ProPublica 2017年3月17日
トランプが EPA 予算を削減したので、
同様な仕事をしている NIEHS の運命が懸念される

リサ・ソング

情報源:ProPublica, March 17, 2017
As Trump Slashes EPA, Worry Over the Fate of an Agency Doing Similar Work
By Lisa Song
https://www.propublica.org/article/as-trump-slashes-epa-
worry-over-the-fate-of-an-agency-doing-similar-work


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2017年3月22日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/articles/
170317_ProPublica_As_Trump_Slashes_EPA_Worry_Over_the_Fate_of_an_Agency_Doing_Similar_Work.html



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(Daniel Acker/Bloomberg via Getty Images)
イリノイ州グランビルのある施設の温室の中で栽培している植物の近くに表示されている農薬警告(英語とスペイン語) ”農薬で危険、中に入るな”
 そこは知名度が低く、予算は環境保護庁の10%以下で、アメリカの主要政党の両方によって受け入れられている、国立健康研究所のひとつの機関である。
 国立環境健康科学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences)の将来について懸念する人々は、次に何が起きるのかを警戒している。
 ”トランプ大統領がEPAに対してやりたいと望むこと(訳注1)に照らして、私は、現在の政府に不評な事柄を扱うどのような機関も免れることができるとは思わない”と、カリフォルニア大学サンフランシスコ医学校の教授、トレーシー・ウッドラフは述べた。

 国立環境健康科学研究所(NIEHS)はノースカロライナ州のリサーチ・トライアングル・パークを拠点とする国立健康研究所(NIH)の一部門である。1966年に大統領リンドン B. ジョンソンの下に設立され、2017年会計年度の予算は7億7,100万ドル(約887億円)で、EPA の82億ドル(約9,430億円)よりはるかに少なく、NIH の32億ドル(約3,680億円)のほんの一部である。

 NIEHS は、農薬、化学物質及び発がん性化合物の健康影響を研究している。その仕事のあるものは、環境健康に関する EPA の取組−トランプ大統領の EPA 予算の31%削減提案(訳注1)の下に排除された又は後退させられたプログラムと類似している。

   トランプの当初の 2018年予算案は、NIH 予算を19%削減し、”資源を最も優先度が高い研究と訓練活動に集中するのに役立てるために”、NIH の27 の研究所とセンターの特に明示はしていない大幅な組織変更を求めている。しかし、それは NIEHS には言及していない。

 NIEHS は以前から政治的標的となっていることに気が付いていたはずである。

 例えば昨年の春、下院議員ジェイソン・チャフェッツ(共和党−ユタ州)は、食品容器中で使用されておりエストロゲンを擬態する化学物質であるビスフェノールA(BPA)に関する食品医薬品局(FDA)との研究についての NIEHS の文書を要求した。FDA は、2012年にほ乳瓶とシッピーカップでの BPA の使用を禁止し、3年後にカリフォルニア規制当局は、その化学物質を既知の生殖毒性物質であると宣言した。チャフェッツの広範にわたる取り調べは、”2008年4月以降の NIEHS 職員と FDA 職員との間の BPA を参照する、またはそれに関連する全ての通信”を含む多くの文書の提出を要求した。これに呼応して NIEHS の科学者らが、チャフェッツが委員長を務める下院監査政府改革委員会の共和党委員と会い、彼らにBPA研究に関して1時間の説明を行った。

 2013年、 NIEHS のディレクター、リンダ・バーンバウムが、子どもの発達と生殖健康を害することができる化学物質である内分泌かく乱物質の公衆健康への脅威を概説する論説(訳注2)を書いた後の2013年、下院科学・宇宙・技術委員会の二人の共和党委員がバーンバウムの上司である NIH のディレクター、フランシス・コリンズに書簡を送り、その記事はバーンバウムの個人的見解なのか、あるいはオバマ政権の見解なのかを明らかにするよう求めた。 NIH のある担当者官が返事を書いて、その記事はピアレビュー誌に発表されたもので、バーンバウムの”科学的見解は研究所ディレクターとしての彼女の役割から切り離すことはできない”と述べた。

