IPEN プレスリリース 2020年5月4日
プラスチックのあるものは子どもたちに有毒である
ある研究が、黒色のリサイクル・プラスチックに由来する玩具は
子どもたちの健康に深刻な脅威を及ぼすことを見つける

情報源:IPEN Press Release May 4, 2020
Some Plastics Can Poison Children
Study Finds Toys Made of Black Recycled Plastics
Pose Serious Threat to Children's Health
https://ipen.org/news/some-plastics-can-poison-children

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
掲載日:2020年5月9日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/IPEN/
200504_IPEN_Some_Plastics_Can_Poison_Children.html

【ヨーテボリ・スウェーデン】プラスチック製子どもの玩具及び消費者製品中の有害化学物質の人間の細胞に及ぼす影響を分析する画期的な研究が、リサイクル・プラスチックのあるものから作られた玩具は人に有害であり、玩具を口にする子どもたちのダイオキシンの 1日摂取量レベルに大きく影響することを実証した。研究対象の全てのサンプル中で明らかにされ有害化学物質のレベルは、廃棄物焼却炉からの灰の様な有害廃棄物に見られるレベルに相当した。

 アルニカ(Arnika)バイオディテクション・システムズ( BioDetection Systems)及び国際汚染廃絶ネットワーク(IPEN)からの研究者のチームは、難燃化学物質を含む電子廃棄物のリサイクルにしばしば由来する黒色プラスチック(訳注1)から製造された玩具は、人の細胞に有害であることを見つけた。その研究はこのプラスチックで作られた玩具を口にする子どもたちはその有害物質からの危険な健康影響のリスクがあることを明らかにした。それはリサイクル・プラスチックで作られた玩具の人間の細胞への有害影響を確立した初めての研究である。

 研究者らは、アルゼンチン、ドイツ、チェコ共和国、インド、及びポルトガルで購入された黒色プラスチックから作られた玩具及び玩具の部品を分析した。黒色プラスチックはしばしば、有害臭素化難燃化学物質を含む極めて有害な電子廃棄物プラスチックに由来する。研究者らはサンプ玩具中に有害廃棄物に匹敵する濃度で危険な高レベルの難燃剤ダイオキシンを検出した。

 研究者らは、サンプル・プラスチックの人間への毒性を調べるために、そのサンプルが実験室で人間の生細胞にどのように影響を及ぼすかを検証した。彼らは細胞サンプル中で高いダイオキシン作用を特定し、歯固めやおしゃぶりなどの玩具は、子どもたちの一日当たりのダイオキシン暴露を著しく高めると結論付けた。アムステルダム自由大学及びバイオディテクション・システムズの研究者で主著者クレメンス・ブディーンによるピアレビューされたその論文は、ケモスフェア7月号(Chemosphere, Volume 251, July 2020, 126579)に発表されるであろう。

 ダイオキシンは世界で最も有毒な化学物質の部類であると考えられており、例え微量であっても極めて有害である。ダイオキシン類の懸念のレベルは、グラム当たり 10分の数ピコグラム程度から始まり、検証されたサンプルのいくつかはグラム当たり数千ピコグラムに達した。臭素化ダイオキシン類は、脳の発達に影響を及ぼし、免疫系を損ない、がんリスクを増大させ、甲状腺機能のかく乱のリスクを及ぼすことが知られている。それらは、臭素化難燃剤の製造過程で非意図的に形成される。臭素化難燃剤を含んだプラスチックは新しいプラスチックに再生するためにリサイクルされ、加熱されると、臭素化及び塩素化ダイオキシン類が追加的に生成される。それらは世界的に禁止されていないが 、臭素化ダイオキシン類は世界保健機関により関連する塩素化ダイオキシンと極めて近く有毒であると認められている。専門家らは臭素化ダイオキシン類のより厳格な規制を推奨している。

 その恐ろしい発見は、子どもたちの健康を世界的に懸念させ、増大するプラスチック・リサイクルを通じてプラスチック廃棄物を低減することを求める循環経済モデルにおける危険な欠陥に光を当てるものである。現在のリサイクル・システムは、難燃化学物質とダイオキシンを含むプラスチックをリサイクルの流れに投じることを許容し、その結果、この研究でサンプルとされた玩具の様に、リサイクル・プラスチックから作られた危険な汚染製品をもたらすことになる。

 この研究には関わっていないマサチューセッツ大学アマースト校生物学教授の著名な健康専門家トマス・ゼラー博士(Ph.D.)は、玩具のサンプル中にがんを引き起こす化学物質が発見されたということの重大性を指摘した。”我々はプラスチックに、特に玩具の中のそれに囲まれており、そしてプラスチックを作るために使用されている化学物質は、必ずしも、特にプラスチックがリサイクルされているなら、必ずしも知られているわけではない。”これは化学物質の分析という難しい作業を実施しただけでなく、プラスチックの全体的な毒性を調べるのに役立つ分析の新たなタイプを使用した非常に重要な研究である。彼らが見つけたことは、黒色プラスチックは時にはがんを引き起こす化学物質を高いレベルで含有するということである。子どもを有毒物質に暴露させることを望む親はいない。”

