EHP 2005年1月1日
化粧品の危ない側面
フタル酸エステル類への暴露

ジュリア・R. バーネット

情報源:Environmental Health Perspectives Volume 113, Number 1, January 2005
Forum / The Ugly Side of Beauty Products by Julia R. Barrett
https://ehp.niehs.nih.gov/doi/10.1289/ehp.113-a24

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2005年5月25日
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https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_05/05_05/05_01_forum_ehp.html



 最近数十年間、生殖機能障害や発達機能障害が問題となってきている。例えば、米疾病管理予防センター(CDC)のデータは、停留睾丸や尿道下裂を含む男児の生殖機能障害が1970年から1993年の間に2倍となっていることを示している。環境化学物質がその原因として強く疑われている。最近、いくつかの報告書が低レベルの生殖毒性物質又は発達毒性物質、特に化粧品とパーソナル・ケア用品中のフタル酸エステル類に注目している。主要な疑問は、これらの物質への暴露が害を生ずることがあるかどうかである。

 2004年、環境団体エンバイロンメント・カリフォルニアは、「増大する有毒化学物質:化学物質暴露と発達機能障害の増加 (Growing Up Toxic: Chemical Exposures and Increases in Developmental Diseases)」を発表したが、これは消費者製品中から検出される化学物質と健康への影響について詳述している。同時期に出版された、環境団体エンバイロンメンタル・ワーキング・グループの「皮膚の奥深く:パーソナル・ケア用品中の成分の安全性評価 (Skin Deep: A Safety Assessment of Ingredients in Personal Care Products)」と、地球の友の「製品中の危険な化学物質を売る表通りの小売店 2003〜2004年 (Shop Till You Drop? Survey of High Street Retailers on Risky Chemicals in Products 2003-2004)」がエンバイロンメント・カリフォルニアの報告書を裏付けている。

 これら3つの報告書によれば、メークアップ、シャンプー、スキンローション、マニキュア、その他のパーソナル・ケア製品は安全データのない化学物質成分を含んでいる。さらに、これらの化学物質のあるものは、動物テストではオスの生殖器の先天性異常、精子数の減少、異常な妊娠に関係がある。人間に対しても影響を及ぼすという確定的な証拠はないが、広範な暴露、主としてフタル酸エステル類への暴露による影響は示されている。

 フタル酸エステル類はプラスチックの重要な要素として多くの消費者製品中に見られる。化粧品とパーソナル・ケア用品中に含まれる主なフタル酸エステル類は、マニキュア中のフタル酸ジブチル、香水中のフタル酸ジエチル、そしてヘアースプレー中のフタル酸ジメチルである。これらが含まれていることをラベルが表示していないことが多い。

 ”この特別な化学物質(族)に対する懸念は、最近発表された健康への深刻な懸念を指摘する一連のテストと研究によって引き起こされている”とエンバイロンメント・カリフォルニアのスジャータ・ジャハギルダールは述べた。例えば、米疾病管理予防センター(CDC)によって実施され、環境健康展望(EHP)2004年3月号に発表された全国調査では、テストを受けた2,540人の97%がひとつあるいはそれ以上のフタル酸エステル類に暴露していた。ハーバーード大学公衆衛生学部によって実施され、環境健康展望(EHP)2003年6月号に発表されたもうひとつの予備的な調査は、尿中のフタル酸エステルの代謝物濃度と人間の精子中のDNA損傷との関連性を示している。しかし、この調査での暴露源は不明である。

 しかし、パーソナル・ケア産業界はフタル酸エステル類の安全性について自信を持っている。”化粧品、トイレタリー、芳香剤協会”がスポンサーとなっている研究団体”化粧品成分検証委員会”は、2003年2月に詳細な文献調査報告書を発表したが、その中で、化粧品とパーソナル・ケア製品中で現在使用されているフタル酸エステル類は安全であると明確に述べている。アメリカ化学工業会(ACC)のフタル酸エステル委員会幹事マリアン・スタンレーは、”(環境団体からの)これらの懸念のあるものは高用量での動物テストに基づくものである。実際に人々が暴露する量は、そしてCDCのデータも示すように、非常に低用量である。何も懸念がない非常に有用な製品をなぜ廃止する必要があるのか?”と述べている。

 米疾病管理予防センター(CDC)のデータは広範な暴露の証拠であるとする環境団体の見解と、動物テストで障害が現れる用量よりも十分に低い量の暴露の証拠であるとする産業側の見解との間の論争である。環境団体は、たとえそれが低レベルの暴露であっても、慢性的な低レベル暴露であると主張する。非営利団体”子どもの健康環境連合(Children's Health Environmental Coalitio)”の理事エリザベス・スワードは、”私の考えでは、親としてだけでなく、この団体の理事としての私に懸念を起こさせるだけの十分な証拠がある。この情報は、最も健康のためになる決定を下せるよう親たちに直接、知らせなくてはならない。”と述べている。

 しかし、消費者は、彼らが使用する製品中に含まれる成分について知ることなしに、そのような判断をすることはできない。”産業界の企業秘密があり、産業界の理由で成分構成は消費者には知らされていない。このことが消費者が十分に情報を得て決定することの妨げとなっている”とスワードは述べている。

 エンバイロンメント・カリフォルニアとその他の環境団体は、消費者教育と州及び連邦政府レベルでの政策変更を通じてこのことを変えていくことを望んでいる。”エンバイロンメント・カリフォルニアは、化学物質製造者が市場に製品を出す前に彼らの製品をテストするとともに、公衆に対し潜在的な危険性から自身を守るためのツールを提供すべきであるという常識的な化学物質政策を後押しする。ラベル表示は製造者がなすべき最も重要で倫理的なことがらである”とエンバイロンメント・カリフォルニアのジャハギルダールは述べている。

 ”私は、このことの多くは個人のリスクへの耐性によると考える。各人の個人のリスク耐性は異なる。我々が社会として確信を持つ必要があることは、子どもたちの健康が間違った決定によりリスクがさらされることがないよう、大人はよりよい決定をすべきであると私は考える”と子どもの健康環境連合のスワードは述べている。

訳注:参考情報及びリンク


化学物質問題市民研究会
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