SAICM/ICCM.2/INF/34 2009年3月25日
第2回国際化学物質管理会議(ICCM2)
SAICM 喫緊の政策課題
ナノテクノロジーと工業ナノマテリアルに関する
背景情報


情報源:
International Conference on Chemicals Management Second session
SAICM/ICCM.2/INF/34 / 25 March 2009
Implementation of the SICM: emerging policy issues
Background information in relation to the emerging policy issue
of nanotechnology and manufactured nanomaterials
http://www.saicm.org/documents/iccm/ICCM2/meeting%20documents/
ICCM2%20INF34%20nano%20background%20E.pdf


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年4月27日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ICCM/ICCM_nano_background_information.html

訳注:この文書は、2009年5月にジュネーブで開催される第2回国際化学物質管理会議(ICCM2)用文書である。2009年2月3日にコメント用として発表された「スイス及びアメリカ作成:第2回国際化学物質管理会議(ICCM2) 喫緊の政策課題 2009年2月20日までのコメント用ナノテクノロジーと工業ナノマテリアルに関する情報文書案」が大幅に修正されて、2009年3月25日に正式文書(SAICM/ICCM.2/INF/34)として発表されたものである。


事務局によるノート

1. 事務局は本ノートの添付書類として、SAICM/ICCM.2/10 に概要が述べられていSAICM 喫緊の政策課題 ナノテクノロジーと工業的ナノマテリアに関する背景文書を配布する。この文書は参加者への情報として提供されるものであり、受領したものを公式編集なしに、そのままコピーされたものである。この文書は ファシリエーターである Mr. Georg Karlaganis (Switzerland) と Mr. Jim Willis (United States of America)によってまとめられたものである。

2. この背景文書は、2008年10月23日及び24日にローマで開催された非公式討議に先立って本件に関し利害関係者から受領したオリジナルの提出文書から展開されたものである。ファシリテーターはこの文書を作成するに当たり、非公式な事務局(Friends of the Secretariat)計画グループによって展開された追加ガイダンスをフォローし、また戦略的アプローチ・ウェブサイトに文書案を掲載することにより、戦略的アプローチ利害関係者によるコメントのための機会を提供した。この背景文書はどのようにこの課題が、非公式討議の間に開発された審査基準に合致するかを規定し、SAICM/ICCM.2/10/Add.1 の文書に記載されているこの課題に関する共同行動提案に理論的根拠を与えることを目的としている。

3. 参加者は、2009年5月10日(日曜日)午前9時30分〜午後1時に開催されるテクニカル・ブリーフィングにおいてがこの背景文書を討議する機会がある。


付属書

SAICM/ICCM.2/INF/34 2009年3月25日
SAICM 喫緊の政策課題
ナノテクノロジーと工業ナノマテリアルに関する背景情報


はじめに

1. ナノテクノロジーと工業ナノマテリアルは、第1回国際化学物質管理会議(ICCM1)の課題ではなかったので、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)ナノテクンロジーに対応していない。しかし、2006年以来、この新たな技術、したがって、その潜在的な環境、健康、安全へのリスクに関する知識は、急速に進展している。

2. この背景文書は、人の健康と環境的安全への考慮、潜在的な環境的便益はもとより社会的、経済的、倫理的課題に焦点を当てる。この文書の目的は、現在の最新の技術についての意識を高め、将来の共同行動を提案することである。この文書は更なる情報として主要文書の参照リストがつけられている。将来の可能性ある共同行動のりストも示している。

3. ナノテクノロジーは、医学からエネルギーまで多くの経済分野に多大な変化をもたらすことが期待される特別の技術である。それは多くの新規な材料、デバイス、及び製品の製造に貢献するであろう。検討中の応用分野によって、産業用試作及びナノテクノロジー商業化の開始のための時間軸は異なる。塗料、コーティング、化粧品、医療機器、診断ルール、衣料、家電、食品容器包装、プラスチック、燃料触媒のような第一世代のあるものはすでに商品として市場に出ている。医薬品、診断、及びエネルギー貯蔵と製造のような複雑な製品も開発中である。

4. 他の商業的用途に加えて、工業ナノマテリアルは、汚染を著しく削減し、エネルギーの生成、貯蔵、使用の改善、及び人と環境の健康を改善するための潜在的能力を持つ重要な技術的進歩を提供している。これらの技術のあるものはすでに開発されているが、他は現、商業化がはかられている。例えば次のようなものが含まれる。
  • フラーレンを使用して太陽光を集光することによるグリーン・エネルギーの生成と、カーボンナノチューブを導入することによるもっと軽量で強靭な風車の製作

  • より早い充電、長時間持続、多数回充電/放電サイクルを可能とし、一方、化石燃料の消費と排気ガスの発生を低減する改良ハイブリッド/プラグイン電気自動車の開発を可能とするカーボンナノチューブとナノ構造化膜のようなナノスケール電極材料を用いた改良バッテリー。この進歩はまた、それによってプラグイン自動車バテリーを用いてグリーン・エネルギーが蓄えられる”スマートな(賢い)electrical grids ”の開発を可能とする。

