EHN 2008年12月12日 論文解説
カーボンナノチューブとフラーレンが
ラットのDNAを損傷する

オリジナル論文:
経口胃管投与でC60フラーレンと単層カーボンナノチューブに暴露させた
ラットの酸化ストレスによるDNA損傷
Environmental Health Perspectives

情報源:Environmental Health News, December 12, 2008
Carbon nanomaterials damage rat DNA
Synopsis by Stacey L. Harper
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/carbon-nanomaterials-damage-rat-DNA/

Original: Folkmann JK, L Risom, NR Jacobsen, H Wallin, S Loft and P Moller. 2008.
Oxidatively damaged DNA in rats exposed by oral gavage to C60 fullerenes
and single-walled carbon nanotubes.
Environmental Health Perspectives doi:10.1289/ehp.11922.

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会
掲載日:2009年1月19日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ehn/ehn_081212_fullerenes_rat_DNA.html



 カーボンナノ物質への単回暴露でラットの感受性の高い肝臓と肺の組織のDNAを損傷することができ、職場と消費者製品を通じて暴露する人の健康懸念が高まっている。

 デンマークの研究者らは、フラーレンと呼ばれるカーボンナノ粒子、及びナノチューブと呼ばれるびカーボンの細長いチューブが哺乳類の細胞に入り込み、そのDNAを傷つけることができることを報告した。引き起こされた損傷のタイプはがんをもたらすことができるものである。

 ナノ粒子を含む溶液がラットの胃に投与されて24時間後に組織中に変化が観察された。

 科学者らは、DNA損傷を修復するために細胞が用いるメカニズムは影響を受けなかったことを発見した。このことは、DNA損傷の修復機能の低下ではなく、ナノ粒子の毒性がまさに直接DNA損傷を起こしていることを意味する。

 ナノ物質は電子機器、化粧品、洗浄剤、医薬品などでの使用で将来を約束するものであるが、これらの結果は労働者と消費者の安全について懸念を抱かせる。すでに消費者製品のるものはカーボンナンチューブやフラーレンを含んでおり、その他多くの商品が開発中である。


オリジナル論文
Folkmann JK, L Risom, NR Jacobsen, H Wallin, S Loft and P Moller. 2008.
Oxidatively damaged DNA in rats exposed by oral gavage to C60 fullerenes and single-walled carbon nanotubes.
Abstract
http://www.ehponline.org/docs/2008/11922/abstract.pdf


背景:C60フラーレンと単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は、ヒトへの潜在的な暴露を伴いながら医療や消費者製品中で使用されることが予測される。

目標:これらの粒子の有害影響は、がんの発症をもたらすかもしれない酸化ストレスによるDNA損傷に関連することが予測される。

方法:我々は、食塩水又はコーンオイル中に浮遊した無垢のC60フラーレン又はSWCNTを体重当たり 0.064 mg/kg 又は 0.64 mg/kg、ラット腸内投与した後、ラットの結腸粘膜、肝臓、及び肺中のプレ変異原性の dihydro-2’-deoxyguanosine (8-oxodG) (訳注:酸化的DNA損傷の指標のひとつ)によりDNAに対する酸化的損傷のレベルを測定した。我々は、肺組織中の 8-oxodG に対するDNA修復システムの調整を調査した。

結果:SWCNTの両方の投与量は、肝臓と肺中の 8-oxodG レベルを増加させた。C60フラーレンの投与は 8-oxodG の肝臓レベルを増加させたが、肺では高用量投与のみが 8-oxodG を生成した。結腸粘膜中の 8-oxodG には影響を見出さなかった。
 食塩水又はコーンオイル中の粒子浮遊は、同程度の遺伝毒性を生成したが、コーンオイルはそれ自体で粒子より強く遺伝毒性を生成した。C60フラーレン処理したラットの肝臓中で、8-oxoguanine DNA glycosylase (OGG1) のmRNA 発現が増大したが、修復作用には有意な増加はなかった。

結論:低用量のC60フラーレンと SWCNT への経口暴露は、肝臓と肺中の 8-oxodG レベル上昇と関連するが、そのことはDNAの修復システムの抑制よりも直接的な遺伝毒性能力によって引き起こされるようである。



化学物質問題市民研究会
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