Law360 2012年1月19日
2012年 TSCA改訂とEPAの取り組みの予測 情報源:Law360 January 19, 2012 2012 Predictions For TSCA Reform And EPA Initiatives By Lynn L. Bergeson, James V. Aidala and Charles M. Auer, Bergeson & Campbell PC and Charles Auer & Associates LLC http://www.lawbc.com/uploads/docs/00088951.pdf 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2012年1月26日 【Law360, 2012年1月19日】 -- 有害物質規正法(TSCA)の改訂と米環境保護庁(EPA)化学物質安全汚染防止室(OCSPP)による化学物質管理の取り組みに関して、2012年はどのような方向を目指してしているのかについて我々の考えを示す。(訳注1:今までのTSCA改正の動き) 当たり前のことではあるが、大統領選挙の年である2012年は、政党及びEPA長官の決定に基づき議会でなされる活動に影響を与える。 環境問題は二つの政党を明確に区別するためにしばしば利用されており、このことは、これらの相違を示すまたはより鮮明にするという意図をもったどちらかの政党により取り組まれる。このことは、”新”と名づけられた少なくともいくつかの新しい取り組み、またはいくつかの行動、及び行政の一部に関するいくつかの顕著な決定をもたらすようである。 一方、環境規制により生じるコストと有害性を主張する人もいる。雇用と経済への影響について共和党議員からの絶え間ない、時には非常に辛らつな批判があるであろう。 ■議会 TSCA 法案の展望 どのような新たなTSCA法案についても、その将来展望は不明瞭である。2011年4月14日に上院議員でスーパーファンド・有害物質・環境健康に関する環境・公共事業小委員会の議長であるフランク R. ローテンバーグ(民主党/ニュージャージ州)は2011年安全化学物質法を提案したが、それは産業化学物質の安全性を実証することを化学会社に求め、EPAには利用可能な最良の科学に基づいて安全性を評価することも求めるために、TSCAを刷新することを意図するものである(訳注2)。 ローテンバーグは以前にも、第111回議会で、TSCA改正法案である2010年 安全化学物質法(S. 3209)を議会に導入した(訳注3)。 化学産業、公共機関、科学者、医師、大学人、非営利団体からの意見に基づいて、この法案の成功を期して変更を加えて改善したとローテンバーグは述べた。 批判者らは、この法案は改善されたが、まだ莫大で不必要な実施のためのコストがかかり、国内化学会社が新たな製品の革新を行なうのに悪影響を及ぼすであろうと主張し続けた。 2011年11月17日、上院環境・公共事業委員会及び同委員会のスーパーファンド・有害物質・環境健康に関する小委員会はこの法案に関する公聴会を開催した。 全ての委員は、非営利組織政策提案者と産業との粘り強い討議と交渉を試みることを称賛したが、何人かの民主党議員、特に上院議員ベン・カーディン(民主党/メリーランド州)は特に米国化学工業協会(ACC)及び化学産業により開発され支援された具体的な代替案がないことをを批判した。 ローテンバーグは、たとえ産業側が懸案事項の中でこの条項に同意していなくても 彼の法案を報告することを試みると暗示しつつ、”近い将来”、彼の法案を委員会の投票にかけるつもりであり、合意を得られることができることを希望すると述べた。 この法案が立法される可能性は薄れてきているが、それはどのような立法も上院での満場一致が本質的に必要であり、下院での立法の動きが小さいことに打ち勝たなくてはならないからである。 同時に、上院の公聴会の主旨が、民主党議員の一部にある産業側からの具体的な代替の言葉がない、すなわち、ここ2年以上議論されている米国化学工業協会(ACC)のよく知られた”効果的な化学物質管理のための10の原則”(訳注4)をいかにとらえるかについての考えが示されていない、ことに少しばかりの苛立ちを示している。 2012年末に日程消化のための連邦議会(lame duck session)(訳注5)が開催されるなら、どのような法案の唱道者も反対者も選挙の結果を値踏みするので、例えば、政権交代、又は上院または下院で支配政党の交代など−TSCA及びその他の多くの事項に関する限定された活動の余地のわずかな可能性はある。 歴史専攻の学生なら、最初のTSCA立法は、同様な検討のために数年の行き詰まりがあった後、1976年の日程消化議会で成立したことを思い出すであろう。 ■米環境保護庁(EPA) 化学物質安全汚染防止室(OCSPP)の指導力 2011年10月25日、化学物質安全汚染防止室(OCSPP)副長官ステファン A. オーウェンスはEPAを辞任すると発表した。