  • ナノスケールの鉄は環境汚染を直接削減することができる。例えば、有機塩素系廃棄物で汚染された土地の浄化、都市のNOxレベルを低減するための自己洗浄(self-cleaning surface)作用の応用

  • ナノクレイは、環境と人の健康への懸念のために廃止に向けられている臭化難燃剤の代替として使用することができる。

  • 酸化セリウムは、微粒子の排出を削減し燃料効率を高めるために燃料添加物として用いることができる。

  • ナノスケール触媒は、広範な産業プロセスから発生する廃棄物と消費されるエネルギーを削減することができる。

  • 広範なナノスケール材料は、もっと有毒な化学物質に対する代替物を提供するコーティングとして使用することができるとともに、古い技術に比べて堅牢さと機能を同時に改善することができる。

  • ナノマテリアルは飲料水の浄化の提供と管理に使用することができる(”WPNプロジェクト F−地球的規模の課題:水の浄化”により詳細にカバーされている) 。
5. 潜在的な環境的便益を達成するために、工業ナノマテリアルの商業的導入を考慮するときに、諸国は全ライフサイクル通じてそのような利用の潜在的な健康又は環境影響もまた十分に考慮するべきである。このことはナノスケール材料の製造はもとよりナノマテリアルの処分の潜在的な影響、例えば、リサイクル業者又は新たな事業者に対する新たなハザード・コミュニケーション・プログラムを必要とするかもしれないような影響−を含む。

背景

6. ”ナノテクノロジーと工業ナノマテリアル”という課題は、政府間化学物質安全性フォーラム (IFCS)によって、”工業ナノマテリアル”という課題は化学物質の適正な管理に関する国際機関間プログラム(IOMC)によって、”特定物質−ナノマテリアルの健全な管理”という課題は日本によって推薦された。提出にあたり、IFCS は新たな課題、特に、急激に現れたナノテクノロジーのアプローチによって及ぼされる健康と安全、及びそのリスクを理解し、回避し、低減する必要性に言及した。IOMC は、ナノm照りあるの安全性を評価するために及ぼされる課題、安全性のテストと評価に用いられる手法を見直すことの必要性、及びこの件に関して摂られている国際的な共同行動に言及した。日本はナノマテリアルの広範な使用、及び健康と環境ハザードの完全な評価の欠如に言及した。

7. ナノテクノロジーと工業ナノマテリアルは重要な新しく出現している課題である。この課題に対応するための国際的な活動は、ナノマテリアルとナノテノロジーが非OECD諸国でも広く利用されているにもかかわらず、現在までのところ、OECDの中で推進されている。OECDのこの活動を非OECD諸国と共有することが重要である。さらに、ナノテクノロジーと工業ナノマテリアルが持続可能で有益な方法で用いられることを支援するためには、国際的な協力を含む追加的活動が望ましい。現在までのところ、SAICMは、化学物質政策と健全な化学物質管理のための包括的な政策の枠組みを提供することを目指しているが、SAICMは化学物質管理の重要性が増しているこの分野にまだ対応していない。SAICMは、ドバイ宣言、包括的方針戦略、世界行動計画(GPA)からなっている。世界行動計画(GPA)は、各国が優先事項と特定した領域に対応するために着手することを選択できる、可能性ある活動の概要を示した自主的な道具である。SAICMは、途上国及び移行経済国が堅固な政策と活動を開発し実施することを支援することを含んで、世界行動計画(GPA)のための支援的な国際的枠組みを提供すべきである。世界行動計画(GPA)の中にそのような活動を含むことは、諸国がこの課題に対応し、適切な政策を開発し実施し、そのような政策のための支援にアクセスするのに役に立つであろう。国際化学物質管理会議(ICCM)は、ナノテクンロジーと工業ナノマテリアルに関連する活動に対応するために世界行動計画(GPA)を修正するかどうか、そしてどのように修正するかを検討することを望むかもしれない。

問題の重大さ

人の健康と環境リスク

8. ある応用に工業的ナノ粒子を適切にする同じ独特の特性のあるものがまた、ナノ粒子の人の健康と環境への影響について疑問を投げかけることがある。ナノ粒子の毒性と運命は、サイズや形状はもとより、電荷、面積、反応性、及び粒子表面上のコーティングのタイプのような表面特性など、様々な物理化学的特性によって影響を受ける。これらの要素はまた、ナノ粒子の人の体内への摂取と分布に影響を与える。ナノ粒子からなる製品はますます数が増え、新たな用途が特定されているので、人の暴露及びナノサイズ粒子の環境中への放出の可能性もまた、それらの安定性やその他の特性に依存して増大するかもしれない。しかし、我々は白紙の状態から始めているわけではない。例えば、吸入した粒子は肺、動脈、そして心臓血管系にダメージを与えることが数十年前から知られている。しかし、工業ナノマテリアルは自然の又は非意図的ナノスケール粒子物質と同じなのか違うのか、さらにはそれらは同一組成のより大きなケールのものとどの様に違うのかが現在の研究の主題である。我々はナノマテリアルが人の健康と環境にどのように影響を与えるのかについて理解し始めたばかりである。

