東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた志賀原子力発電所の安全確認について」の報告を行った。その報告の中で、地震による配管等の破損は一切ないと説明したのか。

回答 (明確な回答得られず。実際に説明を行った検査課の担当者に再度確認することになった。)

2.耐震安全性の評価について

(1)配管が破損していれば、東電の評価基準値より相当に小さな力で破損したことになり、耐震安全性評価は破綻するのではないか。同様の評価を行うストレステストも意味を失うのではないか。

回答 プラント関連パラメーター(水位・圧力・温度などのデータ)からは破損は考えられない。

3.ストレステストの結果に関する判断基準について

(1)電力会社が出してくるストレステストの結果の評価に関する、国の判断基準は何か。

回答 今のところ、その判断基準はない。ストレステストで、福島と同様のことが起こらないことを地元に説明する必要がある

(2)さらに、ストレステストの結果については、首相等4者による政治的な判断を行うとのことだが、その政治判断の基準は何か。

回答 特に決まっていない。再稼動については、地元の理解など、総合的に判断することになるのではないか。

4.原子力安全委員会の権限について

 原子力安全委員会は8月11日、泊原発3号機の本格運転再開に際して委員会で議題としてとりあげたが、原子力安全委員会としての検討や判断については何も示さなかった。班目委員長はこれについて、「泊3号の安全性、定期検査については、保安院がしっかりとやるものです。今日の議題にあげたのは保安院が報告したいからと言ったから」と述べた。このことは、安全委員会としての「ダブルチェック」の機能も果たさなかったことを示している。
 今回のストレステストによる運転再開の判断にあたって、原子力安全委員会はどのような権限を有しているのか。

回答(原子力安全委員会) 運転再開については寄与していない。保安院のストレステスト評価結果について、妥当性は確認するが、判断基準は今のところない。法律上、ダブルチェックは設置許可申請についてだけで、ストレステストは対象ではない。

5.「やらせ」の調査対象を拡大し、調査結果の詳細を公開し責任を明らかにすべき

 住民説明会での保安院や電力会社、地元首長による「やらせ」問題が次から次に発覚し、地元はもちろんのこと全国で保安院に対する怒りと不信が高まっている。
 経産大臣が設置した第三者調査委員会は、8月30日に「中間報告」を出した。しかし、その「中間報告」は、わずか8頁にすぎず、内容も紋切り型で、具体的な「やらせ」の実態が分かるようなものではない。「中間報告」で「やらせ」が認定されたのは3件。41件の全ての調査対象について9月末には最終報告を出すとしている。また、「中間報告」での調査内容(延べ約70名のヒアリング、電子メール等)は公開されていない。
 「やらせ」調査の対象を全ての電力会社に拡大し(現在は関西電力、北陸電力、日本原電は調査対象外)、調査結果の詳細を公開し、責任を明らかにすべきだ。

回答 (やらせの動機については)参加者が少なく会場に空席が目立たないように等、外観を重視し、シンポジウムの目的を間違えていた。調査内容を公開するためにやっているのではないので、調査の具体的内容は公開しない。


本交渉で明らかになったのは以下の点です。

  • 地震によって配管の破損がなかったとは断定していない、保安院の放射能放出シナリオでは、17:50の放射能漏えいを説明できない、保安院の事故シナリオで前提になっている「逃がし安全弁が開いた」証拠はないことから、原子力安全・保安院の事故シナリオは論理的に破綻している。
  • 保安院は「ストレステスト結果の判断基準は持っていない」と答え、ストレステストは結果をどうにでも都合よく判断できる再稼動のためのものである可能性が強い。
 国と東電、電力業界は、事故の原因は津波(による全電源喪失)であって地震(による配管破損)ではないと何としても結論づけなくてはならないのです。地震が原因となると、すべての原発を止め、廃炉にしなくてはならなくなるからです。
 たとえ論理的に破綻していても、原発推進にとって都合のよいほうへ強引に持って行くことがこれまでの歴史から推測されます。それを止められるのは、私たち国民の監視と"原発ノー"の意志表示しかありません。 (安間節子)


欧州委員会2011年10月18日
ナノ物質の定義に関する勧告を発表
2010年の科学委員会(SCENIHR)の助言から大きく後退
ナノの範囲を狭める

 欧州委員会は、2011年10月18日、ナノ物質に関する定義を発表しました。ナノ物質の定義は、規制の対象を明確にする上で極めて重要であり、OECDを始めとする国際機関や各国機関により様々な議論がなされ、検討されてきました。欧州連合では昨年10月から11月にかけて、ナノ物質の定義がパブリック・コンサルテーションにかけられましたが、その結果を反映したものが、今回発表された最終勧告です。

