EHNニュース 2016年1月25日
ワシントン州は、住民が新たな難燃剤を吸入しているとして、
より強い有害物質規制をしようとしている

ブライアン・ビエンコウフスキー
研究者らは、新世代の難燃化学物質である塩素化有機リン酸系難燃剤にとって
吸入が重要な暴露経路であると報告している


情報源:Environmental Health News, January 25, 2016
As Washington state decides on stronger toxics law, residents are breathing flame retardants
Researchers report inhalation is an important exposure route for new generation of flame retardant chemicals
By Brian Bienkowski, Environmental Health News
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2016/jan/
as-washington-state-decides-on-stronger-toxics-law-residents-are-breathing-flame-retardants


オリジナル論文:ScienceDirect/Chemosphere Available online 4 January 2016
Inhalation a significant exposure route for chlorinated organophosphate flame retardants
Erika D. Schredera, Nancy Udinga, Mark J. La Guardiab
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S004565351530415X
訳注:Abstract の紹介

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年2月3日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/ehn/
ehn_160125_Washington_state_decides_on_stronger_toxics_law.html


 ワシントン州の NGO による新たな研究によれば、炎の燃え広がりを遅くするために家具、建築断熱材、カーシートのような赤ちゃん用品に添加されている新世代の化学物質は、以前に考えられていたより高いレベルで空気中に放出されている。

 この発見が、ワシントン州議員の難燃剤禁止支持という決定をもたらしている。同州は、PBDEs (ポリ臭化ジフェニルエーテル)と呼ばれる前世代の難燃剤を最初にを禁止した州のひとつである。

 その新たな研究は、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDEs)の代替として使用されている塩素化有機リン酸エステル難燃剤(Cchlorinated organophosphate flame retardants)は製品から空気中に放出され、屋内空気中に遍在し、吸入は人間の主要な暴露経路であることを示唆している。

 この研究で発見された(ClOPFRs)と呼ばれる化合物は、がんや生殖障害と関連があり、あるものは発達に重要なホルモンを変更することがあり得る。

 ”我々は、総合計暴露は何かということについて過小評価してきた”と、ワシントン有害物質連合(Washington Toxics Coalition)の科学者であり、科学誌『Chemosphere』に今月発表されたこの研究の主著者エリック・シュレーダーは述べた。

研究者らは、ワシントン州の10人に、職場、通勤、及び自宅での呼吸を模擬するために終日、空気採取器を着用してもらった。彼らは、新世代塩素化難燃剤一式についてテストした結果、10人全員がそれらの難燃剤をある量、吸入していることを発見した。

 最も使われている化合物のひとつへの暴露は、ダストを通じての化学物質の経口摂取より最大30倍大きかった。この特徴は重要である。禁止されている PBDEs の主要な暴露経路は、経口によって主に生じるダスト暴露であると以前は考えられていた。

 ”PBDEs に関しては吸入は重要であるとは考えられていなかった”と、インディアナ大学ブルーミントン校で有害汚染物質について研究している環境化学者アミナ・サラモバは述べた。 PBDEs の吸入は暴露の10から20%を占めると彼女は付け加えた。”代替に関しては、我々は全く異なる状況を見ている”。

 塩素化難燃剤は、ほとんどポリウレタンフォーム中で、またしばしばビルディングの断熱材、家具のような日用品、子どものカーシート及びベビーカー等で、難燃剤 PBDEs の代替物質として使用されている。一方、難燃剤 PBDEs は、科学者らが人間や野生生物の体内に蓄積していると報告するまで、そして様々な禁止が行われるまで、広く使用されていた。

 化学会社を代表する米国化学工業協会(ACC)は、長らく難燃化学物質は火災を防止し、人々を守るために必要であると主張してきた。最近のこの研究に対して、同工業会製品コミュニケーションのディレクターであるブライアン・グッドマンはメールで、経口摂取及び吸入による暴露は、”推測されていたことであり、規制当局は化学物質のリスクを評価する時に、一般的にこのことを考慮に入れている”と述べた。

 しかし、最近のこの研究には関与していないサラモバは、シュレーダーの研究によって提起された吸入の懸念は、実際に微粒子のレベルが非常に高かったので、特に不安を抱かせる新しいことであると述べた。

”これらは実際に、全て気道に達し、肺細胞に移行する”と彼女は述べた(訳注1)。

 塩素化難燃剤は数十年間、方々に存在しており、サラモバが言うには、科学者らは最初はそれらは有害ではなく、人や野生生物に蓄積することはないと考えられていたことを最近、理解し始めた。しかし、代替難燃剤は PBDEs と同じ暴露経路をたどるという証拠がある。塩素系難燃剤は家庭内のダスト子ども用品飲料水、そして母親と赤ちゃんの両方に発見されている。

