グランジャン博士の
化学的脳汚染ニュース 2018年11月16日
クロルピリホスが脳を汚染する

情報源:Chemical Brain Drain - News, 16 November 2018
Chlorpyrifos drains brains
By Philippe Grandjean, MD
http://braindrain.dk/2018/11/chlorpyrifos-drains-brains/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2019年7月30日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/CBD/Chlorpyrifos_drains_brains.html

【2018年11月16日】 EU とアメリカで最も一般的に使用されている殺虫剤は、現在では欠陥があることがわかっている毒性テスト(訳注1)に基づいて認可されている。クロルピリホスは、トウモロコシ、大豆、小麦、アルファルファ、果実を含む、広範な作物の害虫に対して使用される。そのような殺虫剤を使用していない国でも、残留農薬がブドウのような従来の果実で検出され、また代謝物が子どもたちの尿中に見いだされる。

 この有機リン物質は、ダーズバン(Dursban)あるいはロースバン(Lorsban)という名前で製造者ダウケミカルにより提出されたテストデータに基づき農薬として認可された。この種の農薬はコリンエステラーゼ(Cholinesterase)と呼ばれる重要な脳酵素を阻害することができるので、げっ歯類及びその子孫を用いた神経毒性テストが規制当局によりしばしば求められる。

 ダウケミカルが契約した試験所からの要旨は、投与量が母ラットに毒性を引き起こすのに十分なほど高くなければ、仔ラットの脳発達に有害影響は全く見られないということを示した。ダウケミカルはこの解釈に同意し、同農薬の認可のためにその結論を提出した。その要旨以上の詳細は公開されなかった。しかしスウェーデンンの科学者らは、情報公開法に基づき、同試験所の結果を入手し、その結論は実際の結果に合致していないことを見つけた。

 第一に、標準プロトコールはラットの仔の脳が出生時の人間の脳と同様な段階に発達するまで暴露を継続することを求めているのに、ラットの仔らは出生時に暴露を本質的に止められ、本来なされるべき暴露が行われていなかった。また小脳の成長は異常であったが、この所見は個別の測定ではなく、全体の寸法に依存することにより隠された。そして同試験所はより詳しい情報は訳注1の記事のプロトコールに反して、統計的優位水準として 5%ではなく2%を採用した。最後に、行動テストで同農薬はコントロールのラットとどのような差異をも引き起こさないことが見つかった。そのテストは、硝酸塩が使用されていたので、よく知られた脳汚染物質、すなわち鉛を含んでいた。しかし予想に反して、同試験所は鉛が脳の発達に毒性を引き起こさないことを発見し、したがってそのテストjは感度が悪いか不良であるであることを示唆した。(訳注:ここでの記述は少しわかりにくいので、もう少し詳しい情報は(訳注1)の「主要な発見」を参照のこと)

 これらの詳細は、さらなるテストの引き金になり、農薬の化合物としてはもちろん認められなかったが、製造者により提出された要旨の中では明らかにされなかった。クロルピリホスは、アメリカでは前政権により廃止されることになっていたが、これは新たな EPA 指導部により取り消された(訳注2)。最近の展開としては米連邦控訴裁判所は EPA に対して、子どもたちの調査の中で見られる脳の発達へのリスクのために、同農薬を禁止するよう命じた。規制当局(EPA)は、おそらく因果関係が公的に証明されないので、通常、そのような疫学からの発見を無視する。しかし、哺乳類の神経化学(neurochemistry)との類似性、そしてクロルピリホスが昆虫の神経系を標的にしているという事実から、クロルピリホスが人間の神経系の損傷をもたらすかもしれないということは非常に説得力があり、また最近の注意深い研究が胎児と小さな子どもの脳に対する発達毒性を示している。欧州連合では同農薬は、担当加盟国としてスペインの下に現在評価中であり、2019年中に結論が出ることが予想される。

 クロルピリホスは、化学的脳汚染により引き起こされる健康への影響は国民の健康を守ることに責任がある当局により、非常に過小評価され、無視されていることをまたしても示した。


訳注1:関連情報
訳注2:アメリカにおける状況


化学物質問題市民研究会
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