EHP Online 24 June 2009
ナノテクノロジーと原位置修復
便益と潜在的リスクのレビュー


情報源:ENVIRONMENTAL HEALTH PERSPECTIVES
doi: 10.1289/ehp.0900793 (available at http://dx.doi.org/)
Online 24 June 2009
Nanotechnology and In situ Remediation:
A review of the benefits and potential risks
Barbara Karn1*, Todd Kuiken2, Martha Otto1

1 U.S. Environmental Protection Agency, Washington, D.C.
2 Woodrow Wilson International Center for Scholars,
Project on Emerging Nanotechnologies, Washington, D.C.
http://www.ehponline.org/members/2009/0900793/0900793.pdf
Supplemental Material
http://www.ehponline.org/docs/2009/0900793/suppl.pdf

抄訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年8月29日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ehp/ehp_090624_Nanotech_Remediation.html

概 要

  要約(Abstract)
  はじめに(Introduction)
  有害廃棄物処分場(Hazardous Waste Site Remediation)
    背景(Background)
    浄化市場の範囲(Scope of the Cleanup Market)
    ポンプと処理(Pump and Treat)
    原位置修復(In Situ Remediation)
  ナノ修復(Nanoremediation)
    ナノスケールのゼロ価鉄(Nanoscale Zero-Valent Iron)
    実施状況(The State of the Practice)
  潜在的な影響(Potential Implications)
    運命と移動(Fate and Transport)
    潜在的毒性(Potential Toxicity)
  社会的論点(Societal Issues)
  勧告(Recommendations)
    環境中の工業的ナノ粒子を測定し監視するための分析ツールを開発すること
    全生態系に及ぼすナノ粒子の影響を評価するための研究を増やすこと
    原位置修復のためにナノテクノロジーを用いた工学的応用を改善すること
  結論(Conclusions)
  参照(References)
  表(Tables)
  図凡例(Figure Legends)
  図(Figures)


要 約

目的:半導体、記憶装置、ディスプレー、光学及び光学通信技術、エネルギー、生物医学などの分野、及び健康関連分野は最も多くのナノ物質含有製品を製造しているが、ナノテクノロジーはまた、汚染防止、処理、浄化を通じて環境を保護するための環境技術としても利用されている。

 この論文は、環境浄化に焦点をあて、読者に現行の実施、研究成果、社会的論点、潜在的な環境、健康、安全への影響、そしてナノ修復の将来動向の背景と概要を提供する。我々は、ナノテクノロジーの化学的/工学的(chemistry/engineering)手法の徹底的なレビューは示さないが、修復におけるナノテクノロジーの応用の紹介と概要を示す。ナノスケールのゼロ価鉄(zero-valent iron)(訳注1)については少し詳細に議論する。

データ出典:我々は研究調査についてWeb of Science(訳注2)を検索し、ナノ修復技術に関連する応用と影響を扱っている最近の米EPAとその他の公開されている報告書を評価した。我々はまた、特定の現場修復について実施者にインタビューをした。

データ集計:使用されているナノ物質、浄化される汚染の種類、そしてその現場に責任ある組織を示すために、現在実施中の全プロジェクトの代表的な45の現場のデータを集計した。
訳注1:ゼロ価鉄 関連情報
訳注2:Web of Science
Web of Science 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』


ナノ修復

 ナノ修復手法は、汚染物質の変換と解毒のために活性ナノ物質の適用を伴う。これらのナノ物質は当該汚染物質を緩和するために化学的還元と触媒作用を可能とする特性を持つ。ナノ物質の原位置修復では、地下水は地上での処理のためにポンプでくみ上げる必要はなく、土壌は処理と処分のために他の場所に移送する必要はない(Otto et al. 2008)。

 ナノ物質は、原位置修復にとって非常に望ましい特性を持っている。微細なサイズと革新的な表面コーティングのために、ナノ粒子は地表下の小さな空間に浸透し、地下水中に浮遊し、粒子は大きなサイズの粒子よりも遠くまで移動し、広範な分散を達成することができる。しかし、実際には、修復に使用されている現在のナノ物質は、その注入地点から非常に遠くまで移動するというわけではない(Tratnyek and Johnson 2006)。

