EHP Science Selection 2015年2月 代替難燃剤をたどる: 成人における手から口への暴露 情報源:Environmental Health Perspectives, Science Selection, February 2015 DOI:10.1289/ehp.123-A44 Tracking Alternative Flame Retardants: Hand-to-Mouth Exposures in Adults By Kellyn S. Betts http://ehp.niehs.nih.gov/123-A44/ 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2015年2月8日 このページへのリンク http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/ 15_02_ehp_Alternative_Flame_Retardants.html ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)難燃剤のポリウレタンフォーム詰め物での使用が中止されて以来、リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)(TDCIPP)及びリン酸トリフェニル(TPHP)などの代替難燃剤が現在、家具、自動車、カーペットパッド、赤ちゃん用品などの消費者製品中で使用されている(参照 1, 2, 3, 4)。これらの代替化合物はPBDEs のように、家庭、事務所、車の内部で得られたダスト試料で広く見いだされる(参照 2, 3, 4)。今月号のEHPで新たな研究が、それらもまた人々が暴露する経路が PBDEs と同様であるかどうかを検証している(参照 5)。 TDCIPP と TPHP は有機リン系難燃剤(PFRs)の一族である。TDCIPP は、カリフォルニア州のプロポジション65(参照 6)(訳注1)の下にヒト発がん性物質としてリストされており、またある小さなヒト研究が、TDCIPP 及び TPHP への暴露があるホルモンのレベルの変更と精子密度の低下に関連するという証拠を発見した(参照 2)。生体外(in vitro)及び動物データが TDCIPP を神経毒性に、TDCIPP と TPHP の両方を内分泌かく乱性と関連付けている(参照 7, 8, 9, 10, 11)。 この新たな研究は家庭内での暴露に焦点を当てている。この研究は、手ふき(hand-wipe)と尿のサンプルを提供した 53 人の男女を対象としている。これらのボランティアの大部分(92%)はまた、彼等の家から採取したのダスト・サンプルを提供した。これらふたつの有機リン系難燃剤(PFRs)は全てのダスト・サンプル中に見出されたが、そのレベルは広く変動していた。TDCIPP 濃度の最低と最高には200倍の差があり、TPHP 濃度の最低と最高の差は400倍であった(参照 5)。 これらの有機リン系難燃剤(PFRs)の代謝物がほとんどの尿サンプルから検出された。TPHP (DPHP) の主要代謝物はサンプルの91%に、 TDCIPP (BDCIPP) の主要代謝物はサンプルの83%に見い出された(参照 5)。 女性は尿中に男性の 2 倍近くのレベルのDPHPを持っていた(参照 5)。”これは非常に珍しい発見である。我々は難燃剤について以前にはこのようなことは見たことがなく、このことは身体手入れ用品を通じて暴露しているらしいことを示唆している”と、デューク大学の環境倫理学・持続可能な環境学の the Dan and Bunny Gabel Associate Professor であり、責任著者であるヒーサー・スタプレトンは述べている。彼女と筆頭著者である環境ニコラス校の研究科学者ケイト・ホフマンは、TPHP への可能性ある暴露経路として、マニキュア液を現在調査中のグループの一員である。著者らはまた、性差による代謝の違いもこの発見をある程度説明できるかもしれないと指摘した。(参照 5)。 家庭内ダスト中の有機リン系難燃剤(PFRs)濃度が高い人々は尿中のPFRs 濃度が高い傾向があるが、その対応は一貫していない。対照的に、この研究への参加者の手の測定による PFRs のレベルは、彼らの尿中のレベルともっと密接に関連していた。この研究は、手から口への接触又は皮膚吸収がこれらの化合物への重要な経路かもしれないことを示唆している(参照 5)。 ”暴露の幅に桁違いの差があるときには、分布の中に、そして人々の異なる集団の中に非常に異なる反応があることが推測されるかもしれない”と、ミシガン大学公衆健康校の環境健康学部準教授ジョン・ミーカーは述べている。”この広範な暴露は、人々がどのように暴露しているのかについての研究はもちろん、さらなる毒性学及びヒト研究の必要性を強調している”。 研究者らはまた、尿中の代謝物濃度がその後5日間にどのように変化したかを評価した。11人の参加者が連続5日間、尿サンプルを提供した。尿中に急速に排出される代謝物の濃度は各参加者についてその期間、一貫して保たれたが、このことは進行中の暴露を示している(参照 5)。 この研究の限界には、対のダスト、手ふき、及び尿サンプルは一回だけ収集されており、ある時点の暴露だけを提供しているということがある。著者らは、TDCIPP と TPHP は家庭内の空気中で以前に検出されており、吸入曝露が将来の評価で検討すべき重要な経路かもしれないと指摘しているが(参照 4, 12)、こ研究では家庭内空気のサンプルを含んでいない。しかし、この新たな研究は、手ふきが空気とダスト中の汚染物質の測定を補足する貴重な情報を提供することができるということを増大している証拠に付け加えるものであるとスタプレトンは述べている。それはまた、尿サンプルが、特に TDCIPP について暴露の生物指標としての可能性を持つことを実証したと、ホフマンは述べている。 以前の PBDEs 及び他の難燃剤研究が、手ふきサンプルを測定することにより、よく手洗いをすることと低曝露の可能性との関係を報告している(参照 13, 14)。本研究では、このことは TDCIPP については事実であり、また研究者らはよく手洗いすることと尿中の TDCIPP と TPHP の代謝物のレベルが低いこととの関連性を見つけた(参照 5)。ホフマンによれば、このことはよく手洗いすることは暴露を低減するためによい方法かもしれないということを示唆している。 参照
訳注1:プロポジション 65 正式名称:Proposition 65 Safe Drinking Water and Toxic Enforcement Act of 1986 http://www.oehha.ca.gov/prop65.html 目的は、がん、先天性障害又は生殖障害を引き起こすと知られている化学物質からカリフォルニア州の市民と州の飲料水源を保護すること、及び市民にそのような化学物質の曝露について知らせることである。 プロポジション 65 は州政府が少なくとも毎年、発がん性又は生殖毒性が知られている化学物質のリストを公表することを求めている。(list of chemicals known to the state to cause cancer or reproductive toxicity) http://www.oehha.ca.gov/prop65/prop65_list/Newlist.html Frequently Asked Questions about Proposition 65: http://www.oehha.ca.gov/prop65/p65faq.html プロポジション65 物質リスト(2012年11月) |