2014年 スウェーデン自然保護協会(SSNC)
報告書:見えないものを管理する
ナノテクノロジーへの機会と挑戦


情報源:The Swedish Society for Nature Conservation (SSNC), 2014
Report: Managing the unseen - opportunities and challenges with nanotechnology
Author: David Azolay, lead author, Center For International Environmental Law (CIEL), Geneva office
Co-author: Baskut Tuncak, Center For International Environmental Law (CIEL), Washington DC office
http://www.naturskyddsforeningen.se/sites/default/files/dokument-media/rapporter/Rapport-Nano.pdf
or
http://ciel.org/Publications/SSNC_Nano_May2014.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年7月13日
最新更新日:2014年9月18日(全訳完了)
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/europe/
SSNC_2014_Report_Managing_the_unseen.html

 内容

まえがき
序説
1. 定義についての疑問
2. 早期の警告と報告された懸念
2.1 毒性
2.1.1 発がん性の証拠
2.1.2 肺への影響の証拠
2.1.3 内分泌影響
2.1.4 生殖毒性
2.1.5 心血管系への影響
2.2 生態毒性と生物濃縮
2.3 規制におけるナノ物質の有害性評価
2.4 倫理的検討
コラム:ナノ材料のテストガイドラインと OECD 工業ナノ材料作業部会
3. 製品と市場
コラム:”鉱山のカナリア”: 作業者とナノ物質
4. ナノ物質の管理のための規制の取組み
コラム:国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)
4.1 ナノテクノロジー・ガバナンスへの世界のアプローチ
4.2 ”南(Global South)”のナノテクノロジーとナノ物質のためのナノガバナンスと規制の枠組み
4.3 EU における規制の状況
4.3.1 ナノ特定条項を含むEUの分野規制
4.3.1.1 化粧品
4.3.1.2 食品に関する消費者への情報
4.3.1.3 殺生物剤
4.3.2 REACH とナノの議論
コラム:REACH
5. 結論と勧告
添付 1 : ナノ応用を示すテーブル
参照


 まえがき
 ナノテクノロジーは、ナノスケール(10億分の1メートルのスケールの物理的粒子径)でのエンジニアリングのための総称である。その目的は、例えば、化学におけるより高い反応、物理学における光学的及び電気的特性、及び、生物学における細胞や器官中のあるバリアを通過する能力など生物系との相互作用などに関して、新たな特性を持った物質を生成することである。それは社会に対して多くの有望な応用を約束する急速に発展する科学の分野であり、例えば、発電と蓄電、自動車の安全性と燃費を潜在的に改善する非常に強くて軽い材料の製造、新しいタイプの薬、拒絶反応を起こさない医療用インプラント、及び医療用画像システムなどにおけるエンジニアリングである。

 しかし、国際的に標準化され調和のとれたナノ物質の定義、ナノ物質検出のための試料調製手法、そして毒性学的及び生態毒性学的リスク評価手法の欠如が、現在、ナノ物質の適切なリスク評価データの生成を著しく阻害している。順法性を監視するためのそのような情報とツールなしには、法令でナノ物質に適切に対応することは不可能である。

 同時に、利用可能なデータは、ナノ物質により引き起こされるリスク(脚注1)は、バルク物質(同一物質であるが、ナノサイズではないもの)によりもたらされるものとは異なるかもしれないことを示唆している。ナノ物質は従来のバルク物質よりその容積当たりの表面積が大きく、そのことがしばしば、化学的及び物理的特性を変え、その結果、異なる有害性(hazards)(脚注2)をもたらす。

 この報告書は、ナノテクノロジーのむずかしさ、リスク及び可能性を論じる。著者は、特に、現在のナノ物質の定義に関する議論、及び現在、世界中の市場に出ているナノ物質を含有する製品の存在に関する知識の欠如に目を向け、国際的、地域的及び国家におけるナノ物質の管理に関するいくつかの規制的取り組みをレビューする。その意図は、ナノ物質の科学及び規制の分野における現在の状況の完全で深いレビューをすることではなく、関心を持つ公衆及び政策策定者にこの話題の概要を提供することにある。この報告書はスウェーデンで刊行され、またスウェーデン自然保護協会(SSNC)の海外のパートナー組織に配布されるであろう。

 スウェーデン自然保護協会(SSNC)が引き出した報告書の結論は次のとおりである。

  • 欧州連合(EU)は、調和のとれたナノ物質の定義を緊急に採用し、それを全ての関連する規則と指令で実施する必要がある。スウェーデンはこの作業における積極的で前向きな役割を果たすべきである。スウェーデン自然保護協会(SSNC)は、スウェーデン化学物質庁(KemI)により提案されているように、REACH をナノ物質に適合させる”ナノパッチ”アプローチを完全に支持する。

  • 他の多くの諸国とは異なり、スウェーデンは現在、ナノ物質の安全に関わる国家戦略が欠如している。このことに対して緊急に対応する必要がある。スウェーデン自然保護協会(SSNC)は、政府の検討用に昨年の秋に提案され、発表されたナノ物質の安全な管理のためのスウェーデン国家行動計画を支持する。

  • EUのいくつかの国とは異なり、スウェーデンはナノ物質の国家目録システムが欠如している。EUの規則と指令がナノ物質に完全に調整される前に、スウェーデンは、市場にあるナノ含有製品の知識を増大させるために、国家目録システムを検討する必要がある。

  • EUは、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)(脚注3)の優先政策分野である”ナノ物質”の作業のために、財政的に及び技術的専門性をもって発展途上国及び移行経済国に、その支援をかなり増大する必要がある。スウェーデンはまた、この分野の二国間支援を増大すべきである。

  • EUを通じてスウェーデンは、”南(Global South)”と『北(Global North)』(脚注4)との能力と知識の差を埋めるために、SAICM の枠組みの中で国際的ナノ協議会の設立のために働くべきである。

マイケル・カールソン(Mikael Karlsson)
スウェーデン自然保護協会(SSNC)会長


脚注1 リスクは、物質の固有の有害(ハザード)特性と暴露シナリオの関数である。
脚注2 有害性(ハザード)は物質の固有の特性である。たとえばその有毒性。
脚注3 SAICM: Strategic Approach to International Chemicals Management(国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ)は、法的要求の外で化学物質の安全問題に対応するための多国間協定による、国連環境計画(UNEP)の下の自主的な政策プロセスである。
脚注4 Global South and Global North は、発展途上国/移行経済国及び在来産業国/富裕国をそれぞれ意味する国際支援一般的に使用される用語である。


 序説
 ナノテクノロジーは一般に、分子又は原子のスケール、あるいはナノスケールでの物質製造に向けられる科学又はエンジニアリングの一分野を指す。ナノテクノロジーは、物理学、化学、生物学、材料科学及び電子工学を含む広範な科学的及び技術的分野から発展した。ナノテクノロジーの分野は、このように広範であり、多くの物質、技術、科学的及び商業的応用と製品をカバーする(参照1)。ナノテクノロジーから得られる物質はナノメートル(nms)で測定され、一般的に”ナノ物質((NMs)”と呼ばれる。1 ナノメートルは、100万分の1ミリメートルという測定単位である。例えば、DNA 鎖は約 2 nm であり、赤血球は約 7,000 nm 、そして人の髪の毛は概略 80,000 nm である。

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図1:サイズの減少に伴い表面積が増大する
 ナノ物質(NMs)は一般的に、より大きなサイズの同一化学成分の物質(バルク物質、又はバルク形状の物質とも呼ばれる)とは異なる特性を持っている。ナノ物質の異なる特性は増大した表面積及び”量子効果(quantum effect)”の組合わせに起因する。物質の表面積はその活性にとって本質的であり、それは化学的反応と生物学的システムとの相互作用が起きる場所である。バルク物質に比べて、はるかに大きな比表面積(specific surfac)又は接触界面積(interface area)、すなわちより大きな質量に対する面積比を持つ。どの様な物質についても、物質のサイズが減少すると相対的外部表面積は増大し(図1参照)、反応することができる物質の外側により多くの原子を残す。従って、ナノ物質は一般的に同一質量のバルク物質よりはるかに反応性が高い。

 さらに、より小さなサイズという結果として、ナノ物質はヒトの体のような生物学的システムにより容易に移動しやすいかもしれない。特に、ナノ物質のあるものは、肺、腸、又は脳のバリアを通過することができ、したがって予期しないそして通常ではない暴露を引き起こす(参照2)。

 さらに、個別の原子や分子の挙動は、量子力学ベースの枠組みの中で最もよく理解することができる。量子効果は、ナノ物質に異なる光学的、電子的、熱的、機械的(抵抗/柔軟性)及び磁気的特性をもたらす。金は一般的に引用される例である。バルク形状では、このよく知られた金属は黄色である。しかし、金は、30 nm のスケールで操作されると赤色になり、1〜3 nm で操作されると緑色になる。電子的、熱的、又は磁気的特性のような金の他の特性もまた、物質のサイズに関連して変化するかもしれない。

 ナノ物質のあるものは自然界に見ることができるが(例えば、火山の爆発、山火事、又はその他の天然プロセスの結果として)、ナノテクノロジーは、天然の状態では存在しない新たな特性のために特定の物質を操作することを目指す。ナノテクノロジーを通じて操作された製品は、一般的に工業的ナノ物質又は製造ナノ物質と呼ばれる。

 ナノ物質の広い範囲を製造するために使用される技術は、極めて多様であるが、大まかにトップダウン技術及びボトムアップ技術という二つのグループに分けることができる。ボトムアップ技術は、より小さなサブユニットを組織することにより、機能的構造を製造することを目指す。これらの技術は、化学蒸着(CVD: chemical vapor deposition)、プラズマ溶射又はフレーム溶射、紡糸、及び自己組織化を含むが、これらに限らない(参照3)。一方、トップダウン技術は、より大きな物質のユニットから始まり、エッチング又はミリングでそれを望ましい形状の小さなユニットにする。トップダウンプロセスは、高エネルギーボールミル、エッチング、音波処理、及びレーザー切除を含む。トップダウンであろうとボトムアップであろうと、それぞれのアプローチは特定のむずかしさを伴う。トップダウン製造の重大なむずかしさは、十分な精度をもってより小さな構造を作り出すことである。一方、ボトムアップ技術は十分な品質の大きな構造を作ることのむずかしさである(参照4)。

 社会に対するナノテクンロジーの潜在的な全体影響は産業革命に匹敵すると言われており、ナノテクノロジーほど多くのコメント、希望、恐れ、そして急進的な陳述をもたらしたテクノロジーは他にほとんどない。ナノサイエンスとナノテクノロジーは物質についての我々の理解を根本的に変え、社会の全ての分野に深遠な関わりをもたらすように見える。ナノ物質を織り込んだ製品(一般的にナノ製品と呼ばれる)は、農業と食品、エネルギー製造と効率、自動車産業、化粧品、医療機器と薬、家庭用品、スポーツ用品、衣料品、コンピュータ、そして兵器など多様な分野で、すでに市場に出ている。

 この報告書は、ナノ物質の一般的概要(第1章)、健康と環境へのそれらの潜在的な影響(第2章)、ナノ物質及びナノ製品の現在の市場状況(第3章)、そしてナノ物質の管理に関連する規制的取り組みの一般的研究(第4章)からなる。結論として、ナノ物質を安全に管理するための適切な規制のメカニズムの設計と実施のための勧告が示されている(第5章)。”南(Global South)”における特別の状況は報告書全体を通じて強調されている。


1. 定義についての疑問

 ナノサイエンスとナノテクノロジーは急速に、そして最近出現したので、この分野で使用される語彙は常に一貫しているわけではない。ナノ物質の定義には大きなむずかしさが存在したし、それは現在も続いている。様々な国、組織、研究機関は、”ナノテクノロジー”のいくつかの定義及びナノテクノロジー関連の用語(例えば”ナノ物質”)を開発した。これらの新たに出現した定義は、しばしば特定の目的のために記述された(参照5)。最も一般的な方法のひとつは、ナノ物質をサイズ・カットオフを用いて定義することである。例えば、国際標準化機構(ISO)(参照6)及び経済協力開発機構(OECD)(参照7)の作業定義はナノテクノロジー、ナノ物質、及びその他のナノオブジェクトを定義するために、ナノスケールレンジ(”概略1〜100 nm”)を使用している。

 サイズに基づく定義は、他の多くの組織やグループよっても用いられている。しかしサイズとカットオフの明確な科学的根拠がなければ、定義の矛盾及び論争をもたらす(参照8)。その結果、サイズに基づく定義は一般的に、カットオフを記述する時に”概略”という言葉を使用するので、規制の文脈での使用は不向きである。

 ある司法組織と同様に他の組織も、特定の新奇の特性又はもっと一般的にサイズと新奇の特性の組み合わせに焦点を合わせた定義を開発している。そのような定義は、オーストラリア国家工業化学物質届出評価機構(NICNAS / National Industrial Chemicals Notification and Assessment Scheme)(参照9)、カナダ作業定義(参照10)、及びアメリカ国家ナノ技術イニシアチブ(NNI)(参照11)にみることができる。しかし、これらナノ物質の特定の特性はサイズが減少すると徐々に現われ、ナノ物質に固有の特性を特定するのは難しいという事実により、これらの定義を規制の文脈で用いるのはやはり不適切である。

 2000年代後半に、多数のナノ物質が商業目的で開発されており、ナノ物質を含有する多くの製品が市場に出された(参照12)。ナノ物質とナノ製品の増大する使用はこれらの新たな物質に相応しい規制の需要が引き金となった。そのような規制のアプローチは、ナノ物質の法的定義を必要とした。2009年4月に、市民社会組織(参照13)による数年に及ぶ集中的な唱道の後、欧州議会はナノ物質の規制の側面に関する決議を採択した(参照14)。必要な特定の規制措置の開発にまず必要となるものとして、その決議は、域内法令に”包括的な科学に基づくナノ物質の定義を導入するよう、そして、調和のとれたナノ物質の定義の採択を国際レベルで推進するよう”欧州委員会に求めた(参照15)。