 ナノスケール・ゼオライト、酸化金属、カーボン・ナノチューブ及びファイバー、酵素、様々な貴金属(主にバイメタルナノ粒子)、及び二酸化チタンのような多くの異なるナノスケール物質が修復用に調査されてきた。これらの中で、ゼロ価鉄(nZVI)が現在、最も広く使用されている。

 補足資料、表1は、潜在的な修復対象である汚染物質とともに異なるナノ物質をリストしている。補足資料、表1に示され、修復に用いられている様々なナノテクノロジー・アプリケーションの化学及び工学、な包括的概要については Theron et al. 2008 及び Zhang 2003 を参照のこと。この論文では、ゼロ価鉄(nZVI)及びその地下水修復での使用に焦点を当てる。

ナノスケールのゼロ価鉄

 ナノスケール・ゼロ価鉄粒子は径が10〜100nmの範囲にあるが、供給者のあるものは、”ナノ粒子”としてマイクロメーター・スケールの鉄粉を売ることがある。典型的には二番目の貴金属(例えば、パラジウム、銀、銅)が触媒として添加される。この二番目の金属は、それ自身と鉄の間の触媒の相乗効果を作り出し、また、地中に注入されるとナノ粒子の分散と移動を助ける(U.S. EPA 2008b; Saleh, 2007; Tratnyek, 2006)。

 これらのバイメタルナノ粒子(BNPs)は、二種以上の異なる金属を含むかもしれない。二番目の金属は通常、活性度が低く鉄の酸化又は電子移動を促進すると信じられている((U.S. EPA 2008b)。貴金属のあるもの、特にパラジウムは、脱塩素及び水素添加を促進し修復をより効率的にする(U.S. EPA 2008b; Zhang, 2006)。

 環境汚染物質(特に塩化溶剤)と鉄との反応化学は広範に研究されており、マイクロスケール・ゼロ価鉄浸透性反応バリアに適用されている(Matheson and Tratnyek 1994)。塩化溶剤には二つの主要な分解経路、ベータ脱離と塩素還元がある。ベータ脱離は汚染物質が鉄粒子と直接接触する時に、しばしば起きる。下記例はトリクロロエチレン(TCE)の経路を示す。
TCE + Fe0 → HC products + Cl- +Fe2+/Fe3+.
 地下水中のゼロ価鉄によって促進された還元条件下では下記の反応が生じる(U.S. EPA, 2008b)。
PCE → TCE → DCE→ VC → ethene
(以下省略)

実施状況

 ゼロ価鉄の実際の適用数は急速に増大している。プロジェクトのほんの一部だけが報告されており、新たなプロジェクトが定期的に出現している。Figure 2及び補足資料Table 2 はナノ修復手法が現場修復のためにテストされた45の現場をリストしている。これらの現場はアメリカを含んで7カ国(訳注:アメリカ、スロバキア共和国、チェコ共和国、ドイツ、イタリア、カナダ、台湾)に及んでおり、アメリカでは17州にある。全ての現場は、PCE(テトラクロロエチレン)、TCE(トリクロロエチレン)、PCB(ポリ塩化ビフェニル)のような何らかの塩素化合物と関連している。他の汚染物質は六価クロム及び硝酸塩である。 この技術は、現場修復のための現行の実施方法の有益な代替のようであるが、潜在的なリスクはほとんどわかっていない。生態系に影響を与える要素とプロセスは複雑であり、環境中の工業的ナノ粒子のヒト健康に及ぼす潜在的な影響の知識はいまだ限定されている。ほとんどの社会的論点は現場修復のためにナノスケール物質を使用することによる未知のリスクに基づいている。現場は、油田、工場、軍事施設、個人所有地及び住宅地である。

