FoE オーストラリア 2009年3月28日 
ナノ化粧品は大きなリスクを伴うかもしれない
ジョージア・ミラー

情報源:Friends of the Earth Australia
Nano cosmetics may carry big risks
http://nano.foe.org.au/node/319

Reprinted from opinion piece by FoEA's Georgia Miller
in The Age newspaper on 28 March 2009 at:
http://www.theage.com.au/opinion/science-of-the-small-may-carry-big-risk-20090327-9e6g.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年5月13日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/FoE_au/FoE_au_090328_nano_cosmetics.html


 化粧品は、過去の世紀にさかのぼると、健康上、問題ある記録を残している。古代エジプトにおける水銀入りの白粉やエリザベス朝時代にはやった鉛やヒ素入り顔クリームである。今日、規制当局は化粧品には高いリスクのある成分が含まれないようにしているという期待がある。しかし、残念ながら、”微細な科学”であるナノテクノロジーが、その健康影響はほとんど理解されておらず効果的に規制されていない高いリスクのある化粧品成分を、新たな世代として導入している。

 化粧品業界は最も熱心に早くからナノテクノロジーを採用した業界のひとつである。先週のロレアル・メルボルン・ファッション・フェスティバルのスポンサーであり、世界最大の化粧品会社であるロレアル(L’Oreal)はまた、アメリカにおけるナノテクノロジー特許のトップ保有会社でもある。他の有名なブランドであるレブロン(Revlon)、エイボン(Avon)、プレステージ(Prestige)、ボディ・ショップ(The Body Shop)、ドクターブラント (Dr Brandt)、サーキット(Sircuit)、ゼレンズ(Zelens)などもまたナノ化粧品を販売している。

 ほとんどの人はナノテクノロジーのことを考える時に−少しでも考えるなら、一般的なイメージは、先端的な外科手術をしたり地上戦に配置される未来の小さなロボットであろう。しかし、この極微細なよく知られた物質が新規な光学的及び生物学的特性を持つので、化粧品業界はもっと平凡なレベルで、”ナノ粒子”をリップスティック、ファンデーション、アンチエイジング製品に加えている。一昔前の海水浴の見張りが使用していた日焼け止めに含まれる亜鉛のように、もっとサイズの大きな二酸化チタンや酸化亜鉛は白色で不透明である。しかし、赤血球より100倍小さなナノスケールでは、これらの同じ物質が透明になる。この特性が、モイスチャライザーやファンデーションで使用される。酸化アルミニウムのようなその他のナノ粒子は、小じわを隠す”軟焦点”効果を与える。これらは、高級コンシーラー、ファンデーションン、パウダーなどで使用される。カーボン”フラーレン”ナノ粒子は、皮膚に効果的に浸透するので、アンチエージング・クリームやモイスチャライザーにも使用される。

 健康影響がほとんど分かっていないのに化粧品業界が彼等の製品に新規なナノ粒子を使いたがるので、疑いの眉をしかめる科学者らがファッション感覚の薄い科学界の中にもいる。ナノ粒子皮膚浸透能力の増大と、我々の体の細胞への接近(アクセス)は諸刃の剣である。それは医療目的では有用かもしれないが、それはまた、健康に有害影響を及ぼす物質のより多くの摂取という結果をもたらしうる。

 最近の研究は、最も一般的に化粧品中で使用されているもののひとつである二酸化チタンナノ粒子が妊娠マウスの胎盤を通過して脳を損傷しオスの仔マウスの精子数の減少をもたらすことができることを示している。それより前のマウスの実験はカーボン・フラーレンもまた胎盤を通過し、胎芽の発達を損傷することを示している。試験管での実験が化粧品と日焼け止めで一般的に使用されるナノ粒子がDNAを損傷し深刻な細胞損傷を引き起こす。研究室の外では、ブルー・スコープ・スチール社(Blue Scope Stee/訳注:オーストラリアの建材メーカー)は、ナノ日焼け止めを塗った作業者がカラーボンド(Colour Bond )屋根材に手の跡をつけると、その部分は周囲より100倍劣化が速いことを発見した。これらの発見が、ナノ化粧品を毎日使用している妊娠可能年齢の女性にとって、定期的にナノ日焼け止めをし使用している数百万のオーストラリア人にとって、あるいは、ナノ化粧品を製造している作業者にとって、何を意味するかは不確かである。

 化粧品産業は、化粧品中のナノ粒子が健康で無傷の成人の肌を浸透するという証拠はないので、消費者のリスクは低いと主張する。証拠がないということについては、ほとんどのナノ粒子にとって真実であるが、一方、皮膚浸透研究について発表されたものはまだ非常に少ないということも真実である。CSIRO(Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation)及びその他の機関が研究を進めている。しかし、多くのナノ粒子はモイスチャライザーやアンチエイジングクリームの中で使用されており、それらには製品成分を皮膚がよく吸収するよう特別に設計された浸透強化剤が含まれていることを認識することが重要である。我々はまた、粒子は、たとえばニキビ、湿疹、日焼けによる火傷のような傷ついた皮膚は、無傷の皮膚よりはるかにに浸透しやすいらしいことを知っている。

 現在までのところ、ナノ化粧品は、社会の監視と議論を免れている。残念ながら、それらはまた政府の規制の抜け穴を潜り抜けている。2004年、世界で最も歴史のある科学機関である英国王立協会は、リスクがあるので、ナノ成分を含むすべての製品は販売前に、厳格な安全テストを受け、義務的なラベル表示をするよう勧告している。世界的スイスの再保険会社スイス・リー(Re)は、”問題があるなら予防原則が適用されるべきである”と勧告している。しかし、現在、オーストラリアでは数百の製品が市場に出ている可能性があるが、当局又は会社によって安全性評価が行われたものはひとつもなく、ナノ成分のラベル表示を要求されているものもない。

 新しく出現したナノテクノロジー産業は、ビクトリア州でもどこでも、政府の支援と公共基金を多額に受けている。人々の顔は毎日、ナノ−化粧品やナノ−身の回り品に密接に暴露しているのだから、情報に基づく購買を可能にするために、それらの厳格な安全性評価と義務的なラベル表示を要求することは、不合理であるようには見えない。

 ロレアル・メルボルン・ファッション・ウイークにに興味がある人もない人も、過去の化粧品の惨事の教訓を反映し、それらを繰り返さないことを確実にするよい機会である。

 この記事は、2009年3月28日にエージ新聞(The Age newspaper)に掲載されたものであり、下記から入手できる。
 http://www.theage.com.au/opinion/science-of-the-small-may-carry-big-risk-20090327-9e6g.html


訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
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