■勧告されたナノ物質の定義

 少し、難しい用語や概念が使われていますが、ここでは欧州委員会の勧告をそのまま紹介し、いずれ、分かりやすい解説をしたいと思います。
  1. 加盟国、欧州連合、及び産業界は、ナノテクノロジー製品に関する法律と政策及び研究プログラムを採択し実施するときに、用語"ナノ物質"について、下記の定義を使用するよう要請される。
  2. "ナノ物質"は、非束縛状態(unbound)、又はアグロメレート(agglomerate)又はアグリゲート(aggregate)の状態で、1又はそれ以上の次元の外部寸法が1nmから100nmの範囲にある粒子の数の分布が50%以上であるような粒子からなる天然、非意図的、又は工業的物質を意味する。 特別の場合には、そして環境、健康、安全、又は競争力に関する懸念について正当化される場合には、50%というサイズ分布数閾値は、1%から50%の間の閾値によって置き換えてもよい。
  3. 上記第2項にもかかわらず、1又はそれ以上の外部次元が1nm以下のフラーレン、グラフェンナノフレーク、及び単層カーボンナノチューブはナノ物質とみなされるべきである。
  4. 上記第2項の目的のために、"粒子"、"アグロメレート"及び"アグリゲート"は次のように定義される。
    1. ”粒子(particle)”は、物理的境界を持つ物質の微細な断片を意味する。
    2. ”アグロメレート(agglomerate)”は、外部表面積が個々の要素の表面積の和とほぼ同じであり、弱く束縛された粒子又はアグリゲートの集合を意味する。
    3. ”アグリゲート(aggregate)”は強く束縛された又は溶解された粒子を意味する。
  5. 技術的に実行可能であり、特定の法律で要求される場合には、上記第2項の定義に従うかどうかは、容積による比表面積に基づき決定されるかもしれない。容積による比表面積が60 m2/cm3より大きい物質は、第2項の定義に入ると考えられるべきである。しかし、サイズ分布数に基づいてナノ物質であるとされる物質は、たとえ比表面積が60 m2/cm3より小さくても、第2項の定義を満たしているとみなされるべきである。
■NGOが指摘する問題点

 欧州委員会の10月18日の発表は、ナノ物質の問題に関心を持つ世界中のNGOに瞬く間に広がり、その内容についての検討が直ちに始まりました。特にナノサイズ粒子の数が50%以上とする定義や、粒子径を100nm以下とする定義に批判が出ています。
 欧州委員会自身が設置した科学委員会(SCENIHR)の2010年の意見は、「粒子数分布の閾値は0.15%」を勧告し、「ナノ物質の上限100nmという数値には科学的な根拠がない」としています。このように、今回の欧州委員会の勧告は科学委員会の意見から大きく後退しており、この勧告はナノ物質の範囲を大きく狭めるので、産業界にとって好都合であり、また欧州委員会には常に産業界の強い働きかけがあったと言われています。

■地球の友オーストラリアの批判

 ナノの問題に積極的に取り組む国際NGOのひとつである「地球の友オーストラリア」は、ウェブサイトで次のように批判しています。


欧州委員会 ナノ定義への産業側の圧力に屈し、
人々と環境をリスクに曝す

 数ヶ月に及ぶ協議の後、欧州委員会はナノ物質の定義を発表した。激しい産業側の働きかけを反映し、科学委員会の助言を拒絶するものであった。ナノ粒子含有の閾値、"サンプル中のナノサイズ粒子数が50%以上"は、欧州委員会自身が設置した「新規の及び新たに特定された健康リスクに関する科学委員会(SCENIHR)」の勧告(0.15%)よりも333 倍も大きな値である。欧州委員会の定義はまた、ナノ物質の上限サイズを100nmに固定するものであるが、SCENIHRはこの100nmという上限値には科学的根拠は何もなく、これまでのナノ毒性研究でこの値より大きな粒子においてナノ特有の毒性が見出されているということを警告していた。地球の友オーストラリアを含む世界のNGOは、300nmのサイズまでの粒子をナノ物質の定義に含めるよう要求していた。

 欧州委員会は、これらの定義は、ある製品がナノ特有の健康又は環境評価を受けるべきかどうかについての意思決定を含めて、将来のナノ物質の規制を強化するものであると勧告している。

 しかし、もしこれらの定義が規制に適用されるなら、例えば、サイズが 95nm の粒子数が45% 、105nm の粒子数が55% からなる物質は、ナノ物質として規制されないということを意味する。
 別の言い方をすれば、サイズが大きい時には示さなくても、サイズが小さくなると同じ材質でも新たな毒性を示すことが知られているナノ物質について、この定義に従えば、たとえ、ほとんど半分近くの粒子がナノサイズであっても、それは安全評価やラベル表示の対象とならないということを意味する。

 欧州委員会は定義の中で、この"抜け穴"について、"環境、健康、安全、又は競争力に関する懸念について正当化される場合には、50%以下の閾値にしてもよい"と述べているが、実際にはそれは無力である。あるナノ物質が危害を及ぼすだけでなく、さらにサンプル中の粒子のある特定の分率が危害を及ぼすことを人々が証明するのは、非常に大変なことであり、実際には不可能である。

 欧州委員会の定義は、ナノテクノロジーの予防的な管理の主張をあざ笑うものである。科学を産業権益に売り渡したと見られるのを避けたい国は、この定義の採択もまた避けるべきである。
(まとめ/日本語抄訳:安間 武)


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