フィリピン Business_Mirror 2012年2月25日
水銀を永久に葬る

情報源:Business_Mirror, 25 February 2012
Entombing mercury for life
http://businessmirror.com.ph/home/science/23706-entombing-mercury-for-life

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年2月28日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/Ban_Toxics/BM_120245_entombing_mercury_for_life.html



photo: Ban Toxics!
水銀は、小規模金採鉱での使用のために”何でも屋(サリ・サリ ストアー)”でプラスチック袋に入れて売られている。
【バギオ市】長年、水銀は、歯科の詰め物としてのアマルガムから医療用体温計、採鉱まで、我々の生活の多くの側面で使用されてきた。しかし、水銀は残留性があり分解しない有害な金属であることがわかった。それは最も危険な環境汚染物質のひとつであり、神経毒素であり、神経系を損なう有害物質である。

 金採鉱プロセスや歯科などの他分野での水銀の使用の段階的廃止に続いて、比・保健省(DOH)は、2008年8月11日に、2010年までに全てのフィリピンの病院で全ての水銀含有器具を段階的に廃止するよう行政命令を出した。

 環境正義のために活動する組織であるバン・トクシックス(Ban Toxics!)は、小規模金採鉱で水銀を使用しない金抽出を行なうための全国キャンペーンを展開している。

 しかし、たとえ水銀の使用がとまっても、次の問題は収集した水銀を長期間保管しなくてはならないことである。

 バン・トクシックスは米・国務省の支援を得て、使用の削減により収集される水銀の安全な取扱いと保管に関するコンサルテ-ションを行なっている。フィリピンという環境の中でどのように保管を実現するかということが大きな課題であり、コンサルテーションからのフィードバックを得つつ、現在はその解決のための最初の段階にある。

 ”これらのコンサルテーションの結果は、水銀保管に関する国家計画を策定する比・環境天然資源省(DENR)技術作業部会に提出されて検討され、今年中に実施される第2回目のコンサルテ-ションでさらに討議されるであろう”とバン・トクシックスの水銀保管計画国内コーディネータであるミカエル・フランシアは述べた。

3 つの水銀保管方法

 水銀の保管には3つのレベルがあると、バン・トクシックスの代表であり弁護士のリチャード・グティエレスは説明する。

 小規模採鉱者がよく知っているひとつの方法は、地方の村落によくある”何でも屋(サリ−サリ)”で売られている水銀のようにプラスチック袋での保管であり、これは非常に危険な方法である。

 ”プラスチックは多孔性であり、水銀は揮発性が高いので、プラスチックを通り抜けることができる”とグティエレスは述べた。

 もし、そのプラスチック袋を落とせば、水銀は重いので容易に袋は破れると、彼は続けて述べた。

 また、水銀を金属製容器に保管する短中期保管方法もある。

 世界的に認められている方法は、アメリカで使用されているような長期保管施設である。それらは地上にあり、周囲はフェンスで囲まれ、床は耐水銀性の下地処理が施されている。


Image: Ban Toxics!
アメリカではステンレススチールの容器(フラスコ)で保管される。それぞれのフラスコは76ポンド(約35キログラム)の水銀を含んでおり、これらのフラスコ29個が1トン容器に収納されて保管される。
 長期保管では、水銀は3リットルのソーダー容器と同じサイズの金属容器に保管され、その重量は約76ポンド(約35キログラム)である。これらの容器29個がステンレススチール製の容器に収納されて保管される。その重量は約1トンである。この施設には、5,000トンの水銀が保管されている。非常に有害でありテロ攻撃の脅威があるので、武装警備員により24時間、警備されている。

 2008年9月5日、欧州連合は水銀の輸出を禁止し、塩素アルカリ産業で使用された9,000トンの水銀の保管を義務付けた。

 ヨーロッパでは、ドイツの岩塩鉱跡利用のような地下保管施設を使用している。

 水銀廃棄物は岩塩鉱の廃坑で保管するという考え方である。周囲の重厚な岩壁は液体やガスを密閉し、湿度の低い状態を保持することができる。岩塩鉱は200年以上安定であることが証明されている。

 スウェーデンでは、地下深くの岩盤貯蔵所での水銀保管が計画されている。考え方は自然環境に依存するということであり、岩塩鉱跡保管と同じ原則である。その天然の安定した岩盤は100万年以上、水の流入、ひび割れ、断層線がないことが証明されている。