Figure 3A は現場で修復に使用されている工業的ナノ粒子のタイプを示す。3分の2以上の現場はゼロ価鉄で処理されており、バイメタルナノ物質の大部分は鉄を含んでいる。Figure 3B は、これらの現場で処理される媒体のタイプを示す。4分の3以上の処理現場は汚染された地下水を含んでいる。

(以下省略)


潜在的な影響

運命と移動

 環境中に放出されると、工業的ナノ粒子はある程度凝集し、天然のナノ物質のように振舞う。しかし、ゼロ価鉄(nZVI)は、効果を持たせるために、水中で安定した分散をする必要があり、汚染領域に水飽和浸透性物質を送り込むやり方がある。さらに、急速な凝集はその移動性を制限する(Phenrat et al. 2007)。ナノスケール鉄粒子は急速に凝集するので、移動性を改善するためにゼロ価鉄(nZVI)の表面を修飾するためのポリマーやその他のコーティングの必要がある(Phenrat et al. 2007)。

 地下水の成分と水文学的条件に依存して、ある種のナノスケール・コロイドは環境中で予想外に長距離を移動する能力を持っている(Kersting et al. 1999; Vilks et al. 1997; Novikov et al. 2006)。それらは地下水中で安定しており、移動性が高く、表面吸着した汚染物質を運ぶナノクラスター(<訳注3)を形成する。これらの天然粒子は酸化還元領域間の物質を運ぶことができ、汚染物質の移動を促進又は抑制することができる(Waite et al. 1991)。
訳注3ナノクラスター

 天然の環境中における天然又は合成ナノ粒子の移動性は、ナノ粒子が完全に分散しているかどうか、凝集し沈降しているのかどうか、又は移動性のあるナノクラスターを形成しているのかどうかに強く依存する。Gilbert et al. (2007) は、多くの工業的酸化金属及びその他の無機ナノ粒子は、天然のナノ粒子に似たクラスター形成挙動を示すことを示唆している。ナノスケール鉱物が環境コロイドの重要な部分を示すという多くの観察があるにも関わらず、ナノ粒子の基本的な凝集と移動の特性は、広範囲には研究されていない。

 自己凝集に加えて、ナノ粒子は、そこから生物蓄積し食物連鎖に入り込むことが可能な浮遊固形物又は沈殿物に関連することがある。これらの運命プロセスは、粒子の特性と環境系特性の両方に依存する(Boxall et al. 2007)。

 環境修復におけるナノ粒子の使用は、必然的に、環境中へ、そしてその結果として生態系へナノ粒子を放出することになる。潜在的リスクを理解し定量化するために、工業的ナノ粒子の移動性、生物利用能、毒性、及び残留性が研究される必要がある(Nowack 2008)。リスクを及ぼすためには、ナノ粒子は本質的に危険(ハザード)で、暴露経路を持たなくてはならない。凝集又は吸収されたナノ粒子は通常、移動性は低いが、ろ過摂食生物(filter feeders)やその他の堆積物中の生物によって摂取される可能性はやはりある。米EPAはナノ粒子の生物濃縮の可能性を提起しているが、この仮説を支持する又は否定するデータはどちらも現在、存在しない(U.S. EPA 2007; Biswas and Wu 2005)。環境中でのナノ粒子の安定性を定量化するために、それらの懸濁液の安定性及び凝集化傾向と他の粒子との作用が最初に決定されなくてはならない(Mackay et al. 2006)。

潜在的な毒性

 表面に銅のような金属が結合した天然由来の酸化鉄粒子が採鉱場から何キロも離れた下流側で発見されており、このことは、これらのコロイド状のナノ粒子が吸着した汚染物質を移動し運ぶ能力があることを示している(Hochella et al. 2005b)。これらの結合特性とプロセスは、結晶質の酸化鉄ナノ粒子に関しサイズ依存の反応性を示すかもしれず、それぞれのプロセスはサイズの関数としての異なる熱化学と運動の関係がある(Madden et al., 2006)。したがって、ナノ粒子事態は有毒性を持たなくても、それらが運ぶ汚染物質が毒性を持つかもしれない。鉄ナノ粒子は、藻類、顕花植物、菌類、植物プランクトンに対して有毒であり(訳注4)、鉄ナノ粒子より毒性が高いものは水銀だけ、そして時には銀である(Sposito 1989)。

