2015年5月 Arnika Association/IPEN 共同報告
有害なおもちゃか、有害廃棄物か:
新しいプラスチックに古いPOPs

政策決定者のための概要
イトゥカ・ストラコーバ(Arnika)/ ジョー・ディガンギ(IPEN)

情報源:Toxic Toy or Toxic Waste: Old POPs in New Products
Summary for Decision-Makers
Jitka Strakova, Arnika Association and Joe DiGangi, IPEN
May 2015

http://ipen.org/sites/default/files/documents/Toxic_toy_or_toxic_waste_summary_2015.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2015年5月11日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/POPs/IPEN/
May_2015_IPEN_Old_POPs_in_New_Products_COP7.html


   IPEN は、100以上の発展途上国と移行経済国で活動する700の非政府組織(NGOs)の主導的な世界的ネットワークである。IPEN は、人の健康と環境を保護するために、安全な化学物質政策と実践を確立し実施することを目指して活動している。IPEN は、そのメンバー組織が、現地活動を実施し、お互いの活動から学び、新たな政策を優先付け達成するために国際的なレベルで活動する能力を構築することによって、このことを実現する。IPEN の使命は、全てのために有害物質のない将来を築くことである。

 IPEN は、2003年以来 SAICM プロセスに関与しており、その世界的なネットワークは、SAICM の国際的な政策の枠組みを開発することに協力した。1998年の創設時に、IPEN は残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約の開発と実施の促進に焦点をあてた。現在は、その使命は、有害金属の拡散を止め、有害物質のない将来を築きつつ、SAICM プロセスを通じて(SAICM 事務局に公益組織としての座席を保有している)、安全な化学物質管理の推進もまた含んでいる。

はじめに

 臭素化難燃剤は、消費者製品や電子機器に用いられる発泡材やプラスチックに広く加えられてきた。ペンタBDE はポリウレタン・フォーム中で広範に使用されているが、電子機器中にも見られる。オクタBDE は、電子機器で使用される ABS (訳注:アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、汎用プラスチック)及びその他のプラスチック中で使用されている。デカBDE は、電子機器中で使用されるプラスチック中に広く見出され、電子廃棄物の一般的な成分である。2009年に、ストックホルム条約 COP4 代表者らは、商用ペンタBDE 及び商用オクタBDE を世界的な廃絶のための付属書Aにリストすることに合意した(ストックホルム条約 2009)。このCOPではまた、これらの物質を含むプラスチック、発泡材、及びその他の材料のリサイクルを2030年まで許す免除を設けることに合意した。その後、 POPs 検討委員会は COP5 のためのリサイクル免除に関する勧告を策定した。 同委員会は、”臭素化ジフェニルエーテル(BDE)をリサイクルの流れから可能な限り早急に廃絶する”ことを勧告し、”そうしなければ、もっと広範な人と環境への汚染と臭素化ジフェニルエーテル(BDE)の回収が技術的に又は経済的に実行可能ではない環境中への分散をもたらし、リサイクルの長期的な信頼性を失うことを避けられない”と述べた(Stockholm Convention 2011)。

 代表者らは、ペンタBDE とオクタBDE のためのリサイクル免除を2017年の COP8 で検証するであろう。COP7 では、代表者らは、条約にリストされている臭素化ジフェニルエーテル(BDE)の評価とレビューのための情報提出のための様式案を決定するであろう。現在、質問票は子ども製品及び食品接触材料を含んでいない(UNEP/POPS/COP.7/7)。さらにCOP7 は、ペンタBDE とオクタBDE 及びその他の POPs の成分のための低POPs含有制限値を決定するであろう(UNEP/CHW.12/5/Add.2)。これらの制限値は、第6条に示される条約の要求の下に行われる浄化行為の引き金となるであろう(訳注1)。50 ppm という低POPs含有制限値が提案されている現在リストされているほとんどの POPsとは異なり、ドラフトではペンタBDE とオクタBDEについて 1,000 ppm という極めて弱い制限値が提案されている。

