Time World 2012年9月13日
フィリピンの金採鉱を展望する:
採鉱はフィリピンを良くするのか悪くするのか


情報源:Time World, September 13, 2012
Sitting on a Gold Mine: Will Mining Make or Break the Philippines?
Catherine Traywick
http://world.time.com/2012/09/13/
sitting-on-a-gold-mine-will-mining-make-or-break-the-philippines/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年9月16日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/news/120913_sitting_on_a_gold_mineh_Philippinestml.html



Catherine Traywick
金鉱山の近くから排水は、コンポステラ・バレー州にあるコンパステラ村のキングキング川を劣化させている。同州は、小規模金採鉱者と外国の金採鉱会社との間の緊張が、採取産業の将来についての国家的論争を強調している。
 フィリピン南部にあるコンポステラ・バレー州では、ひとつの川が、褐色の陰影を切り傷のような縞模様をつけながら農地やジャングルを通って泥水を海に流し込んでいる。泥水は海岸線に広がっており、エメラルドの海を汚している。この泥は、ブルーシートの覆いと小さな掘っ立て小屋が散在する山腹の侵食により生じたものである。約600家族が険しい勾配の斜面に住み、ほんのわずかな金を得て生計を立てている。

 彼らは法的には不法占拠者である。アメリカの会社であるセント・オーガスティン金・銅採鉱社がこの山とその周囲の権利を持っている。彼らは、地下にある推定9億6,200万トンの貴金属を得るために、その土地を巨大な採鉱場にしようとしている。彼らはまた、川を浄化し、木を植え、雇用を創出すると約束している。それは、劇的に風景を変え、その地域で採鉱を営んできた数千人の労働者らを立ち退かせ、地域の経済を活性化するという、1980年代からの巨大な事業である。

 フィリピン政府としては、大規模採鉱は経済成長の黄金のエンジンとなり得るという確信に基づき、このアメリカの会社を根付かせようとしている。企業採鉱許可はベニグノ・アキノ3世大統領の政権下で増加し、今週、彼の政権により提案される新たな採鉱規則が、小規模採鉱者がどこで何を採鉱することが出来るかに関して新たな制限を課そうとしている。しかし多くのフィリピン人、特に採鉱コミュニティーの人々は、彼の計画を懸念している。彼らは現在の採鉱法の見直しを望んでいる。彼らはまた、利益のもっと大きな分け前を望んでいる。

 フィリピンで起きていることは、急速に成長する経済が鉱物採取産業のコストと利益を圧迫している近隣地域の状況を反映している。インドネシアでは、今年、鉱物資源の輸出に20%という重税を課したが、それは国内の川下産業を促進する取り組みであり、鉱物資源の輸出を制限している。採鉱会社は、それは外国からの投資を思いとどまらせることになると言い、当然このような転換に批判的である。もし、そのような税を払う投資家がいなければ、結局、高い税にどのような良いことがあるのか? 裏を返せば、もし採鉱すべきものがなければ、どのような良いことが投資家にあるのか?

 フィリピンはもちろん多くの鉱物資源を持っている。鉱物資源には約8,400億ドル(約70兆円)相当の価値があり、近隣地域で最大級の未開発の金と銅の埋蔵量であると自慢している。しかし残念ながら、それはそのようなビジネスを行うのに必ずしも友好的な場所ではない。フィリピンの金採鉱の3分の1以上があり、反乱勢力の拠点であるミンダナオ島では、採鉱事業は反乱グループの攻撃や略奪を受けやすい。服従しない会社は破壊や放火で数百万ドル(数億円)相当の装置を失ってる。政府は長い間、外国資本を誘うために、気前の良い待遇−極めて低い税、国家による安全確保、軽い責任−を提供してきた。

 適切な課税なら大採鉱事業もフィリピンが必要とする経済成長を促進することが出来るであろう。しかし環境活動家や地域の指導者ら、さらには影響力のあるフィリピン・カソリック司祭会議でさえ大規模鉱物採取に反対の立場をとった。明白な環境的懸念以外にも、彼らは大規模採鉱が先住民を立ち退かせ、歴史的に鉱物資源税の歳入に大きく貢献してきた小規模採鉱産業を圧迫することを懸念している。なおその上に彼らは、官僚の非効率と汚職や不正が、わずかな採鉱歳入が収集されてもそれがコミュニティに還元されることを阻害していると主張する。その結果、少なくとも20人の知事が彼らの州内で大規模採鉱をなんらかの形で禁止している。

 セント・オーガスティンのコンポステラ・バレー・プロジェクトの周囲で明らかにされている緊張は、何が国家的な問題となっているかを強調している。立ち上がってからわずか1年足らずのこのプロジェクトは、1995年採鉱法の下に、政府のあらゆるレベルから保証を受けている。もし採鉱禁止が近くのタンパカン金・銅プロジェクトがとまることになれば、オーガスティンのプロジェクトは同国史上最大の単独採鉱事業となる同プロジェクトの首脳は、社会的に責任ある採鉱、地域の人々の採用、採鉱後の修復計画と植林の推進などの新たな基準を設定していると述べている。同社の環境認可担当ディレクターであるクラド・ギレスピによれば、月約2万ドル(約160万円)を地域コミュニティの開発の取り組みに使っている。彼はまた、そのようなことを求める法律はないと指摘して、”現在、このコミュニティでしていることは全く自主的なものであり、それは正しいことであると我々は考えている”と彼は述べている。

