EHN 2018年11月16日
産業側の研究は、
広く使用されている殺虫剤クロルピリホスに関して
偏向があり、結論を誤解させると、科学者らは言う

ブライアン・ビエンコースキー

情報源:Environmental Health News, Nov 16, 2018
Industry studies show evidence of bias and
misleading conclusions on widely used insecticide: Scientists
By Brian Bienkowski
https://www.ehn.org/industry-studies-on-chlorpyrifos-misleading-2619918322.html

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2018年11月30日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_181116_
Industry_studies_show_evidence_of_bias_and_misleading_conclusions_on_widely_used_insecticide.html


 子どもの脳への影響に関連する議論ある殺虫剤クロルピリホスの産業側の結論の裏には合点がいかないことが垣間見える。
 20年前に実施されたダウ・ケミカル社後援の殺虫剤クロルピリホスの動物テストを検証した研究者らは、同社が米・環境保護庁に報告した内容はデータが示した内容に比べて不正確であることを発見した。

 EPA の内部資料によれば、同庁の科学者らもまた同研究の解釈に問題があると感じていたが、同庁はとにかくクロリピリホスの継続使用を承認した。

 ”EPA のスタッフ科学者らやスタッフらは、管理部門に対して問題があると告げていた”と天然資源防衛協議会の上席科学者ジェニファー・サス博士は述べた。彼女は今回の研究には関与していないが、クロルピリホスを含んで有害物質に関連する問題に数十年間取り組んだ。

 ”そして管理部門はそれを無視した”

 これらの 20年前の産業側研究はいまだに、EPA や欧州食品安全機関(EFSA)のような規制当局により、豆類、柑橘類、トウモロコシ、綿花、小麦、大豆に使用される議論あるその殺虫剤の継続使用を承認するにあたり用いられている。

 規制当局による”その報告の過度の信用”は、アメリカとEUの両方の規制当局が禁止措置をとらないという怠慢をもたらしたと、著者らは書いた。

 ジャーナル Environmental Health に本日発表されたその研究 『Safety of Safety Evaluation of Pesticides: developmental neurotoxicity of chlorpyrifos and chlorpyrifos-methyl / Axel Mie, Christina Ruden and Philippe Grandjean農薬の安全性評価の安全性:クロリピリホスとクロルピリホス−メチルという発達神経毒素)』 は時宜を得たものであった。EPA は、食品中のクロルピリホス残留を禁止するという(すなわち農場での使用の実質的な禁止を意味する)裁判所の決定を不服として上訴しており、欧州連合は禁止を検討している。

 オバマ政権下の EPA は、食品中のその化学物質の禁止を提案したが(本来なら 2017年の初めに発効していた)、トランプ大統領政権下の元 EPA 長官スコット・プルーイット はこの決定を覆した。

 しかし、8月に第9巡回区控訴裁判所の3人の裁判官で構成される審査員団は EPA に対してその化学物質を禁止するよう命じた。EPA はこの決定に対して上訴した。

 産業側に資金提供されたその研究以来、多数の研究がクロリピリホスへの暴露による、特に子どもたちへの、有害影響を示している。これらの研究は、胎児期の曝露をその後の低い IQ 及び脳の灰白質の減少に関連付けている。その化学物質は若い神経系への影響の可能性があるので禁止されるべきであると健康研究者らがますます警告するようになった。

 その化学物質は第二次世界大戦中に神経ガスとして開発された。

 ”それは 化学兵器剤から開発されたのだから”その毒性について驚かないとサス博士は述べた。

 その新たな研究は、化学物質に関する産業側と独立系科学との間の厳然たる食い違いを垣間見せた。

 ”もし、この生データの全てが適切に精査されていたなら、これらの発見が異常なのかどうかを調べるために、少なくともさらなるテストが求められていたであろう”と、この研究の上席著者である、研究者でありハーバード大学 T.H. チャン公衆健康校の非常勤教授であるフィリップ・グランジャン は EHN に述べた。”我々の考えでは、彼ら[ダウ]のデータは、クロリピリホスが神経毒素でないことを証明するのに適切ではない”。

