EHN 2011年4月11日
ペルーでは町の人々と
金精製者が水銀に曝露


情報源:Environmental Health News April 11, 2011
Townspeople, gold shopkeepers highly exposed to mercury in Peru
By Barbara Fraser, Environmental Health News

http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/mercury-in-perus-gold-shops

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年4月19日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/news/110411_ehn_Peru_mercury_gold.html

 専門家らは前から、ペルーの採鉱労働者が非常に高いレベルの水銀に曝露していることを知っていた。しかし、今回、新たな調査により、金が売られているアマゾンやアンデス山岳地帯の町で、この有毒物質の脅威が広がっていることが示された。プエルト・マルドナドの金ショップ(金取引兼精製作業場)では、作業者らが鉱石の塊を熱しているので、水銀蒸気が作業場に漂い、次に町の人々で賑わう通りに流れて行く。研究者らは金ショップの水銀レベルを測定したが、高すぎて濃度計は振り切れて測定できなかった。作業場の外では、大気中の水銀濃度は安全ではないレベルであった。


ペルーの金作業場の外の空気は
水銀の国際安全基準を超えている
【プエルト・マルドナド、ペルー】大きな露天市場に沿った混雑したホコリっぽい街路には”ORO”と表示された金を取引する店がある。作業服を着て長靴を履いた、ほとんどが男の顧客たちが、金を売り、家に送金するために、鉱山キャンプから今到着した。

 金ショップ(金取引兼金精製作業場)の中では、作業者が採鉱労働者から買った金鉱石の塊を熱しているので、水銀蒸気が作業場に漂い、町の人々で賑わう通りに流れて行く。

 専門家らは前から、ペルーの採鉱労働者が非常に高いレベルの水銀に曝露していることを知っていた。しかし今、新たな調査が、金が売られているアマゾンやアンデス山岳地帯の町に、この有毒物質の脅威が広がっていることを示している。

 ラテン・アメリカで金の産出が最も多い鉱山地帯のひとつ、マドレドディオスの密林の町プエルト・マルドナで、研究者ルイス・フェルナンデスは2009年に、ある金ショップで国際的な労働者安全基準よりも20倍高い水銀レベルを検出した。今年の2月に行なった追跡調査で、あるショップの中の水銀レベルは余りに高すぎて彼の検知器では測定することができなかった。

 それから1週間後、アンデス高地のある町で、フェルナンデスは金ショップの外の大気中の水銀を測定して驚いた。測定値は安全と考えられる値を超えていた。

 ”これらの労働者が急性水銀中毒の厳しいリスクに曝されていることは明らかであり、ショップの外の人々もまたひどく曝露しているように見える”と述べた。

 ペルーでの最初の調査で、フェルナンデスと米環境保護庁から資金提供を受けた調査チームは、アマゾン低地のプエルト・マルドナード及び、アンデス山岳地帯の海抜15,000フィートの町ラリンコナダの金ショップで水銀汚染を測定した。

 ペルー国立健康研究所による人々の尿中の水銀測定という新たなテストと連携した最初の成果は、国際的な金相場の高騰で繁盛している非公式な採鉱キャンプ近くの町の公衆健康リスクが高いことを指摘した。

 大気に放出されショップで吸引される金属水銀は、神経系にダメージを与え、奮え、記憶障害、筋力の衰えと痙攣、興奮、不眠、頭痛、知能低下などを引き起こす。それはまた、ブラジル人採鉱者の免疫系障害と関連している。死亡率は非常に高い。

 ペルー当局はペルーのあらゆる場所で10万人以上の小規模金採鉱者が働いていると推定しており、したがって金ショップの放出は広範に拡大した問題となっている。

 もしリンコナダとマドレドディオスの一部がアメリカにあるなら、それらは”スーパーファンド・サイトに間違いなく指定されるであろう”とスタンフォーード大学にある世界環境科学部門カーネギー研究所のフィールド調査研究者であるフェルナンデスは述べた。

 金採鉱は、汚く危険な仕事である。マドレドディオスの2万人の採鉱者の大部分は、労働契約もなく危険な状況で安全装置もなく、”非公式”に働いている。この地域は、公式には年間約20トンの金を産出していることになっているが、ほとんどの採鉱は規制されていないので、実際の産出はおそらくもっと多い。

