米国立環境健康科学研究所 EHP 2009年4月号
これから先、ナノテクノロジーには何があるのか?
情報源:Environmental Health Perspectives Volume 117, Number 4, April 2009
Forum
What Lies Ahead for Nanotechnology?
http://www.ehponline.org/docs/2009/117-4/forum.html#what

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年5月11日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ehp/ehp_09_April_What_Lies_Ahead_Nano.html


 原子又は分子のスケールで機能物質を扱う工学せあるナノテクノロジーは、最も急成長する科学技術分野のひとつである。ラックス研究所(Lux Research)の2004年報告書『Sizing Nanotechnologys' Value Chain』によれば、ナノテクノロジーを導入した製品の世界の販売高は2014年までに2兆6,000億ドル(約260兆円)に達すると予想される。しかし、多くの消費者製品中でナノ物質の使用が増大しているので、潜在的な環境、健康、職業、一般的な安全と危険について、ますます懸念が生じている。アメリカ科学振興協会(American Association for the Advancement of Science)(訳注1)の2009年の年次総会で、科学者らは、ナノ物質使用における健康と環境政策への影響とともに、最近のナノ毒物学研究について討議するために、”我々のナノ・ヘッドライトが照らす先を越えて運転する(Driving Beyond Our Nano-Headlights)”と題するセミナーを開催した。

ナノテク市場成長では健康・フィットネス関連製品が首位
2006年3月8日〜2008年8月21日 ”ナノ対応”健康・フィットネス関連製品は約4倍の成長
出典: The Project on Emerging Nanotechnologies
http://www.nanotechproject.org/inventories/consumer/

 スピーカーのブラウン大学教授アグネス・ケインは、1998年に最初に導入された概念であるクリソタイル・アスベスト繊維とカーボンナノチューブ(CNTs)の類似性に言及した。ブラウン大学研究者ロバート・ハートと協力して、ケインはこの二つの物質を比較して、表面積、物理的特性、及び幾何学的特徴における類似性を発見し、カーボンナノチューブ(CNTs)はヒトの体内でアスベストのような挙動を示すかもしれない可能性を提起した。また、新たに設計された細胞培養モデルを使用して、ケインの研究室の大学院生バネサ・サンチェスは非常に低用量のカーボンナノチューブ(CNTs)(1 μg/mL)がアスベスト繊維で起きるのと同様な肉芽腫(にくげしゅ)(granulomas)として知られる病変を引き起こすように見えることを発見した(訳注2)。さらにカーボンナノチューブ(CNTs)は、ケインが肉芽腫に発展するのではないかと疑うカゴ状の構造を形成した。

 ケインはまた、マウスの腹腔の中皮膜をカーボンナノチューブ(CNTs)に暴露させたエジンバラ大学のケン・ドナルドソンらによる研究を引用した。(ヒトでは、アスベストは中皮膜上の珍しいがん、中皮腫を引き起こすことが知られている。)ドンルドソンのグループは『ネイチャー・テクノロジー2008年6月号』に、この暴露がアスベストと同じ炎症と肉芽種形成を含む病因影響を起こしたことを報告した。

 サンチェスの新たな細胞培養モデルは、ナノ物質の潜在的な有害健康影響をスクリーニングすることができる数少ない手法のひとつである。これらの線に沿って、ナノ毒性学研究の実施における様々な課題は、米国立環境健康科学研究所(NIEHS)長官オフィスの上席科学顧問であるサリー・ティンクルにとって中心的な関心ごとである。ティンケルは、ナノ粒子の形状と製造は、体内でどのように作用するかということともに、粒子の反応性に重大な影響を与えるであろうと述べた。”ナノ物質は、エネルギーや水の浄化のように、世界の重要な問題解決のために途方もない約束をしてくるれが、これらの新たな物質は新規な物理的及び化学的な特性を持っており、我々はまだそれらの生物学的システムとの作用がどのようになるのかについて知らない”と彼女は述べた。

 ティンクルはナノ物質のための毒性学的データの解釈の様々な問題について言及した。EHP2007年2月号に発表されたロチェスター大学のギュンターオバドルスターらの書簡を引用したが、そこでは毒性学的データはナノ物質の質量を見ているのか表面積を見ているのかにより異なった解釈をすることができると彼女は指摘した。さらに、ノースカロライナ州立大学のナンシー・モンテリオリビエールらによって実施された同じナノ物質サンプルに関する6つの一般的な毒性学的分析において、ある分析は暴露の著しい影響を示したが、他の分析は何も示さなかったとティンクルは言及した。カーボンナノチューブ(CNTs)もまた分析の正確さを危うくすることが発見されたが、ナノ毒性学者らはまだそのよう干渉の存在と影響をよりよく明らかにする適切なポジティブ及びネガティブなコントロールを特定していない。

 米食品医薬品局(FDA)の科学担当副局長ノリス・アルダーソンは、製造分野における関連する課題−すなわち、安全性と効能を確実にするために、製造におけるバッチ間で一貫性(主にサイズ、形状、成分純度の点において)を保証することの課題を提起した。”例えば、あなたが粒子の大部分が50nmであるであるナノスケール物質を買ったとしよう”とアルダーソンは言った。”しかし、その粒子サイズに上下の変動幅がある場合、あなたはそのサイズの分布を変えたり、安全性と効能が同じ特性の物質を購入することができるだろうか?”。 。”

 ナノ物質製造のための適切な標準を確立することは、大統領府科学技術政策局(White House Office of Science and Technology Policy)の国家科学技術会議(National Science and Technology Council)ナノテクノロジー部門代表トラビス・アールスにとって重要な関心ごとである。

 アールスはそのような標準化はすでに国内でも国際的にも進行中であると述べた。”それは、基準の開発という点で、まだ少し(西部)開拓の段階である我々がナノテクノロジーの商業用途への革新を成功させるのも失敗するのも最終的にはその状況によるので、。標準化の取り組みは非常に重要である”。

 これらやその他の課題にも関わらず、ナノ・ヘッドライの照らす先にあるものは何でも目を向けようとする科学者らの楽観主義の音色をトアールスは響かせている。連邦政府の環境・健康・安全研究に特別に向けた資金は、2005年には3,480万ドル(約34億8,000万円)であったが2008年の5,860万ドル(約58億68,000万円)となった。 多省庁機関である国家ナノテクノロジー・イニシアティブの今年度の資金供給は7,640万ドル(約76億4,000万円)に増額され、他のどの国の直接投資額よりはるかに多い(訳注3)。

グラエム・ステンプもーロック(Graeme Stemp-Morlock)


訳注1:American Association for the Advancement of Science (AAAS)
アメリカ科学振興協会 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

訳注2:カーボンナノチューブとアスベスト
訳注3:関連情報


化学物質問題市民研究会
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