 しかし、影響を受けるバランガイ(村)(訳注1)の指導者達は疑いを持っている。”私は100%疑っている”とバランガイ・マグナガのキャプテン・フェルディナンド・ドッルトラは述べている。彼は会社がバランガイ集会所建設のためにうわさによれば50万ペソ(約100万円)を寄付した後にプロジェクトに賛同していた。(当局はその寄付は彼らの決定に影響を与えなかったと述べている)。何人かの指導者らは、同地域への会社の投資を評価すると述べ、彼らは、会社の責任が保証されるなら、採鉱の改革は同様な利益をもたらすに違いないと指摘する。会社の実施調査を支持したバランガイ・タンバンゴンの指導者エルビエ・バリアルは、”大規模採鉱を支持することは非常に危険だ”と述べている。”600所帯が影響を受けるであろう。彼らは1987年以来この地域にいる”。

 1995年法の下では、ある地域の権利を歴史的に主張する小規模採鉱者らは、ミナハン・バヤン、又は”人民の採鉱”の認可を要請することが出来る。この地域の採鉱者らは1980年代からそのような認可を求めて申請をはじめたが、成功していない。そして1992年に、鉱山地球科学局(MGB)は、フィリピンの木材切り出し会社である全国開発会社(Nationwide Development Corp.,)に認可を与えたが、それが現在セント・オーガスティン社のパートナーとなっている。その意味で、この山のどの採鉱者も”不法採鉱者”ということになる。

 アレキサンダー・ジョソルは採鉱者の一人である。彼はかつては農民であったが、現在は彼自身の採鉱場を運営しており、そのために彼は地域の先住民協議会に使用料を支払っている。採鉱作業は農作業よりずっと危険であるが(例えば本年1月の採鉱関連の山崩れで40人が死亡)、彼らはほどほどの稼ぎがある。経験をもっている彼は、セント・オーガスティンが雇ったかもしれないような採鉱者である。しかしジョソルは、開放ピットで働くための機械技能を持っておらず、また雇用による稼ぎは独立採鉱よりも安く、また時間給ではなく、採鉱金の重量による後日払いであると述べている。彼は約24人(2ダース)の小規模金採鉱者と共に、セント・オーガスティンのプロジェクトに反対し、山での権利を確保するために活動している。彼らは、政府が大規模プロジェクトから手を引き、その代わりに人力採鉱者の作業をもっと安全で効率的にすることを支援しつつ、小規模産業に投資することを望んでいる。

 他の人々は、大規模採鉱をもっとよく規制することだけを望んでいる。1995年採鉱法の下では、外国の会社は典型的には所得税も輸出税も払わず、わずか2%の事業税を払うだけであり、そのことがなぜ採鉱が国のGDPのの2%以下しか占めないかの大きな理由である。税金は自己申告の製造量によって決まるということが、過少申告というもうひとつの明白な問題を引き起こす。経済改革行動(Action for Economic Reforms)により委託された2010年の調査によれば、2000年〜2008年に報告された鉱物産出高は実際の鉱物輸出よりも17〜45%低い。そのような矛盾の背後にある監視の欠如は、既存の採鉱法に対するひとつの主要な批判である。採鉱に関する取り組みで有名な国際環境賞である2012年ゴールドマン賞を受賞したエドウィン・ガリグエツ神父は、アキノ大統領は政府機関に大きな規制権限を与えすぎたと主張する。ほとんどの機関が同法を実施する能力も意思も持っていないと彼は述べている。

 かつてはフィリピンの天然資源の安い民営化を要求したIMFは、現在はフィリピンがその採鉱税のスキームを修正することを勧告している。セント・オーガスティン社の幹部は、フィリピンの自由採鉱法と税法は、同社がこの地域にひきつけられる要素であること認めているが、ガリグエツ神父は、より厳格な規制と”合理的に”もっと高い税金は、必ずしも彼らを消滅させないと主張する。支払いは巨額である。”もしここで参加することが出来れば、そして確立することができれば、長期的には非常に良い状態になるであろう”とフィリピンの鉱物資源の可能性について、セント・オーガスティン社の操業幹部、トム・ヘンダーソンは述べている。

 長い間、産業を改革すると約束してきた大統領は、今週、採鉱に関する大統領指令のための実施規則を提出した。それらは歳入の共有、保護されるべき居住地、エコツーリズム地帯に関する規定を含んでいない。他の利害関係者らは、フィリピン議会に三つの代替法案(議案 4379、6342、 4315)を導入しつつ、これらの事柄について着手している。これらの議案は、産業を改革するという試みの点で、隣の法案より順次急進的になっている。これらの代替法案はカソリック司祭会議、環境団体、先住民権利組織、によって支持されており、これらの措置どれでも大統領の計画に権限を与えるであろうと感じている。

 アキノ大統領が民衆の要求に好意的に応えるか、又は数十年来の状態を維持するのかは、まだ分からない。しかし、フィリピンで起きていることは、世界の他の場所における採取産業のための新たな標準を設定することが出来るかもしれない。

Investigative Reporting Programと共同して作成された。


訳注1:バランガイ
フィリピンの住民自治組織・バランガイの機能と地域社会

訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
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