それは大統領第一任期の後半なので、政権が新たな副長官の任命をするかどうか明確ではない。 キャピタルヒル(米国議会)の厳しい党派の雰囲気が、多くの政府機関をわたる多くの上級職位についての上院の認証を待ちつつ、現在の任命に多くの影響を及ぼしている。 選挙の年であることを考えれば、適切な高官の政治的なリーダーシップなくしては緊急の課題の運命はますます予測が難しくなり、2012年11月が近づけば付随するゆがみはますます重要になる。 もし、化学物質安全汚染防止室(OCSPP)問題が優先事項であるということを示すだけのためなら、政権が副長官を任命しようと試みることは可能であり、2012年の選挙におけより大きなダイナミックスを失うことはないであろう。 EPAの大気放射線室(Office of Air and Radiation)の現在の副次長補(deputy assistant administrator)ジム・ジョーンズは、2011年12月1日から新たな化学物質安全汚染防止室(OCSPP)長官補佐代理に任命された。ジョーンズは、化学物質安全汚染防止室(OCSPP)とその運営に精通しているので、新たな指導力への移行が容易になると期待されている。 同時に、長官リサ・ジャクソンの継続しての指導の下に、EPA全体としては議会における両党からの集中的な激しい揺さぶりを受けている。 全てのメディアを通じて、現在及び検討中の厳格な環境要求は経済成長と雇用にとって障害であるという集中的な批判を受け続けるであろう。 同時に、2012年中の決定を待っているいくつかの未決事項は、現政権が労働者、環境及び少数派の公衆健康及び環境団体の投票動向に目を向ける機会を与えることになるであろう。 選挙自身はもっと大きな議論の運命を決定するであろうが、選挙の年にはEPAは、各メディアに大統領の第1期間中の達成を説明するよう求められ、いくつかの論点は対立党派との違いを明確にし、あるいは、ある選挙民たちにアピールすることができるかもしれない。 結果として、環境正義問題、子どもたちへの潜在的な健康影響、化学物質及び農薬が内分泌かく乱作用を引き起こす可能性、遺伝子組み換え生物(GMO)、ナノ農薬やナノ化学物質、グリーンな代替化学物質の開発の必要性などに関する主張を新たにするかもしれない。 これらの取り組みがどのような形で継続されるのか、あるいはEPAの言動がどのように甲高いものになるのかは、2012年11月が近づく中で選挙の年の事情により駆り立てられる。 EPAの強化された化学物質管理プログラム 2011年にEPAは二つの化学物質行動計画を発表したが、それらはメチレンジフェニルイソシアネート(MDI)と関連する化合物、及びトルエンジイソシアネート(TDI)と関連する化合物(訳注6)に関するものである。 EPAのが行動計画(訳注7)の重点は、EPAの汚染防止・有毒物質室(OPPT)の利用可能なリソースを薄く広げて報告されている。 2011年9月にEPAはTSCAの下での見直しと評価のための優先化学物質を特定する新たなアプローチを発表した。 第一段階におけ優先付けプロセスでEPAは、行動計画優先要素のひとつ又はそれ以上に合致する化学物質を特定するために、データソースの特定のセットを用いることによって、見直しのための優先化学物質の最初のグループを特定することを計画している。 第二段階でEPAは、さらなる分析と評価のために最初のグループから特定の化学物質を選択し、より広範なデータソースを用いることによって、そのグループを精査することを意図している。 2010年12月17日に行政管理予算室(OMB)に提出されたあるポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)に関し、合同されたTSCA第4条テスト規則とSNUR(重要新規利用規則)(訳注8)は現在レビュー中である。 EPAはもっと最近の規則設定集(rulemakings)を提出したが、それには40 CFR Section 721.1660(連邦規則集第40巻721節1660)(訳注9)におけるベンジン系化学物質(染料)SNUR(重要新規利用規則)への9種類の化学物質(染料)の追加;フタル酸ジ-n-ペンチル(DnPP)のためのSNUR(重要新規利用規則)の作成;短鎖型塩化パラフィン(Alkanes,C12-13,chloro)のためのSNUR(重要新規利用規則)の作成を含む。EPAはまた、繊維製品中で使用されるヘキサブロモシクロドデカン(HBCDD)に関するSNUR(重要新規利用規則)を提出した。 ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)に対する措置は、SNUR(重要新規利用規則)要求とテスト規則を合同する試みという点で特に興味深いものがある。これは、もしデカ臭化ジフェニルエーテル(decaBDE)のように、ある化学物質を市場に残すことにするならば、産業側に SNUR(重要新規利用規則)を甘受するか、又はかなりの額になる可能性のあるテストのためのコストと向き合うかを選択させることになる。 