 この報告書は欧州委員会が新規の及び新たに特定された健康リスクに関する科学委員会(SCENIHR) に、”ナノ物質”という用語定義のための科学的ベースに関する意見を述べるよう要請する結果となった。2010年12月8日、一連のパブリック・コンサルテーションの後、 SCENIHR の意見は採択された(参照16)。採択された意見に基づき、欧州委員会は2011年10月18日にナノ物質のための定義の採択を発表した(参照17)。それはナノ物質を次のように定義している。

 ”ナノ物質”は、非束縛状態(unbound)、又はアグリゲート(aggregate)又はアグロメレート(agglomerate)の状態であり、サイズ数の分布が50%以上であるような粒子については、1 又はそれ以上の外形寸法が 1 nmから100 nmの範囲にある、天然、非意図的、又は工業的に製造された物質を意味する。

 特別の場合には、そして環境、健康、安全、又は競争力に関する懸念について正当化される場合には、50%というサイズ数分布閾値は、1%から50%の間の閾値によって置き換えてもよい(参照18)。欧州委員会の定義は、世界の他の既存の作業定義、及びEUにおける既存の他の部分で使用されている作業定義から大きく異なる。それはまた、上述の SCENIHR の意見(特に0.15%閾値の使用勧告。最終的に欧州委員会により採択されたものより数桁低い)から逸脱している。その採択は、相当な議論と論争を引き起こした。議論には、杓子定規の定義に対する断定的な反対(参照19)及び、質量の代わりに粒子数を使用することへの疑問がある。主要な論点は50%閾値に焦点があてられたが、リスクに関連する主要な物理化学的特性を考慮すれば、それは高すぎるとある人々からは考えられたが(参照20)(訳注1)、一方ある産業からは、既存のバルク紛体物質からナノ物質を現実的に区別するには小さすぎると考えられた(参照21)。

 不完全であり、複雑であるが、欧州委員会の提案するナノ物質の法的定義は、ナノ物質法の制定を可能にするために必要な第一歩であった。従ってそれは、重要な達成である。欧州委員会の定義は、実際にはどのようになるのか評価するための2014年のレビューでこっぴどく批判された(参照22)。改正プロセスは、2014年11月に共同研究センター(JRC)により発表されることになっている 3 章からなる報告書(主要な計測問題、既存の定義の評価、そして可能性ある改正のための勧告からなる)により確認されるであろう。第1章の予備的草稿は、2014年3月19日にブリュッセルで欧州委員会により組織された会合で専門家のグループに対して示された。


2. 早期の警告と報告された懸念
  ナノ物質の潜在的な有害影響
 ナノ製品と産業的応用の中で一般的に使用される多様な工業的ナノ物質の健康・環境リスクについての科学的記事及びその他の形式のデータを蓄える増大する多くのデータベースが利用可能となっている(参照23)。このことは、あるナノ物質が人々と環境に著しいリスクをもたらすかもしれないということの増大する認識と懸念を反映している。

 ナノ物質の特定の毒性と生態毒性についての証拠に基づく増大する懸念が下記に議論されている。これは、発がん性、肺の影響、内分泌影響、心臓血管系影響、そしてその他の証拠を含む。加えて、これらの技術の足跡をたどりつつ、より広い倫理的疑問についての簡単な検討がこの章を締めくくっている。

2.1 毒性

 超微粒子(100 nm 以下の空気浮遊粒子)及びアスベストの毒性についての過去の経験は、ナノ物質の毒性に対して現在の仮説と研究の基礎を提供している。アスベストの毒性はよく知られており、報告されている。ある超微粒子への暴露は、心臓血管系及び肺がんを含む肺疾病の疾病率および死亡率の増大に関連している(参照24)。 ナノ粒子のバルク物質にはない独特な物理化学的特性は、ナノスケールで化学物質に固有の有害特性を与えるかもしれないということが仮定される。これらの特性には、サイズ、形状、結晶構造、表面積、表面化学特性、表面電荷等がある(参照25)。これらの要素は、人の体へ摂取、分布、排出:ナノ物質の毒物動態学( トキシコキネティクス)はもちろん、ナノ物質の毒性と運命に影響をおよぼす(参照26)。

 ナノ物質のがん、肺系、及び内分泌系への影響の証拠は、データ利用可能の順に下記で議論されている。

2.1.1 発がん性の証拠

 ナノ物質毒性に関する最も多い数量的データは発がん性に関するものである。ナノサイズの二酸化チタン(TiO2)のラットへの影響に関してなされたひとつの研究が、ナノサイズのTiO2の慢性的な吸入の後に、悪性の肺腫瘍の統計学的に有意な増加を示している(参照27)。この発見に基づき、2011年に米・国立労働安全衛生研究所(US NIOSH)は、超微粒 TiO2 は潜在的な職業的発がん性物質であると考えるべきであると決定した(参照28)。  ナノ TiO2 を含む製品には、化粧品、衣料品、プラスチック容器、家庭用及び業務用洗剤、電子機器、ヘアースタイル用機器、空気洗浄機器、環境修復機器、光電池(ソラー)パネル等がある(参照29)。特に、NIOSH は、超微粒 TiO2 の発がん性は、主に粒子サイズと表面積に関連するので、このことは他のナノ物質に関する疑問をも提起すると言及している(参照30)。

 最近の NIOSH による研究で、がんに関連付けられるべき他のナノ物質の可能性もまた調査された。結果は主に、多層カーボンナノチューブ(MWCNTs)が既知の発がん性物質に暴露したマウスのがんリスクを増大させることを示している(参照31)。

2.1.2 肺への影響の証拠

 ナノ物質の吸入は、ナノ物質への暴露経路のひとつである。ナノ粒子の吸入は、肺への高い沈着、より高い保持、及び血流へのより大きな移動の可能性のために、より大きな(マイクロサイズ)の粒子より肺システムにとって厄介であるように見える(参照32)。  動物研究がカーボンナノチューブ(CNTs)の吸入が、肺胞のリポタンパク異常症はもとより、鼻腔、喉頭及び気管の炎症に関連することを示している(参照33)。他の生体内(in vivo)研究は、単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)への暴露が肺毒性、すなわち肺中の肉芽腫に関連することを示している(参照34)。この発見は、カーボンナノチューブの吸入による肺への影響の厳しさと発症率は濃度に依存することを示唆している(参照35)。

 さらに超微粒子の研究は、肺の疾病の危険性が、粒子のサイズに反比例し、サイズが小さければ小さいほど、危険がそれだけ大きくなることを示した(参照36)。いくつかの研究は、多層カーボンナノチューブ(MWCNTs)の長さは、その生物学的活性に影響を与えることができることを発見した(参照37)。ひとつの生体内(in vivo)研究で、長い MWCNTs は、胸腔の多くの内部器官を覆う保護膜(中皮膜)の代用への長さ依存の影響を示した。(訳注:研究チーム(Poland et al.)は 胸腔の中皮膜の代用として体腔の中皮膜を使用した。)これらの影響は、炎症、異物巨細胞(foreign body giant cells)及び肉芽腫を含む(参照38)。これらの発見は、定性的にそして定量的に長いアスベストにより引き起こされる異物反応によく似ている(参照39)。

 さらに、生体内(in vivo)研究は、ナノ銀粒子への吸入を通じての長期の暴露は、炎症性反応と肺機能の変化をもたらすことを発見した(参照40)。炎症のこれらの発見は、1990年代の初期から 20 nm TiO2 と 30 nm 酸化アルミニウム (Al2O3)からの発見と一貫性がある(参照41)。酸化亜鉛(ZnO)、酸化銅(CuO)、そして酸化ニッケル((NiO)のような他のナノスケール金属酸化物は、動物実験で肺毒性を一貫して示している(参照42)。

2.1.3 内分泌影響

 内分泌システムにおける潜在的なナノ毒性のメカニズムは、ほとんどわかっていない(参照43)。内分泌関連疾病と障害には、がん;生殖器異常と不妊;糖尿病;肥満及びその他の代謝系症候群;甲状腺機能障害;早期成熟;免疫系障害;自己免疫疾患;心肺影響;アルツハイマー病やパーキンソン病のような中枢神経系疾病と障害、そして学習障害などがある(参照44)。

 ナノ粒子に関する最近の毒性学的研究のレビューは、ナノ粒子を内分泌かく乱に関連づけるいくつかの研究を発見している(参照45)。例えばいくつかの研究が、量子ドット(quantum dots)の生殖機能障害、甲状腺ホルモン信号伝達、エストロゲン受容体活性、そして内分泌かく乱作用への観察された影響に関して引用している(参照46)。さらに、そのレビューは、金属及び金属酸化物ナノ粒子が内分泌関連毒性を働かせるかもしれないことを示す他の研究を発見した(参照47)。著者は、生殖に関わるものに加えて、内分泌関連システム又器官を将来の調査の目標とするよう勧告している(参照48)。

2.1.4 生殖毒性

 ますます多くのデータがナノ粒子が、特にオスの生殖系について阻害するかも知れないことを示している。

 ラットの生体内(in vivo)研究で、ナノの二酸化チタンは、血液−精巣関門を通過し、精巣内に病変を引き起こし、精子形成を低めること示している(参照49)。変更された遺伝子発現とホルモンレベルがこの研究で観察された。思春期前のオスラットがナノ銀に暴露された二つの研究で、成熟は遅れ、オスの成獣の精液は濃度が低く、異常な精液の頻度が増大し(参照50)、(参照51)、輸精上皮の組織変化及び細胞膜の健全性とミトコンドリア活動の変化をもたらした(参照51)。世代を超える影響も、たとえば、マウスをナノカーボンに出生前に暴露させた研究で、示されている(参照52)。低精子数が第二世代で発見された。

 マウスの生体内(in vivo)研究で、二酸化チタンは、多くの方法で卵巣機能を阻害するかもしれないことが示されている。それらには変更された遺伝子発現、ホルモンレベル、ミネラル代謝、酸化ストレス、そして卵巣及びその周辺への異常な病理学的変化がある(参照53)、(参照54)、(参照55)。

2.1.5 心血管系への影響

 観察に基づけば、工業ナノ粒子の心血管系への可能性ある影響に関していくつかの懸念が存在する(参照56)。欧州委員会の科学委員会は、燃焼由来のナノ粒子の影響の調査が、工業ナノ物質による心血管系との相互作用のリスクを示唆していることを発見した(参照57)。利用可能な文献の最近の調査が、”工業ナノ物質への暴露と心血管系の障害を関連づける観察的な調査はない”が、多くの研究が工業ナノ物質への暴露が”心臓障害に寄与するかもしれない”影響を引き起こすことができると報告した(参照58)。

 上記の直接的影響に加えて、ナノ物質と生物学的システムとの間の相互反応に関連して多くの不確実性が存在する。例えば、ナノ物質のトキシコキネティクス(毒物動態学)(例えば、特定の物質が体内でどのように移動するか、そしてそれはどこにととまり、排出されるか)の理解はまだ非常に限定的である。しかし、直接的健康影響と同様に、いくつかの早期の警告がこれらの物質の取り扱いに予防的であることを正当化している。

 例えば、あるナノ物質は、血液脳関門を通過する能力があることを示しており(参照59)、実験室のマウスの脳幹細胞の死を引き起こすことを示した(参照60)。あるナノ物質は、胎盤関門を通過し、オスの胎芽に影響を与え、成熟後の精液生成能力が低減することを示した(参照61)。その他の研究が、銀ナノ粒子が遺伝物質と相互作用し、それを変更し、その複写に影響を与え(参照62)、また酸化亜鉛は、たとえ低用量であってもヒトの表皮細胞のDNAにダメージを与えることを示した(参照63)。

2.2 生態毒性と生物濃縮

 ナノ物質の潜在的な毒性はヒトの健康だけに限定されるものではなく、それはまた、環境中の他の生物学的有機体にも影響を及ぼすかもしれない(’生態毒性’)。あるナノ物質及びナノ物質の生態毒性の食物連鎖中への取り込みについては、証拠がある。銀は生態毒性であることが知られている(参照64)。ある研究は、バルク形状に比べてナノ銀のもっと明白な影響を報告しているが、そのデータは相対的なそれらの生態毒性については決定的ではない。

 2009年のナノ銀に関する科学的証拠のレビューは、”銀ナノ粒子は低濃度で水生無脊椎動物に有害であるとする証拠があり、それは銀ナノ粒子の環境放出は環境に有害であろう”と示唆している(参照65)。もっと最近の研究は、ありそうな暴露経路である下水汚泥(バイオソリッド)による現地実験で用いられた低用量の銀ナノ粒子への植物と微生物の有害反応を示して、この結論を確認した(参照66)。また、ナノ粒子の植物細胞への影響を調べる研究もカーボンナノチューブ(CNTs)が植物における細胞死を誘発することができること見つけた(参照67)。

 二酸化チタンナノ粒子もまた、ニジマスに酸化ストレス、臓器病状、及び抗酸化防御の誘発をもたらすことが示されている(参照68)。

 ナノ物質が食物連鎖に入り込み生物濃縮する可能性がいくつかの研究により示されている。国際的な研究チームが最近、ある金属ナノ粒子は食物連鎖中に入り込むことができると結論付けた(参照69)。研究者らは次のように述べている。”我々の結果はまた、酸化セリウム(CeO2)ナノ粒子は、土壌中に存在すると食用作物により取り込まれることを示している。セリウムには植物組織の中に化学的なパートナー(訳注:セリウムと化学的に相互反応する化学物質)がなく、大豆の中で生体内変換(biotransformed)されないが、食物連鎖と次の大豆植物世代に達する・・・。工業ナノ物質が一度食物連鎖に入りこめば、これは蓄積プロセスであるということを頭に入れておかねばならない”(参照70)。研究者らはまた、亜鉛ナノ粒子の取り込みを示した(参照71)。他の研究はミミズと微生物によるナノ粒子の取り込みを示した(参照72)。最近の研究は、植物中の金ナノ粒子が毛虫の中で生物濃縮する可能性を示し、捕食者が草食動物を食べるので、生物濃縮が食物連鎖中で継続することを示唆した(参照73)。