9. ナノ粒子の用量や元素組成に加えて、それらの表面積、表面の機能、凝集塊(aggregate)又は凝集体(agglomerate)への傾向、粒子の形状と構造、及びそれらの表面電荷のような要素が、体内の分布とそれらの可能性ある毒性に影響を与えるかもしれないということを知り始めている。しかし、ほとんど全ての化学物質と同様にほとんどのナノ粒子については、それらが体内に取り込まれ、分布され、代謝され、蓄積され、分泌されることがあるのかどうか、それはどのように行われるのかについて、まだ明確ではない。人の体又は環境に有害影響を及ぼすことがデいる暴露のレベルはまだわからない。動的なモデルの開発が影響を受ける目標器官における粒子の現実的な用量の見積もりに役立つことができる。もうひとつ複雑なことは、粒子そのものに加えて、それらの分解製品の潜在的な人と生態系への影響もまた、それらの他の汚染物質との相互作用とともに、考慮されなくてはならない。

10. 生態系へのナノ粒子の潜在的な暴露及び関連する毒性を理解することは、当面の研究として重要なことであり、すでに実施中である。例えば、肺は吸入ナノ粒子にとって主要な目標場所である。肺は広大な暴露面積を持ち、吸入され堆積されたナノ粒子は、空気−血液−組織関門を通じて血流中に入り込むことができる。しかし、我々は、そのような粒子は凝集塊(aggregate)または凝集体(agglomerate)傾向などを含む理由によって、どの大気浮遊粒子が実際にナノスケール粒子として吸入されることがありえるか、まだわかっていない。同じことを逆に言えば、凝集体(agglomerate)は吸入又は摂取された後に人の体内でどの程度、より小さな粒子に分解するのかについて、まだわかっていない。

11. 肺に加えて、皮膚は、化粧品、日焼け止め、ナノ粒子をしみこませた衣類などの皮膚暴露を通じてナノ粒子が浸透する可能性がある。損傷のない健康な皮膚は効率的にまた効果的に(日焼け止め中の TiO2 のような)ナノ粒子から体を保護することを研究が示している。しかし他の粒子は健康な又は破壊された皮膚のバリアを浸透するかもしれず、皮膚浸透に関する一般的な結論はまだ存在しない。しかし、もしある粒子の皮膚への適用が生きた細胞の暴露をもたらすことがあるなら、我々は、ナノ粒子暴露による脂質過酸化(lipid peroxidation)を通じて生じる酸化ストレス、炎症性反応、細胞膜破壊を報告している動物又は培養細胞を用いた予備的な研究の有害性の発見を考慮する必要がある。

12. 他の暴露経路に関し、ナノ粒子の経口摂取は今日まで、適切にテストされていない。ある科学的研究は、ナノ粒子は摂取されても腸を通じて効率的に排泄されると報告している。小さな粒子(100nm以下)については、腸壁を通じての吸収が増大することがラットの研究で観察されている。

13. 血流中に入り込むと、ナノ粒子は体中に運ばれ、肝臓、脾臓、腎臓、骨髄、心臓などを含む器官や組織に取り込まれる。より大きな粒子とは異なり、ナノ粒子はまた、細胞ミトコンドリアや細胞核などを含む細胞内の構造に取り込まれるかもしれない。ナノ粒子が、非テスト条件下で、血液脳関門、胎盤、あるいはその他のバリアを貫いて移動できるサイズで、生物システムに入り込むことができるかどうかわからない。しかし、胎盤貫通は最近の研究で支持されており、その研究はいくつかのナオ粒子が妊娠マウスからその仔マウスの脳や睾丸に移動することを示した。また多くの研究が、あるナノ粒子は、血液脳関門をバイパスして、嗅覚神経から中枢神経系に直接移動することができるかもしれないことを示している。器官間の移動に関するデータが異なるアプローチと人工的なテスト条件に基づいているので、それらの発見の多くは再現されていない。したがって、この件に関して、決定的な結論に到るために、もっと多くの研究が必要である。

14. 最後に、ますます多くの研究が、将来の健康に強く影響を与えるかもしれない多くの種類の毒素と化学物質に対する胎児(妊娠した母親を通じて)と幼児の特別な脆弱性をハイライトしている。この脆弱な集団に及ぼすナノ粒子の潜在的な毒性に対するもっと多くの研究もまた、この発達のクリティカル・ウインドウでのどのようなかく乱をも回避するために、実施されるべきである。

15. 現時点においては、ナノマテリアルの生態毒性及び環境的挙動(運命、移動、変換)に関し、わずかな研究しか実施されていない。しかし既存の研究は限定的であり、予備的なものとして考えられるべきである。かなりの知識のギャップがあるにも関わらず、ナノ粒子の生態毒性影響に関する情報は着実に増えている。いくつかのナノマテリアルについては、食物連鎖の過程で生物中に蓄積する可能性を示しつつ環境生物を横断して移動する能力とともに、環境生物に対する有毒影響が示されている。

16. ナノマテリアル又はナノマテリアルを含む製品の製造、使用、及び処分の段階で生じる可能性のある環境中への放出に関する信頼性のあるどのような見積もりはまだない。特に環境中のナノマテリアルを測定する餌t期せつな手法が欠如している。同様に、副産物やナノマテリアル製品の分解に関する研究も、たとえあったとしても、わずかしか行われていない。