このSNUR(重要新規利用規則)はまた、ペンタBDE、オクタBDE、及び/又はデカBDEを含む輸入製品をその範囲に含めるという点で画期的であるように見える。これは、EPAが、重要新規利用としてのある化学物質を含む輸入製品を取り扱おうとする2度目の試みである。この問題は、ペンタBDE及びオクタBDEに関するSNUR(重要新規利用規則)の提案で初めて提起されたが、規則の発行において、EPAはその範囲に輸入製品を含めなかった。 そのような輸入は継続しておらず、また、新たなPBDE製品として米国内で製造されることになるであろうPBDEを含むフォームとプラスチックについて継続するリサイクル(加工)を許可することを意図しているとEPAが述べたことを考慮すれば、このことは洗剤液に困難で複雑な仕事である。 これらの措置を行政管理予算室(OMB)を通じて比較的そのままの形で得るEPAの能力には手ごたえがある。 EPAは大変待ち望まれた、現在は化学物質データ報告(CDR)規則として知られているTSCAインベントリー更新報告(IUR)規則の最終修正版を発表した(訳注10)。この化学物質データ報告(CDR)規則は、EPAがTSCA化学物質に関する商業用化学物質と混合物の製造、加工、使用に関する情報を収集し発表することを可能にすることをを意図している。 化学物質データ報告(CDR)規則は来るべき提出期間を確立するが、それは2012年2月1日〜2012年6月30日であり、2010年からの製造情報と2011年からの製造、加工、使用情報の提出を含むであろう。 いかに正確に化学物質を規制するかに関しては相当な不確実性が存在するが、該当する組織は化学物質データ報告(CDR)規則の下に全ての要求されるデータ要素を報告しなくてはならず、報告要求の順守は最優先でなくてはならない。 歴史的に、規則設定優先付け及び関連するよう順設定の取り組みのために、EPAは化学物質データ報告(CDR)規則になる前のTSCAインベントリー更新報告(IUR)規則を通じて報告される情報に相当な重きを置いており、EPAは限定されたリソースを報告要求に向けてきた。 ナノスケール物質の規制 2011年の年末にEPAの監察官は報告書の中でEPAはナノ物質によるリスクを効果的に管理するために十分な情報と手順を持っていないと避難した(訳注11)。 EPAは、この批判を拒否し、2011年及びそれ以前のEPAのナノの取り組みを示した。EPAは、ある多層カーボンナノチューブ、あるクレイ、アルミナ、及び吹き付けナノ物質の製造者に対して物質特性データを提供するとともに、様々な影響についてのテストを実施することを求めるために、化学物質製造者TSCA第4条 試験規則(訳注8)の実施に取り組んでいる。 EPAは、TSCA第5条(a)(2)(訳注8)の下に既存の化学的ナノスケール物質のためのSNUR(重要新規利用規則)を開発しており、TSCA第8条(a)(訳注8)の下に報告と報告書の保管を求める提案を開発しており、それはナノスケール物質の製造者はEPAにある情報を提出することを求めることになるであろう。 このSNUR(重要新規利用規則)とTSCA第8条(a)の規則設定は以前には分離していたが、今回EPAは単一の規則設定に統合した。 2011年6月、EPAは農薬製品の成分に関するある追加的な情報を入手するためにいくつかの可能性のあるアプローチを提案した(訳注11)。すでに登録された農薬製品中にどのようなナノスケール物質が存在するのかについての情報にEPAは特に焦点を合わせ、”ナノスケール物質”の定義を、”少なくとも一次元が約 1から 100ナノメートル(nm)の間にあるように意図的に製造された活性又は不活性の成分又はどのような構成成分”とした。 EPAの2011年6月17日の連邦官報(訳注11)によれば、FIFRA(連邦殺虫剤殺菌剤殺鼠剤法)第6条(a)(2)は、”農薬中のナノスケール物質物質についての情報を入手するために最も効果的で得策な行政上のアプローチであり、EPAはこのアプローチを採用したい”と考えている。 EPAは、2011年12月1日に、新たな活性成分としてナノ銀を含む農薬製品を条件付で登録しているということを発表した(訳注11)。HeiQ AGS-20 は、繊維製品の抗菌剤として承認された銀ベースの抗菌農薬製品である。 2012年は非常に興味深い年になるであろう。大統領選挙がEPAが関わる全ての上に投影する大きな影響があるなら、2012年は新たに出現するものと同じくらい今年達成できないことについて注目されるかも知れない。 TSCA立法はありそうもなく、一般的に足りないEPAの予算とリソースの下に、EPAの野心的な質の高い化学物質管理プログラムは現実よりも野心的であり続けるかもしれない。 訳注1:TSCA改正の動き
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