2.3 規制におけるナノ物質の有害性評価

 化学物質のリスクは通常、ハザード(有害性)と暴露の関数として評価される。ナノ物質の特定のハザードと、人と環境のナノ物質への暴露の現状のレベルについて、大きな未知が存在する。

 この知識のギャップを小さくするために、研究が現在、行われている。しかし、毒性学及び生態毒性学研究(すなわちナノ物質の潜在的なハザードを特定すること)への投資は、現在までのところ、全てのナノ研究の3%以下であるということに留意しなくてはならない。現在実施されている研究の97%は、主として新たな応用を開発することに焦点を当てている(参照77)。従って、ナノ物質の潜在的な影響を理解するための研究への投資を増やすことが重要である。しかし、たとえナノ毒性学及び生態毒性学への投資が著しく増大することになっても、あるレベルの不確実性はまだ残るであろう。不確実性は、ナノ物質とナノ製品の安全性の周囲をめぐるであろうが、それはひとつには市場ににある又は開発中のナノ物質の種類が非常に多い(多様性がある)ためであり、また基本の科学と製品開発の進展ペースが早いためである。この不確実性に対してどのように対処するかは、ナノ物質のリスクを適切に管理するために取り組まれるべき重要な問いである。これに関して予防原則が非常に重要であることは、いくつかの名声ある科学研究所(参照78参照79)や世界中の市民組織はもちろん、多数の国々(4.2を参照のこと)により強調されてきた。第4章は、現状のナノ物質のための規制とガバナンスの枠組み、及びそれらの強さと弱さに目を向ける。

2.4 倫理的(追加的)検討

 ナノテクノロジーの導入に関連する倫理的問題は、長年議論されている。例えば、UNESCO はナノテクノロジーの倫理と政治に冠する報告書と本を発表した(参照80)(訳注2)。倫理的検討はまた欧州当局(参照81)及び米国政府(参照82)によっても行われた。特に、ナノテクノロジーを開発し利用するための能力の差のために、ナノテクノロジーが富める国と貧しい国の間のギャップをさらに広げる可能性、いわゆる”ナノ格差(nanodivide)”をもたらすことに関して懸念が広がった(参照83)。

 上述の議論で示された通り、長期的にはナノテクノロジーはひょっとすると、病気の診断と治療のためのよりよい方法、あるいはナノを利用した水浄化システムのような世界中の社会に対する便益を生み出すことができるかもしれない。しかし、新たな技術を開発し利用するための能力の差が、もっと直近の将来、富める国と貧しい国の間の格差を広げるという大きなリスクがある。実際に、新たな手順の開発と熟練作業者を育成するために高いコストが必要なので、貧しい国の多くは有用なナノ物質の応用から利益を受けにくくなっている。

 実際において、発展途上国のナノ研究は、先進国の研究についていけないかもしれない。その結果、これらの諸国は、彼らの国民の基本的な必要に対応するために使用できる、例えばナノを利用した水浄化システムのような製品を開発し製造することができないかもしれない。彼らは、この種の製品を開発し(そして製造する)手段を持つ者に頼らなくてはならないであろう。しかし、これらの製品は貧しい者にとっては非常に高価かもしれない。とりわけ特許権使用料のためである。

 画期的な UNESCO 報告書のことばの中で、”ナノテクノロジーの過度の特許権により生じる危険性は、’特許群(patent thicket)’又はアンチコモンズの悲劇(訳注3)によるものである。基本的なナノ粒子及びナノ粒子を使用するプロセスに関する特許は、細かく厳格に所有されているので、例えば、きれいな飲料水を製造するためにカーボンナノチューブを使用する水浄化システムのような新奇の物質を利用する能力は、競合し重複する特許主張のために、ほとんど解決できないような複雑さに直面するであろう(参照84)。

 引き起こされるかもしれないもうひとつの問題は、広範な世界のそして社会の災難に対する技術的解決を開発するための熱意が、健康と環境問題に対する、もっと安価でもっと持続可能な、又はもっと良いローテクノロジーによる解決への投資を弱める、又はそれらへの意欲をわきにそらすかも知れないということである。

 発展途上国に特有の他の潜在的な管理問題には、従来の市場の置き換え、外国の価値の押し付け、技術的進歩が必要のために開発することと無関係であるという恐れ、そして安全規制を確立し、監視し、執行するための資源の欠如などがある(参照85)。

 南北間のナノ格差の問いが無視される、あるいは十分に検討されないなら、ナノテクノロジーの潜在的な便益は、不平等に分配され、世界の地域間の(又はひとつの国の中での富める者と貧しい者との間の)既存の技術的格差を拡大することになるであろう。

 これらの倫理的問いは、既に学問的に議論されているが、この技術を開発するための全体的な取り組みの中で、またナノ物質によるリスクの適切な管理に関する討論の中で、ほとんど検討されていない。

 最後に、ナノ物質のハザードに関する不確実性は、ナノ物質への暴露に関して利用可能な情報が極端に限定されることにより、特に”南(Global South)”において悪くなるばかりである。

コラム

ナノ材料のテストガイドラインと OECD 工業ナノ材料作業部会
Testing guidelines for nanomaterials and
the OECD Working Party on Manufactured Nanomaterials

 その主目的を経済成長と世界貿易における経済成長に貢献することとする経済協力開発機構(OECD)(参照74)は、ナノテクノロジーに対応する最初の国際的組織であった。OECD は2005年にナノテクノロジーによりもたらされる機会と課題を初めて認め、2006年9月に工業ナノ材料作業部会(WPMN)を化学物質委員会の下部組織として設置した。表明されている作業部会の目的は、”工業ナノ材料(manufactured NMs)に関連して、それらの安全な開発を支援するために、人の健康と環境の安全についての国際的な協調を促進すること”である(参照75)。  この脈絡において、OECD ナノ材料作業部会(WPMN)は、工業ナノ材料の代表的セットの物理的及び化学的特性、環境的運命と挙動、環境毒性と毒性についてのテスト(いわゆるスポンサーシップ・プログラム);既存のテストガイドラインのナノ材料への適用可能性の評価;ナノ材料の試料調製と線量測定(dosimetry for NMs)に関するガイダンスの開発;暴露測定を含んで、多くの一連の作業を策定した。

 2012年に、OECDはナノ材料作業部会の最初の数年間に実施された作業をまとめる文書を発表したが、それは、”従来の化学物質のテストと評価のためのアプローチは、一般的にはナノ材料の安全性を評価するために適切であるが、ナノ材料の特殊性に適合させなくてはならないかもしれない”と述べている(訳注4)。この文章は、既存のテストガイドラインは工業ナノ材料の有害性(hazards)をテストするために妥当であると間違って引用されている。

 しかし、物理化学的特性(物質特性化を含む)に関連するテストの予備的レビューに基づけば、物理化学的特性のための22のテストガイドラインのうちわずか4つだけがナノ材料に適用可能であると結論付けられた。16のガイドラインは、ある状況の下では、又は、あるクラスのナノ材料に対して適用可能かもしれない。2つのガイドラインはナノ材料に適用可能ではない、又は、たとえ適用可能でも、有用な情報は提供しない。22のガイドラインのうち13は、それらが変更される前に更なる評価が必要である。哺乳類毒性のための52のテストガイドラインに関しては、その予備的結論は、テストガイドラインはテストされるナノ材料の適切な特性化及びテスト系における実際の暴露に適切な考慮がなされていることを確実にするよう変更されることが必要であるということを示している。生態系毒性に関連する24のテストガイドラインについては、試料調整、引き渡し、測定、及び度量衡学に関するガイダンスはナノ材料のテストのためには現状では不十分であることが発見された。分解と蓄積のためのガイドラインのあるものは、ナノ材料のテストに適用可能ではないことが見つかった。それらの多くは、制限付きで、又は特定の条件付きで適用可能である(参照76)。

 結論として、たとえ通常(バルク)の化学物質をテストするアプローチ(すなわち、暴露とハザードの関数としてリスクを定式化すること)がナノ材料をテストするため実際に適切であるように見えるとしても、既存のテストガイドラインがナノ材料の安全性を評価するために適切であるみなすことはできないということもまた非常に明確であるように見える。


3. 製品と市場
 ナノ物質とそのようなナノ物質を含む製品のための現在及び将来の市場の規模、価値、そして展開について多くの憶測がある。2015年には3兆ドルという市場の数値がよく述べられるが、見積もりと予想は、2009年の110億ドルから2015年には260億ドルから3兆ドル(参照86)と、とてつもない変動を示した。しかし、後者の見積もりは、ナノテクノロジーが影響を及ぼす製品の全価値を含む計算に基づいており、ナノテクノロジーに基づく要素の価値だけとは異なるものである。例えば、もし車がナノテクノロジー強化塗料を用いているなら、塗料だけの価値の見積もりではなく、その車の全価値が見積もりに統合される。この様にして、より低い見積もりは、ナノテクノロジーの短中期的将来のより正確な像を提示しているように見える(参照87)。

 現在、ナノ物質を含む製品をリストする包括的で正確なデータベースは存在しない。データベースの欠如がナノ物質を含む製品又はナノテクノロジーの支援で製造される製品を特定すること、及びナノ物質のための暴露シナリオの確立を特に難しくしている。ナノ消費者製品の様々な目録が世界中のいくつかの研究機関及び組織により開発されている(参照88)。これらの目録の全て又はほとんどは、これらのナノ製品を特定するために、製品の製造者又は小売業者によりなされた、その製品がナノを含んでいる又はナノテクノロジーを用いて製造されたとする当事者のナノ主張に頼っている。いくつかの目録は特定のナノ物質(参照89)、日焼け止めのような特定の製品(参照90)、又は特定の市場又は地理的地域(参照91)に絞り込んでいる。これらの目録の範囲における限界は、しばしば、それらの実施者の限定されたリソースと作業の複雑さに帰する。これらの複雑さのひとつは、製品(ナノであろうとなかろうと)のオンラインショッピングのためのインターネット利用が増大しているということであり、今ではオンラインで注文し、世界中から入手することが可能である。

 2006年、新興テクノロジーに関する学術プロジェクトのためのウッドロー・ウイルソン研究所は、最もよく知られ引用されているナノ消費者製品の目録を開発した(参照92)。この野心的な世界のデータベースは、2006年にはナノ物質を含む54の消費者製品から始まり、2011年10月には1317製品へ、そして2013年10月の最後の更新では 1564製品へと増加を示している(参照93)。

 ナノ物質は全ての分野に浸透している。その製品は、化粧品や機能化織物、縮毛矯正用剤、台所用品、工業用化学物質、塗料、食品接触材、食品添加物などを含む。

 ウッドロー・ウイルソン研究所のデータベースによれば、ナノ製品の半分以上は健康とフィットネスのカテゴリーに入り(788製品)、続いて家庭用品と園芸用品(221)、食品と飲料(192)、自動車(142)、クロスカッティング(83)、電子機器及びコンピュータ(61)、器具(48)、子ども用品(29)となっている(図2. 参照)。

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図 2. Source, Woodrow Wilson Institute,
http://www.nanotechproject.org/cpi/about/analysis/

 健康とフィットネスのカテゴリ内で、最大のサブカテゴリーは、身体手入れ用品(292)であり、衣料品(187)、化粧品(154)、スポーツ用品(119)、浄化装置(43)、日焼け止め(40)が続く(図3. 参照)。

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図3. Health and fitness produt breakdown. Source Woodrow Wilson Institute,
http://www.nanotechproject.org/cpi/about/analysis/

 前述の数値にまつわる不確実性を検討することが重要である。規制的義務が何も存在せず、極めて競争的で急速に展開する市場という脈絡の中で、製品中のナノ物質についての情報は矛盾が多く、よくてもつぎはぎだらけである。ナノ主張は、情報の発表がもたらす潜在的な市場の優位性に依存して変化する。公衆のナノ物質についての認識が、健康と環境への潜在的な有害影響について一般的に増大する懐疑と懸念に染まっているEUのような地域(参照94)では、多くの製品が広告されずにナノ物質を含んでいるかもしれない。逆に、多くの地域、例えばアジアにおけるいくつかの新興の市場では、ナノ主張は著しい市場優位性をもたらすことができ、従って偽りのナノ主張をする動機を与え、ナノ物質についての信頼性ある情報を編集する作業を複雑にする。このことは、適切なリスク管理措置を策定するための作業者、公衆、及び環境の、既存及び潜在的な暴露を評価することを著しく難しくする。批判的な公衆はまた、有益なナノ製品を使用しないという結果をもたらすかもしれない。

 特に食品分野は、ナノ物質の使用に当たり、最も秘密主義的であり、議論のある分野のひとつである。ナノ物質は食品自身の中で食品の生地を均質にし、風味を強化し、食品の脂肪分を低減するために使用され、又は食用フィルムとして使用され、又は食品容器中で使用されるかもしれない(参照95)。ほとんど広告されておらず、時には否定されるが、食品分野でのナノ物質の使用は入手可能な数値に反映されているより、もっと広く行きわたっており、実はもっと大きいように見える。2008年の報告書(参照96)は、100を越える食品関連ナノ応用を特定しており、それは農業製品、食品容器、食品サプリメント、食品添加物などに及ぶ。この数値は間違いなく過去5年間で増大している。2006年、食品関連ナノ応用の研究及び/又は製造に関わるいくつかの大手食品及び飲料会社を含んで、200から400の間の数の会社があることを研究が示した(参照97)。