 そして2011年に NIEHS が議会から課せられた発がん性物質に関する報告を発表した時に、スチレン(ゴムとプラスチック製造に用いられる)ががんを引き起こすことを”合理的に予測できる”と報告書に含めたとして、ある産業団体が米国保健福祉省を訴えた。その訴えは退けられたが、下院聴聞会が開かれて論争があり、共和党議員らは NIEHS を批判したが、民主党議員らは化学物質ロビーを非難した。

 議会は各機関の予算に関する最終決定権を持っているが、そのホワイトハウス予算案は、将来の科学、気候、及び環境健康への資金供給に関して一般的な懸念がある。EPA 長官スコット・プルイットは、数十年間の科学的合意を拒絶して二酸化炭素は気候変動への主要な要因ではないと宣言して、一陣の議論の疾風を最近呼び起こした。そしてトランプの予算は、内分泌かく乱物質として作用する可能性について、年間最大 1,000 の化学物質を評価するという EPA の内分泌かく乱物質スクリーニング・プログラム(EDSP)(訳注3)を廃止することになるであろう。

 NIEHS とホワイトハウス行政管理予算局(OMB)はその予算についてのコメント要求に回答しなかった。 NIH の報道官は、 NIHの親機関である保健福祉省(HHS)の長官トム・プライスの声明に言及した。”HHS は、アメリカの人々の健康と幸福を向上させるという我が省の使命遂行に専心している。この予算は、その使命を支えるものであり、我々が可能な最も効率的で効果的な方法で市民に重要なサービスを提供することを確実にする助けになるであろう”と、プライスは述べた。

 連邦政府の各種環境健康プログラムの予算削減が及ぼす範囲は NIEHS と EPA だけではないであろう。ホワイトハウスの予算案は資金供給についてほとんど述べていないが、疾病予防管理センター(CDC)、疾病管理有害物質・疾病登録局(ATSDR)、及び食品医薬品局(FDA)も全て同様な仕事をしている。個々の機関とプログラムは議会における一か月に及ぶプロセスでとことん話し合われるであろう。

  NIH は通常、超党派の支持を得ているのだから、NIEHS は、目立たぬよう低姿勢をとることで予算削減を回避できるとある科学者らは信じている。

 他の者は、それは願望的思考であるという。”議会は NIEHS からの研究の影響力をよく知っている”と、マサチューセッツ大学アマースト校の生物学教授であるトーマス・ツェラーは述べた。彼は研究のために NIEHS から補助金を受けている。

 ”NIEHS は、NIH の中で資金供給の配分が最も少ない研究所のひとつである。”NIH の20%予算削減は極めて厳しいものであり、新たなディレクターに誰がなるかによるが、彼が研究課題を設定するときに驚くべき権力を与えられるであろう”と、ツェラーはeメールの中で述べた。

 エンドクリン・ディスラプション・エクスチェンジ(TEDX)(訳注4) の執行ディレクターであるキャロル・クワイトコウスキーは、 NIEHS が、がん、高齢化、糖尿病、及びその他の疾病を研究している NIH の残りの機関より強く標的にされなくてはならない”理由はない”と述べた。クワイトコウスキーのグループは、内分泌かく乱物質が人間と環境にどのように影響を及ぼすかを研究している非営利団体である。クワイトコウスキーは、彼女は NIEHS から助成金を受け、 NIEHS の研究者らと連携していると述べた。

 NIEHS は規制権限を持っておらず、従って EPA より小さい政治的圧力の下に独立の科学を実施することができたと、彼女は述べた。同研究所は、方針を述べることなく、ある物質の有害性(ハザード)に関する証拠を提示するが、一方、規制機関は新たな規則を開発するときには、その作業に言及するかもしれない。

 実施中の NIEHS 助成金リストは同研究所の助成研究が気候変動と環境正義に関連していることを示しているが、この二つの分野はEPAが予算削減に直面する可能性のある分野である。しかし助成はまた、反テロリズム科学、小児がん、及び小規模ビジネスへの助成を含む、あまり議論のない分野にも向けられている。

 危ういいくつかの NIEHS プログラムの概観を以下に示す。

NIEHS/EPA 子どもの環境健康と疾病防止研究センター
(NIEHS/EPA Children’s Environmental Health and Disease Prevention Research Centers)

