エンバイロンメント・カリフォルニア2004年6月報告書
増大する有毒化学物質:化学物質暴露と発達機能障害の増加
エグゼクティブ・サマリー


情報源:Environment California Research & Policy Center, June 2004
Growing Up Toxic: Chemical Exposures and Increases in Developmental Disease
Executive Summary
http://www.environmentcalifornia.org/envirocaliftoxics.asp?id2=13673

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2005年5月26日

エンバイロンメント・カリフォルニアの報告書の全文は下記で入手することができます。
http://www.environmentcalifornia.org/reports/GrowingUpToxic2004.pdf (PDF, 1 MB)


 カリフォルニアの人々は、受胎の瞬間から、成長して自身が妊娠しようとする時まで、健康な発達を妨げる様々な障害の増大に直面している。早産、男児生殖器異常、学習・集中力・行動障害、早熟、肥満、精子の質の低下などの問題が、過去数十年間、カリフォルニア及び国全体として増加しており、受胎から成人するまでのどの発達の段階においても影響を与えている。

 生活スタイルによるものから遺伝によるものまで、幅広い要素がこれらの問題のどれかにに寄与しているかもしれないが、増大する一連の研究が、有毒化学物質が重要な役割を果たしていることを示唆している。研究が、人間の体の化学物質汚染を明らかにし、化学物質暴露と人間の疾病や障害との関係を示し、低レベル暴露での有毒影響を示唆している。

 この報告書の調査結果は決して総合的なものではない。よく知られている水銀、鉛、ダイオキシンそしてPCBは、人間の健康を脅かすことが明白であるが、人々が家庭で暴露している数千の他の化学物質は健康影響が調査されたことがない。我々は、いくつかの新たに出現している化学物質の危険性を取り巻く最新の科学、すなわち、家庭や消費者製品中に見出される化学物質が人間の正常な発達を阻害するかもしれないということを示す増大する一連の研究に焦点を当てる。


化学物質への暴露は広がっている。

 人間の体は、毎日遭遇し、また消費者製品に共通に見られる無数の化学物質の貯蔵所である。胎児の発達段階において、これらの物質への暴露は避けることができない。
  • 食品容器、プラスチック・ラップ、おもちゃ、シャンプー、香水、そして化粧品への添加剤(可塑剤)として使用されるフタル酸エステル類は、人間の体から最もしばしば検出される物質である。

  • 消火用泡、プラスチック、そして電子機器に加えられる難燃剤はカリフォルニアの女性の体から対数的増加率で検出され、アメリカの女性のレベルは、ヨーロッパや日本で検出されるレベルの75倍である。

  • 哺乳瓶、飲料水容器、そして食品容器に用いられる硬化ポリカーボネート・プラスチックの主要成分であるビスフェノールAはドイツと日本の妊婦から検出されている。ビスフェノールAはアメリカで生産される上位50傑の高生産量化学物質のうちのひとつであり、アメリカでの暴露も広がっている。

  • 殺虫剤とその分解物質は人々から共通に検出される。最近の調査では、米疾病管理予防センター(CDC)は、調査対象中の23種の殺虫剤のうち、平均的アメリカ人の体内から13種の異なる殺虫剤を検出した。
発達の各段階で有毒化学物質は正常な発達を阻害している。

生まれ出る前ですら、早産から出産障害まで、打ち勝ちがたい困難が多くの子どもたちを待ち受けている。

 生涯にわたる知的障害、学習・注意力障害のリスクを引き起こす可能性がある早産は、アメリカにおいては1980年代に比べて現在は23%増加している。可能性ある原因のひとつがフタル酸エステル類である。
  • 胎内でフタル酸エステル類に暴露した赤ちゃんは、暴露しない赤ちゃんに比べて平均1週間早く生まれる。
 アメリカでは出産障害が胎児の死亡原因の第一位である。ほとんどの出産障害の特定原因は不明であるが、それらは下記を含む様々な化学物質への暴露に関連している可能性がある。
  • フタル酸エステル類:オスのラットが胎内でフタル酸エステル類に暴露すると停留睾丸と尿道下裂になる。アメリカでは男の赤ちゃんのこれらの障害は1970年から1993年までに2倍となった。

  • ビスフェノールA:マウスの実験において、ビスフェノールAは今日の女性から検出されるレベルに相当するレベルでダウン症候群の原因となる遺伝子損傷を引き起こすことがある。

  • 殺虫剤:ある調査が、出産障害によって引き起こされた流産と家の周囲9平方マイルの範囲内での商業用殺虫剤散布との間に関連があることを示した。他の調査は、殺虫剤2-4-Dの最も集中的な散布が行われた期間に受胎した男の赤ちゃんは、異常な暴露を受けていない男の赤ちゃんに比べて出産障害が5倍多いことを示した。
幼児及び小さな子どもは急速な成長と学習によって特徴付けられる時期である。しかし、正常な学習機能を損ねる発達障害に見舞われるカリフォルニアの子どもたちの数が増大している。

 神経系発達障害と精神健康障害はカリフォルニアでは急速に増えている。カリフォルニアの自閉症は1994年以来3倍増加しており、公立学校の学習障害の生徒児童数は1985年から1999年の間に65%増大した。原因は全く不明であるが、科学的証拠が多くの可能性ある原因を挙げており、それらには有毒難燃剤、ビスフェノールA、過塩素酸エステル、殺虫剤、そしてよく知られている罪人である鉛、水銀、ダイオキシン、そしてPCBが含まれる。下記について考慮する必要がある。
  • 新生マウスに低用量の難燃剤化学物質を投与すると、生涯の学習障害と行動障害を引き起こし、低用量のビスフェノールAは多動症を引き起こす。

