欧州委員会プレスリリース 2009年10月9日
EU 環境委員スタブロス・ディマスのスピーチ
ナノテクノロジー 将来の課題


情報源:EUROPA Press Release 09/10/2009
Stavros DIMAS European Commissioner for the environment Nanotechnologies…challenges for the future
Stakeholder Conference on Nanomaterials on the market Brussels, 9 October 2009
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/09/460&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2009年10月18日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/eu/091009_EC_Stavros_DIMAS.html


【ブリュッセル 2009年10月9日】
 紳士並びに淑女の皆様、おはようございます。まず最初にナノ物質に関するこの会議(訳注1)に皆様を歓迎いたしたいと思います。非常に重要で課題のあるトピックを皆さん紹介することは私の喜びです。多くの政策策定者、公共機関、NGOの代表者らとこの会議で本日お会いできて喜ばしい限りであり、私はこの会議の開催に支援いただいたEU議長国スウェーデン政府にまず感謝いたします。

 ナノ物質は、例えば忌まわしい(infamous)ナノ銀ソックスからテニスラケットや印刷用インクまで、市場の多くの製品中にすでに見ることができます。

 ナノテクノロジーは多くの将来を約束してくれます。それは私たちの生活を前向きに変化させる新たな製品を作り出すだけでなく、EU産業の競争力を増幅させるでしょう。

 ヨーロッパはこの分野の先頭にいます。EUは過去10年間にナノテクノロジーに関する研究開発への投資を拡大してきました。第7次フレームワークプログラムの下に2007年から2013年までの間に約34億ユーロ(約4,600億円)ですが、この中にはナノ関連電子機器の分野は含んでいません。

 しかし、これは、今後20年、30年したら我々の日常生活にその成果が届くというような純粋な研究課題だけではありません。ナノ物質はすでに市場に出ており、ナノテクノロジーの世界市場は非常に急速に成長しているということは明らかです。ナノ物質を使用した製品がますます多くなるにつれ、多くの重要で法的な疑問が提起されるようになりました。すでに使用されているこれらのナノ物質は何なのか? EU市場でどのくらいの製品が入手可能なのか? それらの物質特性は何なのか?

 本日、私たちは、埋めなくてはならない情報ギャップについて及びそれに関連してEUの化学物質規則 REACH がどの程度、それに答えているのかについて、目を向けます。言い換えれば、REACHはナノ物質に関連するかもしれないリスクを評価し管理するために適切なツールであるか? ということです。

新たな技術−新たな課題
 紳士並びに淑女の皆様、

 私たちは今、かつてない新たな発明、技術、製品を生み出すダイナミックな世界に住んでいます。このことは一般的に便益をもたらすので私たちは歓迎することです。これは特に化学物質にとって真実であり、有害であると知られる古い化学物質は、より有害性の低い新たな化学物質に代替されるべきです。

 ナノテクノロジーが、製造者、消費者、雇用者、患者、及び環境にとって便益を約束する科学の興奮するような新しい領域であることは疑いありません。

 環境委員として私は、私たちが直面する多くの環境的課題に対応することの助けになるどのような技術も喜んで受け入れられ、私たちのツールボックスになるに違いないと信じます。

 ナノテクノロジーは、エネルギー消費を削減し、再生可能なエネルギー源の効力を増し、汚染された水、空気、土壌を処理するのに役立つかもしれません。これらは、ナノテクノロジーが確かな便益を生み出すことを期待する領域のいくつかの例です。

 しかし、他のどのような新規技術と同じように、それはまた、潜在的な新たなリスクをもたらすかもしれません。ナノ物質は特別の特徴と新奇な特性を持ち、それらはどのようなリスクも、とりわけ健康と環境に対するリスを最小にするために注意深く検討される必要があります。

 現時点では、ナノ物質の潜在的な影響についてほとんど知られておらず、ナノテクノロジーの健康と安全の面について多くの不確実性がまだ存在します。そして、これらの不確実性を解くことは環境に責任がある委員として私の関心ごとであり責任でもあります。

 規制の課題は、健康、安全、環境の保護を高いレベルで確保しつつ、ナノテクノロジーの新たな応用から得られる社会的な便益を確実にすることです。

既存の規制の枠組みは適切か?

 ナノテクノロジー及び、この技術の利用を通じて可能となる製品は、いかに新たな革新的技術が私たちの規制の枠組みに挑戦するかということについてのひとつのよい事例であります。

 現在、EUは世界で最も先進的な化学物質規則、REACHを持っています。

 REACHは、ナノ物質を含んで全ての化学物質の安全な使用を確実にするためにあります。ナノ物質はまた、原則として化学物質の定義に基づき、REACHによってカバーされます。したがってREACHにおける一般義務は、たとえ明示的にナノ物質に言及する条項がなくても、他の物質と同様に適用されます。

 したがってREACHは、ナノ物質を含んで化学物質が人の健康と環境に有害ではないということを確実にするために、原則として効果的な法的枠組みを提供します。

 REACH決定のプロセス時に、その実施についての実現可能性とコストが長い間議論されました。会社の管理コストと環境保護のレベルとの間の公平なバランスがとられました。

 このバランスにおける主要な要素のひとつが1トンという登録のための量的閾値であり、これは10kgを新規物質の届出義務の閾値としていた以前の規則よりもはるかに高い閾値です。

