ウッドロー・ウィルソン国際学術センターPEN ニュース 2008年5月19日
アスベストに似たカーボン・ナノチューブは アスベストのように作用する 新たな研究 長くて細いナノチューブの吸入は アスベストのような健康影響をもたらすかもしれない 情報源:Project on Emerging Nanotechnologies (PEN) News May 19, 2008 Carbon Nanotubes That Look Like Asbestos, Behave Like Asbestos New study shows inhaling long, thin carbon nanotubes may result in asbestos-like health effec http://www.nanotechproject.org/news/archive/mwcnt/ 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2008年6月4日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/PEN/080519_Nanotubes_Asbestos.html 【ワシントンDC】ネイチャー・ナノテクノロジーに本日発表された重要な研究が、”ナノ技術革命”の定番であるカーボン・ナノチューブのある形状のものは、十分な量を吸入するとアスベストと同様な有害性を持つことがあることを示唆している。 この研究は、特定のタイプのナノチューブが暴露してから30〜40年後に肺に発症するがん−中皮腫−を引き起こすかどうかを検証する確立された手法を用いて行われた。その結果は、アスベスト繊維に似た長くて細い多層カーボン・ナノチューブはアスベスト繊維のように作用することを示した。 20年近く前に発見されたカーボン・ナノチューブは21世紀の驚異の物質といわれている。プラスチックのように軽くて鋼鉄より強いこの物質は、新薬、エネルギー効率のよい電池、未来のエレクトロニクスへの用途として開発が行われている。しかし発見以来、これらのナノスケールの物質のあるものが有害で、単層及び多層カーボン・ナノチューブを含む全てのタイプのカーボン・ナノチューブの新たな市場を損なうことになるかもしれないという疑問が提起されている。アメリカで出版されている(米化学会の) Chemical & Engineering News の記事によれば、有力な調査会社は全てのナノチューブの年間売り上げ高は今後4〜7年以内に20億ドル(約2,000億円)に達するであろうと予測している。 ”この研究は、まさに戦略的でありナノ技術の安全で責任ある開発を確実にするために必要な研究に焦点を会わせている”と新規出現ナノ技術プロジェクト(PEN)の主席科学顧問であり、この論文の共著者であるアンドリュー・メイナードは述べている。”それは広範な商業的応用が期待されるある特定のナノスケール物質に目を向け、特定の健康への危険性に関して特定の疑問を提起している。科学者らは、長くて細いカーボン・ナノチューブについて10年以上の間、懸念していたが、現在の米連欧政府のナノ技術環境健康安全リスク研究戦略としてこの疑問に目を向ける研究はなされていなかった。” アメリカの有力シンクタンクであるランド社によれば、アスベストへの広範な暴露はアメリカの歴史上最悪の職業健康災害であり、アスベスト関連疾病のコストは2,000億ドル(約20兆円)を超えると言われている。 この研究の共著者でイギリスのアバーディーン大学名誉教授アンソニー・シートン博士は次のように述べている。”1950年代及び60年代に初めて注目されたアスベスト関連がんの死者を弔う鐘は、25年くらい前からアスベスト使用が急速に削減されたにもかかわらず、数十年間経過した現在でも継続している。ナノチューブを安全に使用することができると考える理由はあるが、それはそれらが製造され、使用され、最終的に処分される場所で吸入されることを防ぐ適切な措置に依存する。そのような措置は、暴露に対する研究とリスク防止の研究に基づいた使用の規制でなくてはならない。2004年に英国王立協会によってその結果が予言されたこの研究に従い、我々は最早そのような研究に投資することを遅らせることはできない。” イギリスのエジンバラ大学のケネス・ドナルドソンは長・短のカーボン・ナノチューブ、長・短アスベスト繊維、及びカーボンブラックが中皮腫の前兆として知られる病理的反応を引き起こす可能性を検証した。物質はマウスの腹腔−肺における長繊維反応の敏感な指標−に投与された。 ”結果は明白である”とドナルドソンは述べている。”長くて細いカーボン・ナノチューブは長くて細いアスベスト繊維と同様な影響を示した。” アスベストは、肺の中に浸透するのに十分細く、肺に備わる異物を取り除く機能を妨げるのに十分長いので、有害である。 ドナルドソンは解決すべき難問がまだあると強調している。”我々は、カーボン・ナノチューブが浮遊し吸入されるのかどうか、肺に確かに達するのかどうか?”敏感な外皮に作用するのかどうか等がまだわからない。しかし、十分な量が肺に到達すれば、ある人々は、恐らくその物質を吸入してから数十年後にがんになるであろう”とドナルドソンは述べた。 この研究には希望の光もある。ドナルドソンによれば、”短い又は渦まき状のカーボン・ナノチューブは、アスベストのようには振舞わず、長い細いカーボン・ナノチューブの危険性を知ることによって、我々はそれらを管理するよう働くことができる。それは良いニュースであり、悪いことではない。それは安全なカーボン・ナノチューブとその製品を作ることができることを示している。” しかし、ドナルドソンは、今回の研究は繊維状の挙動についてテストしたものであり、カーボンナノチューブが他の方法で肺を損なうことを免れさせるものではないとしている。”これらの物質をいかに可能な限り安全に使用するかを理解するためには、もっと多くの研究が必要である”と彼は述べた。 カーボン・ナノチューブは黒鉛の原子の厚みのシートを筒状に成形したものである。それらには単層の黒鉛、又は多層同心の黒鉛がある。ナノチューブの径は数ナノメートルから数十ナノメートルまで、長さは数百から数千ナノメータまで様々である。カーボン・ナノチューブは多くの異なる形状、異なる原子配列、他の化学物質の結合があり、それらの全てはその特性に影響を与え、ヒトの健康と環境へのインパクトに影響を及ぼす。 ”これは一般的にナノ技術、特にカーボン・ナノチューブに対する警鐘である”とメイナードは述べている。”社会として我々はこの途方もない物質を利用しない手はないが、アスベストで経験したような愚行も許すことはできない。” 論文のPDF版ネイチャーのウェブサイト(Nature Nanotechnology)から入手できる。 http://www.nature.com/nnano/journal/vaop/ncurrent/abs/nnano.2008.111.html Carbon nanotubes introduced into the abdominal cavity of mice show asbestos-like pathogenicity in a pilot study. Craig A. Poland1, Rodger Duffin1, Ian Kinloch2, Andrew Maynard3, William A. H. Wallace1, Anthony Seaton4, Vicki Stone5, Simon Brown1, William MacNee1 & Ken Donaldson1 参考記事
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