プエルト・マルドナドの最も繁盛している
金ショップの前でスイカの切り売りをする人
 川沿い又は熱帯雨林に点在したキャンプで働く労働者らは、金のアマルガムを作るために、鉱石を手や足を使って水銀で混ぜる。しかし健康専門家は、最も危険なの屋外やショップの中で火炎やトーチを使ってアマルガムを加熱するときに生じる水銀蒸気を吸引することであると言う。

 マドレドディオス地区の健康局の疫学事務所を指揮するカルロス・マンリクエ博士は、プエルト・マルドナから約100マイル離れた鉱山の町フエペツエにある診療所で働いているときに、奮え、頭痛、胃腸障害など全て水銀中毒の可能性ある症状を示す採鉱者を見たと述べた。そこの川は鉱山からの泥で堆積しているので、現在はその上をトラックで行くことができる。

 ”しかし、我々は分析器具をもっていないので、その症状が本当に水銀中毒なのかどうか知るすべがない”とマンリクエは述べた。水銀中毒の症状をチェックするためにペルーの採鉱者や町の人々を診断した人は誰もいない。

 しかし、ひとつの新らしい調査が懸念を提起している。ペルー国立健康研究所による調査を取りまとめたジョン・アステテ博士によれば、昨年フエペツエの約200人から採取した尿サンプルのほとんどの水銀レベルは職業的曝露のための世界保健機関の基準以下であることを示したが、何人かは非常に高かった。

 アステテは、水銀レベルが最も高い人たちの何人かは、採鉱には直接関わっていないが、EPAの測定器で計測するには高すぎるほど水銀放出をしているショップのような金が売買される場所の近くに住む人々のものであった。

 どの採鉱の町にも金ショップがあり、その全てが水銀を放出している。これらのショップの12は、この町一番の商業地区プエルト・マルドナード青空市場に通じる街路を横断した2ブロック以内のところに密集している。さらに、町には他の場所に少なくとも8ショップがあり、何人かは多分、家でこっそり金精製をやっていると当局は言っている。

 フィルターなしで金属製フードの下で働く作業者らは、採鉱者に金を払う前に金を熱して水銀を蒸発させる。数分かかる加熱中、ショップの人と客は高い濃度の水銀蒸気に曝露する。いくつかのショップは配管で外につないでいるので、水銀蒸気は近くを通る人の頭上や近くの安ホテルの窓の近くの空気に注がれる。

 2009年のパイロット調査の期間中、フェルナンデスは、フエペツエにあるひとつのショップで世界保健機関の労働衛生基準よりも22倍高い450μg/m3の値を示し、一時的には1,000μg/m3のピーク値を伴う水銀濃度を測定した。

簡単なフィルターで金ショップからの
水銀放出を著しく削減できる
 アルゴン国立研究所の協力を得て研究者らは、金属の隔壁とファンを持つドラム缶製の簡単なフィルターを考案したが、それを土地の職人が500ドルくらいで作っているのをみた。フィルターが設置された後は水銀レベルは40μg/m3にまで低下したが、これは国際基準の2倍である。

 EPAの国際事務所のマリリン・エングルに率いられたEPAチームが2月にプエルト・マルドナに戻ったときに、彼らはいくつかの他のショップが同様なフィルターを作って設置していることを発見した。彼らの調査はフィルターの効果を分析するであろう。

 通行人がものめずらしそうにのぞく中、EPAチームは黒いケースに入った測定器をショップの外の道路に設置した。マスクをつけた彼らは、ショップの従業員に作業時に着けるよう個人用測定器を与え、次に、金属及びガス状水銀を測定するためにフードにチューブと捕集器を取り付けた。

 同チームはこれらのデータを、ショップの排出水銀の測定データとしてだけでなく、空気中の水銀の拡散モデルを作るために使用するであろう。

 国連環境計画によれば、マドレドディオス地区にあるような非公式な採鉱は世界中で年間 650〜1,000 トンの水銀を大気と水に放出している。

 ラリンコンダにある約4000人の町に成長し200の金ショップのあるアンデス山中の仮設キャンプではもっと重大である。アマゾン低地の採鉱者らは川の堆積物中から金の小片を分離するが、ラリンコンダの採鉱者らは、山から鉱石を掘削し、次に大きなグラインダーを用いて水銀を加えながらそれを砕く。