 1998に立ち上げられたこの取り組みは、子どもの健康に関する多くの学問領域にわたる研究に資金提供をする。助成金受領プロジェクトのひとつに、 CIRCLE (the Center for Integrated Research on Childhood Leukemia and the Environment/小児白血病と環境に関する統合研究センター)がある。これは子どものがんで最も一般的な小児白血病の原因を研究する大学間の共同研究である。

 その主研究者であり、カリフォルニア大学バークレー校の公衆健康学教授であるキャサリン・メタヤーによれば、小児白血病は過去40年間で35%増加している。ヒトゲノムはそれを迅速に変えることはできないので、その原因は事実上環境的であるに違いないとメタヤーは述べた。農薬、大気汚染、タバコの煙は全て白血病リスクの増大につながる。

 最近の助成金としてCIRCLE は昨年夏に、 EPA 及び NIEHS から4年間分の配分として600万ドル(約 6億9,000 万円)を受領した。助成金の一部は、妊娠中の化学物質への暴露が子どもの免疫系へ及ぼす影響、及びその結果として白血病の発症リスクをどの様に及ぼすのか見るために、母親と新生児の保存血液サンプルを調べるのに使用されるであろう。メタヤーは、それは新しい手法であり、可能性ある予算削減がこのプロジェクトを危うくするのかどうか分からないと述べた。

 ”私は、全ての人が、その政治的立場に関わらず、子ども達にきれいな環境を提供することがいかに重要であるかを理解するであろうことを強く希望する”と、彼女は述べた。

 NIEHS はメタヤーの研究支援を20年前に開始し、EPA は2008年に参加したと彼女は述べた。長期的で継続的な支援があったために、研究者らは世界中の科学者らと共同研究を実施することできた。それはまた、白血病のリスクを低くするために化学物質への暴露をいかに低減するかに関して医師や地域の人々を教育するための取組にも資金提供をした。NIEHS なしには、”現在の我々はなかったであろう”と、メタヤーは述べた。

クラリティ BPA
(CLARITY-BPA)

 共和党下院議員ジェイソン・チャフェッツは昨年、この3,000万ドル(約35億円)プロジェクトを批判した。この研究は、12の大学研究室とFDAの研究を統合するものである。多くの大規模 BPA 研究が窮地に立たされている。それは、大学研究室、規制機関、及び産業は異なる手法を用いているので、それらの結果を比較することが難しいからである。このプロジェクトは、全ての研究室を通じて研究手法を標準化することにより、この問題に対応しようとしている。

国家毒性計画
(National Toxicology Program)

  NIEHS のこの部門は、がんを引き起こすことが知られている、又は疑われている最新の物質に関する更新を提供して、2年毎に発がん性物質に関する報告書を作成している。これらの報告書は1978年以来、議会で義務付けられており、 NIEHS が最新の科学のレビューに基づき、その決定をしている。最新の報告は大統領選挙の数日前に発表され、7物質が加えられた(訳注5)。すなわち5種のウイルス( HIV-1 を含む)、金属のコバルト及び冷媒として使われるトリクロロエチレンである。

スーパーファンド研究プログラム訳注6
(Superfund Research Program)

 このプログラムは、有害なスーパーファンド・サイトを浄化するための新たな技術に関する大学の研究に資金を調達し、科学を研究室から現場に迅速に移すための商業的支援を提供する。

 カリフォルニア大学バークレー校の毒性学教授であり、同大学でスーパーファンド研究プログラムを指導しているマーチン・スミスは、その将来について楽観的であると語った。”我々は、[政治家たちが] EPA を排除しようと望んだ時でさえ、そのプログラムを維持することに成功した”と彼は述べた。NIEHS の資金提供研究はEPAのスーパーファンド浄化に提供される。

 プルイットは最近、 EPA のスーパーファンド・プログラムを、”絶対的に重要である”と言い、同プログラムの支持を宣言した。


訳注1
訳注2
訳注3
訳注4:エンドクリン・ディスラプション・エクスチェンジ社(TEDX)
訳注5:国家毒性計画 発がん性物質追加
訳注6:スーパーファンド・サイト



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