 ヨーロッパの保管技術は、アメリカのものと似ているが、永遠の墓場のような地下で行なわれており、それが二度と環境に入り込むことがないことを確実にしている。

手の届かない選択肢

 地理的特性に加えて技術と安全確保に必要な費用を考慮すると、これらはフィリピンには手の届かない選択肢であると専門家は言う。

 ”フィリピンイは水銀保管について現実の課題がある”とグティエレツは言った。”フィリピンは環太平洋火山帯にあり、多くの活断層があるので、地下保管はほとんど不可能な選択肢である”。

 パラワン州は、フィリピンでは地盤が最も安定した地域であるといわれているが、これについて同州または他の場所が、彼等の土地にそのような有害物質を保管することに同意するであろうか?と、コーディリエラ行政区域の比・環境天然資源省(DENR)代表クラレンス・バグイラットは問うた。バグイラットは、バン・トクシックスと米・国務省によりバギオ市で開催された一連の5地域コンサルテーションの最初の会合におけるコンサルタントであった。
 コンサルテーションは、当初は小規模採鉱からの余剰水銀と廃棄物に取り組むことが意図されていたが、他の分野が著しい水銀放出を行なっていることがわかった。グティエレツは、市場における水銀の循環をとめるめる必要があると述べた。フィリピンでは、水銀はキログラム当り30,000ペソ(約6万円)するが、それが入手できないように、とりわけ違法な方法で入手できないようにすることを確実にする世界の運動の一端をフィリピンが担うことが必要である。

 例えば、グティエレツは、南カマリネス州のある病院で収集され仮保管されていた体温計や血圧計の水銀がなくなっていると述べた。

 ”一か所に収集すると実際には泥棒が容易に持ち出す。体温計や血圧計は壊されて、そこに残されており、水銀だけが消えてしまった”とグティエレツは述べた。

 比・保健省(DOH)は、それらがなくなっていることは認めたが、最終的な目録がなければ何が起きたのか結論を出すことはできないと述べた。

 コーディリエラは水銀を使用する小規模金採鉱が多く密集している地域なので、グティエレツは、懐疑的に首を振った。

 彼は、フィリピンは水銀の永久保管のための国家戦略計画を策定する緊急の必要性を示す兆候があると述べた。

それは大気、水、土壌中にある

 環境汚染物質なので、それが大気に放出されると水銀は最も有毒な形態であるメチル水銀になり、それは魚に蓄積し、それを食べる人間の体内に入り込む。

 2008年、ダバオ湾の魚の水銀についての30年の調査の報告書が発表され、水銀は子どもの知能のレベルを生涯にわたり低下させることを明らかにした。胎児や子どもは特に水銀に脆弱である。

 2007年、ある会議で発表された論文は、ディワルワル鉱山サイトからアグサン川に排出されている水銀で汚染された水が住民を危険に陥れていることを示した。鉱山地帯の人々の米、魚、ムラサキ貝の食事が毎週テストされ、許容レベルより3倍高い水銀の存在が明らかにされた。

 水銀は環境中に漏れ出すので、水銀の永久保管は現在、世界的な懸念である。

 バン・トクシックスとそのパートナーは、マニラ首都圏、中部ビサヤ地方(セブ市)、ビコル地方(レガスピ市)、ダバオ地方(ダバオ市)、及びコーディリエラ州でコンサルテーションを開催した。

 2011年5月に開始されたこのプログラムは、小規模金採鉱での水銀使用を廃止し、最終的には他の分野でも廃止することに焦点をあてた。水銀の安全な取扱いと永久保管のための国家戦略計画の策定に資するであろうコンサルテーションによる評価は今年の5月に終了する。

 5つのコンサルテーションにより明らかとなった共通の課題は次の通りである。▼水銀の保管を展開するための法的措置、▼歯科アマルガム廃棄物、▼適切な保管場所の決定、 ▼水銀輸入の禁止、▼水銀管理における国家の専門家不足。

 水銀は、明らかに恐ろしい物質である。しかし、地域社会と地方政府(LGUs/local government units)の調和の取れた取り組みを通じて、水銀とその有害な影響を廃絶し、封じ込めえることができるであろうことを信じている”とグティエレツは述べた。


写真:水銀は、小規模金採鉱での使用のために”何でも屋(サリ・サリ ストアー)”でプラスチック袋に入れて売られている。アメリカではステンレススチールの容器(フラスコ)で保管される。それぞれのフラスコは76ポンド(約35キログラム)の水銀を含んでおり、これらのフラスコ29個が1トン容器に収納されて保管される(Ban Toxics!)





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