 ウッドロー・ウイルソン研究所の目録を含んで、ほとんどの既存の目録とデータベースは、可能な場合には消費者製品中に見られるナノ物質の特性を示している。利用されている最も一般的なナノ物質はナノスケールの銀であり、続いて酸化チタン(二酸化チタンを含む)、そして炭素(カーボンナノチューブ、ナノフアイバー、バッキーボールとも呼ばれるフラーレン、シリカ及びシリコン、亜鉛(酸化亜鉛を含む)、金、及びその他のナノ物質(例えばポリマー、クレイ、クオンタムドット)と続く。製品中及び可能性ある応用に使用されるナノ物質の例を示す表が、本報告書の Annex 1 (訳注:オリジナルレポートを参照のこと)に示されている。EU市場にあるナノ物質に関連する追加的なデータは2012年に欧州委員会により発表された(参照98)。この情報はほとんどが Lux Research の公開されていない私的報告書に基づいている。従って、直接的情報源はもとより、その情報を収集するときに用いられた手法はわからない。この欧州委員会文書によれば、”圧倒的に多いナノ物質の用途はタイヤのゴム強化材とその他のゴム製品である”。

 2012年、デンマーク環境協議会とデンマーク消費者協議会は、デンマーク工業大学と連携して、同様なデータベースを作成した(参照99)。これは、EUにおいて市民社会組織と学界により開発された最新の目録とデータベースのシリーズである(参照100)。このデータベースは、リストされている製品中で使用されているナノ物質の潜在的なハザードに関する表示とともに、職業人、最終使用者、消費者、及び環境への潜在的な暴露について特定する色識別コード化された情報を含んでいる。デンマーク環境協議会とデンマーク消費者協議会は、定期的に彼らのデータベースを更新することを計画している。しかし、そのデータベースは、”このデータベースは完全なものであるとみなすことはできない。実際、誰にも市場に出ているナノ製品の数はわからない”という責任の放棄(disclaimer)を宣言している。

 第2章で述べられている早期の警告の徴候に照らして、消費者製品を通じてのナノ物質への暴露の特性と重要性に関する不確実性は、適切にナノ物質を管理することに対する懸念ある深刻な妨げである。信頼できる情報なしには、消費者が情報に基づき選択するという権利を行使することは不可能である。市場の細分化された情報と暴露に関する信頼できない情報は、この新興の技術の特定のリスクを適切に評価し管理するための政府と規制当局の能力を大幅に低下させる。

 結果として生じる法的不確実性は、ナノ物質を使用し又は製造する会社の多くによって、ナノ物質に関連する革新に対する主要な妨げであるとして指摘された(参照101)。さらに、現在の状況は、もしナノ関連の事故が起きれば深刻な公衆の反発をもたらすかもしれず、それはこの新たな技術の潜在的な革新に対する極めて重大な打撃となるであろう。

コラム

”鉱山のカナリア”: 作業者とナノ物質

 作業者はしばしば、新たに出現するハザードに、最初にそして最も激しく暴露する集団であり、これはまた、作業者とナノ物質についても真実である。ナノテクノロジー関連産業の作業者は、新奇のサイズ、形状、そして物理的及び化学的特性を持つよう独自に設計された材料に曝露する可能性がある。作業者がナノ物質に暴露する可能性は、これらの物質のライフサイクルの段階ごとに変動するかもしれない。従って、作業者が暴露するかもしれないナノ物質のライフサイクル段階と発生源(例えば、研究開発、製造、加工、使用、運転装置の洗浄又は保守、廃棄)、潜在的な暴露経路(例えば、吸入、摂取及び皮膚を通じての直接的及び間接的暴露)、暴露が生じるときの形状(例えば、非束縛粒子、又はポリマーでカプセル化された粒子)、及び作業者が潜在的に曝露する物質のハザードを特定することが重要である(参照102)。

 世界保健総会は、新たな技術、作業プロセス、及び製品の健康影響の評価を、2007年に採択された労働者の健康に関する国際行動計画の下における活動として、特定した。さらに、WHO 労働衛生協力センター世界ネットワークは、その活動のひとつの重点項目として、工業ナノ粒子を選定した。現在 WHO は、ナノ物質の職業的リスクに対応するために、”工業ナノ物質の潜在的なリスクから作業者を保護すること”に関するガイドライン(WHO/NANOH)を開発中である。これらのガイドラインの開発に関連する活動は、2012年に、開発段階として2012に開始し、実施段階のための1年が追加される(参照103)。

 ほとんどのナノ物質について職業暴露閾値限界が存在せず、特定現場のリスク緩和プログラム(しばしばコントロールバンディング(control banding )として参照される)の開発に役に立つことを目指した定性的な技術が開発中であり、ウェブベースのツールとして利用可能である(参照104)。しかし、これらの技術は、作業者の安全に対しては粗いアプローチである。ナノ物質のハザードと暴露シナリオに関して大きな知識のギャップがあるという現在の状況のために、閾値限界を決定する時には高いレベルの予防が必要である。例えば、ナノ物質の製造と操作に密閉系だけを使用する。しかし、たとえナノ物質がそのような密閉系で製造又操作されても、これらの物質のライフサイクルの様々な段階(洗浄や製品中への導入など)で暴露の重大なリスクがまだ存在する。さらに密閉系は使用のためには高価で複雑であり、従って発展途上国では利用可能であるようには見えない。従って、この分野での予防と研究の強化が緊急に必要である。

 ナノ物質の職業リスクに関連する最も緊急な研究の必要(ニーズ)には、リアルタイム個人用ナノ物質特定暴露測定技術の開発、職場の暴露データの収集、ナノ物質作業者を調査するための疫学的戦略の設計と実施、及びナノ物質プロセスに適用されている既存の制御装置の効果の確認がある。また、必要とされるものには、特に低所得及び中所得諸国に向けての職場におけるナノ物質操作に対する慎重なアプローチについての勧告と指針がある(参照105)。

 世界中の大部分の諸国は、基本データの収集とナノ物質を含む製品の特定を含んで、ナノ物質規制に対して”様子見(wait-and-see)”アプローチをとっている。この”様子見”傾向は、ナノ物質とナノ製品が開発される競争的環境によりさらに倍加される。ナノ物質製造者による彼らの研究又は製品に関連する情報の開示への強い反対は、この情報ギャップを大きくした。過去10年間の後半にいくつかの先進諸国で実施された多くの自主的情報収集スキームがある(参照106)。しかし、これらの自主的なスキームはナノ物質の製造と使用の正確で包括的な全体像を提供することはできなかった。

 情報ギャップと産業側の自主的情報提供に対する消極的な態度についての懸念に対応するために、少数の国(そのほとんどが EU 内の国)がナノ物質と製品に関する情報を収集するための義務的な報告スキームを立ち上げた、又は立ち上げつつある。フランスはそのような義務的な情報収集ツールを実施した最初の国である。

 フランスの情報収集ツール(訳注5)は、2013年1月1日に発効した法律(laws)と規則(regulations)の組み合わせにより構成されており、従って現在は法的要求である(参照107)。この情報収集スキームは、ナノ物質を含む製品よりも、むしろナノ物質に焦点を合わせており、サプライチェーン全体を通じて適用する。それは、EU 勧告に大幅に基づく定義を使用するが、意図的にナノスケールで製造される物質だけに適用する。もし物質が使用される時にナノ粒子を放出することが意図されており、職業的ユーザー(訳注:一般消費者に対比)のために意図された物質の場合だけ 、ナノ物質を年間 100 グラム以上扱う全ての製造者、流通業者、又は輸入業者に毎年の申告要求を課している。研究用の物質は免除される。申告は、登録者の同定、物質の同定、過去1年間の製造量、流通量、又は輸入量、物質の使用者、登録者がその物質を引き渡した(所有権移転した)職業的使用者の同定を含まなくてはならない。研究開発行活動は単純化された申告手続きにより手間が軽減されるが、当局は更なる情報(暴露又は毒性学的データなど)を求めるかもしれない。この情報収集メカニズムは、登録者により供給されたある情報へのアクセスを制限することによりある情報の秘密を保証するための条項をさらに含む。

 ベルギーもまた、フランスと同様な情報収集ツールを2013年2月14日に採択した(訳注6)。ベルギーとフランスのシステムは、範囲が異なる。ベルギーの登録は、研究用に意図された物質を含むが、化粧品、食品、殺生物剤のような他の EU 規則でカバーされるナノ物質は除外している(参照108)。本報告書を書いている時点で、ナノ物質を含む製品を登録に含めるかどうかの政治的議論が現在行われている。ベルギー政府による決定は、2014年中になされることが期待される。

 他のEU諸国、特にデンマークとイタリアは、ナノ物質自身に又はナノ製品に焦点を当てつつ、同様又は類似のメカニズムを実施している。(訳注7:デンマークはナノ物質自身ではなくナノ製品。イタリアについては不明)スウェーデンでは、政府の委員会が最近、市場にあるナノ製品についての国家目録を開発する必要性を強調したが(訳注8)、消費者製品に関する広範な登録はEUレベルで直接開発されるべきであると勧告した(参照109)。地域レベルでは、欧州委員会は、同様な義務的メカニズムを欧州連合全体で実施することには難色を示した(参照110)。欧州委員会は現在、存在するなら国家又は分野レベルでの登録を含んで全ての関連情報を参照するウェブ・プラットフォームを構築することを提案しているだけである(参照110)。加盟国及び利害関係者からの圧力に留意して、欧州委員会は、EU 全土の目録の影響評価を用意し、また2014年には機会、実現可能性、及びそのような EU 全土の目録の可能性ある内容に関するパブリック・コンサルテーションを実施するであろうことを示した。

 ナノ物質製造、流れ、及び使用についての基本的なデータを特定することはナノ物質の管理(governance)に対する予防的アプローチに基づく適切なリスク管理措置の開発を可能とするために重要である。データベース、登録、そして同様なツールは、ナノ物質を管理するためのどの様な規制のメカニズムにとっても不可欠である。


4. ナノ物質の管理のための規制の取組み
 既存の法的枠組みをナノ物質の特殊性に適合させるかどうか、適合させる場合にはどの様に適合させるかについての問いは議論のあるところである。新興テクノロジーに関する学術プロジェクトのためのウッドロー・ウイルソン研究所のディレクター、デービッド・リジェスキーが言及するように、”ほとんどの国は、たとえ根本的に異なる特性を持った新たな物質が出現しても、既存の規制がナノテクノロジーに対処するであろうと想定しつつ、様子見アプローチをとっている”(参照112)。

 その結果、厳格性が弱いガバナンス(管理)メカニズムが、実際の規制の枠組みよりもっと広く普及している。ナノ物質とナノテクノロジーへのガバナンス・プローチは、研究、革新及び投資戦略の調整やこれらの新規物質と技術のリスク管理から時にはナノ物質の市場への参入の規制まで、一般的にナノテクノロジー開発の全ての局面を調整することをめざしている。歴史的には、ナノテクノロジーに関連する規制とガバナンスの枠組みの開発は、主に革新を支援し、ナノテクノロジー産業の成長に拍車をかけるよう設計された仕組みから、ナノに関連する人間の健康と環境の安全性の複雑な問題のいくつかに対処することをめざして、より包括的なアプローチに向けて徐々に(ゆっくりではあるが)進展している。

 1990年代の後半から2000年代の初めに、世界中の政府はナノテクノロジーを将来のための重要な技術であると認識し始め、政府は、例えば2001年のアメリカにおける国家ナノ技術イニシアティブ(NNI)のような特定の革新支援計画を打ち出した(参照113)。

 他の多くの国や地域でも、同様な計画が後に開発された。例えば2002年に欧州連合は第6次枠組み計画(FP6)の脈絡の中で公的基金によるいくつかの研究計画を実施した参照114);2004年に中国は調整及び投資支援計画を開始した(参照115);2009年にロシアはインフラとベンチャーキャピタルへの投資を通じてロシアのナノテクノロジー産業を発展させるために RUSNANO と呼ばれる公社を設立した;そして2012年に韓国は初めてのナノ安全管理に関する国家総合計画を開発した。

 ほとんどの先進国といくつかの移行経済国は現在、ナノテクノロジーに関する制度的な調整の枠組みを持っている。しかし、これらの制度的な枠組みは、”南(Global South)”ではやはり例外である。 それにもかかわらず、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)のような世界的フォーラム(参照115)や国連訓練調査研究所(UNITAR)のような国際組織の関与のおかげで、状況は徐々に進展している。

 そのような調整メカニズムが存在する場合には、革新、健康と環境問題、作業者の安全、そして製品開発のような異なる考慮すべき事柄の間の正確なバランスは国によって非常に変わる。

コラム

”国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)

 SAICM は、2006年2月にアラブ首長国連邦のドバイで開催された国際化学物質管理会議(ICCM)で承認された自主的な協定である。この戦略的アプローチは、ハイレベル宣言、包括的方針戦略及び世界行動計画からなり、それらは一緒に、次のような目的を持つ世界の枠組みを構成する:”2020年までに化学物質が人の健康と環境への有意な悪影響を最小限にするような方法で使用され、製造される”。SAICM は、国連環境計画(UNEP)と世界保健機関(WHO)により支援された事務局により運営されている。

 SAICM は、化学製品の開発の労働衛生及び環境健康への影響を含んで、化学製品の全ライフサイクルにわたり討議される唯一の国際的な多国間の場である。SAICM の参加者は、先進国、移行経済国、発展途上国、化学物質の適正管理のための国際組織間プログラム(Inter-Organization Program for the Sound Management of Chemicals)の政府間組織、産業界組織、公益市民社会組織を含む。SAICM 決議は合意により採択される。それは法的な拘束力はないが、各締約国は、SAICM の目的を達成するために、世界行動計画中の特定の活動の実施を含んで、国家計画を開発する責任がある。

 下記では、世界中のナノ物質及びナノテクノロジーの管理(ガバナンス)へのアプローチのいくつかの事例を探究する。そこではまた、司法管轄の中での管理モデルの弱点と機会を検証する。EU は、別にもっと詳細に検証するが、それは EU が,ある程度、最も進んだ規制の枠組みを持ち、また世界で唯一、実施されているナノ特定の法的に拘束力のある条項を持つからである。