 ふたつの塩素化難燃剤がカリフォルニア州により発がん性物質として警告されており、動物実験はそれらが脳の発達をも妨げるかもしれないことを示唆している。

 ワシントン州の議員らは、5種類の難燃剤を家具及び子ども用品で使用することを禁止する法案を州下院と上院に導入したが、それはまた、新たな代替物が安全であることを確かめるためのシステムも立ち上げるであろう。その法案は最近のこの研究で空気中で発見された難燃剤を含んでいる。(訳注2

 ワシントン州下院は聴聞会を今週水曜日(2016年1月27日)に開催する。

 主著者であるシュレーダーは、この研究は、”暴露に関して最終的な答を我々に与えていない。しかし、それは、人々の暴露範囲についてのよい指標を与えている”と述べた。


訳注:オリジナル論文の Abstract の紹介
吸入は塩素化有機リン酸エステル難燃剤の重要な暴露経路 [アブストラクト]

Inhalation a significant exposure route for chlorinated organophosphate flame retardants
Erika D. Schredera, Nancy Udinga, Mark J. La Guardiab
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S004565351530415X

 塩素化有機リン酸エステル難燃剤(Chlorinated organophosphate flame retardants (ClOPFRs) )は、家具、子ども用品、建材、及び布製品を含む消費者製品中の添加難燃剤として広く使用されている。家庭、事務所、その他の環境中の屋内媒体のテストが、これらの化合物が製品から放出され、いたる所に存在する屋内汚染物質となっていることを示している。
米国ワシントン州からの屋内ダスト試料の中で、ClOPFRs は最も高い濃度で採取された難燃剤である。二種類の ClOPFRs、リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル) (TDCPP 又は TDCIPP)及びリン酸トリス(2-クロロエチル) (TCEP)は発がん性物質として指定されており、また同族体であるリン酸トリス(1-クロロ-2-プロピル) (TCPP or TCIPP) の毒性について懸念が高まっている。 これらの化合物への暴露についての懸念に対応して、欧州連合と米国の多くの州はある製品カテゴリー中でのこれらの使用を制限する規制的措置をとっている。
ClOPFRs への暴露をよりよく特性化するために、ワシントン州で個人用空気サンプル捕集器を用いて粒子の肺深部への貫通の可能性を評価するために採取された吸入性及び吸引性粒子画分(respirable and inhalable particulate fractions )によって吸入暴露の評価が行われた。
吸入性及び吸入可能な ClOPFRs の総合計 (任lOPFRs)は、 97.1〜1190 ng/m3 (平均 426 ng/m3)の範囲にあり、TCPP は最も高い濃度で検出された。一般的により高い濃度レベルが吸引性粒子画分で検出された。吸入暴露経路(inhalation exposure )を通じてのClOPFRs 摂取の総合計は、ダストの経口摂取(dust ingestion)を超えていると推定され、吸入はこれらの化合物の評価において考慮されるべき重要な経路であることが示された。
キーワド
Chlorinated organophosphate flame retardants (ClOPFRs); Inhalation exposure; Indoor air


訳注1:粉塵の分類(参考情報)
粉じんの吸入ばく露による健康障害を評価する/独立行政法人労働安全衛生総合研究所
 国際基準であるISO 7708で粉じんは、吸入した場合の呼吸器への到達の程度に応じて ・「吸引性粉じん(Inhalable convention)」:大気中から鼻又は口を通って体に取り込まれる粒
・「咽頭通過性粉じん(Thoracic convention)」:、吸引性粉じんの中で咽頭を通過して肺に向かう粒子
・「吸入性粉じん(Respirable convention)」:肺胞まで到達する粒子
の3種類に分けられている。

訳注2:TSCA 改正法案の専占条項
The Intersept 2016年1月12日 有害な”改正”法は、有害物質に関する米国の規則の要所を抜き取る

 ”・・・上院の TSCA 法案は特定の化学物質に関する既存の州制限はそのまま残るが、その法案中の専占条項は州が今後規制を進めることを止めることになり、すでにその下でなされている取り組みの成果を消し去ることになるであろう。家具や子ども用製品中で使用される難燃化学物質のグループを禁止するというワシントン州で審議中の法案を例にとろう。そこでは運動家らが長年、内分泌かく乱物質でありヒト発がん性があるらしいこれらの物質を禁止するために活動してきた。

 ”我々は非常に近いところにいるが、多分まだ十分ではない”とワシントン有害物質連合の上席キャンペーン・ディレクターであるランディ・アブラム=カラスは述べた。ワシントン州の下院は 95 対 3 で禁止を可決し、州上院は同様の法案を準備中であるが、 TSCA 改正はそれらを全てを無効にすることができる。もし EPA がこれらの難燃剤を、まだ起草に着手していない優先リストに加えれば、そのことは EPA がすでにそれらの化学物質のあるものに注目していたのだから十分にその可能性があることであるが、上院の法案はそれらの化学物質を制限する新たな州の取り組みを専占(preemption)することになるであろう。”我々の州は、我々が実施してきたどのような活動をも止めなくてはならなくなるであろう”と、アブラム=カラスは述べた。



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