Environment International 2020年7月3日
意図的な人間への投与研究の欠陥ある分析と
クロルピリホスのリスク評価への影響

リアン・シェパード他
情報源:Environment International Volume 143, October 2020
Available online 3 July2020
Flawed analysis of an intentional human dosing study and its impact
on chlorpyrifos risk assessments

Lianne Sheppard, Seth McGrew, Richard A. Fenske
Department of Environmental and Occupational Health Sciences,
School of Public Health, University of Washington, Seattle, WA 98195, USA

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160412020318602#!

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2020年7月9日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ScienceDirect/
Env_Int_200703_Flawed_analysis_of_an_intentional_human_dosing_study.html

ハイライト
  • クロルピリホスは、現在使用されている中で最も物議を醸している農薬のひとつである。
  • 初期のEPAリスク評価では、0.03 mg/kg-dayという人間の経口投与試験の無毒性量(NOAEL)を使用した。
  • 研究調査員らは、分析から有効なデータを省略した。 正しい NOAELは 0.014 mg/kg-dayである。
  • 再分析により、累積投与の NOAEL は 0.014 mg/kg-day 未満であることがわかった。
  • EPA登録による使用は、子どもたちを危険なレベルでクロルピリホスに曝露させる可能性がある。

アブストラクト
 1972年3月、フレデリック・コールストン(Frederick Coulston)とアルバニー医科大学の同僚らは、クロルピリホスの意図的な投与試験の結果を試験のスポンサーであるダウケミカル社に報告した。
 彼らの報告は、0.03 mg/kg-day が、ヒトのクロルピリホスの慢性的な無毒性量(NOAEL)であると結論付けた。
  ここでは、元の統計的手法による適切な分析を行なえば、NOAEL はもっと低くなるはずであり(0.014 mg/kg-day)、1982年に最初に利用可能となった統計的手法の使用により、試験の最低用量でさえ、有意な処置効果(treatment effect)であることを実証した。
 ダウに雇われた統計学者らにより実施された元の分析は、正式な査読が行われていなかった。
 それにもかかわらず、EPAはコールストンの研究を信頼できる研究として引用し、その報告されたNOAELを1980年代と1990年代のほとんどを通じてリスク評価の出発点とした。
 その期間中、EPAはクロルピリホスを多数の住宅用途に登録することを許可したが、後に子どもや幼児への潜在的な健康への影響を軽減するために、住宅での使用の登録はキャンセルされた。
 この研究の評価に適切な分析が採用されていた場合、登録されているクロルピリホスの使用の多くは、EPAによって承認されなかった可能性が高い。
 この研究は、適切に査読されていない研究結果に農薬規制当局が依存すると、不必要に大衆を危険にさらす可能性があることを示している。


訳注:EU、アメリカ、日本の現状の概要
  • EU では、2019年12月6日に農薬クロロピリホスとクロルピリホスメチルを EU 市場で禁止することを採択し、2020年1月31日が失効期限であった両殺虫剤を再認可しないことを決定した。
  • アメリカでは州レベルではカリフォルニア州、ハワイ州、ニューヨーク州で禁止した。連邦レベルでは、EPA が住宅用途でのクロルピリホスを禁止してから20年ほど経過したが、農薬用途としては、オバマ前大統領時代に使用禁止を提案したものの、2017年にトランプ大統領が就任すると、EPA は一転、使用禁止を見送った。
  • 日本では、シックハウス症候群への対策として、居室を有する建築物へのクロルピリホスを含んだ建材の使用は建築基準法の改正により2003年から禁じられたが、農薬としての使用は、その後も容認されたままである。
訳注:関連情報
訳注:クロルピリホス及びクロルピリホスメチルの日本における規制状況(19/12/17)
 建材中での使用は禁止されているが、作物用の農薬としては登録されている。
  • シックハウス症候群への対策として、居室を有する建築物へのクロルピリホスを含んだ建材の使用が、建築基準法の改正により2003年(平成15年)から禁じられた。

  • 農薬登録情報提供システム(農林水産消費安全技術センター)で[クロルピリホス]検索すると、クロルピリホス乳剤(3種)、クロルピリホス粒剤 (3種)、及びクロルピリホス水和剤 (1種)が登録されている。また農薬の種類毎に適用表が用意されており、作物名、適用病害虫名、希釈倍数、使用液量、使用時期、使用回数、使用方法、クロルピリホスを含む農薬の総使用回数などが記されている。

  • クロルピリホスメチルについては、上記検索システムでは見つけることができなかったが、下記の農林水産消費安全技術センターのウェブページに1975年に初めて農薬登録され、ヨトウムシ、アブラムシ類等の害虫に効果があり、現在、1社から販売されているとし、その毒性、残留、及び規制についての詳細が示されている。
     クロルピリホスメチル(Chlorpyrifos-methyl)


化学物質問題市民研究会
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