4.1 ナノテクノロジー・ガバナンスへの世界のアプローチ

 SAICM の脈絡の中で、2009年にジュネーブで開催された第2回国際化学物質管理会議(ICCM2)の全ての利害関係者は、ナノテクノロジーと工業ナノ物質は SAICM によって対応されるべき新たに出現している政策課題であることを認め、決議した(参照117)。その決議は、発展途上国及び移行経済国が責任をもって工業ナノ物質を使用し管理する彼らの能力を強化することを支援するための、政府及び他の利害関係者に対する特定の勧告を含む。加えてそれは、政府と産業界に対して、規制の生成と実施の間に作業者と彼らの代表と対話を維持すること、人の健康と環境を保護すること、及び全ての関心を持つ分野ともっと一般的な公的対話を維持することを求めている。

 この勧告を適用して、UNITAR とOECD は、 SAICM 地域会議と連携して全ての国連地域でナノテクノロジーとナノ物質に関する地域的意識向上ワークショップの第一ラウンドを組織した。 UNITAR は後に、能力構築に焦点を当てた地域ワークショップンの第二ラウンドを組織した。これらのワークショップは、SAICM の地域的及び世界的討議の脈絡の中で、この新たに出現している課題の情報に基づく検討を可能にした。アフリカ(参照118)及びラテンアメリカ・カリブ海地域(参照119)における SAICM 地域会合で、全ての参加者は、予防原則の実施、消費者と作業者のための情報への高い透明性と権利の承認、ナノ物質の開発と管理に関連する意思決定への他分野からの参加、そしてナノ物質を含む廃棄物を適切に処理する能力が欠如する国への押し付けの防止を要求する決議を満場一致で採択した。

 これらワークショップのふたつのラウンドからの成果に基づき、UNITAR は、国家ナノテクノロジー政策及びプログラムを開発するための包括的なガイダンス文書を開発した(参照120)。このガイダンス文書はスイスにより資金提供を受けた一連のパイロット・プロジェクトでテストされ、2011年と2012年にタイ、ウルガイ、及びナイジェリアで実施された(参照121)。これらのパイロット・プログラムは、2013年にアルメニア、ヨルダン、及びパナマによって引き継がれている。

 ICCM2 決議はまた、特に発展途上国と移行経済国に関連する課題を含んでナノテクノロジーと工業ナノ物質に焦点を当てる報告書を要求した。それは SAICM 事務局により準備され、2011年にベオグラードにおける公開作業部会(OEWG)で発表された(以降 OEWG ナノ報告書)(参照122)。この OEWG ナノ報告書は、後に2012年のナイロビにおける ICCM3 において全ての SAICM 利害関係者により支持された重要な勧告を発表した。勧告は、”全ての諸国は、製造者であろうと又は単なる輸入者あるいは使用者であろうと、工業ナノ物質の健康的及び環境的安全性を評価し、適切に管理する能力を持たなくてはならない・・・。ナノ物質安全評価に関する科学は進展しているので、発展途上国及び移行経済国におけるこの分野の能力を強化することは重要である。この課題への対応に失敗すると、先進国はこの技術の全体的な利益を受けるが、一方、発展途上国は潜在的なリスクのほとんどを被るという懸念が生じる。このことは、既存の経済的不公平を広げるであろうナノ格差の生成を回避するために十分に検討される必要がある”(参照123)。

 同報告書は、人的資源と制度的能力の強化のために協力、連携、及びパートナーシップ(国家、公的及び私的分野、市民社会組織間)の確立を勧告している。同報告書はまた、対話、訓練支援、研究開発、情報の普及と共有、そしてそのような活動のための適切な手段が提供されることを勧告している(参照124)。

  OEWG ナノ報告書はまた、SAICMの下で可能な行動のリストを含む。それは下記を含む:
  • 工業ナノ物質の適切な管理のための国際的に適用可能な技術的及び法的ガイダンス並びに訓練資料の開発

  • どの様な可能性ある将来の SAICM 財務メカニズムの中で、ナノ物質の安全に関連する財務プロジェクトの可能性

  • ナノテクノロジーと工業ナノ物質に関連する産業側のスチュワードシップの役割りと責任を促進するよう、そして(財務を含んで)意識向上、情報交換、及び訓練活動の支援、並びにそのような国際的な作業のための金銭的貢献を条件なしに提供することによる公共的対話に参加するよう、産業側を勧誘

  • 危険物輸送及び化学品の分類及び表示に関する国際的調和システム(GHS)に関する国連専門家委員会に対して、工業ナノ物質の安全性に目を向けたGHS基準の改造又は開発のための作業計画の緊急な準備を勧告(参照125)。

 2012年にナイロビで開催された第3回国際化学物質管理会議(ICCM3)はひとつの決議を採択したが、それが OEWG ナノ報告書(2011年、ベオグラード)から勧告を引き出した。これらの勧告は、工業ナノ物質の適切な管理のために、改善された透明性の奨励と国際的な技術及び規制のガイダンス並びに訓練資料の開発の勧告を含んでいた。

 ICCM3 はまた、 SAICM 世界行動計画に新たな13の活動を追加することを承認した。この大きな活動範囲は、作業者、公衆及び環境をナノ物質の潜在的な有害性から保護するためのアプローチを開発すること;工業ナノ物質の可能性ある短期的及び長期的な職業的健康影響の理解を強化するために保健分野が積極的に関与すること;製品供給/使用チェーン内で製品のライフサイクルを通じて、工業ナノ物質の存在に関する情報の入手可能性を促進すること、そしてそれにはおそらく工業ナノ物質の表示、及びGHS基準の見直しを含むであろう(参照126)。  これらの活動の実施は、UNITAR により開発されたナノテクノロジー政策とプログラムを開発するためのガイダンス文書とともに、”南( Global South)”におけるナノテクノロジーとナノ物質の安全な管理のための能力構築を支援することに役立つことができるであろう。しかし、それらの実施には、適切な資金提供と多様な利害関係者の関与を含んで、ナノ物質の安全な管理に対応する強い政治的決意が必要である。

4.2 ”南(Global South)”のナノテクノロジーとナノ物質のためのナノガバナンスと規制の枠組み

 ”南(Global South)”には、特にナノ物質の安全性に対応して設計された規制の枠組みはない。しかし、ナノテクノロジー政策プログラムを確立している国の数は増大している。数多くあるこれらの国には、南アフリカ、モロッコ、エジプト、ブラジル、ナイジェリア、アルゼンチン、メキシコ、ベネゼイラ、イラン、ベラルーシ、キルギスタン等が含まれる(参照127)。その政策プログラムは、範囲と野心が大きく異なり、多くの国は単に曖昧な研究連携と革新戦略を、可能性ある負の影響に言及せずに規定しているだけである。逆にタイは、拡充していく政策の枠組みの確立において、はるかに進んでおり、それは厳格な研究連携戦略から包括的なアプローチにまで展開している。

 2003年、タイは、国家科学技術開発機関と科学技術省の管轄の下に、国家ナノテクノロジー・センター(NANOTEC)を自治権のある機関として設立した。NANOTEC は、ふたつの役割をもつ。すなわち国家研究開発 センターとしての機能、及び大学や公的研究所の研究活動を支援するための資金供給機関としての機能である(参照128)。NANOTEC の設立の後、タイは2004年から2012年の間に、首尾一貫した政策の枠組みを確立する方向に徐々に前進した。

 2004年、2004年−2013年の国家ナノテクノロジー戦略が採択された。2007年−2011年の期間のためのナノテクノロジー・センターのためのマスター・プランを採択することによる NANOTEC の強化の後、タイは現在、ナノ安全ロードマップとナノ安全ガイドラインを開発することにより、人の健康と環境への影響に関するワークショップと公聴会を開催することにより、そして経済協力開発機構(OECD)の工業ナノ物質に関する作業部会との連携を増大することにより、その管理(ガバナンス)アプローチの範囲を拡大している。NANOTEC タイはまた、明年、タイの農家のために設計された新たなナノベースの応用の発表を開始するであろうことを発表した(参照129)。タイにおけるナノ革新を歓迎する明確な態度、及び製品広告における規制のないナノ主張のために、タイもまた“Nano-Q”と呼ばれるナノ認定制度を開発中である。この自主的な認定制度は、偽のナノ主張を防止することを目的に、製品中のナノ物質の存在を保証するためにナノ物質を含んでいるある製品にラベル表示する。

4.3 EU における規制の状況

 本報告書の第4章の導入部で述べた通り、EU は2004年に、”ナノテクノロジーのための欧州戦略に向けて(Towards a European strategy for nanotechnology)”と題する欧州委員会からのコミュニケーションの採択により、最初の戦略的アプローチを開発した(参照130)。この コミュニケーションの目的は、ナノサイエンス(科学)とナノテクノロジー(技術)に関する議論を制度上のレベルに持ってくることであった。それは、ヨーロッパのナノテクノロジーの開発への統合された責任あるアプローチを提案した。欧州委員会は後に2005-2009年ヨーロッパ行動計画(参照131)及び責任あるナノサイエンスとナノテクノロジー研究のための行動規範(参照132)を採択し、2008年に欧州委員会は、ナノ物質の最初の規制の見直しを発表した(参照133)。この最初の規制の見直しは、ナノテクノロジー管理関連問題に対応するために利用できる既存の法令に関する詳細を提供する作業スタッフ用文書(参照134)を伴っていた。

 この最初の規制の見直しは、当時の一般的なアプローチに従い、”現在の法令はナノ物質に関連する潜在的な健康、安全、及び環境リスクを原則としてカバーしている。健康、安全、及び環境の保護は、現在の法例の実施を改善することによって強化される必要がある”と結論付けた(参照135)。この見直しの結論は多くの利害関係者により、特に欧州議会によりナノ物質の規制に焦点をあてた2009年4月の報告書で批判された(参照136)。

 報告書の中で、欧州議会は明確に次のように述べている。

”現在の欧州共同体の法令の適切な評価がなされる前に、そしてナノ特定条項がそこにない時に、次の点で欧州委員会の結論に欧州議会は同意しない:
 a) 現在の法令はナノ物質に関連するリスクを原則としてカバーしている。及び
 b) 健康、安全、及び環境の保護は、現在の法例の実施を改善することによって大部分が強化される必要があるが、ナノ物質に関連するリスクを評価するための適切なデータ及び手法が欠如しているので、それらのリスクに対応することは事実上不可能である”。

 ”欧州連合により唱道されたナノテクノロジーへの’安全で統合された責任あるアプローチ’のコンセプトは、既に市場に出ているナノ物質、特に消費者の直接暴露をともなう繊細な応用におけるナノ物質の使用と安全に関する情報の欠如によって危うくされるものであると考える”。

 ”ライフサイクルにわたる潜在的な健康、環境又は安全影響をともなう製品中のナノ物質の全ての応用について安全を確実にするために、そして法的条項と実施の手段が作業者、消費者、及び/又は環境が暴露するかもしれないナノ物質の特定の機能を反映することを確実にするために、欧州委員会は全ての関連法令を2年以内に見直すことを要求する(参照137)”。

 欧州議会によるこの要求にしたがい、ナノ特定の条項を含んで、多くのEUの分野法令が見直され、またナノ物質に対する REACH の妥当性に関する活発な議論も展開された。

4.3.1 ナノ特定条項を含むEUの分野規制

4.3.1.1 化粧品

 2009年11月30日の化粧品に関するEU規則(参照138)は、特定のナノ条項を含む世界で初めての法的に拘束力のある文書であった。それは多くの点で不完全であるが、その採択の時点では画期的な躍進であった。

 この2009年の規則は、紫外線フィルター、着色剤、又は保存剤はポジティブリストに掲載されるべきことを求めている(参照139)。これらの場合には、この規則は、バルク形状物質が既に認可されている場合に、そのナノ形状のものについて特定の認可を求めている。上記の3つのカテゴリー以外の目的のために使用されるナノ物質については、市場にナノ物質を出すことに責任がある者又は会社が、6か月前に欧州委員会に届け出て、物理的、化学的、毒性学的、生態毒性学的、及び暴露データを含むデータ一式を提出しなくてはならない(参照140)。この規則はさらに特定のラベル表示の義務を課している。それによりナノ物質は、成分リストの中の成分名の隣に、ブラケットの中にナノ([ナノ])と具体的に記述されなくてはならない。この新たな規則は2013年7月に発効した(参照141)。

 残念ながら、この規則は欧州委員会のナノ物質定義のための勧告が出る前に採択されており、その結果、ナノ物質は非常に制限的な方法で定義されている。すなわち、”不溶解性又は生物学的残留性(biopersistent)があり、少なくともひとつの外形寸法が1〜100 nm の範囲で意図的に製造されている物質(参照142)”である。この狭い定義は、特定の安全評価と届出条項の利益を化粧品中で使用されるナノ物質の小さい一部に限定する。しかし、修正条項がこの規則には含まれており、2018年までに他の規則と調和させる可能性を残している。

4.3.1.2 食品に関する消費者への情報

 2011年3月1日、(ラベル表示及び特定の安全評価義務を含んだ)ナノ物質に関連するいくつかの特定条項を含むEU新規食品規則の修正版は、クローン動物からの肉の問題に関して欧州理事会と欧州議会との間に合意が得られず、採択されなかった。このことは、食品中でのナノ物質の使用を規制する動きに重大な逆行をもたらした。この新規食品規則を修正するもう一つの試みが発表された。

 新規食品規則を修正するこの試みに失敗してから数か月後、ナノ物質特定条項が消費者への食品情報の条項に関する規則の中にうまく含められた(参照143)。新規食品規則の将来の見直しにおいてナノ物質の特殊性の考慮を勧告した後(参照144)、この規則は、化粧品規則の中にすでに含まれている義務(ブラケット中のナノという語が成分リスト中の成分名の後に示されるべき)と同様なラベル表示の義務を課している(参照145)。ナノ物質の定義は、全ての意図的に製造された少なくともひとつの外形寸法が1〜100 nm の範囲の物質及とともに、ナノスケールの特性を持つ、又は同一物質のバルク形状特性とは異なる特性を持つ、このサイズ外のアグロメレート(agglomerate)とアグリゲート(aggregate)を含む(参照146)。この定義は欧州委員会により勧告された定義とは異なり、したがって規制の一貫性を保つために修正されるべきである。しかしそれは、化粧品規則に含まれる定義より包括的である。この規則はまた、ナノ物質の定義を変更することを許す条項を含む。欧州委員会の勧告するナノ定義に基づくそのような修正のための提案は、2013年12月に欧州委員会により提唱された。しかし、その提案は、既に市場に出ている全ての食品添加物をこの定義から(そして追加的なナノ規則及び開示義務から)除外したので、EU議会はそれに反対した。この規則を修正するために用いられた手続きの目新しさのために(参照147)(delegated act as introduced by article 290 Lisbon Treaty)、この報告書を書いている時点で、次のステップはその点においてどの様になるのか、そして消費者への食品情報の提供に関する規則の中でナノ物質の定義が修正されるのか、もしそうならいつなのかについて、明確ではない。