17. 現在のナノマテリアルのリスク評価に関するSCENIHR[1]の最近の意見:
 物質と従来の材料の人と環境に対する潜在的なリスクの評価のためのリスク評価手法は広く使用されており、一般的にナノマテリアルに対しても適用可能であるが、ナノマテリアルに関連する特定の面についてはまだ、更なる開発が求められる。人と環境に対するナノマテリアルの有害影響を特性化するために十分な科学的情報が利用可能になるまで、そのことは続くであろう。暴露の見積もりとハザードの特定の両方のための手法がさらに開発され、確認され、標準化される必要がある。最も高いリスク、したがって懸念は、液体分散又は大気浮遊ダスト中のどちらかで、自由(非固定)で非溶解性のナノ粒子の存在又は発生に関連すると考えられる。

原注[1]:SCENIHR (Scientific Committee on Emerging and Newly Identified Health Risks), Risk assessment of products of nanotechnologies, 19 January 2009.
訳注1:Nanotechnology Law Blog 2009年2月20日 欧州委員会の科学委員会がナノテクノロジーのリスク評価に関する意見を発表

労働安全衛生

18. 工業ナノマテリアルに関して、人の安全と健康を考慮する時に、職場は基本的に重要である。職場は、そこでの装置などで比較的高い暴露の可能性がある。現在の我々の限られた知識によれば、ナノ粒子への労働者の暴露は、製品を作る過程でナノ粒子を取り扱うことを通じて主に起きるが、暴露の程度と影響の可能性は更なる研究の課題である。処分と廃棄物取り扱いプロセス、職場での作業や装置の掃除、及びナノ粒子を含む製品の包装、取り扱い、及び/又は輸送中におけるナノ粒子の放出からの労働者の暴露に関してはほとんど何も知られていない。

19. より大きな粒子に比べて、ナノ粒子の特定の物理的化学的特性は予期しない安全リスクを引き起こすことがある。最も重要な物質の安全に関わる危険は、酸化可能なナノ粒子の火災又は爆発、及び予期しない触媒作用の増大のリスクである。粉塵中では、粒子のサイズと関連する比表面積が爆発能力にとって重要である。

20. 現代的な工業的ナノ物質の健康リスクに関するどのような疫学的調査も、まだ行われていない。予備的な研究があるサイズのカーボンナノチューブの形状のものが肉芽腫を引き起こすことを示している。これが人にリスクをもたらすかどうかは、カーボンナノチューブのこれらの特定のタイプへの吸入暴露があるかどうかによるであろう。

21. 職場の濃度が測定され始めているが、局所的及び時間的濃度プロフィールの現在のモデルが新たなナノ粒子の場合にも適用できるのかどうか明確ではない。現在、ナノ粒子を測定するための、及びそれらへの暴露を見積もるための手法に関する国際的な標準はない。ナノ粒子暴露測定のために重量は不適切であり、粒子の表面積又は粒子の数の方がもっと適切化も知れないということが認められてきている。現在、ナノ粒子を測定するための、及びそれらへの暴露を見積もるための手法に関する国際的な標準はない。この分野の標準が利用可能となるまで、測定技師と専門家の間の経験の交換が特に重要である。

22. 職場における暴露を低減するための証明された戦略が、多くの職場でナノマテリアルに適用されようとしている。適切な保護措置が、この分野に終おける著しい知識のギャップを正すための国際的な取り組みの一部として労働安全衛生の専門家らにより評価され定義されている。組織的な保護措置が第一にとられ、密閉系システムのような技術的保護措置、及び粉体を形成する調剤の代替などによって支援されるべきことが推奨される。 いくつかの諸国では、未知の特性を持った新たな物質は潜在的に危険であるとして扱われるべきとする原則を適用している。 個人保護装置は時にはこれらの保護を補完することができるが、一般的にはそれらにとって替わるべきものではない。研究が技術的保護システム及び個人保護装置の正しい使用がある粒子のタイプから製造労働者を保護するために有効であることを示している[2,3,4,5]。しかし、多くの国ではそのような保護装置は入手可能ではない又は必要な安全基準を満たさない。

原注[2]:Hullmann A. Measuring and assessing the development of nanotechnology; Scientometrics 70(3): 739-758, 2007.
原注[3]:Nanosafe II.
原注[4]:Guidance for Handling and Use of Nanomaterials at the Worklace, BAUA, VCI, 2007, http://www.vci.de.
原注[5]http://www.cdc.gov/niosh/updates/upd-02-13-09.html.

