米国立労働安全衛生研究所
NIOSH Science Blog 2009年3月19日
多層カーボンナノチューブへの亜慢性暴露後の
持続性肺線維症、肋膜への移動、及び他の予備的な新たな発見


情報源:NIOSH Science Blog Mar 19, 2009
Persistent Pulmonary Fibrosis, Migration to the Pleura, and
Other Preliminary New Findings after Subchronic Exposure to
Multi-Walled Carbon Nanotubes
http://www.cdc.gov/niosh/blog/nsb031909_mwcnt.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年4月12日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/niosh/niosh_blog_090319_mwcnt_mice.html


 多層カーボンナノチューブ(MWCNTs)は、様々な応用を約束する工業的ナノ物質の一種である。これらは、より強くて堅固な建材の生成、がん治療の改善、エネルギー生成、貯蔵、搬送のより効率的な手段の創造、コンピュータ処理の高速化などの可能性を含む。しかし、他の種類の工業的ナノ物質と同様に、MWCNTs の潜在的な職業健康への影響は、この技術が新たに立ち上がった現在、十分に理解されていない。安全衛生の医師やビジネス専門家らの広範なグループは、MWCNTs が製造や産業的利用に関わる作業者に健康リスクを及ぼすかどうかを決定するために、そしてこの技術の責任ある開発をもたらすために、研究が極めて重要であることに合意している。この新たな物質が提供する多くの約束から社会が便益を得るために、この問題はよい研究に基づく先を見越したアプローチがとられなくてはならないということは一般的な合意である。

 ひとつの重要な研究手段は MWCNTs の毒性学的側面の探求である。取り扱われる必要のあるいくつかの重要な疑問は次のようなものである。
  • これらの物質が体内に取り込まれると、それらは体内の生物学的システムとどのように作用するのか?
  • 結果として、遺伝子、細胞、組織にどのような影響が出るのか?
  • それらの影響は、それ自身が、あるいは引き続き起きる影響への早期の警告として、健康リスクを及ぼすか?
 米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)はこの分野における先駆的研究を鼓舞し、設計し、実施し、報告するために協力者らと緊密に働いている。本日(訳注:2009年3月19日)、毒物学会(Society of Toxicology)の2009年総会において、NIOSHの研究チームが、科学者及び政策決定者らが遂行中のリスク評価に必要とするデータに意義深く加わる新たな予備的な科学的発見を報告した。この予備的な発見は、NIOSHの同僚や協力者らにこの研究に関する新たな情報を提供し、この科学的フォーラムの舞台で相互の関心を引きつけるために、この総会において発表された。これらの予備的な発見の概要は、Toxicologist 108:A2193, 2009 で見ることができる。我々は、総会での発表の結果、これらの予備的データに広い関心が集まることを承知しているので、我々はここでこの研究についてコメントし、またこの予備的データは公式にはピアレビューされていないことに留意したい。もっと完全なデータは、ピアレビューされた科学的文献での将来の発表のために我々が準備している論文に含まれるであろう。

 NIOSH の研究者らは、大気中に浮遊する物質の吸入とよく似た方法として、物質を液体中に浮遊させ、その小滴を実験動物に吸引させる咽頭吸引法により、実験マウスに多層カーボンナノチューブを暴露させた野心的な研究について報告した。研究者らはマウスの肺の炎症及び肺の繊維症の発生を示したが、それらは引き続く暴露で持続した。そのような影響は、以前に単層カーボンナノチューブを使用した NIOSH 研究者らによって報告された間質性肺繊維症に似ている。

 新たな知識の生成に関して最も意義深いことは、この研究は MWCNTs が肺から肋膜(肺を囲む組織)に移動する能力があることを立証したことである。この予備的な発見は、実験マウスによって吸入されたカーボンナノチューブが実際に肺中の肺胞(ガス交換に重要な肺中の小さな構造)から肺を通じて肋膜に移動できることを示した最初のものである。この予備的な発見は、MWCNTs が肋膜に転移して耐久性のある繊維のように振舞うらしいことを示す意義深い新たな証拠を提供している。

 この予備的な発見は二つの疑問に対して決定的には答えていない。
  1. 作業者によって吸入されると、MWCNTs 又は広い範囲の様々なカーボンナノチューブは作業者の肺から肋膜へ移動するか?
  2. もし、MWCNTs が肺に吸入された後に肋膜に移動するなら、他のよく研究された繊維であるアスベストのように中皮腫を引き起こすのか?
 しかし、この予備的発見は、マウスとヒトの体のシステムが似ているなら、そのような移動が可能であることを示した最初の科学的証拠を提供している。これらの予備的な発見は、マウスへの MWCNTs の腹腔内投与(腹腔膜への注射)後の腹膜の炎症と中皮腫を報告した他の研究者らによる以前の研究と合わせると、更なる研究に追加的な正当性を与えるものである。

 この発見が確信をもってヒトのリスク評価に使用できるまでには、さらなる研究により調査され、処理され、答えが出される必要がある制限がこの発見には存在する。これらの制限には、用量の程度、暴露方法(咽頭吸引法)、使用された C57BL/6J 系マウスからの一般化可能性(generalizability)などが含まれる。これらの発見は、異なる用量で、吸入で、そしてラットのような異なる動物種で、更なる研究が必要であることを指摘するものである。

 暫定的に、我々はプレレビューされた発表を準備し、引き続く研究の必要性に備えるので、これらの新たな予備的発見は、MWCNTs の製造と使用における作業者の職業的暴露を管理する強固なアプローチを続けることを含んで、慎重なリスク管理実施のシステムを採用する必要性を強化するものである。新たな研究は多くの健康と安全に関する疑問に継続して対処するが、慎重で先を見越した戦略を求めるある程度の不確実性は存在し続けるであろう。この慎重戦略は、NIOSH の文書 Approaches to Safe Nanotechnology(安全なナノテクノロジーへのアプローチ)の中で、さらなる研究が現在の知識のギャップを埋めるまでそのような暴露を管理するための暫定的な勧告とともに、その概要が示されている。ナノテクノロジーの労働安全衛生への影響に関する NIOSH の発見と勧告に関連する追加的な情報は NIOSH のナノテクノロジー・トピック・ページで見つけることができる。 NIOSH は、その戦略的研究プログラムが米国内及び国際的な勧告と政策のための基礎を形成することを喜びとする。

- Vincent Castranova, Ph.D., Ann Hubbs, Ph.D., Dale Porter, Ph.D., and Robert Mercer, Ph.D.

 カストラノバ(Castranova)博士は、健康影響研究部門(HELD)の病因論及び病因論研究支所(PPRB)の主席である。ハブス(Hubbs)博士は獣医学病因論者であり、ポーター(Porter)博士は肺毒性学者であり、マーサー(Mercer)博士はPPRB/HELDの生物学技術者である。著者らは全て肺毒性学の専門家である。


訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
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