 Arnika は、プラスチック製の子どものおもちゃであるルービック・キューブ中の PBDE 難燃剤の簡易調査を実施した。我々は、電子廃棄物中に一般的に見い出される PBDE 物質がおもちゃの中に存在するかどうか、そしてそれらは 50 ppm という提案された低POPs含有制限値を越えるかどうかを調べた。

結果

 ベラルーシ、中国、ハンガリー、及びセルビアからの7個のルービック・キューブのサンプルが研究所で分析され、6個のサンプル(86%)が 3〜57 ppm の濃度範囲でオクタBDE を含んでいることがわかった(テーブル1を参照)。2個のサンプル(29%)は、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)と類似した PCB 類のようなストックホルム条約で提案されたほとんどのPOPs 廃棄物のための暫定的低POPs含有制限値 50 ppm 又はそれ以上のレベルでオクタBDE を含んでいた。6個のサンプル(86%)は、電子廃棄物中で一般的に見いだされるデカBDE を含んでいた。2つのサンプルは、50 ppm 以上のレベルでデカBDE を含んでいた。合わせて4個サンプル(57%)が 50 ppm を越えていた。


Table 1: ベラルーシ、中国、ハンガリー、及びセルビアからの製品中の
ポリ臭素化ジフェニルエーテル類(PBDEs)の濃度(ppm)


 Cube
"Toys”
2Magic
cube"
Cube
"QJ"
Rubik's
cube
Cube
"Toys"
small
"IQ
Magic
cube"
Cube
"Toys"
big
購入国ベラルーシベラルーシ中国ハンガリーセルビアセルビアセルビア
ペンタBDE10.00.00.00.00.80.20.2
オクタBDE23.25.3130.0501357
デカBDE3134153360.0374736

1 PentaBDE contains TetraBDE and PentaBDE listed in Annex A of the Stockholm Convention
2 OctaBDE contains HexaBDE and HeptaBDE listed in the Annex A of the Stockholm Convention
3 Currently under evaluation by the Stockholm Convention POPs Review Committee

結論と勧告

 この簡易調査は、ストックホルム条約 POPs 検討委員会は、POPsを含有するプラスチックのような材料をリサイクルしても存在すべきではないPOPs の、製品への拡散を正しく予測したことを示している。この結果は、ストックホルム条約の下で廃棄物管理義務が生じる(訳注1)最低含有制限値の設定はもちろん、同条約のペンタBDE とオクタBDE のためのリサイクル免除についての懸念を増すものである。

有害物質リサイクル

 このデータは、電子機器のプラスチック中で使用されるペンタBDE とオクタBDE がプラスチック製子ども用おもちゃにリサイクルされているということを示している。この発見は、Chen et al. (2009) の研究、及び電気電子機器廃棄物中の POP-BDE の 22%がリサイクルされたプラスチック中に行き着くことを描いている Leslie et al. (2013)によるオランダにおける POP-BDE の流れの分析と一致している。この調査はまた、電子廃棄物からの難燃剤がサーモカップや台所用品などのプラスチック食品接触材にリサイクルされてることを示した Samsonek と Puype(2013) による最近の研究を補足するものである。POPs を含むリサイクル材及び”新製品”の汚染の問題はまた、カーペット・パッドのようなリサイクル発泡材製品中でも起きている (DiGangi J, Strakova J, Watson A 2011)。

 ペンタBDE やオクタBDE のようなストックホルム条約にリストされている POPs は、子ども用品、消費者製品、食品接触材、及びその他の製品中に存在すべきではない。2014年にストックホルムPOPs検討委員会は、デカBDE について ”・・・世界的な行動を正当化するような人の健康と環境に著しい影響をもたらす長距離の環境的移動の結果のようである”ということに合意しており(Persistent Organic Pollutants Review Committee 2014)、したがってこれらの製品もまたデカBDE を含むべきではない。

