Center for Investigative Reporting 2017年1月6日
アメリカの電子廃棄物が投棄されていた
中国の町の外観に欺かれる

アリソン・グリナー (Global Reporting Centre)

情報源:Center for Investigative Reporting,January 6, 2017
Looks are deceiving in Chinese town that was US e-waste dumping site
By Allison Griner, Global Reporting Centre
https://www.revealnews.org/article/looks-are-deceiving-in-chinese-town
-that-was-us-e-waste-dumping-site/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2017年1月12日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/news/
170106_CIR_Looks_are_deceiving_in_Chinese_town_that_was_US_e-waste_dumping_site.html

 ライ・ユンは、環境活動家としての仕事を通じてかつて中国の町グイユで10年以上を過ごした。彼は、においがつんと鼻につく空気を吸い、どんよりとしたスモッグに目がかすみ、真っ黒の川に驚き入ったものであった。

 彼はまたその汚染源を撮影した。高く積み上げられて街路にあふれ出ている古い電子機器の山、作業者が手で部品を抜き取り、中身をリサイクルできるよう広げられた電子機器の内部。

 だから彼が 2015年12月にグイユに戻ってきた時(訳注1)、あまりの様変わりに、かつての町であるとはとても信じられなかった。世界最大の電子機器の墓場のひとつとして不名誉な名をとどろかせた町グイユは突然、ほとんど奇跡的にきれいになった

 ”今ではグイユは良くなったように見える”と、ライは述べた。

 この変化はどの様にして、そしてなぜ起きたのかを語るとすれば、それは数十年という期間と国境線に及ぶひとつの物語となる。しかしグイユの現状はまた完全な描画ではないことをライは認める。2016年8月にグイユを訪問した時に、その変化はまやかしであると確信したからである。

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中国の環境活動家ライ・ユンは、グリーンピースのために非合法な有害産業:国際的な電子廃棄物貿易の調査に従事した。
Credit: Allison Griner/Global Reporting Centre
 ライは、中国の現代的繁栄の幕開け期に生まれた中国環境活動家の世代の一員である。しかしその繁栄は悲惨な犠牲:広範な汚染を伴った。これらの変化を目の当たりにして、ライはグリーンピースのために働くことにした。そこで彼は、非合法な有害産業:国際的な電子廃棄物貿易の調査を開始した。

 シアトルを拠点とするバーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)のジム・パケットはすでに徹底的に追跡していた。

 ”我々は、アメリカでいわゆるリサイクル業者により収集されている多くの電子機器が中国に向けて輸出されているという噂を当時聞いた”とパケットは述べた。彼はその当時、それらがどこに行っているのか知らなかった。

 プリンター、テレビ、携帯電話のような電子機器は無害であるように見えるかもしれない。しかしその内部に有害な化学物質や重金属のカクテルを含んでいる。そのことが、それらの解体のコストを高くし、時には危険にする。

 アメリカのリサイクル業者の一部は、収集した電子機器をを国内で処理するより、厳格な健康及び安全基準のない国に輸出する。そのことは、有害廃棄物の国境を越える貿易を禁止するバーゼル条約訳注2)と呼ばれる1989年の条約に違反する。その条約は、”富める国から貧しい国への投棄”を明示的に対象としている ”とパケットは言う。

 彼は同条約の実施強化に役立てるために監視団体バーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)を組織した。アメリカは、同条約を批准していない。アメリカは世界の先進国の中で批准していない唯一の国であり、人口当たり世界最大の電子廃棄物生成国である。違法貿易は発展途上国の世界で場所から場所へ移動するので、電子廃棄物の追跡は国際的なモグラたたきゲームになっている。

 2001年にパケットと中国の仲間は最終的に、密輸貿易の震源地、南シナ海から遠くない人口15万人の中規模都市グイユに照準を合わせた。

 そこで彼は、数万の出稼ぎ労働者らがほとんど素手で電子機器を解体しているのを見た。他の者はマイクロチップを酸性液の入った容器に突っ込み、女性は鉛を溶出させるために電子回路基盤を石炭火力であぶっていた。その処理でオレンジ色のガスが立ち上っていた。叩き壊されたモニターや解体されたプリンターから鉛、水銀、その他の重金属が環境中に排出されていた (訳注3)。

 パケットは、中国の状態を紹介した初めての外国人の一人として、しばしば言及されている。彼、ライおよびその他の環境活動家らは西側メディアにグイユの現状に注目するよう説得した。彼らの仕事は、CNN60 Minutes 及びニューヨークタイムズによってグイユの危機に関する特集で報道された。

