ETCグループ ニュース・リリース 2006年10月18日
EPA のナノテク規制:皮肉な限界
浄化か? 沈黙か? 奮起か?


情報源:News Release ETC Group, October 18, 2006
EPA’s Nanotech Regs: Ironic Parameters
Clean-up ? Clam-up ? Screw-up?
http://etcgroup.org/en/node/595

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年11月19日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/etc/ETC_061018_EPA.html

 夏休みの間に、アメリカの指導的環境規制当局は、少なくとも15の新しいナノスケールの化学物質を承認していたとことを認めた。今年の初めにEPAは農薬の汚染場所の浄化のために承認されていない鉄ナノ粒子の使用を認可した。今週のヒアリングで判明した。

 米環境保護局(EPA)のナノ技術への規制の開発に関しては広く開かれた協議を行うと約束したにもかかわらず、政府は15以上の新規のナノ構成の化学物質を市場に導入することに青信号を出した。さらに、EPA自身が多くの場所で有毒物質の汚染場所である”スーパーファンド”の地下水の浄化のために鉄ナノ粒子を実験的にテストしている。承認されたナノ化学物質の成分、潜在的な商業的エンドユーザー、及び製造者の名前すら、EPAの企業機密情報(CBI)条項の下に公表されていない。EPAは今週の木曜日と金曜日(訳注:2006年10月19日、20日)にワシントンDCで産業側と市民団体と会い、ナノスケール物質のための自主的な”スチュワードシップ・プログラム”の計画について討議することになっている。

 ナノスケール粒子(径が約100ナノメートル以下)は同じ成分であってもより大きな粒子とは異なった特性を持つ。サイズを小さくするだけで、物質はより強く、又はより軽く、又はより耐熱性を持ち、又はより高い電気伝導度を持ち、又はより高い毒性を持つかもしれない。人工ナノ粒子の環境と人の健康への影響は未知であり、予測することができず、毒性データはほとんどない。

 8月に、BNA(Bureau of National Affairs 訳注:出版社)が『 Daily Environment Report』に、名前を隠した会社がシロキサン表面処理を施したアルミナ・ナノ粒子の製造を開始するであろうという連邦政府官報の告知があったことを受けて、EPAに対し有害物質規正法(TSCA)の下におけるナノスケール化学物質についてのEPAの考え方の説明を求めていたことを報告した[BNA, Daily Environment Report, Aug. 16, 2006, No. 158, Page A-7]。EPAの担当官によれば、EPAによってレビューを受けたナノ化学物質のうちただひとつだけしか規制官らに関心ある新規の特性を示さなかった。”ナノテク会社の特許担当弁護士らに’多分、それは違うのではないか’と言わざるを得ない”とETCグループのキャシーウェッターは述べている。”政府はナノ粒子の測定又は特性化するための基準に同意すらしておらず、EPAはそれらを評価するためのツールもなく専門家もいない。ナノテク会社は、EPAに対してこれらの化学物質は既存のものと全く同じであると告げておきながら、特許登録担当官や投資家には新規の物質を作るためにナノスケールの量子力学的効果の長所を採用していると告げている。”

 EPAのジム・アルウッドは、EPAは化学物質がナノスケールで作られているのかどうかを継続して監視していないので、どのくらい多くのナノスケール化学物質が製造されているのか見積もることは非常に困難であるとETCグループに述べた。アルウッドは、現在までに、8月に報告された15化学物質にリも”はるかに多い”ナノ物質が導入されていると考えている[1]。産業化学物質の規制の枠組みであるTSCAの下での企業機密情報条項のために、誰が何をを製造しているのか見つけることが著しく困難になっている。

 政府は新規の特性を持ったナノスケール物質を見逃していないということについてEPAはどの位確信があるのかと問われて、アルウッドはEPAの規制官は製造前届出によって会社から提出されるデータに依存していると説明した[2]。"EPAが浄化をさせられている有毒物質の堆積を作り出しているのはこれらの"人々だ”とETCグループの代表パット・ムーニーは述べた。”多分、EPAは彼らを信じているのだろうが、しかし公衆は信じていない。”

安全である根拠がない地下水浄化実験
 EPAは会社がナノスケール化学物質の製造と商業化を行うための道を開いているだけでなく、人工ナノ粒子を環境中に放出することについても積極的に加担している。EPAは1月に、オハイオ州にあるニーゼ化学会社(Nease Chemical)のスーパーファンド・サイトでゼロ価鉄ナノ粒子(NZVI)を地下水に注入して浄化するという計画を発表した(参照 http://www.epa.gov/Region5/sites/nease/background.htm)。(訳注1:参考

 ”少なくともあるナノ粒子は環境中で有毒であり人の暴露にとって潜在的に安全ではないことがありえることを示す証拠が増大している。この事実にもかかわらず、EPAは農薬汚染場所を浄化するために地下水に鉄ナノ粒子を放出する実験をしようとしている”とETCグループの代表パット・ムーニーは指摘している。

 イギリスの王立協会が、”地下水の浄化のためのような環境中での自由ナノ粒子の使用は禁止されるべき”と明確に勧告したのはつい2年前のことである[3]。ETCグループは、王立委員会の報告書が発表されて以来、地下水の浄化のために鉄ナノ粒子を使用することの安全性に関してなにか科学的な合意が達せられたかどうかを知るために、ナノ粒子が土壌や地下水を通じてどのように移動するかを研究しているノースカロライナ州のデューク大学土木環境工学の教授マーク・ウィエスナ博士に相談した。ウィエスナ博士は、鉄は地下水環境中で天然のものが見いだされるが、ゼロ価鉄(ナノ粒子(NZVI)の環境的影響の全てを現在は知るには時期早尚であると説明した。ナノ粒子として又は従来の物質としての鉄がいくつかの金属や他の物質を地下水中に持ち込む可能性があるが、このようなことは以前にはなかったことであり、例えば、我々は”その薬剤の影響”がどのようなものなのかについて確かなことは何も分らない[4]

 ”この経験から我々が学ぼうとしていることは、EPAが協議( consultation )の概念理解していないことであり、EPA自身の化学物質汚染の経験よりも化学産業側に信頼を置こうとしているということである。

For more information:
Pat Mooney (Ottawa) tel: +1 (613) 241-2267
etc@etcgroup.org

Kathy Jo Wetter (USA) tel: +1 (919) 960-5223
kjo@etcgroup.org

 ETCグループはナノの危険性シンボルのデザイン・コンペを実施中である。著名な審査員らによる一次審査の後上位10傑が2007年1月にケニアのナイロビで開催される世界社会フォーラムに出展され、そこでフォーラム参加者らがお気に入りに投票するよう招かれる。優勝したデザインは国家及び国際機関に提出されるであろう。詳細については http://www.etcgroup.org/nanohazard  を参照のこと。

Notes:
[1] Telephone conversations with Jim Alwood, October 12 and 16, 2006.
[2] Telephone conversation with Jim Alwood, October 12, 2006.
[3] The Royal Society & The Royal Academy of Engineering, Nanoscience and nanotechnologies: opportunities and uncertainties, July 2004. Summary, p. 5. Available on the Internet:
http://www.nanotec.org.uk/report/summary.pdf
[4] Telephone conversation with Dr. Mark Wiesner, October 17, 2006; email communication, October 18, 2006.


訳注1:
ナノ技術:EPAの展望 ファクトシート/EPA 2005年7月21日版(当研究会訳) http://www.epa.gov/Region5/sites/nease/background.htm


化学物質問題市民研究会
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