WWICS/PEN 2009年7月8日
汚染サイトの修復:ナノ物質が答か?
世界のナノ利用修復サイト
初の地図がオンラインで入手可能


情報源:Woodrow Wilson International Center for Scholars (WWICS)
Project on Emerging Nanotechnologies (PEN), July 8, 2009
Contaminated Site Remediation: Are Nanomaterials the Answer?
First Map of Global Nanoremediation Sites Available Online
http://www.nanotechproject.org/news/archive/8267/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年7月14日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/PEN/090708_Site_Remediation.html


 新興ナノテクノロジー・プロジェクト(PEN)の研究員であるトッド・クイケン博士らの共著によりエンバイロンメンタル・ヘルス・パースペクティブ(EHP)に発表された新たなレビュー記事は、環境的浄化のためのナノ物質の使用に焦点を当てている。それは、現在の実施状況、判明したこと、社会的問題、潜在的な環境・健康・安全影響、ナノ利用修復(nanoremediation)の将来動向の概要を与えている。著者らは、技術は効果的であり、いくつかの現在のサイト浄化方法の実現可能な代替となり得るが、潜在的なリスクはほとんど理解されていないままであると結論付けている。

 クイケン博士によれば、”ナノ利用修復の潜在的に高い性能と低コストにも関わらず、どのような潜在的な有害環境影響をも理解し、それを防ぐために、もっと多くの研究、特に全面的な生態系への影響に関する調査が必要である。今日までほとんどそのような研究は行われていない”。

 2004年の報告書 『Nanoscience and nanotechnologies: opportunities and uncertainties (ナノ科学、ナノ技術:機会と不確実性)』 で英国王立協会・王立工学アカデミーは、自由な人工ナノ粒子の環境中での環境修復のような適用は、潜在的なリスクと便益に関する更なる研究が実施されるまで禁止されるべきであると勧告した(注1)。欧州委員会の新規の及び新たに特定された健康リスクに関する科学委員会(EC / SCENIHR)は2005年に、ナノテクノロジーの潜在的な便益のひとつとして環境修復技術を認めている一方で、更なるリスク研究を求めている。

 EHP レビューで発表された補足資料は、ナノ物質が土壌及び地下水の修復に利用されている世界7か国及び米国12州をカバーする45のサイトを特定している。議論されている物質の大部分は、地中に注入されれ汚染の分解を可能とするナノスケールのゼロ価鉄(zero-valent iron)(訳注2)である。

 EHPの記事発表と時を同じくして、PENは、オンラインでのインターラクティブな世界のナノ利用修復サイト地図を初めて公開した。その地図はどのようなナノ物質がどこで使用されているのかを示し、また汚染物質処理と処理の特性に関する詳細な情報を含んでいる。それは、汚染された地面と水を処理するための環境中へのナノ物質の意図的な放出に関する唯一の情報源を提供するものである。


ナノ利用修復地図
http://www.nanotechproject.org/inventories/remediation_map/

この地図について
この地図は、ある種のナノ利用修復技術を用いている汚染場所の壱を示す。これらの場所はアメリカを含む世界7か国にある。このプロジェクトの一部だけが報告されているが、新たなプロジェクトは定期的に示されるであろう。汚染場所には油田、製造施設、軍事施設、個人用地、住宅地が含まれる。
 2004年のEPA報告書 (EPA, 2004)(訳注3)は、全米の有害廃棄物処分場を浄化するのに30〜35年の期間と2,500億ドル(約25兆円)の金がかかるであろうと推定している。EPAは、これらの高いコストは、より良く、より安く、より速い汚染場所の浄化をもたらす浄化方法と技術を開発し実施するための動機付けとなることを期待している。ナノ利用修復は大規模な汚染場所を浄化する全体コストを削減するだけでなく、浄化期間を短縮し、さらい上げられた汚染土壌の処理と処分の必要性をなくし、汚染濃度のあるものをほぼゼロに下げることを原位置(その場所)で実施することができる。原位置で実施するナノ利用修復手法は汚染物質をその場で又は地下で変換し毒性をなくすための活性ナノ物質の適用が必要である。汚染地下水を地上の処理場までポンプでくみ上げる必要はなく、汚染土壌を処理及び処分のために他の場所に運ぶ必要はない。”ポンプ−処理”修復の高いコストと長い処理期間のために、その場での地下水処理技術が増大している。

 地下水の修復に加えて、ナノテクノロジーは非水溶性流(non-aqueous phase liquids (NAPL))(訳注4)の存在を減らすことに期待がもたれている。最近、ナノサイズの酸化物(多くはカルシウム)が地下油タンクから漏れ出した油を原位置で浄化するために用いられた。この酸化還元ベースの技術の予備的な結果は、従来の浄化方法に比べて、より早く、より安い方法で、最終的には全体的な汚染レベルをより低くすることを示唆している。これらの場所の多くはニュージャージー州内にあり、環境保護局との協議の下に浄化が実施されている。

 この技術は汚染場所修復のための現在の実施方法に対する有益な代替方法であるように見えるが、その潜在的なリスクはほとんど分かっていない。生態毒性に影響を与える要素とプロセスは複雑であり、環境中の工業的ナノ粒子のヒト健康に及ぼす潜在的な影響の知識はまだ限られている。最も大きな社会的な問題は、汚染場所修復のためにナノスケール物質を使用することの未知のリスクに基づくものである。いかなる潜在的な有害環境影響をも防ぐために、全面的な生態系研究を含む、これらナノ粒子の適切な評価に目を向けることが必要である。

 さらなる詳細なナノ利用修復の分析については、Environmental Health Perspectives を参照のこと。


注1
注2:ゼロ価鉄 関連情報
注3:米EPA白書 関連情報
注4:非水溶性流(NAPL)
  • リサイクルワン用語集より
    http://www.recycle1.com/words/2006/02/napl.html
     NAPLとは、Non-Aqueous Phase Liquidの略であり、水に溶けにくい液体の総称で、難水溶性液体とも呼ばれます。特に土壌汚染の分野では、トリクロロエチレン、四塩化炭素、灯油、 軽油などを指します。NAPLで汚染された土壌の原位置浄化修復においては、揚水曝気やバイオレメディエーション、還元処理等(鉄粉)を用いる修復方法が取られています。



化学物質問題市民研究会
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