課題の妥当性

23. 多くの研究がナノテクノロジー市場の経済的見通しの見積りを試みてきた。例えば、ナノエレクトロニクス(半導体、超コンデンサ、ナノストレージ、ナノセンサー)の分野は2015年には約4,500億ドル(約45兆円)に相当する。ナノ材料(粒子、コーティング、構造)に関する同様な見積もりも、2010年には約4,500億ドル(約45兆円)になるとしている。将来、活性ナノスケール構造及びナノシステムに基づく次世代のナノ対応製品が開発されるであろう。そのような開発は、技術の現代化及び人と機械/製品のインターフェースの変化に関する革新を伴うであろう。

24. しかし、ナノテクノロジー市場の予測される成長は、この開発途上の技術に備わる多くの不確実性と潜在的な新たなリスクと無関係ではない。

25. ナノテクノロジー及び工業ナノマテリアルの機会と課題に関する現在の議論は第一世代ナノ製品に焦点を当てているがそれだけに限るきではない。科学に基づくリスク評価と潜在的なリスクの適切な管理を通じて工業ナノマテリアルの責任ある開発を可能にする政策の枠組みを開発することは政府の責任である。政府と産業は、リスクがよりよく理解されるまで、人と環境の暴露を防止する又は管理するためにとられるべき適切な措置により、ナノマテリアルがそのライフサイクルを通じて予防的な方法で扱われることを確実にすべきである。

26. ナノマテリアルに関連する機会とともに潜在的なリスクを徹底的に調査し、もし必要なら、人と環境を保護するための措置をとることが重要である。そのようにすることで、危険な応用への投資及びその結果としての社会や経済に及ぼすコストは避けられる。

課題が本質的に横断的である程度

27. 工業ナノマテリアルの安全な利用を確実にするために、労働安全衛生と環境の保護に対応する必要がある。これらの課題のほかにも、ナノテクノロジーによりもたらされる倫理的及び経済的課題、及び全ての革新に関してはナノテクノロジーの社会的有用性についての疑問もある。

倫理的考察

28. 多くの名声ある報告書(例えば、英国王立協会[6])や(労働者、環境、市民社会の組織)連合は工業ナノマテリアルの開発と商業化に予防を適用するよう主張してきた。予防の概念はしばしば、倫理に関する委員会で議論されている。倫理の議論のために優先的に特定されている他の課題にはつぎのようなことがらが含まれる。▼リスクを社会的に受容できる又は受容できないリスク▼”人間の能力強化”の分野でのナノテクノロジーとその他の技術の適用▼利益、コスト、リスクの社会的及び地球規模での分配▼所有権/特許の問題▼労働者、環境及び公衆に及ぼす健康と安全リスク▼規制監視▼意思決定への公衆参加。

29. 国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の出版物[7]は近い将来に国際社会が直面するであろう多くの倫理的課題を示している。同報告書は、ナノマテリアルとナノスケール製造プロセスの利用が商業化しているので、新たな倫理的及び政治的課題が生じる可能性があり、古い課題は活性化されるであろうと述べている。同報告書はさらに、”ナノテクノロジー技術者は、商業化に先立って潜在的な用途と潜在的な有害性の両方をよく研究することの必要性を非常によく認識している。この認識と共同研究への予防的方向性は貴重である”と述べている。同報告書は、基準と国際的な最良の実施の生成と採用に関連する相反する利益にある懸念に対応するための制度的及び組織的枠組みはまだ十分に開発されていないと述べている。同報告書は、ほとんどの国における専門家によるコミュニケーションと情報へのアクセスの容易さは、ナノテクノロジーが国際的な科学プロジェクトになるであろうことを示しており、”国家間の知識の溝(knowledge divide)”は、過去とは異なり、国家間ではなくてむしろ国内に最大の溝を持つ可能性が見えると述べている。これに関連することは、最も貧しい人たちのためになるナノテクノロジー研究はどのように推進されるべきか−例えば、ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)(訳注)に対応した応用に関する研究−という問いである。

30. 関連する問いは、全ての国がこの新たな科学的知識−もっと一般的にはナノテクノロジーと革新的研究−から等しく利益を受けている程度である。同報告書は、知的所有権と報酬、科学的研究の公衆の精査、研究の説明責任、及び反テロリズムの文脈からの科学的情報の利用の全てが科学の本質と品質に影響を与えるかもしれないと述べている。よい科学を管理するために必要な社会的基盤の欠如は途上国が最良で最も信頼性のある科学的知識と実施方法を得ることを不可能にしているかもしれない。

原注[6]:The Royal Society and the Royal Academy of Engineering: Nanoscience and nanotechnologies:opportunities and uncerntainties; 2004, page 8.
訳注2:英国王立協会・王立工学アカデミー報告 2004年7月29日 ナノ科学、ナノ技術:機会と不確実性−要約と勧告

原注[7]http://unesdoc.unesco.org/images/0014/001459/145951e.pdf.
訳注3:UNESCO 報告書 2006年6月 ナノ技術の倫理と政治

ナノテクノロジーの社会的有用性

31. 我々が利用可能な天然資源を利用する方法は、我々の健康と環境に影響を与え、また文化的側面、個人的及び経済的選択によって大きく影響を受ける。天然資源は経済において重要な要素であり、我々の福祉の重要な要素である。推進者は、ナノサイエンスとナノテクノロジーからの結果を含んで技術的革新は我々の資源のもっと効率的な利用に重要な役割を果たすことができると希望する。