訳注4 EHN 2009年8月12日 論文解説 鉄ナノ粒子はヒト肺細胞に有毒

 Handy et al. (2008) は、環境は多くの天然の粒子をナノスケールで含むにも関わらず、工業的ナノ粒子は異なった挙動をするかもしれないと示唆している。これらの物質は、自然の粒子中では見出されないような特別の表面特性と化学特性を持つよう設計されている。工業的ナノ粒子のこれらの特性は、天然の粒子に比べて、新規な物理化学的特性とおそらく毒性学的特性を強める。様々な工業的ナノ物質の広範な生態毒性学的影響が、微生物、植物、無脊椎動物、魚類を含んで、報告されている(Boxall et al. 2007)。魚、ミジンコ、甲殻類、その他の生物を使用した実験室での研究(Adam et al. 2006; Fortner et al. 2005; Lovern et al. 2007; Oberdorster et al. 2006)は、これらの生物が工業的ナノ粒子のあるものを摂取することができることを示している。

 生態毒性に影響を与える要素とプロセスは複雑であり、生物に及ぼす工業的ナノ粒子の影響は、溶解性、凝集性、粒子表面特性、環境暴露の特性、及び、生物化学、生理学、行動に関する暴露生物の特徴を含む広範な特性によって決定される(Dhawan et al., 2006)。入手可能なデータは、環境中の工業的ナノ粒子の環境とヒトの健康に及ぼす現在のリスクは多分低いであろうことを示しているが(Table 3 in Boxall et al. 2007 参照のこと)、環境中でのそれらの潜在的な影響とヒト健康への影響についての知識はまだ限られている。

 超微粒子(100nm以下)に関する研究は、たとえその物質がより大きな形状では毒性がなくても、粒子サイズが小さくなると肺毒性が増大することを示している。ゼロ価鉄(nZVI)は、典型的には製造時の粒子径が10〜数百nmである。実験室の条件では、これらの粒子は凝集し、マイクロサイズにまでなるクラスターを生成する傾向がある。もし、これが起きるなら、それらは実際のナノサイズ粒子に適用される特性を帯びることはなく、より大きな環境コロイドと同様に振舞うであろう(Tratnyek and Johnson 2006)。

 酸化鉄ナノ粒子への吸入暴露は3価鉄を放出し、4価鉄の生成により酸化障害(oxidative damage)が起きる(Keenan and Sedlak 2008)。生体外試験(In vitro)で、低濃度のナノ磁性粒子(nanomagnetite)の中枢神経系への反応の検証は、これらのナノ粒子が細胞中に取り込まれ酸化ストレス反応を生成することを示した。これらの研究は、酸化鉄ナノ粒子の哺乳類動物の細胞への暴露と取り込みによる有害健康影響の可能性を示している。しかし、この研究は、これらのテストは通常起こり得るより高い用量で実施されたとに注意を与えている(Wiesner et al. 2006)。

 ある場合には、酸化鉄ナノ粒子(ゼロ価鉄の酸化還元(redox)反応による可能性ある最終生成物)は細胞により内面化され、細胞死を引き起こすことができる。酸化鉄ナノ粒子の低溶解性は生物系に残留することを可能にし、生物に潜在的に長期的突然変異性影響を引き起こすことがあり得る(Auffan et al. 2006)。しかし、酸化鉄ナノ粒子の細胞との相互作用とコーティングが及ぼす細胞表面癒着、内面化、及び相互作用の影響に関しては限られたデータしかない。
 鉱物ナノ粒子は天然の水系の一般的な成分である。金属硫化物や金属酸化物のような鉱物ナノ粒子を生成する多くの天然の無機的及び生物学的媒介プロセスがある(Labrenz et al. 2000; Villalobos et al. 2003)。ナノスケール鉄(酸化)水酸化物相は、鉄イオンの酸化後の溶液の沈殿物によって形成される最も一般的な金属ナノ粒子である(Van der Zee et al. 2003)。鉄はほとんど全ての生物種の成長にとって重要な元素であるが、自由キレート鉄の過剰は、DNA損傷、過酸化脂質、及び酸化蛋白質ダメージに関係している(Valko et al. 2005)。

