食事管理と環境化学物質への曝露の除去による
自閉症特性の減少 カレン・M・スリマク 情報源:Reduction of autistic traits following dietary intervention and elimination of exposure to environmental substances Karen M. Slimak, M.S., Principal Investigator President, Applied Science and Technology International, Inc. (ASTi) 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2004年3月13日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/asti/autistic_traits.html 2003年1月8日〜11日に東京で開催された 「International Symposium on Indoor Air Quality and Health Hazards」 (化学物質による室内空気汚染と健康影響に関する国際会議・主催:日本建築学会、 米国国立環境科学研究所)で、Karen M. Slimakさんが発表した研究内容を紹介します。 食事の管理と環境化学物質への曝露を除去することによって、自閉症の症状が消えた という注目される研究内容です。 キーワード 自閉症、環境、症状、食物、曝露、妄想、行動、クリーンルーム、匂いかぎ、呼吸、体液、かび、揮発性有機化合物 要約 環境への暴露の影響から隔離して49人の自閉症児について調査研究を行った。 食物に関連する反応を完全に排除したので、食物に関連する症状がない状態で環境化学物質の影響のみを詳細に調査研究することができた。 最初に社会的影響をなくしたことにより、自閉症患者は彼等自身の環境による影響にしたがって行動し、自己表現したので、問題ある結果が強く浮き彫りにされ、観察と調査が容易となった。環境曝露レベルと自閉症状および行動との間には強い相関性が認められた(P < .000)。 調査対象の自閉症児には本質的な欠陥は見出されなかった。プログラム(完全食事管理とクリーンルーム)を実施した自閉症児は、感受性、周囲や他人についての認識、感情と感情移入、学習能力などの点匂いて正常で自然な状態に戻った。 今回の研究の結果、揮発性有機化合物への慢性的な曝露によって引き起こされる環境要因により、子どもたちには厳しい長期にわたる広範な自閉症状が現れるが、環境を改善すればこれらの自閉症状は完全に正常に戻るであろうことがわかった。 はじめに 今回の研究計画の原型は20年以上前にASTi社が社内研究として実施した食事管理試験である。当時の研究では、意外にも、強い自閉症状が観察され、それらは食物にではなく環境曝露にしばしば関係していた。 この初期研究は、環境曝露に起因する非食物症状の研究へと拡張された。さらに食事管理による方法を開発することを目的として社内研究が着手された。この方法によれば食物に関連する症状を完全に除去することができるので、食物以外の環境要因に関連する症状を切り離し、それを長期間にわたって観察することができる。 熱帯地方の珍しい根菜作物やその他の変わった食物を効果的なローテーションでとる食事管理法が開発された。この食事管理法により、最適な栄養を補給しながら、食物に関連する患者の症状を速やかに除去できることがわかった。この食事管理法は約1,000人の患者に対し、長期間(1人当り3〜12ヶ月)にわたり、環境曝露を順次取り除くことによる症状の変化を研究する上で有効であった。 ここに報告する研究では、全ての患者について食事に起因する症状は一貫して完全に除去された結果を得ることができた。(スリマク 2001, 2002) 方法 重度の自閉症と診断されたものから PDD まで、2歳から17歳までの子どもたち49人を3〜12ヶ月間、個別に研究調査した。 最初に自閉的及び身体的症状が格付けされ(0〜10)、さらにプログラム開始後1週間毎に格付けが見直された。各患者には上述の食事管理が行われた。環境化学物質が自閉症児に及ぼす影響を研究するために3つの環境回避法が採用された。 グループT(14人)では環境回避は行われず、グループU(27人)では適度な環境回避が行われ、グループV(8人)ではクリーンルームを使用した完全な環境回避が行われた。 グループT及びUの患者の両親が環境曝露に関連する症状を観察して報告した後、両親はプログラム期間の3〜52週間、曝露に関連する項目を順次、除去するよう指示された。これにより、環境曝露が順次取り除かれた時に起こる症状の変化を観察することができた。 訓練を受けたボランティア(主に両親と他の家族のメンバー)は家で1週間に20〜60時間、子どもたちをじっくりと観察した。これによりデータ収集期間を延ばし、多くの追加データを自然な情況で得ることができた。各両親とスタッフによる週1回のミーティングで、観察された詳細な点について議論がなされ、症状の評価、家具・備品の環境的評価、及び問題解決手法の評価が行われた。 別途、環境曝露について共通のスタディに基づき、重み付けられた。食物アレルギー及び化学物質過敏症と診断された18人の非自閉症児たちもまたこのプログラムによる研究対象に含まれていた。これらの子どもたちはグループTに4人、グループUに10人、グループVに4人であった。 結果 グループTとUでは食物に関連する症状を非食物、環境曝露症状から切り離すことが可能であった。(表-1参照)
グループT及びUでは、環境曝露に関連するアイテムを順次、除去する間に、予測しなかった行動が自閉症児に見られた。
感覚感受性に関連する症状がゼロになっている7つの点は妄想対象の除去あるいは明らかな曝露原因の除去に伴うものである。 14週から40週の間にある症状の増加を示す7つのピークは子どもが新しい対象を選んで妄想に取り付かれ始めた直後である。この症状の変動パターンは、筋肉低機能及び low Muscle tone の場合を除く全ての症状に関しグループTとUとに一貫して観察された。 症状の変動と妄想行動をさらに研究するために、グループTとUの子どもたちの両親に次のような指示をした。
子どもたちはいつもと同じように対象物に反応し始め、すぐに非常に困惑した顔で反応を止める。彼等は対象物を手にとって調べ、匂いをかぎ、もう一度よく眺め、また匂いをかぎ、そして手から離す。この行為は子どもたちが対象への興味を失うまで、回数は減りながらも繰り返される。この行為は1日から10週間の間に自然に消える。 表-2は妄想/強迫観念行動の一部である。環境曝露がない場合には、対象に対する妄想的行動は続かなかった。 これらの観察の結論として、化学物質曝露に関連する影響は当初考えられていたよりはるかに大きいということがわかった。この研究はクリーンルームの子どもたちのグループ(グループV)に拡張された。