不正確な報告

 カロリンスカ研究所(カロリンスカ医科大学)の臨床科学・教育部門の准教授アクセル・ミーによって率いられた研究者らは、産業側のラボでの二つの動物実験のデータを、ひとつは 1998年から、もうひとつは 2015年に、要求した。

 ひとつの実験はラットへのクロリピリホス暴露をテストし、他方はクロルピリホスの分解化学物質であるクロルピリホス−メチルのラットテストである。

主要な発見

  • 当該ラボであるペンシルベニア州のアーガス・リサーチ・ラボラトリーズは、その研究のほとんど全てにわたり、”統計的に有意”な所見を構成するとする要件として、科学の標準である 5%ではなく、2%を カットオフとして使用した。それは、より厳格なデータの解釈であり、暴露からの影響を見つけない可能性を高めるので、このことは重要である。

  • 同ラボが暴露後の脳の寸法を調べた時に、彼らは個々の脳寸法は見ず、全部をひとまとめにして平均値をとった。”我々がラットについて少なくともひとつの寸法を調べた時に、小脳の高さは減少しており、新生ラット仔におけるクロリピリホスへの曝露と関連していた”と、グランジャンは述べた。”彼らがクロリピリホス−メチルを検証したその他のテスト研究では、データの一部がなくなっていたので、我々は同じことがその姉妹化合物(訳注:クロリピリホス−メチル)でも起きるかどうかを調べることはできなかった。そしてそのデータが入手できないことの説明はなかった”。

  • そのラット研究は人間の曝露及びその潜在的な脳への影響をモデル化しなかった。”脳の成長はラットでは主に出生後に急激に起きるが、人間では出生前である”とミーと同僚らは書いた。しかし、産業側研究の新生ラット仔はいったん生まれると、わずかなクロリピリホスがミルクを通じて投与されただけであり、暴露レベルを減少させていた。

  • ”鉛は非常に低用量で発達脳毒性を持つことが確認されているが、その研究のためのテスト装置は、硝酸鉛への高められた発達暴露の神経行動影響を検出することは不可能であった”と著者らは書いた。
 ”我々は、ダウにより EPA 及び EFSA に提供された報告及びサマリーには、いくつかの不正確があると信じる”と、グランジャン教授は述べた。そして、このことは、このテストの全てが実施された20年前にさかのぼる何かがあり、そしてこれが現在のクロルピリホスの承認が依存しているものである”。

”連邦機関は登録者と協議を図ることを止める必要がある”

 グランジャン教授は数百ページのデータがあったと述べた。

  EPA 毒性学者らと農薬登録責任者らとの間の書信の中で、同庁の科学者らがその研究の解釈問題についてよく知っていたということは明らかである。

 ”その研究は、統計的データ分析の不適切な提示のために受け入れられない等級である”と、元 EPA 毒性学支所のスーザン・マクリスは同庁の登録支所への 2000 note の中で書いた。

 EPA 担当官は、同庁は現在、その新たな研究をレビュー中であると述べた。

 ”最終的に起きたことは EPA 管理部門が EPA 自身の科学と技術の専門性を無効にしたことだ”とサス博士は述べた。

 サス博士は、EPA の科学者らは現在、低用量暴露と発達中の子どもたちへの特定の影響に目を向けつつ、”正しい軌道”上にいると付け加えた。

 そして現在、科学に従うかどうかは管理部門と政権担当者次第である。

 ”この研究は、産業がどのようにデータを報告するかに関し、産業側は信用できないことを如実に示しており、連邦機関は登録について産業側と交渉するのをやめる必要がある”とサス博士は述べた。

 EHN はダウ・ケミカル社に接触したので、彼らが応えれば、話の展開を紹介するつもりである。



化学物質問題市民研究会
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