ボストン大学メディカルセンター 2016年7月26日
体操選手は有害な難燃化学物質に曝露している
リサ・シェデル

情報源: Boston University Medical Center, 26 July 2016
Gymnasts Exposed to Toxic Flame-Retardant Chemicals
by Lisa Chedekel
https://www.bu.edu/sph/2016/07/26/study-finds-
gymnasts-exposed-to-toxic-flame-retardant-chemicals/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年8月26日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/news/
160726_BU_Gymnasts_Exposed_to_Toxic_Flame-Retardants.html


 夏のオリンピックが開幕するが、オンラインジャーナル『Environment International』に発表されたボストン大学公衆健康部門の研究者を共著者とする新たな研究が、人気のある体操練習器具が、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、がん、脳発達遅延などのリスク増大に関連している難燃化学物質の混合物を含んでいると報告している。

 同研究は体操選手の尿中にこれらの化学物質が高いレベルで存在することを発見し、体操練習用器具、特にフォームピット中のピットキューブが有害難燃剤への暴露源であることを示している。

   ”我々の以前の研究と合わせると、これらの発見は、体育器具は異なる難燃剤の混合物を高いレベルで含み、これらの化学物質は体操選手の体に入り込んでいることを示している”と、ボストン大学公衆健康校(SPH)の博士号取得候補者として研究の大半を実施した主著者のコートニー ・カリグナンは述べた。”これは、ジムで多くの時間を過ごす優秀な選手とコーチにとって特に懸念である”。

 化学的難燃剤は、布/皮張り家具のフォーム(クッション材)の中での使用がよく知られている。それらは、フォームからダスト、人間へと移行し、手に付着したダストが誤って摂取、吸入され、又は皮膚を通じて吸収され、体内に入り込む。それらは人の健康に有害であることが広く知られており、以前の科学研究が暴露の数多くの有害影響、特に赤ちゃんのぜい弱な発達中の脳への影響を報告している。さらに、研究者らは、家具中のこれらの難燃剤は有意な火災安全の便益ををもたらさないことを見出している。

 以前の研究は、ジムの空気中及びダスト中に高いレベルでそのような難燃剤を見出したが、アメリカの11のジムでフォームピットを分析した新たな研究は、採取されたピットキューブの89%が難燃剤を含んでいることを発見した。フォームピットは、新たな技術を安全に教えるために、日常的に使用されている。

 さらに、その研究は、11人の大学体操選手からなるチーム各員の暴露は、彼らの体操訓練環境中の難燃剤に関連しており、練習前より練習後に尿中にこれらの化学物質が高いレベルで存在していたことを発見した。尿サンプル中の化学物質のマーカーは、ジムの自由フォームピットのフォームキューブ中で見出された難燃剤と同じものであった。

 検出された最も一般的な難燃剤は、発達をかく乱することが疑われる TPHP (リン酸トリフェニル)であった。 練習後に採取された体操選手の尿中の TPHP の尿代謝物質の平均レベルは練習前と比較すると 50%増加していた。

 げっ歯類の研究では、TPHP への胎内暴露は子孫の骨の細胞発達を阻害することが見いだされている。

 二番目に一般的な化学物質はペンタ BDE であり、その毒性と環境的残留性のためにアメリカでは 2005年の初めに廃止され、世界的には禁止された。地域住民をベースにした研究では、血中のペンタ BDE のレベルが高い女性は妊娠するのに長い期間がかかり、彼女らの子どもたちは ADHD のような発達行動障害をより多く持っているようであった。

 三番目に一般的な難燃剤は TDCIPP (リン酸トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル) )であり、これは1977年に赤ちゃんのパジャマから削除された発がん性化学物質であり、現在カリフォルニア州のプロポジション 65 の下に発がん性物質としてリストされている。

 この研究は、2005年以降に購入したピットキューブはファイアーマスターR 550 (TPHP、EH-TBB、及び TBPH を含む化学混合物)を含んでいることが多く、一方2005年より前に購入したものはペンタ BDE を含んでいることが多かった。

 ジムの管理者らは、彼らは地域の消防保安官から難燃剤を含む器具を購入するよう求められていると報告した。

 現在はハーバードT.H.チャン公衆衛生大学院の環境健康部門の博士研究員であるカリグナンは、報告されている研究中の大学体操選手は、少なくとも 12年間体操を行っており、そして現在は週に少なくとも 19時間練習していると言及した。オリンピックに出るようなエリート選手はしばしば、週に平均 30時間、練習する。

 ”元体操選手として、私は体操には多くの便益があることを知っており、我々の発見に基づいてこのスポーツを誰も止めるべきではないと思う”とカリグナンは述べた。”しかし、我々の発見が暴露を低減するための予防措置をとるよう選手やコーチに警告を与え、彼らのジムが将来は難燃剤を含まない器具を購入するよう促すことを希望する”。

 短期的には、体操選手が暴露を減らすことができるひとつの方法は、練習後、消毒液よりむしろ、石けんと水で手を洗うことにより暴露を低減できるということであると、カリグナンは言う。

 過去数十年間、多くのジムが消防保安官から難燃剤を含む器具を購入するよう求められてきた。しかしこの要求は、これらの化学物質への長期的な暴露からの潜在的な健康リスクを考慮しなかったと、研究者らは述べた。

 カリグナンは、ジムにとって有用な情報を提供するであろうピットキューブと火災安全のさらなる研究を行うよう準備中であると言う。

 この研究の共著者は次の研究者を含む:環境健康学教授トーマス・ウェブスター;マイケル・マックリーン及びウェンディ・ハイガー=バーネイズ環境健康学准教授;デューク大学環境ニコラス校ヒーサー・スタンプルトン;デューク大学及びシンガポール ナンヤン工科大学ミングリアン・ファン。

 体操器具中の難燃剤の研究に関する更なる情報は、http://www.gymnastcollaborative.org/ で入手できる。



化学物質問題市民研究会
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