4.3.1.3 殺生物剤

 2012年5月10日、欧州理事会は殺生物剤規則を採択したが、それはナノ物質の使用のための特定の条項を含んでいる(参照148)。殺生物剤規則は、現在までのところ、かつて採択されたナノ規則の中で最も強固な規制の例である。

 殺生物剤規則は、唯一の例外として意図的に作られたものではないナノ物質をその範囲から除外した以外は、欧州委員会により勧告されたナノ物質の定義を大幅に取り入れている(参照149)。

 殺生物剤規則は、EU又は個々の加盟国レベルで製品に事前の認可を課す。活性物質の承認は、もし明示的に述べられていなければ、ナノ物質を含む同じ活性物質を承認することにはならない(参照150)。毒性学的及び生態毒性学的データは、物質の特定の特性に対応するためになされた技術的改造及び調整はもちろん、供給されるデータはナノ物質にとって適切であるということを明記しなくてはならない(参照151)。

 この規則はさらに、ナノ物質は簡便認可手続きに適格ではなく、環境へのリスクと人間及び動物の健康へのリスクは、別々に評価されなくてはならないということを明記している(参照152)。活性物質と同様に、殺生物剤製品の認可のために提出されるテストデータは、なぜそのデータがナノ物質に適切なのかに関する詳細を提供しなくてはならない参照155)。

 この規則はさらに、ナノ物質を含む殺生物製品及びナノ物質を含む殺生物剤製品で処理された物品は、それに応じてラベル表示されなくてはならないことを義務付けている。両方とも、そのラベル上に全てのナノ物質の名称と、その後にブラケット内に”ナノ”と表記することが求められる。しかし、ナノ物質を含む殺生物製品の製造者は、”どの様な特定の関連リスク”をも特定するさらなる義務を負うが、この義務は、今日までの他のどのようなナノ物質へのラベル表示要求よりも踏み込んだものである。この規則は2013年9月1日に発効した。

4.3.2 REACH とナノの議論

 (訳注:REACH の概要については、この章の最後に示すコラム:REACH を参照ください。)

 EU の化学物質に関する基本的な規則である REACH は、ナノ物質の健康、安全、及び環境へのリスクに対応するための規制の要(かなめ)であると考えられる。特に REACH 登録は、ナノ物質に関する問題ある知識のギャップを埋めるために理想的なツールであると一般的には言われている。しかし、第一次登録期限(訳注:2013年5月31日)までに収集された限定された情報は、ナノ物質に関して期待に応えていないことを示している。

 欧州議会報告書に応答して発表された二回目の規制の見直しの中で、欧州理事会は、もっと明確な要求が枠組みの中に必要であることが証明されたことをしぶしぶ認めたが、それでも REACH はナノ物質のリスク管理のための可能性ある最良の枠組みを規定しているとする意見を再び述べている(参照156)。残念ながら欧州委員会は、REACH がナノ物質に適用される時に生ずる REACH の枠組みの重大な抜け穴とギャップを適切に特定することに失敗し、したがって、それについて十分でない改造を提案した。

 欧州委員会の REACH に関連する二回目の規制の見直し時に、適切に検討されなかった又は対応されなかった4つの領域がある(参照157)。
  • ナノ物質の段階的導入:REACH はその発効前からすでに市場にあった物質(いわゆる段階的導入(フェーズイン)物質)と、新規物質(いわゆる非段階的導入(非フェーズイン)物質)とを区別する。目下のところ、もしある物質がそのバルク形状で段階的導入物質であるとみなされるなら、同じ化学的成分を持つナノ物質は、その新規さ又は全く別の特性とプロフィールを持っていても、そのバルク形状物質の段階的導入状態の恩恵を自動的に受ける(参照158)。結果として、そのようなナノ物質は、たとえ登録者当たり年間100トン以上の量が製造又は輸入されていても、2013年6月1日の期限までに登録されなかった。登録者当たり年間1〜100トンの量で製造又は輸入されるような物質は、2018年まで登録されず、ナノ物質を取り巻く知識のギャップをさらに先延ばしすることになる。現在、市場にあるほとんどのナノ物質は段階的導入による恩恵を受けている”親物質”に由来するので(参照159)、現在市場にあるナノ物質の大部分は、REACH の根底にある”ノーデタ・ノーマーケット”原則に直接矛盾して、登録を遅らせる恩恵を受ける。

  • ナノ物質のトンネージ閾値:生産量は、物質が REACH の対象となるか、もしなるならどのように扱われるかを決定する上で重要な役割を果たす。大雑把にいえば、生産量が多くなれば、より多くのデータとより早い登録が要求される(参照160)。REACH 登録要求は、製造者又は輸入者当たり年間1トン又はそれ以上の生産量の物質だけに適用される。この生産量閾値は、通常もっと少量で生産されるナノ物質にとって、全く不適切である(参照161)。さらに、稀なケースであるが、登録者当たり年間1トンの閾値以上生産されるナノ物質の場合、これらのナノ物質のほとんどは段階的導入状態の恩恵を受けるであろう。結果として、登録書類一式により求められる情報は、物質の物理化学的特性に限定され、現在は”高懸念物質”だけに求められる、どのような毒性学的及び生態毒性学的情報も、暴露情報とともに、特に要求が無ければ、除外されるであろう(参照162)。同様な懸念が、川下サプライチェーンの情報入手可能性にもある。

  • ナノ物質のリスク評価:新規の及び新たに特定された健康リスクに関する科学委員会(SCENIHR)(参照163)及び独立系研究者(参照164)らによれば、そして上記で議論された他の制限にもかかわらず、REACH の脈絡でナノ物質に関して利用可能とされるどのようなリスク評価情報も、ナノ物質の明確なハザードと暴露経路を考慮していないテスト・ガイドラインに基づくことになるであろう(参照165)。さらに、ナノ物質の大部分が由来するバルク形状の物質が有害であると分類されなければ、この有害でないという特性は、特定のナノ形状影響に関するデータを生成する追加的な要求なしに、ナノ物質にも適用されるであろう。かくして、ナノ物質は、その特性を評価するさらなる要求なしに、ライフサイクル全体を通じて動くことができることになる(参照166)。

  • ナノ物質の特定:最後に、REACH は現在ナノ物質を定義しておらず、その物質がナノ物質であるかどうかの最終的決定は登録者に任せている。この決定は、大部分が登録者自身の基準によりなされるであろう。この規則(REACH)自身にナノ物質の定義がないことは、上述した3つのギャップに対応するために開発される措置の一様な実施を妨げるであろう。欧州委員会の提案する定義に基づくナノ物質の定義を REACH ガイダンス文書に含めるだけでは、この混乱をはっきりとさせるためには不十分であり、ガイダンスは法的拘束力がないので、この問題に対応するには役に立たないであろう。REACH の実施に混乱を生じることに加えて、この状況は、現在市場にあるナノ物質についての情報を収集するための主要な規制のツールとして REACH を使用するための努力をひどく損なうように見える、適切なリスク管理措置を定義し実施するための努力を損なうであろう。この様な制限があるなら、現状の様式の REACH は、意思決定者又は使用者がナノ物質のリスクを管理するのに役立たない。
 REACH 改訂プロセスの複雑さ、特にテキストの中核を修正するためのプロセスの複雑さを考慮して、欧州委員会を含む数多くの利害関係者らが REACH そのものを再度協議することの適否と実行可能性を問うた。この脈絡において、これらの利害関係者らは特定された REACH の欠点、特にナノ物質に関連する欠点に対して、代わりの手法を通じて、対応することを推奨した。

 REACH そのものの変更を回避するために、ナノ物質の独自の特性に対応しつつ、その有効性を確実にする一方で、多くの利害関係者らは、独立型の規則の形でこの規則に”ナノ・パッチ”をあててその欠点に対応する可能性を示唆している(参照167)。

 そのようなナノ・パッチ規則は、REACH ツールと条項ナノ物質に関してがどのように適用されるべきかを明確にするであろう。2012年3月の報告書の中で提案された後(参照168)、そのような解決策の検討が、オランダにより主催されたワークショップにおいて加盟国と利害関係者の代表のグループにより促された(参照169)。同様に、この問題は2012年6月の環境理事会会合で討議された。11の加盟国(オーストリア、ベルギー、チェコ共和国、デンマーク、フィンランド、フランス、イタリア、ルクセンブルグ、スペイン、スウェーデン、オランダ)及び1加盟候補国(クロアチア)は、公式書簡を欧州委員会に送り、”ナノ・パッチ”又は”緊急性を考慮して最も適切な方法”を通じて上述の REACH の抜け穴を埋めるよう要請した。

 その他の利害関係者と加盟国もまた、ナノ物質に関連する REACH のギャップの分析を行っており、それらに対応するための代替案を提案した。中でもドイツの連邦労働安全衛生局は、REACHの下にナノ物質の規制に関するドイツ当局の立場を反映する背景論文を発表した(参照170)。同論文は、どの様な特別のテスト義務がナノ物質に求められるか、どの様なトンネージ閾値をそれらに適用すべきか、そして表面処理されたナノ物質はどのようににみなされるべきかを明確にするために、 REACH 規則そのものを更新することを推奨している。同報告書は特に年間 100 kg 以上生産される全てのナノ物質の簡略登録の創設と、年間 1 トン以上生産される全てのナノ物質のより詳細な登録要求、そしてナノ物質に必要な量依存、及び特定のデータ要求をもつ、REACH のトンネージ閾値の修正を提案している。

 欧州委員会は現在までのところ、2012年10月に発表されたナノ物質の2回目の規則見直し中のものを含んで、これらの要求に対応することを拒否している。ナノ物質の現在の事実上の規制のギャップに関して、NGOs (参照171)やスウェーデン化学物質庁(参照172)のような利害関係者は前に進んで、”ナノ・パッチ”規則とはどのようなものかを示す実際の草案を提案している。オランダは、2012年3月に開催した彼らのイベントに対するフォローアップ・ワークショップを、2013年3月に”EUナノ規則のためのビルディング・ブロック”と題して開催した(参照173)。

 最終的に、2013年6月、欧州委員会は、2014年のうちにREACH 附属書の改訂につながるべきプロセスを立ち上げた。その趣旨で、欧州委員会は、次のような可能性ある附属書改訂オプションを一式発表した。すなわち、”現状”、”REACH によるナノ物質の規制的負荷の軽減”、”不確実性を減らすために対象とした情報を生成するための追加的強調”である。(参照174)。ナノに特化したリスク評価条項を導入する必要があったにもかかわらず、REACH 附属書の改訂はナノ物質に関連して REACH 規則の中で特定されたギャップに十分に対応するためには、たとえ最良の可能性あるシナリオ(すなわち”不確実性を減らすために対象とした情報を生成するための追加的強調”シナリオ)に基づいたとしても、不十分である。

 欧州委員会に最良の可能性ある証拠の根拠を提供することが意図されたパブリック・コンサルテーションは現在、完了している(参照175)。しかし、欧州委員会は、この仕事を完成させるのに非常な遅れに直面するであろうことは明白である。その間、REACH がナノ物質の評価に必要な情報を出すということは、ほとんどありそうにない。

 その歴史を通して、EU が毒性のない環境のために予防的政策を実施するためにはまだ先が長いが、一般的に EU は化学物質の規制のモデルとして役立ってきた。”南(Global South)”の多くの諸国が現在、REACH をモデルとして彼らの化学物質規制を更新しており、ナノ物質の製造と使用を規制するかどうか、もしするならどのようにするかを評価するために EU を見ているので、ナノテクノロジーの開発と利用のための包括的な予防的アプローチの採択を推進するために、EU はナノ物質のための REACH に基づく規制の枠組みを柔軟に改変することが重要である。

コラム

REACH

 REACH(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals/化学物質の登録、評価、認可及び制限) は、EUの包括的な化学物質規則である。その目的は、競争力と革新を強化しつつ、欧州連合内で製造され、輸入され、市場に出され、又は使用される化学物質から人の健康と環境を高いレベルで保護することを確実にすることである(参照153)。2006年に採択されたときに、 REACH は1970年代からの法律を含んで、既に市場に出ている数万の化学物質は安全であると仮定する数十の既存のEU化学物質法にとって代った。1970年代まで使用されていた既存の化学物質は安全であるとするこの仮定は、アメリカでは産業化学物質について現在でも有効であるが、世界中の多くの諸国が REACH のようなシステムに向けて動いている。

 既存の化学物質は安全であるとするこの仮定とは逆に、REACH は、”データなければ、上市なし(no data, no market)政策を前提としている。年間1トン以上製造される又は輸入される化学物質は、欧州化学物質庁(ECHA)に登録されなくてはならない。

 この目的のために、製造者と輸入者は、化学物質の固有の特性のあるものを報告しなくてはならない。REACH の段階的構造の下では、最も多量に製造される化学物質又は有害特性を持つことが知られている化学物質は、より多くのテストを求められ、登録プロセスにおける早い段階に登録されることになっている。

 欧州委員会スタッフ作業文書に記述されたナノ物質の2回目の規則見直しによれば、”化学物質規則、特に REACH は、ナノ物質に関連する健康、安全、及び環境へのそれぞれのリスクに対応するための要(かなめ)をなす”(参照154)。