 研究者らは、有害化学物質がリサイクルの輪に張り込むのを防ぐために世界のリサイクル・システムを変えるための緊急の行動を求めている

 ”この研究でプラスチックの有害影響を評価するために、化学的分析はもちろん、最先端のヒトと動物の細胞を使用する我々の方法論は、プラスチック中の有害化学物質がどのように人間の健康に影響を及ぼすことができるのかについての科学的知識を高める。これらの発見は、(PBDEs の様な)臭素化難燃剤を含む黒色プラスチックをリサイクルして製造した多くの消費者製品中に極めて有害な臭素化ダイオキシン様化合物が存在することが予想されるので、早急に監視して予防すべきである”と、分析を実施したアメステルダムを拠点とするバイオディテクション・システムズのディレクターであるピータ・ A. ベーニッシュ博士は述べた。

 化学物質専門家らは、その研究はリサイクル・プラスチックの安全性についての懸念を深めるものであり、プラスチック製造者と規制当局に対して有害プラスチックをリサイクルしないようにすることを求めている。 Arnika の執行ディレクター及び IPEN の顧問であり、このプロジェクトの主任科学者であるジンドリッヒ・ぺトリック博士は次の様に述べた。”この研究は、我々の現在のシステムは有害材料が玩具に成形されていることを実証している。残留性汚染物質(POPs)を消費者製品から締め出すためのより厳格な管理が道徳的要請である。我々は、電子廃棄物と難燃剤を含むプラスチックのリサイクルの流れを止め、廃棄物中の残留性汚染物質(POPs)の十分厳格な制限を設定しなくてはならない。さもなければ我々は、有害な循環経済を見ることになるであろう”。

 最初の製品サンプリングに関与した環境的発展のための持続可能な研究と行動(SRADev Nigeria)の執行ディレクターであるレズリー・アドガメは、高レベルのダイオキシンが電子廃棄物と廃棄物焼却に関連しているアフリカでは、有害製品は有害化学物質暴露のリスクだけではないと強調した。”世界がその電子廃棄物及びプラスチックを投棄し、規制が弱いので有害製品が持ち込まれ、汚染リサイクルが行われるアフリカの多くの地域社会で臭素化難燃剤とダイオキシンへの有害暴露が増加している。我々は、アフリカ及び世界中の子どもたちの健康を守るために電子廃棄物とリサイクルされた廃棄物中の残留性汚染物質(POPs)に関する世界的管理を強化しなくてはならない。電子廃棄物中の有害化学物質はどのような消費者製品、特に子どもの玩具中に存在するべきではならない。答えは、有害リサイクル終わらせるための世界的な政策である。

 両親は、緊急措置として黒色プラスチックから作られた玩具を回避することにより子どもたちの有害化学物質への場うろを低減することができる。黒色プラスチックは電子廃棄物プラスチックから作られる可能性が最も高いが、他の色が着色されたプラスチックも同様に有害化学物質を含んでいる可能性がある。

###

 記者/編集者へ:報告書の著者らと専門家との ZOOM インタビューが利用可能である。研究者とのインタビュー又は追加情報のについての相談は Laura Vyda (lauravyda@ipen.org, cell or WhatsApp+1 510-387-1739) に連絡ください。

 125か国以上からの 600 近くの公益 NGOs の世界的な環境ネットワークである IPEN(International Pollutants Elimination Network)は、全ての人々にとって有害物質のない将来を構築するために、最も有害な物質を廃絶し低減するべく活動している。

 アルニカ(Arnika)は、国内及び海外で将来の世代のために自然と健康な環境を守ることに専心するチェコの非政府組織であり、中央及び東ヨーロッパの IPEN 地域ハブである。

 バイオディテクション・システムズ( BioDetection Systems / BDS)は、安全、品質、及び生物活性評価のためのバイオベースのスクリーニング技術を提供するアムステルダムの研究所である。BDS は、ダイオキシン(様)化合物や内分泌かく乱化学物質の様な重要な有機汚染物質の感度の高い検出に高度の経験がある。

■専門家インタビュー


Dr. R. Thomas Zoeller, Ph.D., Professor of Biology at the University
of Massachusetts, Amherst explains the health consequences of dioxins
in plastics.


Dr. Peter Behnisch, Director of Biodetection Systems in the Netherlands
Dioxins found in many sampled plastic toys can harm children


Dr. Jindrich Petrlik, Executive Director of Arnika and IPEN Advisor,
Weak limits allow toxic chemicals to enter recycling chain


Dr. R. Thomas Zoeller, Ph.D., Professor of Biology at the University
of Massachusetts, Amherst
Chemical exposures make us more vulnerable to disease.


訳注1:黒色プラスチック
訳注:IPEN / Arnika による子どもの玩具とプラスチック・リサイクルの問題
訳注:ストックホルム条約(POPs条約)関連情報
訳注:プラスチックリサイクル参考情報


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る