 明らかに、 COP8 における PBDEs のためのリサイクル免除の評価は非常に重要である。UNEP/POPS/COP.7/7 中の質問票は、リサイクル免除を終わらせることについての今後の決定に役立たせるために、子ども用品と食品接触材を含んで可能性のある製品のより長いリストを含むべきである。

POPs 破壊の引き金となる行動レベル

 ストックホルム条約は、POPs 廃棄物の処理後には POPs の特性をもはや示すべきではないことを求めている(訳注1)。このことは、低POPs含有閾値を定義するための COP による取組みをもたらした。バーゼル条約はこれらの制限値を定義することについて先頭に立っており(UNEP/CHW.12/5/Add.2)、PCB類、ヘキサブロモベンゼンHBB(臭素系難燃剤)、アルドリン(有機塩素系の殺虫剤)、DDT(有機塩素系の殺虫剤)、ディルドリン(有機塩素系の殺虫剤)、エンドリン(有機塩素系の殺虫剤)、ヘプタクロル(有機塩素系の殺虫剤)、HCB(有機塩素系殺虫剤・殺菌剤)、マイレックス(有機塩素系の殺虫剤)、 パーフルオロオクタンスルホン酸PFOS(界面活性剤)、トキサフェン(有機塩素系の殺虫剤)について 50 ppm が提案されている。しかし、ペンタBDE 、オクタBDE 、及びもうひとつの臭素化難燃剤である HBCD (ヘキサブロモシクロドデカン)については 1,000 ppm という非常に弱い制限値が提案されている。ESWI/BiPro (2011) による研究は 1,000 ppm という制限値について、POP-PBDEs をわずかな割合で含む廃棄物も実際にはPOPs 廃棄物として分類されるであろうことを描いた。

 簡易調査のデータは、2つのおもちゃサンプルがオクタBDE を 50 ppm 又はそれ以上含んでいたことを示している。さらに、2つの他のサンプルがデカ BDE を 50 ppm 以上のレベルで含んでいた。PBDEs はその構造が PCBs に非常に似ているので、これらのレベルは懸念をもたらす。オクタBDE の評価の中で、POPs 検討委員会は、”PBDEs とPCBs との間には類似した毒性学的特徴及び同等のハザードと懸念があることを示唆する証拠が増大している・・・”と言及した(UNEP/POPS/POPRC.3/20/Add.6)。

 PCBs と類似している PBDEs のような物質は、弱い低POPs含有制限値を持つべきではない。ペンタBDE 、オクタBDE そして HBCD の低POPs含有制限値は 50 mg/kg (50 ppm)又はそれ以下であるべきである。さらに、 50 ppm という低POPs含有制限値は、健康に基づく基準ではないので厳しくされるべきであり、POPs の特性を考慮してもっと低くすべきである。

 低POPs含有制限値の不適切な定義は、責任ある締約国が低コストかもしれない他の処分オプションを選択することを許すが(訳注1)、多量の POPs 残留物を残すという抜け穴を作り出す。これは条約の意図に相反することであり、真に環境的に健全であるとは考えられないような POPs 廃棄物処分オプションの採用を許すものである。そのような処分オプションは、人の健康と生態系に有害な POPs の環境への著しい放出をもたらす。 1,000 ppm というような弱い低POPs含有制限値は、許容できない高いレベルのPOPsを汚染物質として含む製品の製造と販売を許す道を開くことになる。それはまた、有害な POPs で汚染された廃棄物の先進国から発展途上国への輸出を促進することになる。最後に、弱い低POPs含有制限値を使用することにより、これらの安価なオプションが許される限り、 全ての POPs 含有廃棄物を分解することができ、事実上 POPs 残留物を残さない優れた POPs 廃棄物処分技術は、経済的に実行可能ではなくなるかもしれない。

謝辞

 著者らは、参加いただいた次の NGOs に感謝したいと思います。
 Arnika Association (Czech Republic), Centre for Environmental Solutions (Belarus), Safer Chemicals Alternative (Serbia), Armenian Women for Health and Healthy Environment (Armenia), and Greenpeace (Hungary).