5. 結論と勧告

 ナノ物質は様々な点でバルク物質と異なる。物理化学的特性の相違は、しばしば毒性学的及び生態毒性学的ハザードにおける相違の中で反映される。ナノ物質の新たな応用の開発を約束するこれらの相違はまた、しばしば健康と環境への新たなリスクを暗示する。

 新たなリスクによる人の健康と環境への不可逆的影響を避けるために、全ライフサイクルを通じてナノ物質を適切に管理する必要がある。首尾よくナノ物質を管理するために、既存の法的枠組みは改造され、新たな法的文書が必要であろう。

 現在、ナノ物質のリスクは、十分に確認されたテスト手法が欠如していることともに、これらの新たな物質の暴露とハザードについての情報が極めて限定されているので、適切に評価することができない。この知識のギャップを埋める研究の取組みは重要であり、強化されるべきである。しかし、たとえナノ毒性学的及びナノ生態毒性学的研究が急激に増大しても、市場に出ている又は開発中のナノ物質は非常に多様であり、また応用科学と製品開発の発展が急速であるということをその理由の一部として、知識のギャップを短期的又は中期的期間に十分に埋めることはありそうにない。

 したがって、ナノ物質を扱う規制の枠組みは、既存の早期の警告の兆候と永続する不確実性に対応するために、予防的アプローチが必要である。実際に、予防的アプローチは、重大な有害影響の可能性がある時には、不確実性の領域を扱うよう特に設計されている。

 ナノ物質市場とナノ物質を含む製品のより良い知識は、規制当局からナノ物質を扱う作業者や消費者まで、全ての利害関係者にとって極めて重要である。自主的手段では、この情報提供をあてにできないことは経験が示している。ナノ物質の義務的な登録制度を設立することが効率的な規制プロセスと適切な物質の追跡可能性を確実にするために必要である。

 しかし、ナノ物質の独自のリスクと特性に完全に対応する規制の枠組みが導入されるなら、これらのナノ登録は理想的にはバルク形状の化学物質の登録と統合されるべきである。

 今日、作業者は、ナノ物質の潜在的な健康影響に対して最初に、そして最も激しく曝される集団である。この状況は、廃棄物処理段階を含んで、サプライチェーンのすみからすみまで潜在的に暴露する作業者に情報を伝えることが必要である。潜在的に有害な物質の代替、可能な限り閉鎖系と他の工学的制御の使用、及びナノ物質の特殊性に対応するために適切に設計されたな防護機器の使用を優先するような適切な防護措置が採用されるべきである。作業者の健康を守るために、そしてナノ物質の潜在的な影響についての我々の理解を増すために、ハザードに関連する既存の不確実性を考慮して、暴露シナリオと防護措置の適切性の評価、ナノ物質の製造、取扱い又は廃棄に関わる作業者の生物的モニタリングが勧告される。

 ナノ物質を含む製品、特に消費者製品のラベル表示は、消費者の情報に基づく選択への権利を確実にするために必要かもしれない。現状の不確実性に照らして、透明性はこの技術の安全な使用と合理的な開発を確実にする要である。

 特にEUでは:
 既存の分野別法令の見直しが継続しているので、ナノ物質に関連する特定の条項が含まれなくてはならず、特定のナノ条項を既に組み入れている既存の規則は、一貫性を持たせるために、特にナノ物質の定義が関わる部分は修正する必要がある。

 ナノ物質の特定、ナノ物質の現在の段階的導入(フェーズイン)状態、不適切なトンネージ閾値、そして関連情報要求のような REACH の抜け穴は、その規則が有用で効率的な手段を提供するために、ふさがれる必要がある。利害関係者及びスウェーデン化学物質庁により提案されたように、REACH の’ナノパッチ’が最善の解決のように見える。ナノの寸法もまた全ての関連する法的枠組みの中で統合されるべきである。

 最後に、ナノテクノロジーの開発とナノ物質の使用を検討する時には、南北の不平等(inequalities)と不公平(inequities)に特別の配慮が払われることが最も重要である。『南(Global South)』は、ナノ廃棄物の処理に関する問題を含んで、ナノ特有の問題に対応するための財政的及び技術的リソースの深刻な欠如に関連する独自の困難に直面している。追加的問題は、既存の南北格差がナノ格差要素を加えることにより増大するというリスクを含むことである。

 この点で、発展途上国及び移行経済国を支援することを含んで、世界的な取り組みが鼓舞され、適切に支援される必要がある。これが実情に合わない場合には(特に『南(Global South)』において)、ナノ物質の製造、使用、及び廃棄は、国家の化学物質管理計画の開発に統合され、検討される必要がある。

 学者らは(参照176)、新たに出現している開発のための技術を評価し、先進諸国及び途上諸国の考え方を統合しつつ、ナノテクノロジーの潜在的なリスクと機会を特定し、潜在的な’ナノ格差’の影響を探究するための新たな国際的ネットワークを求めている。

 そのような世界的ネットワークは、研究委託と結果の収集、開発のためのナノテクノロジーの潜在的応用の意識向上の促進、リスク管理と世界の公共財の促進のための新たな規制制度の創設(又は既存の制度の上に構築)、全ての利害関係者−政府、産業、学界、及び市民団体−先進国だけでなく、その権利が今日まで大幅に無視されてきた途上国−のためのフォーラムの開催のための拠点として機能するであろう。

 2009年以来、SAICM は、これらの役割の一部、特に全ての利害関係者がナノ物質に関連する特定の問題を議論するためのフォーラムの役割を、『南(Global South)』の状況に特に焦点を当てつつ、果たしてきた。SAICM が、その全ての潜在的能力を発揮し、ナノテクノロジーの開発と使用のために世界的な予防的アプローチを促進するために、持続した政治的意思と SAICM の下でのナノ関連活動のための資金調達が保証されなくてはならない。工業ナノ物質の予防的管理のための国際的に適用可能な技術的及び法的ガイダンス及び訓練資料が特に必要とされる。その趣旨で、包括的で透明性のあるプロセスが可能な限り早く立ち上げられるべきである。

(完)


添付 1 : ナノ応用を示すテーブル(参照177
分野 製品カテゴリー 製品(例) 備考
装と器具 電池
リチウム−イオン電池
ナノ−チタン酸塩電池
コードレス電動工具用電池
自動車用蓄電池
蓄電池技術はナノ応用で最も将来性のある分野のひとつであり、世界中で数多くの研究プロジェクトの対象となっている。
しかし、現在、市場にあるナノテクノロジー及び/又はナノ物質を使用している蓄電池の数は限定されているが、今後、急速に成長することが期待される。
発電装置 新世代太陽電池
薄膜
これらの応用の大部分はまだ開発段階であり、様々な有機及び無機ナノ物質、ナノチューブ、ナノワイヤーの使用を探っている。
冷暖房空調機
空気清浄器
空気清浄器(室内/車)
抗菌空調機
ナノ粒子(主にナノ銀粒子)が主に抗菌特性のために使用される。
大型家庭電化製品 冷蔵庫
洗濯機
ナノ粒子(主にナノ銀粒子)が主に抗菌特性のために使用される。
電子機器とコンピュータ プロセッサー コンピュータ・チップ
メモリー装置
ナノ粒子(カーボンナノチューブ(CNTs)を含む)及びナノテクノロジーが、半導体特性や小型化能力などを含む一連の特性の長所を利用するために用いられる。
表示装置 コンピュータ/電話/テレビの高機能スクリーン
フラットパネル表示
表示面保護フィルム
これらの応用の大部分は、CNTs はもちろん、LED や OLED 技術を採用している。
コーティング 抗菌コーティング(ノートパソコン、キーボード、マウス等・・・)
防曇(カメラのレンズ)
非常に多数の電子機器及びコンピュータ装置が現在、抗菌目的でナノ銀コーティングを導入している。
インク プリンター用インク
芳香化インク
様々なナノ物質を使用するナノ・インク応用は、半導体及び絶縁回路の印刷用途のために調査されている。ナノ・インクはまた装飾技術に使用でき、一方ナノ・ワニスは表示面の耐傷用材料として使用できる。
食品と飲料 食品 カノーラ油
スリムシェイク
ティー
送達担体(delivery vehicle)としてのナノ・ミセル(nano micelles)の使用。食品におけるナノテクノロジーの応用は、多くの議論と論争(市場の食品に正に存在すること、社会的受容、及びそれらの健康影響に関連して)の対象である。
食品接触材料 プラスチック・ボトルのコーティング
抗菌容器
防湿及び抗菌性可食の果物用コーティング
食品容器への応用は非常によく議論されている。現在までのところ既存の応用に関する信頼性のある情報は全く限定されている。
台所用品 抗菌性食卓用金物食器
抗菌性台所用品(まな板、食品容器・・・)
焦げ付き防止鍋
ナノ粒子(主にナノ銀粒子)が主に抗菌特性のために台所用品に使用される。
食品サプリメント ビタミン
金属(主に銀と金)コロイド・サプリメント
食品サプリメントは、ミセル技術及びその他のナノ・カプセル化技術を多用している。非常に多数の製品がオンラインで入手可能である。
自動車 材料科学 軽量材料
コーティング/塗料
オイル/ガス燃料用添加物
ナノ物質は、材料の重量を軽くするため及び新たな表面特性を探るため(インクと塗料へのコメントを参照のこと)使用されている(又はその使用が現在、調査されている)。
オイル/ガス燃料用ナノ添加物もまた、エンジンの耐久性を増し、燃料の消費量を削減するための潜在的な能力が現在、調査されている。
健康とフィットネス 化粧品 日焼け止め
老化防止クリーム
にきび治療
現在市場にある日焼け止めの大部分は、ナノ粒子(ほとんどがナノ二酸化チタンかナノ酸化亜鉛)を含有する。それらはまた、市場にあるナノ物質を含有する化粧品の大部分を占める。
衣料品 ステンレス鋼繊維
防水繊維
織物産業は現在、ナノ銀とその抗菌特性を越えて、多様な応用のための様々なナノ物質の利用を探っている。
スポーツ用品 テニス・ラケット
自転車フレーム
ゴルフ・クラブ
性能強化(軽量化、強力化、・・・)されたスポーツ用品
身体手入れ用品 ナノ銀創傷被覆材
ボデーローション
抗菌ヘアーアイロン
抗菌ひげそり
ナノ粒子(主にナノ銀粒子)が主に抗菌特性のために使用される。
家と園芸 洗浄製品 脱脂剤
床/表面洗浄
超極細繊維
多くの製品がナノ物質の使用を宣伝している。ナノ洗浄製品は数多くの議論を引き起こしている(それらが実際にナノ物質を含んでいるのか、あるいは、それらは使用されたときに健康影響はないのか)。
建設資材 塗料(抗菌、落書き防止、かき傷防止等・・・)
ガラス(自浄式)
コーティング(表面保護)
断熱材
ナノ粒子は新たな特性を表面に加えるために建設資材で大部分使用されている。数多くの潜在的な将来の応用も現在、さらに調査されている。
旅行 旅行かばん(軽量化、又は抗菌特性)
ナノ粒子は大部分、抗菌特性及び/又は防水特性のために使用される。
ペット 抗菌性ペット用品
防汚繊維(クッション用等)
水槽洗浄
ナノ粒子(主にナノ銀粒子)が主に抗菌特性のために使用される。
”健康と環境”への応用 水質浄化 淡水化(塩分除去)
水質浄化
汚染水原位置浄化
ナノテクノロジーの水質浄化へのアプローチは非常に多様である(フィルター膜へのナノスケールの細孔の使用からナノろ過のためのCNT又はアルミナ繊維の使用まで)。少数のものはすでに利用可能であるが、大部分はまだ開発中である。
土壌改良 原位置土壌改良 米EPAによれば、原位置土壌改良(大部分がナノサイズのゼロ価鉄を使用)は、土壌改良を促進し、そのコストを削減する可能性を持っている。現在、世界中の数多くの現場で、特にアメリカで、テストが行われている。
医療への応用 疾病診断 ラボオンチップ ("Lab on a chip")
医学的画像とラベリングのためのクオンタムドット
超高感度ナノセンサー
ナノ医療技術は急速に進歩しており、非常に将来性がある分野である。この種の応用に求められる長期間の評価とテストのために、これらの大部分はまだ開発段階か又は臨床試験段階である。
ドラッグ・デリバリー 活性治療薬のためのナノ粒子送達担体(delivery vehicle)

訳注1
FoE Au 2011年10月21日 欧州委員会 産業側のナノ定義への圧力に屈し、人々と環境をリスクに曝す

訳注2
UNESCO 報告書 2006年6月/ナノ技術の倫理と政治(部分訳)

訳注3
アンチコモンズの悲劇/ウイキペディア
 資源の過少利用が社会に不利益をもたらす。例えば、研究などの私有化が進むと、研究成果は知的財産権によって保護され、それによって研究成果や技術の利用が制限される。ゆえに社会は有用な研究成果や技術などが使えなくなる。

訳注4
Nanosafety at the OECD: The first six years

訳注5
SAFENANO 2013年12月6日 フランス、義務的ナノ報告実施の結果 第一弾を発表
SAFENANO 2012年3月5日 フランス 2013年にナノ物質の義務的報告を導入