 彼らはアマルガム化した塊をショップで加熱するために持ってくるが、フェルナンデスが言うにはそれは1kgくらいあり、その半分は水銀である。塊は大きいので、加熱処理には1時間かそれ以上かかり、したがってショップの作業者や客は、プエルト・マルドナドのショップの場合より長時間高いレベルの水銀に曝露することになる。

 氷点下に近い温度の下で、蒸発した水銀は直ぐに凝縮して側溝や路上にに凝結し、さらにはショップの床や隣接する住居を汚染するとフェルナンデスは述べた。

 彼は、急性水銀中毒のリスクはリンコナダのショップ経営者にとって”大変なこと”であると述べた。

カーネギー研究所研究者ルイス・フェルナンデス(左)と
技術者カルビン・ウイットフィールドが
プエルト・マルドナドの金ショップから放出される水銀を
捕捉するために捕集器を設置
 金属水銀の小滴は、魚に見出されるメチル水銀のように発達中の胎児に危険はない。サウスカロライナ大学医学校病理学・微生物学・免疫学部の助教授ジェニファー・ニランドによれば、それらは肺から血流中に入り込み、それから体全体に運ばれるが、胎盤は通過しない。

 それにもかかわらず、水銀蒸気の多くは最終的には雨に溶け込み小川や河川に流れ込む。

 水中では、バクテリアが金属水銀を有機水銀であるメチル水銀に変換するが、それは食物連鎖中入り込み、連鎖中で濃縮されて高濃度になる。その結果、金ショップの近くに住んでいるわけではない人々が魚を食べるとこの水銀に曝露する。

 人間は食物連鎖の頂点におり、マドレドディオス地区の市場では年間300トン以上の魚が売られているが、これらには、採鉱キャンプ近くの川沿いにある先住民コミュニティの住民が獲る魚は含まれていない。

 吸入した水銀蒸気とは違い、メチル水銀は血流脳関門や胎盤を通過することができるので、大人や子ども、そして胎児はリスクに曝される。

 ”発達中の胎児はメチル水銀におそらく最も感受性が高い”と、魚を主食とするブラジルのアマゾン地域コミュニティで水銀を調べたカナダ健康調査研究所の主任調査官ドナ・メルグラーは述べた。

 メチル水銀の摂取は子どもの知能低下や神経発達障害の問題に関係している。

 2009年にフェルナンデスは、プエルト・マルドナドの市場で売られている魚11種の組織をテストして、世界保健機関が勧告する最も一般的な3魚種の水銀最大値0.5ppmより高いことを発見した。ペルー生産省による2010年の調査もまた同様な発見をした。

EPA契約化学者ピーター・カリヘールは
プエルト・マルドナドの金ショップから
放出される水銀の測定値をチェック
 ペルーでは、国立健康研究所の尿サンプルは、主に過去数日以内に吸引された金属水銀を示しおり、人の体内組織には血液や頭皮に現れるメチル水銀は蓄積していなかった。

 昨年、スタンフォード大学卒の現地医師カティ・コリガン・アシェは、プエルト・マルドナド及びいくつかの採鉱地帯のコミュニティの住民から髪の毛のサンプルを採取した。彼女はそのサンプルの分析を始めたところであるが、採鉱労働者ではないプエルト・マルドナの何人かの人々の水銀濃度がWHOの労働衛生基準よりも高いレベルにあることをすでに見出していた。

 フェルナンデスは、今年の後半にマドレドディオス地区で魚の水銀調査を新たに開始することを計画している。さらに、ペルーの国立健康研究所は採鉱者とその他の住民の水銀調査をマドレドディオス川流域のコミュニティにまで拡大するであろう。

 1月には、疫学ディレクターであるマンリクエはマドレドディオス地区政府議会のメンバーとして証言した。彼は医師としてできるだけのことをしたと信じているが、政治指導者がこの地域の健康問題を解決しなくてはならないと述べた。

 ”水銀中毒は、目に見えない問題である”と彼は述べた。”地域の当局はまだことの深刻さを認識していない”。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る