BAN 有害廃棄物ニュース 2006年4月5日
世界中からの廃棄コンピュータが
中国の電子機器廃棄物の山の中に

情報源:Basel Action NetworkToxic (BAN)
Trade News / 5 April 2006
World's discarded computers land in China's digital scrap heap
by Tim Johnson (Knight Ridder Newspapers), San Jose Mercury News (Ca., USA)
http://old.ban.org/ban_news/2006/060405_discarded_computers.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年4月10日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/BAN/06_04_05_China.html


廃棄コンピュータの山
廃棄コンピュータの
マザーボードを運ぶ男
廃棄電子機器からプラスチックを
抜き出す労働者
廃棄コンピュータ・マザーボードの
山の傍らで休む労働者
廃棄コンピュータの部品を
回収する労働者ら
アルミのコンピュータ・ケースを
積む労働者
 【2006年4月5日 グイユ、中国】 世界中の机の上から廃棄コンピュータとして姿を消した後、それらはしばしば、世界の電子廃棄物の首都である中国のグイユに姿を現す。
 この都市には、廃棄コンピュータのと殺場が不規則に広がっている。その排水には臓物と血の代わりに有毒金属と酸が含まれている。ここには約60,000人の労働者が、廃棄電子機器の原始的なリサイクリングを−もしそれをリサイクリングと呼べるなら−健康を蝕ばまれながら、手作業で行っている。

 臓物を抜き取ったコンピュータ・ケースの残骸が街路に並び、解体を待っている。回路基板とハードディスク・ドライブが積み上げられて巨大な山をなしている。数千の作業場で労働者らはプラスチック・ケースを切断し削って細粒にし、ケーブルをはさみで切り、回路基板からチップを引き抜く。労働者らは、回路基板を赤熱の炉に入れ、あるいは酸の液に浸し、鉛や銀、その他の金属を溶解する。ハンダが焼け、プラスチックの詰め物が溶ける匂いが大気にただよい鼻をつく。

 ”これがリサイクルであるとは到底思えない。彼らは環境のことを考えていない。”−と近くのシャントー大学の環境活動家ウー・ソンは述べた。

 そこで起きていることは電子廃棄物のゴミの山からの回収のようなものである。中国は電子廃棄物の輸入は禁止しているにもかかわらず、中国の工場は、たとえそれが廃棄コンピュータの臓物から引き抜いたものであっても原材料を求めて騒ぎ立て、危険性についてほとんど知らされていない労働者らがコンピュータ・リサイクル関連の仕事を求めてやってくる。したがって禁止は無視され、電子廃棄物はどっと流れ込んでくる。”リサイクル”という口実の下に、アメリカの電子廃棄物回収業者は廃棄コンピュータを船積みして中国に送り込み、環境問題を引き起こしている。

 アメリカでは、消費者、製造者、そして小売業者は使用済み電子機器の安全な最終処分について、ようやく注意の目を向け始めたところである。

 アメリカの国家安全委員会によれば、来年までに、アメリカで集められる使用済みコンピュータの数は5億台に及ぶ。”人々はそれらをどのように扱えばよいのか知らない”−と電子廃棄物処理の持続可能な方法について消費者にアドバイスしているシアトル拠点のバーゼル・アクション・ネットワークの代表ジム・パケットは述べた。

 カリフォルニア州パロアルトのヒューレット・パッカードはその製品について広範な有害化学物質の使用を今年中にやめることを約束し、製造者が使用済みコンピュータを回収することを求める州の法律制定のためのロビー活動を支援している。

 しかし、いまだに多くの電子廃棄物がアメリカから中国や西アフリカに流れ出し続けており、そこでは汚職や密輸が横行している。アメリカ政府は電子廃棄物の輸出を禁止しておらず、監視もしていない。

 それどころか、米環境保護庁(EPA)は電子機器廃棄物回収業者の許認可も行っていない。どのような会社でも、たとえやっていることの全てが廃棄物を輸出することだけであっても、回収業であると主張することができる。

 グイユ(グワイヨー)は、香港から北東に車で数時間のところにあり、中国最大の電子廃棄物スクラップ産業地域である。同市は21の村からなり、5,500の家内工場が電子廃棄物を扱っている。地方政府のウェブサイトによれば、同市のビジネスは年間150万トンの電子廃棄物を処理しており、年間の総収入は7,500万ドル(約83億円)になる。電子廃棄物の80%は海外からのものである。

 市当局はこの電子廃棄物産業が自慢であるが、廃棄物の密輸と労働者の権利無視をもたらす汚いビジネスという評判には敏感である。現地の状況を詳しく調べようとするジャーナリストは、直ぐに自分が地元のチンピラや警察に引き止められ、ディジタルカメラやビデオカメラの情報をは消されてしまう。最近、ある訪問者は市に到着してから2時間で呼び止められ、退去するよう命令された。