32. ナノテクノロジーのいかなる応用の開発又は利用の前に、社会的有用性の疑問が問われるべきである。この疑問に答えるために、気候変動、水不足、及び飢餓のような社会的に関連ある問題を解決するためのナノテクノロジー、代替テクノロジー、又は非テクノロジーから得られる特定の応用の潜在的な寄与を知るべきである。健康と環境リスク及び社会と経済への影響は、既存の代替的解決方とともに考慮されるべきである。特定の選択肢の長所は特定の国又は地域に特有かもしれない。

33. 途上国の大多数にとって、産物の生産は経済の中心的な支えである[8]。歴史的には科学と技術の進歩はまた、産物の生産と貿易に重大な影響を与えてきた。ナノテクノロジーは産物の市場を変化させ、貿易を混乱させ、仕事を奪うという懸念がある。時代遅れとなった産物によってもたらされる労働者の失職は、最も貧しい人々や最も脆弱な人々、特に新たな技術又は異なる原材料に対する突然の要求に対応するための経済的な柔軟性を持たない途上国における労働者たちを損なうであろう。現在、ナノテク革新と知的所有権保護は主に先進諸国で起きている。世界最大級の多国籍企業、主導的学術研究機関、ナノテク新設会社は、新規な材料、デバイス、及び製造プロセスに知的所有権を求めている。産物依存の途上国は、ナノテクノロジー誘引の技術的転換の方向性と影響を十分に理解し、いかに新興の技術が彼らの将来に影響を与えうるかの決定に参加しなくてはならない。

34. その上、先進国はナノテクノロジーから多くの利益を得るが途上国は潜在的なリスクから多くの被害を受ける(例えば労働安全衛生の基準が低いかも知れず、廃棄物管理や廃棄物処分のための社会的基盤がナノマテリアルやナノ対応製品のために適切ではないかもしれない)という懸念がある。これは十分に検討すべきことが求められる広範な局面の中野ひとつの要素に過ぎない。ナノテクノロジーが既存の経済的不平等を拡大する可能性は重要な課題である。このことは、ナノテクノロジーの潜在的な社会的及び経済的”コスト”と潜在的な”便益”を評価することの重要性を強調するものである。

[原注8]:The Potential Impacts of Nano-Scale Technologies on Commodity Markets: The Implications for Commodity Dependent Developing Countries; Research Papers 4; ETC Group, South Center, November 2005.

課題についての知識のレベル

35. 先進国と新興国の両方ともは、この分野で主導的な立場をとり、約束された利益を収穫することを狙って、しばしば潜在的なリスクに適切に目を向けることなく、ナノサイエンスとナノテクノロジーの推進のために資源をますます投入している。

36. しかし、この新興テクノロジーへの希望はその開発が責任をもって行われる場合にのみ完全に実現するという信念が広く共有されるようになってきている。ナノテクノロジーとその応用から生じる環境・健康・安全(EHS)影響と倫理的・法的・社会的課題(ELSI)に向けられる配慮のレベルは最近、相当高まっている。これらの課題に適切に責任をもって対応することはナノテクノロジーの成功のために最も重要である。

37. ナノテクノロジーに関心を持つほとんどの国と国を超えた組織はこの技術の責任ある開発を確実にすることに高い優先度を与えている。政府、規制当局、標準化策定機関/組織は関連する規制の課題に対処するために専門性と技術的基礎の開発を開始している。多くの諸国と欧州委員愛は環境・健康・安全(EHS)課題と倫理的・法的・社会的課題(ELSI)にどのように対処するかの行動計画を採択した。

この課題が他の組織によって対応されている度合い

38. 2006年に OECDは、その化学物質委員会(Chemical Committee)のひとつの関連団体として、工業ナノマテリアルに関する作業部会(Working Party on Manufactured Nanomaterials (WPMN) )を立ち上げている。WPMN の目的は、その加盟国、非加盟国、NGOs、産業、及び IGOs の間の工業ナノマテリアルの人の健康と環境的安全の側面において国際的な協力を推進することにある。現在下記の分野が WPMN の作業計画によってカバーされている。
  • 人の健康と環境的安全性(EHS)研究に関するOECDデータベース開発
  • 工業ナノマテリアルに関する EHS 研究戦略(労働安全衛生を含む)
  • 代表的な工業ナノマテリアルの安全性試験
  • 工業ナノマテリアルとテストガイドライン
  • 自主的制度と規制制度に関する協力
  • リスク評価に関する協力
  • ナノ毒性学における代替試験の役割
  • 暴露測定と暴露低減
39. WPMN の設立以来多くの進捗が達成された。最も注目に値することは、人の健康と環境的安全のエンドポイントのための工業ナノマテリアルのテストのためのスポンサーシップ・プログラム(ponsorship Programme )が2007年11月に立ち上げられたことである。

40. さらに2007年に OECD の科学技術政策委員会はナノテクノロジーに関する作業部会(WPN)を立ち上げた。その目的は、ナノテクノロジーの責任ある開発と使用に関連する科学技術(S&T)政策の課題に対応すること、及び、ナノテクノロジーの発展に関する公衆の認識と他のテクノロジーとの収束を考慮に入れ、法的、社会的、倫理的問題を忘れることなく、潜在的なナノテクノロジーの便益を社会にもたらすことである。下記は、WPN の作業計画である。

