Harvard T.H. Chan 2017年8月25日
よく使われる難燃化学物質は、不妊治療中の女性の
臨床妊娠及び生児出生の可能性を低減するかもしれない


情報源: Harvard T.H. Chan, Press Release, August 25, 2017
Common flame retardant chemicals may reduce likelihood of clinical pregnancy,
live birth among women undergoing fertility treatments
https://www.hsph.harvard.edu/news/press-releases/
chemicals-flame-retardants-pregnancy/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2017年8月28日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/news/
170825_Harvard_PFRs_and_reproductive_outcomes_in_women.html


【ボストン、マサチューセッツ】ハーバード T.H. チャン公衆衛生大学院の研究者等によれば、よく使われる難燃剤の尿中濃度が高い女性は、濃度の低い女性より臨床妊娠(訳注1)および生児出生の可能性が低減していた。マサチューセッツ総合病院の不妊治療院で実施されたその研究は、革張り家具、赤ちゃん用品、体操用マットを含む多くの製品中のポリウレタン・フォーム中で使用される有機リン系難燃剤(PFRs)と、女性の生殖影響との関係を初めて検証した。

 ”これらの発見は、有機リン系難燃剤(PFRs)への暴露は、受精成功率を低くする多くのリスク要因の一つかもしれないことを示唆している”と、現在はミシンガン州立大学の准教授であるが、ハーバード・チャン公衆衛生大学院の環境健康部門の研究員の時に、この研究を行った第一著者のコートニー・カリグナンは述べた。”この研究は、これらの難燃剤使用を削減し、より安全な代替物質を同定する必要性を示す多くの証拠のひとつとして加えられる”。

 その研究は、2017年8月に Environmental Health Perspectives に発表された。

 先進国では6組の内、1組のカップルが不妊と取り組んでおり、出産の遅い人々の数が増大するにつれて、その割合は上昇しているようである。以前の調査は、農薬やフタル酸エステル類のようなホルモンかく乱化学物質を含む製品への暴露と不妊や低い受精成功率とを関連付けていた。

 ポリウレタン・フォーム中で使用される難燃剤ペンタ BDE は、動物研究及び疫学的研究で有害な健康影響と関連していることが見いだされ、 10年以上前に廃止された。有機リン系難燃剤(PFRs)は安全な代替物質として導入されたが、それらは動物研究でホルモンかく乱を引き起こすことが発見されている。有機リン系難燃剤(PFRs)はまた、家具やその他の製品から屋内環境の空気やダストに移動することができることをいくつかの研究が示している。

 今回の研究では、研究者らは、マサチューセッツ総合病院不妊治療センターで 2005年から 2015年の間に体外受精(IVF)の施術を受けている 211人の女性から採取した尿サンプルを分析した。女性らは環境と生殖健康(Environment and Reproductive Health (EARTH) )調査に登録された人々であり、そ調査は環境化学物質とライフスタイルの選択が生殖健康にどのように影響を及ぼすかを調べるものである。統計的な分析は母親の年齢と人種、喫煙履歴、及びボディー・マス・インデックス(BMI)を含む要素を考慮した。

 研究者らは、 三つの有機リン系難燃剤(PFRs)− リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)(TDCIPP)、リン酸トリフェニル(TPHP)及び mono-ITP−の尿代謝産物(ある化学物質から代謝された産物)が参加者の80%以上から検出されたことを発見した。平均すると、これらの代謝物の濃度が低い女性に比べて、代謝物の濃度が高い女性は、受精成功の可能性が10%減少し、胚着床の可能性が31%減少し、臨床妊娠(超音波による胎児心音の確認)、及び生児出生がそれぞれ 41%及び 38%減少した。

 体外受精(IVF)の施術中、及び環境化学物質への暴露を低減することにより妊娠の機会を改善しようとしているカップルは難燃剤を含まない製品を選択することを望むかもしれない”と、Frederick Lee Hisaw 生殖生理学教授で、環境健康部門の議長代理の上席著者ラス・ハウザーは述べた。

 男親の難燃化学物質への暴露の潜在的な影響、及び、男女双方の異なる種類の環境化学物質への暴露の複合効果に関するさらなる研究が必要であると研究者らは言った。

 他のハーバード・チャンの著者は、Lidia Minguez-Alarcon, Paige Williams, and Jennifer Ford. Other Harvard Chan authors include Lidia Minguez-Alarcon, Paige Williams, 及び Jennifer Ford である。

 この研究は国立環境健康科学研究所(NIEHS)の助成 ES009718, ES022955, ES000002, 及び T32ES007069 を受けた。

当該研究
“Urinary Concentrations of Organophosphate Flame Retardant Metabolites and Pregnancy Outcomes among Women Undergoing in Vitro Fertilization,” Courtney C. Carignan, Lidia Minguez-Alarcon, Craig M. Butt, Paige L. Williams, John D. Meeker, Heather M. Stapleton, Thomas L. Toth, Jennifer B. Ford, and Russ Hauser, Environmental Health Perspectives, August 25, 2017, doi: 10.1289/EHP1021

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訳注1:臨床妊娠 (clinical pregnancy)
訳注:有機リン系難燃剤関連情報


化学物質問題市民研究会
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