 ”彼らは、グイユ地域の否定的な側面を記事に書くメディアを嫌っている。彼らはおそらく中央政府が彼らを罰することをを恐れているのだろう。”とウーは述べた。

 地方のボスは労働者の健康や酸の液を川に流したり、有毒ヒュームを大気に放出したりすることを禁じている規制などほとんど無視している。

 グイユのある地区では、ひとりの移住労働者がコンデンサーと回路基板の山の中に立ち、仲間の労働者らがプライヤーでハンダ金属部を引き抜き、火鉢の上で電子部品を焼いて、その内容物を確かめていた。

 焼いてみればどのような種類のプラスチックか判る。匂いが違う。非常にたくさんの種類のプラスチックがあり、多分、60〜70のタイプがあるだろう”−と姓だけを名乗ったワンは説明した。
 グイユの6つの村は回路基板の分解に特化しており、7つの村がプラスチックと金属の再処理、そして2つの村が電線とケーブルの分解を行っている。

 米国議会のお目付け役である政府会計検査院(GAO)の11月の報告書によれば、コンピュータ1台から取り出した粉砕プラスチック、銅、アルミで平均1.5〜2ドル(170〜220円)になる。

 アメリカの電子廃棄物回収業者はそのような低額な生産物では、さらにその上、環境規制を守っていては、コスト割れをする。そこで彼らは使用済みコンピュータの重量1ポンド(0.454kg)あたり50セント(約50円)を要求するが、これはコンピュータ1台あたり約20〜28ドル(約2,200〜3,000円)となる。この値段なら安全で利益の出るリサイクリングができると専門家は述べている。しかしアメリカの回収業者のあるものは、もっと利益を得るために海外に輸出している。

 ”収集される全ての使用済みコンピュータの80%は輸出されている”−とシリコン・バレー・有害物質連合(SVTC)の創設者であり、使用済み電子機器の安全な国内処理を主張し、消費者と回収業者に環境的に最良の方法を用い、電子廃棄物を輸出しないことを誓わせる全国的な”コンピュータ・テイクバック・キャンペーン”の代表であるテッド・スミスは述べた。電子廃棄物の海外への流出は”減っていない”と彼は述べた。”どちらかといえば、増加している。”

 北京の政治家らはこの流れに不満足であり、グイユともうひとつの中国の電子廃棄物の拠点タイゾウの取り扱い業者と市当局、及びこれら廃棄物の輸出国のことを非難している。

 ”最大の責任は電子廃棄物を輸出する先進諸国にある”−と北京のツィングア大学環境エンジニアリング学部の教授ザン・ティアンズは述べた。彼はリサイクリング・ビジネスに関する国家の法律を起草中の専門家諮問委員会のメンバーであり、”中国中央政府は環境的に安全な手法を望んでいるが、既存の廃棄物ビジネスは非常に巨大なので、それらは地方の住民と地方政府の歳入の主要な源である”−と述べた。

 電子廃棄物ビジネスの税はグイユでは商業及び産業関連の税の90%を占めているので、市当局はそれらを取り締まることを嫌がっている。

 環境団体グリーンピースは1年前にグイユ、及び電子廃棄物リサイクリングが興っているインドで、ダスト、土壌、川底の堆積物、及び地下水のサンプルを採取し、両方の土地で採取したサンプル中から高濃度の重金属及び有機汚染物質を検出した。

 同グループは、”鉛、水銀、及びカドミウムのような10以上の有毒金属をグイユの町で検出した”−とキャンペーン担当のユンは述べた。

 労働者らは回路基板を粉砕して粉にするときに、水で洗うが、その水は川に流される。彼らはまた基板上の金属を溶解するために酸液を使用するが、この酸液もまた川に流される”と環境活動家ウーは述べた。

 有害性は、アメリカにおけるリサイクリングに金がかかるということのひとつの理由に過ぎない。もうひとつの理由は設計の悪さである。アメリカの製造者は解体しやすいように製品を設計していない。GAO報告では、設計時に1ドル金をかければ、アメリカのリサイクル産業は解体時のコストを4ドル節約できるとしている。製造者らは有害難燃剤を代替する”グリーン”な物質を探そうとしていない。

 アメリカの大きな機関やビジネスで使用しているコンピュータの使用期間は約3年である。古いコンピュータは競売にかけらてブローカーに競り落とされる。”資金のない学校のコンピュータは、最高値入札者のところに行く。その最高値入札者が海外に輸出する。”

グイユに集まった多くの廃棄コンピュータは、月に約100ドル(約11,000円)を稼ぐ労働者らが分別し、解体し、粉砕し、焼き、溶かす。

 たとえ電子廃棄物の輸入がなくなっても、グイユのリサイクル産業は衰退しないであろう。中国では自国の電子廃棄物の量が増え続けている。

 内務省と関係があるリサーチ会社によれば、昨年、中国では2,000万台のコンピュータが販売された。2年以内に中国では年間、3,000万台のコンピュータを購入するであろう。


訳注:参考記事
 EHP2002年4月号記事 電子廃棄物の爆発的増加(その5)
 BAN プレスリリース 2005年10月24日 ハイテク有害ゴミがアフリカへ輸出



化学物質問題市民研究会
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