  • 1,600万人のカリフォルニアの人々のための飲料水源から検出されたロケット燃料の成分である過塩素酸エステルは、非常に低レベルの暴露で甲状腺ホルモン系に影響を与える。甲状腺障害を持つ母親から生まれた子どもは学習障害を持つ割合が高い。

  • 農業用殺虫剤に暴露した子どもたちは、知的発達、体力、バランス、眼と手の共同作用、そして短期記憶に欠陥を持つことを示している。
子どもたちが思春期になる時に、彼らは性的に成熟する体の急速な変化を経験する。しかし、子どもたちはこの段階で解明されていない傾向として、早熟や肥満といった困難に直面することがある。

 過去40年間、アメリカでは肥満した思春期の男女が4倍になっており、アメリカの少女らは過去に比べて6ヶ月から1年、成熟が早まっており、少数の少女は3歳で乳房が発達することがある。この二つの傾向は、胎内での内分泌かく乱化学物質への暴露に関係がある可能性がある。
  • ビスフェノールAに暴露したげっ歯類は、成長が早くて体重が大きく、早く成熟するメスの子どもを産む。もし人間にも適用されるなら、これらの影響が、暴露した子どもたちの肥満と早熟傾向の原因である可能性がある。
最終的に成人に達すると、多くの人々は自身の子どもを持つことを選択する。しかし、化学物質の暴露は不妊やその他の生殖障害に寄与するかもしれない。

 第二次世界大戦以来、アメリカでは精子の数が40%減少した。フタル酸エステル類、殺虫剤、そして難燃剤への暴露がこの傾向に寄与しているかもしれない。
  • 尿中に高レベルのフタル酸エステル類又は殺虫剤(カリフォルニアの農業で大量に使用されているダイアジノンを含む)が存在する男性は精子生成が低レベルである傾向がある。

  • 低用量のPBDE難燃剤一種類だけに胎内で暴露したオスのラットは精子の数が著しく減少した。
暴露を削減することで被害を防ぐことができる。

 規制当局が取った措置のいくつかが人間の暴露を低減したことを示している。
  • EPAは2001年に殺虫剤クロルピリホスとダイアジノンの家庭での使用を禁止した。この健康保護措置は迅速な効果があったように見える。2001年以降、ニューヨーク市の母親は体内のこれらの成分のレベルが低くなり、殺虫剤禁止以前に生まれた赤ちゃんに比べて明らかに体重、身長ともに大きな赤ちゃんを産むようになった。

  • 加鉛ガソリンの廃止及びその他の鉛暴露を低減するための措置により、過去10年間で有毒なレベルで鉛を体内に持つ子どもの数は半減した。
政策の改革

 ここで新たに示された化学物質と疾病との関連性は、人々の健康に与える化学物質の潜在的な影響の表面を少し見せ始めただけである。市場に出されている数万の産業用化学物質は、低用量での発達機能への健康影響のテストがなされていない。高生産量化学物質のほぼ半分は健康影響に関する公開情報が存在しない。さらに、公衆の健康に有害であるという明らかな証拠がすでに存在する場合でも、要員、資金、及び法的権限の限界が、規制当局の保護措置実施を妨げている。

 子どもたちを有毒な暴露から守るために、広範に使用されている化学物質が健康に与える影響についての知識の欠如をなくすために、そして規制当局に対しては消費者製品が有害な化学物質を含まないことを確実にするための権限を与えるために、我々は強い行動を起こさなくてはならない。これらの行動には以下が含まれる:
  1. 環境に残留する、体内組織に蓄積する、又は暴露により人間の健康を脅かす可能性のある証拠のある化学物質を廃止すること。

  2. 化学物質製造者に、環境中及び体内組織中に存在する彼らが製造した化学物質及びその分解成分を検出する分析技術を開発し、その技術を州に提供することを求めること。現状では納税者が、環境中及び体内に存在するかもしれない化学物質の脅威を推定してもらうために、そしてそれらを検出するためのテスト装置を開発してもらうために、科学者に金を支払っている。このことが、どの化学物質が公衆の健康に最も大きな脅威を与えているかを決定することを遅らせる原因となっている。

  3. 化学物質製造者に、州及び連邦政府に製品の発達機能及び生殖機能に与える低用量での影響を含む毒性データを提供することを求めること。欧州連合(EU)では最近、REACH (化学物質の登録、評価、及び認可)として知られる政策モデルを開発した。これは化学物質製品の安全性を決定する上で必要な情報量を大幅に増やすことになる。

  4. 連邦政府に対し、アメリカ産業界のために新たな欧州連合の化学物質政策に強硬に反対するロビー活動を止めるよう、そして、公衆の健康のためにもっと強い立場をとるよう、働きかけること。

訳注:
 本報告書は、Environmental Health Perspectives Volume 113, Number 1, January 2005, Forum / The Ugly Side of Beauty Products by Julia R. Barrett 中で紹介されており、当研究会ウェブサイトで
「EHP2005年1月号フォーラム/化粧品の危ない側面」 として翻訳し紹介しています。


化学物質問題市民研究会
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