  • ナノテクノロジーのための統計学的枠組み
  • ナノテクノロジー開発の監視とベンチマーキング
  • ナノテウノロジーに特有のビジネス環境における課題への対応
  • 世界の課題に対応するためのナノテクノロジーの推進
  • ナノテクノロジーにおける国際的科学協力の推進
  • ナノテクノロジーに関連する主要な政策課題に関する政策ラウンドテーブル
41. 上で述べたWPNのプロジェクト分野は、2007年〜2008年の間になされた作業に基づいている。この作業は次の課題に対応しているいくつかの近刊の報告書の中に結果が示されている。▼入手可能な指標と統計に基づくナノテクノロジー開発と影響▼多くの会社のケーススタディに基づく会社とビジネス環境に及ぼすナノテクノロジーの影響▼国をまたがる科学技術(S&T)の社会的基盤と共同の機会の特定▼働きかけと公衆関与▼国をまたがる政策策定と対応▼ナノテクノロジーがきれいな水の世界的問題を緩和するための機会と障壁。さらにWPNは、多くのワークショップへの参加国間の政策討議を推進している。

42. 工業ナノマテリアルとナノテクノロジーに関するOECDの作業に関する詳細な情報と出版物は下記から自由にダウンロードできる。
http://www.oecd.org/env/nanosafety
http://www.oecd.org/sti/nano

43. ISOは、ナノテクノロジーに関する技術委員会229を設立している。現在、次の4つの作業部会が設立されている。▼用語・命名法▼計測計量・特性評価▼健康・安全・環境▼マテリアルのスペック。次の二つの文書が発表されている
。 ISO/TR 12885:2008 Nanotechnologies -- Health and safety practices in occupational settings relevant to nanotechnologies
ISO/TS 27687:2008 Nanotechnologies -- Terminology and definitions for nano-objects -- Nanoparticle, nanofibre and nanoplate.
 4つの作業部会には約30の作業項目があり、現在開発中である。ISO/TC229 もまた討議されている。

44. OECD のWPMN と WPN、及び ISO/TC229 は、双方の事務局及各国代表を通じて、日常的に調整されている。

45. UNESCO 科学技術倫理プログラムは、科学と技術およびその応用に倫理的反映をするために1998年に科学的知識技術倫理に関する世界委員会(COMEST)とともに創設された。このプログラムは、民主的な規範構築のプロセスを推進し支援することにより、倫理的枠組みにおける科学と技術の検討を推進することである。このアプローチは、UNESCOの理念である”文明と文化の一般的に共有される価値と尊厳を敬うことに基づく真の対話”にその基礎を置いている。従って意識を高めること、能力の構築、及び標準化は、この分野及び他の全ての分野に置けるUNESCOの戦略の主要な推進力である。

46.  UNESCOは、ナノテクノロジーの最新技術を討議し、その定義をめぐる議論を検証し、関連する倫理的及び政治的問題を調査するために、ナノテクノロジーの著名な専門家を招聘した。2006年の報告書『The Ethics and Politics of Nanotechnology (ナノ技術の倫理と政治)(訳注3)』は、ナノテクノロジーの科学は何かを概説し、国際的社会が近い将来直面する倫理的、法的、及び政治的問題を示している。UNESCOは最近、『Nanotechnologies, Ethics and Politics (ナノテクノロジー 倫理と政治)』という一冊の本を出版した。この本の目的は、一般公衆、科学界、特別な関心を持つグループ、及び政策策定者に、ナノテクノロジーについての現在の考え方に顕著な倫理的問題を知らせ、これらの利害関係者の中でナノスケールテクノロジーについての実り豊かな分野間の対話を鼓舞することである。

47. ナノテクノロジーと工業ナノマテリアル関するIFCS/FORUM-VI 総会が、第6回政府間化学物質安全性フォーラム(2008年9月15〜19日、ダカール、セネガル)の期間中に開催された。その目的は、参加者に工業ナノマテリアルのもたらす新たな機会、新たな課題、及び新たなリスクの可能性について意識を高めるための情報交換である。同フォーラム VI は、更なる行動のための21項目の勧告からなるダカール声明を採択し(訳注4)、これらはICCM2で検討されるべきことを勧告した[9]。

48. FAO と WHO は合同専門家会議を開催することを計画しているが、その目的は、食品の安全に関する問題を含んで知識のギャップを特定し、現在のリスク評価手順を見直し、その結果、今後の食品安全研究を支援し、ナノ粒子から生じるかもしれない潜在的な食品安全リスクを評価するための適切で正確な方法論に関する世界的なガイダンスを開発することである。「食品と農業分野におけるナノテクノロジーの適用に関するFAO/WHO合同専門家会議:潜在的な食品安全影響」は、2009年6月1〜5日、ローマで開催される予定である。FAO/WHOは、その会議のための専門家と情報を求めている。

49. 長年、政府間組織は化学物質の健全な管理のための政府間プログラム(IOMC)を通じて、化学物質の安全に関して協力してきた。IOMC は多くの機会にナノマテリアルの安全について討議してきた。

