グランジャン博士のウェブサイト
Chemical Brain Drain - News 2015年10月19日
テレビ筐体で使用されている難燃剤と脳

情報源:Chemical Brain Drain - News, 19 October 2015
Flame retardants in TV sets and brains
By Philippe Grandjean, MD
http://braindrain.dk/2015/10/flame-retardants-in-tv-sets-and-brains/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2015年10月30日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/CBD/Flame_retardants_in_TV_sets_and_brains.html

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【2015年10月19日】二つの新たな研究が既に報告されている臭素系難燃剤の有害影響に関する証拠に追加された。これらは、火にさらされたときに燃え上がるのを防ぐ又は遅らせることを目的にプラスチックや布に混合される物質に関することである。この目的は有益なように見えるが、それだけの話ではない。悪いことは、これらの残留性化合物が発達中の人間の脳に有毒であるという証拠が増大しているということである。

 カリフォルニアのある新たな研究は、300人以上のの子どもたちを出生時から12歳まで追跡した。母親の妊娠中の臭素系難燃剤の血清中濃度は、母親とのインタビュー及び神経心理学テストにより明らかにされた子どもの注意力欠陥と実行機能不全に有意に関連していた。これらの関連性は、9 歳の時に初めて検査された300人以上の子どもたちの追加グループによっても裏付けられた。全体として、これらの発見は、子どもたちの同じグループの以前の結果と一致しており、この新たな報告書は欠陥は持続することを示唆している。

 ニューヨーク市において研究者らは、もっと低いレベルで暴露し、2001年9月11日に妊娠していた329人の女性を追跡し、彼女らの子どもを7歳まで検査した。その結果もまた、胎児期の臭素系難燃剤への暴露が高いと注意力の問題が大きくなる傾向を示した。

 これらの結果は、これらの化学物質が子どもたちの脳の発達を損傷することができるという現在の証拠をさらに強固にした。以前の報告書に基づいて、EU 域内での難燃剤への暴露に起因するコストは、化学的脳汚染だけで年間 100億ユーロ(約1兆3,000億円)に達すると最近算出された(訳注1)。アメリカでは暴露レベルがもっと高いので、コストはもっと高いようである。

 しかし同時に、テレビ筐体や他の電子機器からの火災を保護するために提案されている要求は有害な難燃剤の使用を拡大し、従ってその化学物質への暴露を増大させる恐れがある。これらの化学物質は有害であることに生物化学専門家らが同意しているのに、なぜこのことが、特に子どもたちの発達中の脳に、起きているのであろうか? そして、火災防護が改善されるという証拠はほとんどないのに、なぜこのことが起きているのであろうか?

 その答えは、そのような基準に関する国際的な合意は電子機器産業にとって利益になると考えられ、またその化学物質製造者らがその化学的添加物の長所熱心に称賛し、誇張してきたことである。国際電気標準会議(IEC)や欧州電気標準化委員会(CENELEC)のような国際標準組織は、新たな提案を承認するかどうかについて加盟国の決定に依存しており、各国はどの様に投票するかを決定するひとつ又はそれ以上の国内標準委員会を持っている(訳注2)。一般的にこれらの委員会は環境保護と人の健康についての識見がない。その結果、投票はしばしば、発達中の脳へのリスクについて大した懸念も持たずに投じられる。

 以前にこのサイトで報告したように訳注3)、これらの基準に合うよう一般的に使用される、上述のポリ臭化ジフェニルエーテルのような臭素系難燃化学物質は、早い時期に暴露した後に低い知能指数(IQ)に関連していることがよく知られた発達神経毒素である。甲状腺機能を阻害することを含んで、内分泌かく乱もまた報告されている。

 臭素の代わりに塩素を含む代替難燃剤もまた懸念が高く、米国公衆衛生協会は、事実上調査された全ての有機塩素化合物は、内分泌機能障害や発達機能障害を含んで、深刻なひとつ又はそれ以上の有害影響をしばしば極めて低用量で示すことを強調した。同様に、新しくより安全であるとして市場に出されているリン酸塩難燃剤は、疫学研究および動物研究の両方で示されているように、人の健康に潜在的に有害である。

 難燃剤は、”残念な代替(regrettable substitutions)”の長い歴史がある。有害な難燃剤の使用を止めるときに、その代替は同様な特性をもつ同属の化学物質であり、最終的にはこれもまた問題があることがわかり、廃止しなくてはならないということが常である。一方、有害な物質は、子どもたちの脳だけでなく、我々の家、血流をも汚染している。難燃剤はテレビのキャビネットのような電子機器筐体から埃や屋内空気に移動し、子どもたちの体がこれらの化合物により最も汚染されるということが事実である。さらに、客観的な火災データは、現状のテレビが外部のろうそく点火により危険であるというを示しておらず、これらの化学物質が火災を防止することに何らかの重要な役割り果たしているという証拠もせいぜい風聞でしかない。シカゴトリビューンが、既得権益により広められた人を欺くキャンペーンと誤った情報を暴露している(訳注4)。

 幸いなことに、米国消費者委員会は現在、家庭用品中の難燃剤を禁止するための請願を検討中である(訳注5)。恐らく、この検討に関連して、米国・標準組織は、テレビに火災防護を加える最新の提案に反対の投票をした。実際に、”ろうそくの炎による発火耐性”のための最新の基準提案は、加盟国の多くが反対票を投じ、先週、再度却下された。これはもちろん良いニュースであるが、過去の却下の後に常に新たな提案が出された。

 今は、各国の国内標準組織が、子どもたちの脳を化学的脳汚染から守ることに関して、基準を提起すべき時ではないのか?


訳注1:関連情報
内分泌学会 プレスリリース 2015年3月5日 内分泌かく乱化学物質の推定費用 EU で年間 1,500億ユーロを越える

訳注2:TC108国内委員会への要請事例
2015年1月26日 TC108国内委員会に対する108/562/CDV への反対投票の要請

訳注3
グランジャン博士のウェブサイト Chemical Brain Drain - News 2014年8月26日難燃剤と脳抑制剤

訳注4
Chicago Tribune 2012年5月6日 難燃処理発泡材はなんら火災安全の便益をもたらさない

訳注5
The Hill 2015年3月31日 健康安全関連団体 消費者安全委員会に難燃剤製品を禁止するよう請願



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