 粒子コーティング、表面処理、紫外線照射による表面刺激、粒子凝集は、粒子サイズの影響を変更することができ、これはナノ粒子のあるものは、凝集により又は有毒化学物質の放出を通じて、その毒性影響を及ぼすことができることを示唆している(Nel et al. 2006)。凝集はフラクタル(訳注5)様ではあるが、特に、これらの粒子は特定のナノスケールを利用するために、そのナノスケールで製造されているのだから、凝集しても比表面積と反応性など離散ナノ粒子のもつ特性のあるものを示すかもしれない。
訳注5フラクタル出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 修復中に形成される酸化鉄はさびの形ですでに存在しており、マイクロサイズ鉄粒子に比べてナノ鉄粒子は新たな特性を急激に生成するということは観察されていないので、一般的にゼロ価鉄(nZVI)の毒性について提起される懸念はほとんどない(Watlington 2005)。

 触媒的コーティングを施すことが、これらの特性を変更するかどうか、又は他の有害性を帯びるかどうかについてはまだ調べられていない。 Oberdoerster et al. (2005)らは、毒性研究は単にヒトや野生生物にだけ焦点を合わせるのではなく、水底や土壌の動植物相は食物連鎖の基礎をとなっているのだから、それらに目を向けるべきことを示唆している。生物学的系は、今まで、現在製造され放出されているナノ粒子とともに進化してきたわけではない(Moore 2006)。ゼロ価鉄(nZVI)に対する異なる反応がより低位の生物の中で見つかるかも知れない。

 王立委員会(Royal Commission)の報告書は、ナノ物質の潜在的な影響に対する現在のアプローチを次のように要約している。

 ”現在の新規物質の導入は、環境ハザードの源であると我々に推測させるような明確な出来事はまだ起きていないが、我々は、当初は全く安全であると考えられていた新たな化学物質や製品が、後には環境と公衆の健康に非常に高価についたという過去の経験を十分に知っている”(Royal Commission, 2008)。


社会的論点

 最も社会的な論点は、現場修復のためにナノスケール物質を使用することによる未知のリスクに基づいている。一方の側では、いくつかの環境団体(NGOs)が、安全であることが証明されるまでこの技術の全ての使用を停止するよう試みて予防原則を引き合いに出した。2003年のはじめに、ETC グループはナノテクノロジーに予防原則を適用するよう求める意見書を書いた(ETC Group 2003)。彼らは、その懸念をエリック・ドレクスラーの自己複写し、物体を”グレイ・グー(gray goo)”に変えるナノスケール・マシンの概念に基づいている。ドレクスラーは後にこのイメージを明確にしたが(Phoenix and Drexler 2004)、英国チャールズ皇太子がナノテクノロジーのリスクについて懸念を持ち、英国王立協会にナノテクノロジーの影響について調べるよう頼む以前のことではなかった。彼らの報告書(The Royal Society and The Royal Academy of Engineering 2004)のある部分で、王立協会は環境修復のためのナノ物質の使用に強く反対した。”我々は、自由な(すなわち母材中に固定されていない)工業的ナノ粒子の使用と、環境修復のような環境中での適用、適切な研究が実施され、潜在的な利益の重みが潜在的なリスクに勝ることが証明されるまで、禁止されるよう勧告する”。一方、欧州委員会のEU/新規の及び新たに特定された健康リスクに関する科学委員会は2005年に(European Commission's Scientific Committee on Emerging andNewly Identified Health Risks 2008)ナノテクノロジーンを便益のひとつとして環境修復技術をリストした。このグループはまたリスクに関連する研究を要求した。