原注[9]: The Dakar recommendations on manufactured nanomaterials are contained in document SAICM/ICCM2/INF/5.
訳注3:UNESCO 報告書 2006年6月 ナノ技術の倫理と政治
訳注4第6回政府間化学物質安全性フォーラム IFCS/FORUM-VI報告書エグゼクティブサマリー 2008年9月24日 工業ナノ物質に関するダカール声明

提案された行動の実施可能性

50. ナノマテリアルを含む製品はすでに市場に出ている。既存の知識と方法論に対するギャップがあるので健康と環境リスクの包括的な評価はできない。したがって、安全研究と必要な方法論ツールの開発、及び安全性評価のためのデータを強化することは非常に重要である。しかし、これがなされるまで、科学に基づく規制のアプローチを実施することは尚早であろう。このような状況の下では、予防に基づくナノマテリアルの安全な使用と取り扱いを確実にするガバナンス・モデルが作り出されるべきである。

51. 工業ナノマテリアルの安全性に関連する実施中の広範な活動がある。これらの活動は、学術的研究から国家政府や地域、国際的な研究まで広い範囲で行われている。他の利害関係者らもまた、この課題に関連する活動を行っている。これらの活動に関する情報は、意識を高めるために、わかりやすい形で可能な限り入手できるようにすべきである。政府間組織もまたこの文脈において責任がある。

将来のための可能性ある共同行動

52. 特に行動を起こしていない政府は、ナノテクノロジーと工業ナノマテリアルの自国の状況への関連性を検討したいと望むかもしれない。これは、例えば、ナノテクノロジーの考慮をナショナル・プロファイルに統合することによって実現できる。さらに、ICCMは次の2点を検討したいと望むかもしれない。 1)ナノマテリアルの健全な管理に関する途上国及び移行経済国に関連する課題を探求するための会期間作業を実施すること、2)世界行動計画(GPA)は、ナノテクノロジーと工業ナノマテリアルに関連する活動に対応するために修正されるべきこと。

53. 工業ナノマテリアルの環境健康安全、及び環境的に有益な応用に関して、学界、産業界、及び政府が実施中の広範な活動がある。関連する利害関係者はこの情報をできるだけ多く、クリアリングハウスを通じることを含めて、公開することを考慮すべきである。これに関する進捗は、国際ナノテクノロジー協議会(ICON)、ウッドロー・ウィルソン国際学術センターの新興ナノテクノロジーに関するプロジェクト、NIOSH ナノ粒子情報ライブラリー、OECD WPMN の工業ナノマテリアルの安全性研究に関する公開データベースなど、多くの団体によってなされている。政府間組織もこれに関して顕著な貢献をすることができるかもしれない。

54. いくつかの政府は、ナノテクノロジーに基づく新たな応用に焦点を合わせた研究と開発に向けて相当なリソースを投入している。そのような政府は、そのような応用のためのリソースのレベルと、環境健康と安全影響を理解するための研究に向けたレベルとを適切にバランスさせることを検討したいと望むかも知れない。政府はまた、ナノテクノロジーと工業ナノマテリアルの特質を考慮して、包括的な製造者責任システムを開発することを奨励されるかもしれない。

55. 政府は、途上国や移行経済国における活動を含めて、持続可能な開発に関する世界サミットのヨハネスブルグ実行計画が求める活動に合致するために有用かもしれないナノテクノロジーの応用に関する研究に資金を当てることを検討したいかもしれない。

56. OECDは、二つの作業部会(WPMN と WPN)を非メンバー国及び他のオブザーバーの積極的な参加のために開放してきた。今日までにアルゼンチン、中国、インド、ロシア、シンガポール、タイを含む多くの非OECD諸国が、相互利益のもとに参加している。いくつかの途上国は、そのような参加を促進するために、OECD事務局にリソースを提供している。それぞれの作業部会によって探査されている問題に関心を持つ非OECD諸国又は他のオブザーバーはOECD事務局にコンタクトし、それらの活動に参加したいと望むかも知れない。同様に、ISO TC229にまだ参加していないが、参加することに関心のある国、NGOs、及び産業は自国の国家基準組織又はTC229 自身にコンタクトしたいと望むかもしれない。

57. 工業ナノマテリアルの潜在的環境便益に関心を持つ国、NGOs、産業及びIGOsは、2009年7月15〜17日にフランスのパリのOECDコンフェランス・センターで開催予定の工業ナノマテリアルの潜在的環境便益に関するOECD会議に参加することを検討したいと望むかもしれない。

58. 工業ナノマテリアルの健康、環境、安全への影響に関する調査を続ける一方で、政府と産業は労働者と消費者の暴露及び環境への放出を防止する又は最小にするための措置を、特に有害な工業ナノマテリアルについて、又は工業ナノマテリアルの環境と人の健康への影響に関して不確実性がある場合、考慮すべきである。適切な場合には、全サプライチェーンを通じて化学物質安全データシート(MSDS)又は他の手段により川下ユーザーに知らせる措置がとられるべきである。

他の関連する情報

国際組織

National governments and governmental agencies

Other participating stakeholders



化学物質問題市民研究会
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