図-2はこのプログラムによる患者達の全体的な症状の軽減化の様子を示す。 グループTとUでは上述した強い意志に基づく捜索行動が処理を複雑にし、どのような症状も存在しなくなるようなクリーンな環境にするために時間がかかった。 グループVはクリーンルームのお陰で処理は早いが、それでも症状を急速に、期待した"ゼロ"にまで下げることはできなかった。 図-3(この図なし)に示す通り、捜索行動はクリーンルームでも続けられ、何もないと最終的には呼吸と体液をしばしば使用しようとすることが分かった。これにより、患者は予想していたより数週間長く、曝露とその反応が続いた。 数日後、クリーンルームで子どもたちの嗅覚が特に鋭くなったように見えた。彼等は空気をクンクンかぎまわり、シールが不完全なクリーンルームの壁の小さな穴のような微小な部分を匂いの源として探し求めた。 子どもたちは、クリーンルーム中で恐らくppmレベルよりも100〜1000倍くらい薄められた極微な匂い(micro-plumes)に強くひきつけられたかのように振舞い、これらの極微な匂いをより凝縮した源として追い求めた。子どもたちは極微の匂いが最も凝縮している点源に戻り、毎日数回、簡単に匂いをかぐ様子が観察された。症状レベルは図-3に示すとおり、壁のシールがふさがれるまで上昇し、その後、症状レベルは再び急速に下降した。 点源からの極微な匂い(micro-plumes)が除去されると、新しい問題が観察された。衣類をしゃぶり、ベッドでテントを作るなどし、どんよりした目つきとなり、行動はとぎれた。そしてまた、症状レベルは上昇した。このことは、患者が介護者に対し、必要とする ppt あるいは ppq レベルに合致する衣類や用具に切り替えるよう要求していることを意味した。(This was addressed by requiring subjects caregivers to switch to clothing and materials whose pristine nature matched the ppt and ppq levels needed.) これらのことの多くを、我々のプログラムで開発しなくてはならなかった。元の備品に替えることは、図-3の4-10週の間に生じる捜索行為に関わる症状の急上昇を除去するために必要な最終的に必要であった。 クリーンルームがシールされ、部屋の中の備品が完全に元に戻されると、クリーンルーム内の自閉症児は狂乱した。子どもたちは急に対象物(現在は元に戻したもの)に無関心になり、今度は自分の体と体液に非常に興味を持つ。体の部分や体液にとりつかれる自閉症児もいるが、この行動は研究の前には患者者たちにはみられなかった。数週間の間、クリーンルーム内の自閉症児たちは一貫して、意図的に彼等の呼吸と体液を操作するのが観察された。 研究中の子どもたちは部屋の外への道を見つけようと試みることはなかったが、子どもたちはやけになって部屋の中を再度、汚染環境にしようと試みるのが観察された。もとのクリーンルームでは自閉症児は日常的に次のようなことが観察されていた。
図-4は、非食物症状レベルと環境曝露レベルを比較したもので、偶然だけでは説明のできない、強い予想可能な相関性を示す。
回帰モデルの変動分析によれば、曝露レベルは研究対象者の症状を予測する上で有意((P < .0000)であった。 したがって症状に対する曝露レベルの関連性は偶然だけではないということは疑いない。これらのデータは説得力があり、予想可能なパターンである。 回帰曲線がx軸と交わる(B、C)、あるいは原点を通る(A)ので、非食物症状レベルは、残りの環境暴露を除去することによって完全に除去できることを示している。線形回帰 A,B,C の勾配は本質的には同じなので、特に初期に環境の浄化の程度を示す時に、このことは必要であると考えられるが、包括的な初期症状の格付けは予想できる値である。 特にグループVの子どもたち(年長で重度の自閉症状のグループ)がゼロ症状レベルを達成した後は、下記の相違が観察された。 a) 身体及び行動に関する回復 b) 感情的成熟と教育年齢 患者たちは、健康な状態で、年齢にみあった身体的スキル、能力、感受性をすぐに達成する傾向があったが、学習した行動に関しては、あたかも自閉症で失った年月などなかったかのように振舞う傾向があった。患者たちは素早く、懸命に、そして明らかに容易に、自閉症になった時点から再び学習し始めることができた。 結論
著者はこの研究において果たした両親の役割について高く評価するものである。両親は困難な中で、与えられた詳細な指示を実施し、訓練を受けて非常に重要な自主的観察者となり、膨大な時間にわたる注意深い観察を行ってくれたからこそ、この研究が可能となった。 著者はグレッグ・ズワタ氏の助力に感謝する。氏には曝露の評価をしていただいた。 この研究の資金は環境コンサルティング及び研究組織であるアプライド・サイエンス・アンド・テクノロジ−・インターナショナル社によって提供された。 参照 Compounds on Severe Autistic Behaviors in Children. Conference on Science For the Public Good, Association for Science in the Public Interest, Virginia Commonwealth University, Richmond, Virginia. Slimak, K. M. (2002) In 45 autistic children sharp decreases in autistic symptoms follow elimination of problem foods, volatile organic compounds, plastics, resins, and molds, Second International Conference On Advances In Treatment Of Autistic Spectrum Disorders, Opening Doors - New Biological Treatment Alternatives, Sociedad Venezolana para Nifios y Adultos Autistas (SOVENIA), Colegio de Medicos del Distrito Metropolitano de Caracas, Caracas, Venezuela. |