 IPEN はまた、この報告書はスウェーデン自然保護協会(SSNC)を通じて、スウェーデン公共開発共同支援からの資金援助で制作されたことを感謝したいと思います。ここに示される見解は、 SSNC 又はその寄贈者を含んで、これらの支援者のいかなる公的意見をも反映したものではありません。

参照
  • Chen SJ, Ma YJ, Wang J, Chen D, Luo XJ, Mai BX (2009). Brominated flame retardants in children’s toys: concentration, composition, and children's exposure and risk assessment. Environ Sci Technol 43(11): 4200-4206.

  • DiGangi J, Strakova J, Watson A (2011). A survey of PBDEs in recycled carpet padding. Organohalogen Compounds 73, 2067-2070. Available at:
    http://ipen.org/sites/default/files/t/2011/04/POPs-in-recycled-carpet-padding-23-April-20111.pdf

  • ESWI/BiPro (2011).Study on waste-related issues of newly listed POPs and candidate POPs, Final Report, 25 March 2011. (Update 13 April 2011). Service request under the framework contract No ENV.G.4/FRA/2007/0066.

  • Persistent Organic Pollutants Review Committee (2014) Report of the Persistent Organic Pollutants Review Committee on the work of its tenth meeting, UNEP/POPS/POPRC.10/10

  • Samsonek J and Puype F, 2013. Occurrence of brominated flame retardants in black thermo cups and selected kitchen utensils purchased on the European market, Food Additives & Contaminants: Part A, 30:11, 1976-1986.

  • Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutants (2009) Report of the Conference of the Parties to the Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutants on the work of its fourth meeting, UNEP/POPS/COP.4/38

  • Stockholm Convention on Persistent Organic Pollutants (2011) Work programmes on new persistent organic pollutants, UNEP/POPS/COP.5/15

付属 1 方法

 ルービックキューブの黒色部がテストされたが、その理由は、製造者はしばしば美的観点からリサイクル・プラスチックの色を黒くするからである。サンプルはチェコ共和国の認定されたラボである化学技術研究所で PBDEs について分析された。臭素化難燃剤はノルマルヘキサンにより抽出され、その抽出液はイソオクタンに変換される。難燃剤の同定と定量化はガスクロマトグラフ/質量分析計−電子イオン化モード((GC-MS/MS-EI)により分析された。検出限界は 0.1 ppb であり、ストックホルム条約にリストされている同族体(コンジナー)の主要素が分析された。


訳注1ストックホルム条約の廃棄物処理に関連する条項

第六条 在庫及び廃棄物から生ずる放出を削減し又は廃絶するための措置
(d)廃棄物(廃棄物となった製品及び物品を含む。)が次のように取り扱われるよう適当な措置をとること。

(i) 環境上適正な方法で取り扱われ、収集され、輸送され及び貯蔵されること。

(ii) 国際的な規則、基準及び指針(2の規定に従って作成されるものを含む。)並びに有害廃棄物の管理について規律する関連のある世界的及び地域的な制度を考慮して、残留性有機汚染物質である成分が残留性有機汚染物質の特性を示さなくなるように破壊され若しくは不可逆的に変換されるような方法で処分されること又は破壊若しくは不可逆的な変換が環境上好ましい選択にならない場合若しくは残留性有機汚染物質の含有量が少ない場合には環境上適正な他の方法で処分されること

(iii) 残留性有機汚染物質の回収、再生利用、回収利用、直接再利用又は代替的利用に結びつくような処分作業の下に置かれることが許可されないこと。

(iv) 関連する国際的な規則、基準及び指針を考慮することなく国境を越えて輸送されないこと。


訳注:関連記事
Guardian, 9 March 2017, Warnings over children's health as recycled e-waste comes back as plastic toys



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