 2006年の意見書で、ケベック委員会(Commission de l'Ethique de la Science et la Technologie 2006)は、”最大の潜在的環境暴露源は、汚染された地下水と土壌の浄化に使用されるナノ粒子である。ナノ粒子の高い反応性が植物、動物、微生物、そして生態系に及ぼすという懸念が提起されている”。同報告書は、”どの物質が有害であるかを決定するためにナノテクノロジーの潜在的環境的影響に関する研究の量を増やすことの重要性”を勧告している。他のリスクの枠組み文書が放出されたナノ物質の毒性、運命、移動、生物蓄積についての研究を勧告している(Maynard and Robert Aitken 2006)。米EPAのナノテクノロジー白書(U.S. EPA 2007)は、可能性ある負の影響に関する研究を求めてはいるが、ナノ物質を用いた環境修復の積極的な側面を指摘している。

 2007年、デュポンとエンバイロンメンタル・ディフェンスは、彼らのナノリスクの枠組み(Medley and Walsh 2007)を発表した。彼らは事例研究として、ゼロ価鉄ナノ粒子を選定している。しかし、この技術を用いることの潜在的なリスクを評価するための枠組みの段階に入った後に、デュポンは、”注入又は漏洩後の反応の最終生成物が調査され、適切に評価されるまで、デュポンの現場でこの技術を利用することは考えない”と決定した。デュポンはこの事例研究で、彼らの完全なアウトプット・ワークシートを使用しなかった。

 ナノテクノロジー・リスク管理に関するこれらの様々な論文の間に合意はないが、この技術の潜在的な効能について述べられていることは疑いない。しかし、安全に関する懸念がナノ修復の広範な開発を制限するかもしれない。上記で引用した報告書やその他の発表された報告書は一貫して環境修復への応用にナノテクノロジーを利用することの可能性あるリスクに特化した研究を求めている。その合意は慎重さであり、予防ではない。そして決定的な(definitive)リスクデータがないのなら、この技術は一般的に有害性より有益性が勝るとみなされる。

勧 告

  • 環境中のナノ粒子を測定し監視するための分析ツールを開発すること。
  • 全生態系に及ぼすナノ粒子の影響を評価するための研究を増やすこと
  • 原位置修復のためにナノテクノロジーを用いた工学的応用を改善すること
(詳細は省略)


結 論

 原位置修復手法は、原位置で汚染物質の変換と解毒のために活性ノノ物質の適用を伴う。これらのナノ物質は、化学的還元と触媒作用が当該汚染物質を緩和することを可能とする特性を持っている。地上での処理のために地下水をポンプでくみ上げる必要はなく、土壌は処理と処分のために他の場所に移送する必要はない。ナノスケールの鉄粒子は様々な環境汚染物質の修復と変換のために効果的である。ポンプ−処理修復はコストがかかり運転期間が長いので、原位置地下水処理技術の適用が増えている。ゼロ価鉄の実際の適用数は急速に増加している。プロジェクトのほんの一部だけが報告されており、新たなプロジェクトが定期的に出現している。この技術は、現場修復のための現行の実施方法の有益な代替のようであるが、潜在的なリスクはほとんどわかっていない。生態系に影響を与える要素とプロセスは複雑であり、環境中の工業的ナノ粒子のヒト健康に及ぼす潜在的な影響の知識はいまだ限定されている。ほとんどの社会的論点は現場修復のためにナノスケール物質を使用することによる未知のリスクに基づいている。

 ナノ修復は大規模な汚染現場の浄化の全体的コストを削減する可能性があるのみならず、浄化時間を削減し、汚染されたしゅんせつ泥の処理と処分の必要をなくし、汚染濃度のあるものはほとんどゼロにすることができ、それを原位置で実施できる。潜在的な有害環境影響を防ぐために、この技術が大規模に使用される前に、全面的生態系研究を含んで、これらのナノ粒子の適切な評価が実施されることが必要である。


訳注:関連記事


化学物質問題市民研究会
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