 問うべき重要な疑問は、これは特にナノ物質に関連することですが、この閾値よりも低いものが健康と環境にリスクを及ぼすかどうかということです。標準的な化学物質については、トン数の閾値は適切であると私は信じますが、しかし疑問はこれが等しくナノ物質についても真実であるかどうかということです。

 議論は仮定にに基づけは容易に行うことができるでしょう。しかし大事なことは実際的であり情報に基づいてもたらされるべきであるということであり、そのことは、政治家としての私たちの責任は高いレベルの保護を可能とするリスク管理を行うことなので、非常に重要なことです。

 本日の会議は欧州委員会環境総局による取り組みであり、危険な状態にあるこの問題の範囲と特性について最良の情報を政策決定者に提供するために、必要な事実とデータの研究に基づいてこの問題を議論するためのものです。

 ナノ物質の使用と特性についてのよりよい情報を得ることは、情報に基づく効果的な政策決定とリスク管理に向けたまさに最初にとられるべき必要なステップです。私たちが偏見のない心を持ち、データと情報を収集し、公開されたプロセスにおいて選択肢を考慮するなら、最良の長期的な成果を得ることができると確信しています。

問題の範囲

 第一に、私たちは、今日、製造されているナノ物質の数量、そして近い将来、どのくらいの数量が予測されるかという観点で、EUのナノテクノロジーの規模を理解する必要があります。

 登録システムがないので、そのような情報を収集することは容易ではありません。もっと問題を難しくしているのは、ナノ物質の定義についての完全な合意すらないことです。

 したがって今日の会議は、このことの解決に着手するための最初のよい機会です。

 私たちがヨーロッパ市場にあるナノ物質の範囲とと特性に関するよりよいアイディアを持てば、私たちは少し後戻りしてREACHをよく見直すことができます。わたしたちはナノ物質の大部分の登録が2010年中になされるのか、あるいは2018年の登録期限までになされるのかどうか、さらにREACHの下では登録されないナノ物質があるのかどうかを検討する必要があります。

 私たちはまた、REACHがナノ物質に適切であるかどうか見るために、REACHの他の主要な条項を見る必要があります。

 欧州議会は、今年の4月24日に決議を採択(訳注2)してこの議論に関与しましたが、それはこれらの問題に関して私たちが持たなくてはならない公開された議論のために非常に歓迎される貢献です。議会は、ナノテクノロジーは重要な便益をもたらし欧州連合の競争力に貢献することができることを認めています。一方、議会は、ナノ物質は潜在的に新たなリスクをもたらし、現在のナノ物質についての議論は知識と情報の著しい欠如によって特徴付けられることを認めています。

 私たちの法規制は、特定のナノ条項なしに又はリスク評価のための適切なデータと手法を持たずにナノ物質に関連するリスクをカバーしているのかどうかという疑問を提起しています。その結果、議会は、適切な方法でナノ物質に関連するリスクに目を向けるために規制の変更が必要かどうか検討するよう欧州委員会に要請しました。議会は、化学物質、食品、廃棄物、大気、水、及び労働者の保護に関する法規の範囲内で明示的にナノ物質に目を向けることが特に重要であると考えています。

 これに対応して欧州委員会は、二年以内に、全ライフサイクルを通じて健康、環境、又は安全に関わる影響をもつ可能性のある製品中の全てのナノ物質の応用の安全を確実にするために、全ての関連する法令を見直すでしょう。

 多くの異なる欧州委員会の機関は広範な要求に対応して貢献するに違いありません。したがって、今日の会議は市民の健康と環境の最大の保護を確実にすることに関連するいくつかの疑問に目を向けることを試みる最初の限定されたステップです。この会議が、欧州委員会がその将来の作業の中から便益を得る議論を開始することに役立つということが私たちの希望です。

 これらの問題を本日議論するときに、ナノ物質についてのもっと多くの情報を求めて、いくつかの加盟国又は非加盟国によってすでに採用されている措置を見ることもまた重要であります。ナノ物質の使用に関して、少なからず、いくつかの加盟国と市民の一部にある懸念があることを私たちは記憶にとどめる必要があります。

 例えば、ある加盟国は、当局が産業側と協力して利用され市場に出されているナノテクノロジーについてよりよい知識を持てるよう、産業側の自主的な報告制度を立ち上げました(訳注3)。欧州委員会は必要とする情報をいかに正確に得るかについてその考えをまだまとめていません。今日の会議は、私たちは規制の枠組みの適切性を注意深く見直すととともに、短期間でこの情報を収集するための最良の方法を見つけることに私たちの意見を反映させるために貢献するでしょう。

 紳士ならびに淑女の皆さん、

 REACHは数千の化学物質に存在する膨大な情報ギャップを埋めるために制定されました。これを実現するプロセスはすでに着手されています。

 技術の進展と共に、それは新たな解決を提供します。しかしそれはまた安全についてのた新たな疑問を提起しますが、EU条約に掲げられた基本的な原則、すなわち予防原則に従い、これらの問題に目を向け、市民と環境のための最も高いレベルの保護を確実にすることが私たちの義務であります。

 私は、この議論を前に進めるであろう本日の討議が実りあるものとなることを期待しています。私たちが見ることができるように、カバーすべき多くの問題があり、私は全ての参加者にとってよき会議であることを望みます。


訳注:関連記事
訳注1
訳注2
訳注3


化学物質問題市民研究会
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