訳注6
Bergeson & Campbell, P.C., 2013年7月12日 ベルギー ナノ物質登録を創設する法律の草案を欧州委員会に通知

訳注7
NIA News and Alerts 2014年6月18日 デンマークのナノ製品登録指令、本日発効

訳注8
Bergeson & Campbell, P.C., 2013年10月16日 スウェーデン:ナノ物質のための国家行動計画を提案
参照
1. RS and RAE, Nanoscience and Nanotechnologies: Opportunities and Uncertainties. Royal Society & Royal Academy of Engineering, Royal Society (2004).
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5. For an overview and comparative advantages of existing definitions, refer to: JRC Definition Report, supra note 2.
6. JRC Definition Report, supra note 2, at Section 3.1.
7. JRC Definition Report, supra note 2, at Section 3.2.1.
8. 2. There is a growing debate of whether it is appropriate to define nanoparticles only through their size or to limit the definition to particles under 100 nm. See, for example, Friends of the Earth Australia, Discussion Paper on Nanotechnology Standardization and Nomenclatures Issues (August 2008). available at http://www.ecostandard.org/downloads_a/2008-10-06_foea_nanotechnology.pdf).
9. JRC Definition Report, supra note 2, at section 3.3.1.
10. JRC Definition Report, supra note 2, at section 3.3.2
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13. See, for example, The Big Down, Etc Group (2003) available at http://www.etcgroup.org/content/big-down-0, or Friends of the Earth,Out of the Laboratory and on to our plates. Nanotechnology in food and agriculture. (March 2008). available at http://www.foeeurope.org/activities/nanotechnology/Documents/Nano_food_report.pdf.
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http://www.europarl.europa.eu/sides/getDoc.do?pubRef=-//EP//NONSGML+REPORT+A6-2009-0255+0+DOC+PDF+V0//EN&language=EN [Hereinafter The resolution]
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http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2011:275:0038:0040:EN:PDF [hereinafter the Recommendation for a definition of nanomaterials]
18. Article 2 of the Recommendation for a definition of nanomaterials, EU Commission, October 2011, see supra note 17.
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20. See for example Friends of the Earth Australia “European Commission caves to industry pres sure on nano definition, leaves people and environment at risk” available at
http://emergingtech.foe.org.au/european-commission-caves-industry-
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21. See for example, Press release from the European Chemical Industry Council available at
http://www.cefic.org/newsroom/2011/Practical-nanomaterials-definition-needed-to-push-forwardnext-great-innovation-breakthroughs/. (リンク切れ)
22. Recommendation for a definition of nanomaterials, supra note 17, at Article 6.
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84. See supra note 80.
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%20documents/OEWG1%20INF8_Nano%20report.pdf
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88. For an overview of existing databases and registers, see Dutch national institute for public health and the environment , RIVM report 340370003/2010: “nanomaterials in consumerproducts. Update of product on the European market in 2010,” http://www.rivm.nl/bibliotheek/rapporten/340370003.pdf.
89. See for example, ANEC/BEUC inventory of products containing nano silver: “Very small and everywhere”, available at http://docshare.beuc.org/Common/GetFile.asp?ID=44567&mfd=off&LogonName=Guesten.
90. See for example: Friends of the Earth, Consumer guide to avoid Nano-sunscreens (August 2007) available at http://action.foe.org/content.jsp?key=3060.
91. See for example online product database developed by the Friends of the earth Germany (BUND Der Bund fur Umwelt und Naturschutz Deutschland), available at http://www.bund.net/nanodatenbank/ or Japanese inventory of products claiming to contain NMs in Japan, available at http://www.aist-riss.jp/db/nano/e_index.htm.
92. See http://www.nanotechproject.org/inventories/consumer/.
93. See http://www.nanotechproject.org/cpi/.
94. See special Eurobarometer 401 on responsible research and innovation (RRI), Science and technology , November 2013, p20, available @ http://ec.europa.eu/public_opinion/archives/ebs/ebs_401_sum_en.pdf , or Special Eurobarometer 354 Food related risks, November 2010, p42, available @ http://ec.europa.eu/public_opinion/archives/ebs/ebs_354_en.pdf.(リンク切れ)
95. Chaudry, Q, Castle, L., Food aplications of nanotechnologies : An overview of challenges and opportunities for developing countries, Trends in Food science and technology 22, 595-603 (2011).
96. . Friends of the Earth, Out of the Laboratory and on to our plates. Nanotechnology in food and agriculture, (March 2008), available at http://www.foeeurope.org/activities/nanotechnology/Documents/Nano_food_report.pdf.
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99. Available in English at http://nano.taenk.dk/wheres-the-nano.(リンク切れ)
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101. Schenten, J, Fuhr, M.. Law and innovation in the context of nanomaterials: Barriers to sustainable development? Result of an empirical study, 2 ELNI Review 12 (2012).
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107. Law 2010-788 of 12 July 2010, relating to the national commitment for the environment (Grenelle law II), Art 185; Decree 2012-232 of 17 February 2012 on the annual declaration of substances at the nanoscale, and Ministerial Order of 6 August 2012, relating to the content and submission conditions of annual declarations.
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109. See supra note 108.
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111. See supra note 111.
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http://www.saicm.org/images/saicm_documents/iccm/ICCM2/emerging%20issues/
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http://www.saicm.org/images/saicm_documents/meeting/afreg/Abidjan%202010/
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, on page 27.
119. http://www.saicm.org/images/saicm_documents/meeting/grulac/
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, on page 21.
120. UNITAR, Guidance for developing nanotechnology policy and program, (2011), pilot edition available at
http://www.unitar.org/cwm/sites/unitar.org.cwm/files/
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121. For more details on the UNITAR pilot projects see http://www.unitar.org/cwm/nano/pilotprojects.(リンク切れ)
122. See SAICM/OEWG.1/INF/8, September 2011, supra note 80.
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124. Id. at pg 51.
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http://www.saicm.org/images/saicm_documents/iccm/
ICCM3/K1283429-%20SAICM-ICCM3-24%20-%20Report%20-%20%20advance.doc
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127. More information can be found in regional booklets focusing on the Social and Environmental implications of nanotechnology development, developed by the International POPs Elimina
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130. Towards a European strategy for nanotechnology, COM(2004)338, available at http://ec.europa.eu/nanotechnology/pdf/nano_com_en.pdf.
131. " Nanosciences and nanotechnologies: an Action Plan for Europe 2005-2009" (COM(2005) 243) available at http://ec.europa.eu/nanotechnology/pdf/nano_action_plan2005_en.pdf.
132. Commission Recommendation ,"Recommendation on a code of conduct for responsible nanosciences and nanotechnologies research” (Jul. 7, 2008). Available at http://ec.europa.eu/nanotechnology/pdf/nanocode-rec_pe0894c_en.pdf.
133. First communication on regulatory aspects of nanomaterials, 2008, available at http://ec.europa.eu/nanotechnology/pdf/comm_2008_0366_en.pdf.
134. Commission staff working document accompanying document to the Communication from the Commission to the European Parliament, the Council and the European Economic and social Council Committee on the regulatory aspects of nanomaterials. Com (2008) 366 final, 17 June 2008, available at http://ec.europa.eu/nanotechnology/pdf/com_regulatory_aspect_nanomaterials_2008_en.pdf.
135. First communication on regulatory aspects of nanomaterials, 2008, 11, see supra note 134.
136. Report on the regulatory aspects of nanomaterials, (2008/2208(INI)), See supra note 14.
137. Id.
138.. Regulation (EC) No 1223/2009 of the European Parliament and Council of 30 November 2009 on cosmetic products, available at http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2009:342:0059:0209:EN:PDF.
139. Regulation on Cosmetic product, supra note 138 at Article 14 c), d) and e).
140. Regulation on Cosmetic product, supra note 138 at Article 16.
141. Regulation on Cosmetic product, supra note 138 at Article 19.1 g).
142. Regulation on Cosmetic product, supra note 138 at Article 2 k).
143. Regulation (EU) No 1169/2011 of the European Parliament and of the Council of 25 October 2011 on the provision of food information to consumers available at http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2011:304:0018:0063:EN:PDF.
144. Regulation on the provision of food information to consumers, supra note 143 at recital 24 a).
145. Regulation on the provision of food information to consumers, supra note 143 at Article 18.3.
146. Regulation on the provision of food information to consumers, supra note 143 at Article 2 r)
147. http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/ALL/;jsessionid=PGWNTFnHsWmJ22BS47
pMmcMTQ7dgvyQnyDpm98HC0VBJRcBLyQv6!219564187?uri=OJ:C:2007:306:TOC
, article 290.
148. Regulation (EU) 528/2012 of the European Parliament and of the Council of 22 May 2012 concerning the making available on the market and use of biocidal products, available at http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2012:167:FULL:EN:PDF.
149. Recommendation for a definition of nanomaterials, EU Commission, October 2011, see supra note 147.
150. Biocide Directive, supra note 148 at Article 4.4.
151. Biocide Directive, supra note 148 at Annex III.5.
152. Biocide Directive, supra note 148 at Article 19.1 f).
153. Regulation of the European Parliament & Council No. 1907/2006, Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals Regulation, 136 O.J. 3, 18 (2007). [hereinafter "REACH"]. Available at http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2007:136:0003:0280:en:PDF.
154. Communication from the Commission to the European Parliament, the Council and the European Ecnomic and Social Committee. Second regulatory review of Nanomaterials COM(2012)572 Final. at 11 (Oct. 3, 2012). Available at http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=COM:2012:0572:FIN:en:PDF.
155. Biocide Directive, supra note 148 at Annex III.5.
156. Id. at 11.
157. For a detailed analysis of the discussion summarized below, see : Azoulay, D.. Just out of REACH : How REACH is failing to regulate Nanomaterials and how it can be fixed, (2012), available at http://www.ciel.org/Publications/Nano_Reach_Study_Feb2012.pdf.
158. European Commission, Environment Directorate-General & Enterprise & Industry Directorate-General, Follow-up to the 6th Meeting of the REACH Competent Authorities for the Implemen tation of Regulation (EC) 1907/2006 (REACH), CA/59/2008 rev. 1 (Dec. 16, 2008), at 7-8, 10. Available at http://ec.europa.eu/enterprise/sectors/chemicals/files/reach/nanomaterials_en.pdf.
159. Hansen, S.F., Michelson, S.F., Kamper, A., Borling, P., Stuer-Lauridsen, F., Baun, A., Categorization Framework to aid Exposure Assessment of Nanomaterials in Consumer Products, Ecotoxicology 17, 438-447 (2008).
160. There are exceptions to this principles relating to the registration of substances meeting certain toxicity criteria (i.e.: Carcinogen, Mutagen, Reprotoxic, Persistent or bio-accumulative). This exception is however not deemed relevant in the context of the present study, as enduring data gap preclude that any nanomaterials be the object of such toxicity classification in the near future.
161. See, for example, the substance of manufacturer Sigma-Aldrich, catalogue no. 519308 Carbon nano- tube, single-walled Carbo-Lex AP-grade 50-70 % purity as determined by Raman spectroscopy, tubes in bundle of length about 20 μm, which is sold in quantities of 0.25 g or 1 g v (price for 1 g: 250.70 euros), in M. Fuhr et al., Legal appraisal of nanotechnologies, Existing legal framework, the need for regulation and regulative options at a European and national level. Final Report, UBA, 2006, available at http://www.umweltdaten.de/publikationen/fpdfl/3198.pdf.(リンク切れ)
162. REACH, supra note 153 at Annex VII.
163. Scientific Committee for Emerging and Newly-Identified Health Risks, Opinion on the appropriateness of the risk assessment methodology in accordance with the Technical Guidance Documents for new and existing substances for assessing the risks of nanomaterials, Brussels:European Commission Health & Consumer Protection Directorate-General at 26 (June 28, 2007) Available at http://ec.europa.eu/health/ph_risk/committees/04_scenihr/docs/scenihr_o_010.pdf.
164. Lee, R.G., Vaughan, S.. REACHing Down: Nanomaterials and Chemical Safety in the European Union. Regulatory Governance Standing Group, Regulation in the Age of Crisis, Conference Paper at 18 (2010). Available at http://regulation.upf.edu/dublin-10-papers/5B3.pdf.
165. See also Box Text 1
166. UK Royal Commission on Environmental Pollution, Novel Materials in the Environment: The case of nanotechnology, 27th Report, at 63, § 4.39 (November 2008).
167. Just out of REACH, supra note 157.
168. Just out of REACH, supra note 157.
169. Conclusions of the workshop available at
https://www.google.ch/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=1&ved=0CDIQFjAA&url=
https%3A%2F%2Fsecure.rivm.nl%2Fdsresource%3Ftype%3Dpdf%26objectid%3Drivmp%
3A119609%26versionid%3D%26subobjectname%3D&ei=Rb8zUZalMcfHtAaDlIHoCQ&usg=
AFQjCNFWEl6DCWAA7YsnW_fd6Jl7JAcnBA&bvm=bv.43148975,d.Yms&cad=rja
.
170. “ Nanomaterials and REACH. Background paper on the Position of German Competent Authorities”, UBA, BFR, BAUA, 2013, English summary available at
http://www.reach-clp-helpdesk.de/de/Downloads/Hintergrundpapier%20Nano%20und%20
REACH%20engl.%20Version.pdf?__blob=publicationFile&v=2%20target=%22_BLANK%22
.
171. Azoulay, Buonsante, Vengels. High time to act on nanomaterials, A proposal for a ‘nano patch’for EU regulation (2012). Available at http://www.ciel.org/Publications/Nanopatch_EU_Nov2012.pdf.
172. Swedish Chemical agency (KEMI) draft proposal to amend REACH regulation to ensure the safe handling of nanomaterials: http://www.kemi.se/Documents/Forfattningar/Reach/Draftproposal-regulation-nanomaterials.pdf.(リンク切れ)
173. Chairman report of the meeting available at http://nanotech.lawbc.com/uploads/file/00112829.PDF.
174. See “EU Commission consults on NMs”, Chemical Watch (June 24, 2013).
175. Available at: http://ec.europa.eu/yourvoice/ipm/forms/dispatch?form=NanomaterialsREACH(リンク切れ)
176. See supra note 83.
177. UNITAR, Guidance for developing nanotechnology policy and program, (2011), annex I, pilot edition available at:
http://www.unitar.org/cwm/sites/unitar.org.cwm/files/
UNITAR%20nano%20guidance_Pilot%20Edition%202011.pdf
.

Naturskyddsforeningen. Box 4625, SE-116 91 Stockholm.
Phone + 46 8 702 65 00.
The Swedish Society for Nature Conservation is an environmental organisation with power to bring about change. We spread knowledge, map environmental threats, create solutions, and influence politicians and public authorities, at both national and international levels. Moreover, we are behind one of the world’s most challenging ecolabellings, “Bra Miljoval”(Good Environmental Choice). Climate, the oceans, forests, environmental toxins, and agriculture are our main areas of involvement.
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