 しかし、そのことは、そのような報道が助けることになるはずの人々の心のわだかまりとなった。電子廃棄物産業のおかげで貧困から脱出できると考える出稼ぎ労働者らは、そのような注目が彼らの生活を脅かすと信じていた。

 しかしそのような状況は、他方で彼らの将来の健康も脅かしていた。研究者らは、労働者らが扱う鉛、水銀、カドミウムなどの重金属は彼らの神経系を損なう、あるいは彼らの子どもたちに出生障害をもたらすと警告した。これらの健康影響は何年にもわたって続く。

 ”これらの労働者は貧困地域から来ているので、彼らは短期的な生き残りだけに関心を持っている”と、香港浸会大学の生物学教授であり、電子廃棄物の健康影響を研究しているシャンシャン・チャングは言う。”本当に貧しい人々は何年も先に起きるかも知れないことなどにかまっていられない”。

 グイユに14年の間、関心を持ち続けたパケットに対し、地方当局はは引き延ばし戦術を用いた。

”何回も、我々は当局から聞かされた。’心配するな。きれいにしようとしている’”。

 その後、2015年12月に、非公式の回収業者はグイユの街からほとんど一晩で姿を消した。

 地方政府は、全ての電子廃棄物業者は町の端にある産業パークに移動するよう命じる最後通牒を発した。従わない者には莫大な罰金を含んで処罰されるであろう。

 産業パーク当局は、禁止されている海外の電子機器を排除するために持ち込まれるすべての貨物を検査する検問所を設けた。そのメッセージは明確である。グイユは最早、アメリカのディジタル機器の投棄場所ではない。

 この変化は、習近平主席の下に中国で行われている大きな改革の中で起きた。しばしば強い権力者として特徴づけられる習主席は、中国に世界の否定的な注目をもたらした環境政策の失敗を取り戻そうとした。習政権は、汚染に対する”宣戦布告”さえした。

 ”私は、最終的にはそのメッセージは国家レベル及び地方レベルに絞り込まれると信じる”と、パケットは言う。

 それでもライとパケットが2015年12月にグイユを突如訪問をした時には、産業パーク内で汚れた作業が行われているのを見た。

 ”この産業パーク内のビジネスは、同じ技術を使用し、同じ手法を使用しており、今までと同じであるように見える”と、ライは言う。彼が1年前にここに来た時、労働者らはまだ電子回路をはだか火であぶって処理しており、そこから生じる有毒ガスを吸い込んでいたとことに言及する。”従って、それは残念なことであり、本当の改善はなされていないと私は思う”。

 8か月後の2016年8月に産業パークを再度訪問して、ライが最初に報告したのと同じ問題の多くがまだ存在していることを彼は認識した。労働者らは産業パークの灰色の建物の外のコンクリートに座り、かつて彼らがしていたように古いコンピュータを解体していた。

 手袋をしている人も何人かはいた。マスクをしている人はもっと少なかった。空気中につんとした酸っぱいにおいが漂っていた。

 労働者のひとり、シャオ・チョンは、彼女がこの産業に留まっている大きな理由は金であると説明した。彼女は、月に600ドル(約7万円)、ウェイトレスとしての以前の給料の10倍を稼いでいると言う。

 その日、産業パークにいた多くの労働者らと同様に彼女はマスクをしていなかった。”蒸気の匂いはそれほど強くないし、今日は暑いから”と彼女は言う。

 彼女の夫、リ・パンは、ハイヤーの運転手としての業務を通じてライのような環境活動家を知っている。リは潜在的な健康への危険性は知っているが、彼も彼の妻もグイユの将来の経済についての大きな懸念を示している。

 産業パーク内で高いコストのために多くの回収業者が去っていくことを彼は懸念している。”私は、電子廃棄物解体産業は消えてなくなろうとしていることを恐れている”と彼は言う。

 グイユは現在、世界最大の電子機器消費国であるアメリカを追い抜こうとしている中国の国内で生成される電子廃棄物をもっぱら処理している。

 電子廃棄物取引は中国の他の場所や、パキスタン、メキシコなど他の発展途上国にシフトしているので、グイユへの世界の注目は減っている。グリーンピースは中国での電子廃棄物キャンペーンの幕を閉じ、グイユの電子廃棄物問題に関する主要な専門家の一人であるライでさえグイユを去った。ライは子どもたちの教育に注力する他の環境団体(訳注:広東自然保護協会)を設立した。

 パケットは、戦いを続ける活動家がほとんどいなくなっていることを恐れている。彼は、グイユの環境のための戦いは終わっていないと警告している。

 ”グイユが自身をきれいにするために数世紀かかるであろう”と彼は言う。


訳注1
訳注2:バーゼル条約
訳注2:グイユにおける電子廃棄物リサイクルに関する報告


化学物質問題市民研究会
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