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『バイオニック コマンドー』は奇跡的な作品だ。『ヒットラーの復活』が持っていた、ワイヤーアクションの緻密かつ直感的な操作感。それを3Dで再現するという、不可能とも思えるコンセプトを、見事に実現している。まず、『ヒットラーの復活』のワイヤーアクションは、次の3つの要素で成り立っていた。 ●ワイヤーをフックする場所(=ワイヤーの届く距離)の見極め ●ワイヤーを発射するタイミング ●ワイヤーをリリースするタイミング 操作はシンプルだが、このうちどれかひとつでもミスすると、完璧なスウィングはできない。華麗に飛び回るか、落下死するかは、自分のテクニック次第。その「紙一重さ」に、麻薬的な快感があった。 『バイオニック コマンドー』のワイヤーアクションは、この3つの要素をすべて継承している。遠近感がつかめずに落ちまくることもなければ、行き当たりばったりでスウィングするだけの散漫なゲームにもなっていない。その上で、広大な3D空間を飛び回る臨場感、そして高所から落下するときの、アソコがキューッとなるような感覚を加えてみせたのだ。 ただし3Dになったことで、やや分かりにくいルールも存在する。そのひとつが「放射能」だ。ステージの各所には「放射能エリア」があり、プレイヤーはそこに入ると死んでしまう。放射能エリアは青い霧で示されているのだが、見た目にやや分かりにくい。そのため、ワイヤーでビュンビュン飛び回っていると、いきなり放射能エリアに飛び込んで死んでしまうこともある。 ちょっと納得のいかない死に方だが、これはゲームシステム上、仕方ないとも感じる。本作はワイヤーを使えば、本当にどこにでも行けてしまう。そのため、放射能という表現を使って、「行き止まり」を作っているのだ。ファミコン(2D)ゲームでいう「画面の端」や、レースゲームの「コースアウト」に当たると考えれば分かりやすい。 本作の意図は、広大な箱庭を勝手気ままに飛び回るゲームではない。行動範囲が広すぎると、プレイヤーはどこに行けばいいのか迷ってしまう。そうではなく、スタートからゴールまでに用意されたひとつひとつの障害を、どう越えていくかに集中させる。まさに『ヒットラーの復活』の精神を受け継ぐ、昔ながらのステージクリア型アクションなのである。『マリオ』が横方向の一本道(リニア)だからといって、『ゼルダ』や『メトロイド』より劣るといえるだろうか? また、本作はよくあるFPSやTPSのように、派手な銃撃戦を楽しむゲームではない。むしろ正反対で、本作の売りであるワイヤーを使わせるために、銃器の威力や弾数は意図的に制限されている。正確なエイミングも求められない。そこを理解して、積極的にワイヤーを使っていかないと、「出来の悪いシューター」で終わってしまう。 本作のワイヤーアクションは文句なく素晴らしいが、ただゲーム全体で見ると、残念な部分もちらほらある。ひとつはボス戦だ。そもそもボスの数が少ないことに加え、スウィングを楽しめるのが最初のボス戦しかない。ゲーム終盤の見せ場も、シチュエーションは魅力的なのに、実際のゲームは決められた手順を順番にこなすだけになってしまっている(ただ、そもそもオリジナルの『ヒットラーの復活』、さらには『トップシークレット』も、ボス戦には重点を置いていなかったが)。 そして、ストーリーも大きな議論の対象だ。それなりに力は入っているのだが、物語の内容は賛否両論というか、正直いって失望する人の方が多いだろう。これについては、ネタバレもあるので別のページで詳しく述べたい。 音楽は、この作品の最も素晴らしい部分のひとつだ。ほとんどの曲が『ヒットラーの復活』の名曲をオーケストラ風アレンジしたもので、ゲームに荘厳な迫力を加えると同時に、長年のファンにとっては懐かしさを与えてくれる。意外な場面で懐かしいフレーズが流れてきて、思わず胸が熱くなるだろう。 『バイオニック コマンドー』は残念ながら、今日の市場において「売れるゲーム」ではないだろう。明らかな欠点や、「こうすればもっと素晴らしくなったのに」と惜しまれる部分もある。だが本作のスウィングアクションは、ほかのゲームでは体験できない、代わりの利かない魅力だ。数あるシューターとも違うし、『スパイダーマン』のワイヤーアクションとも違う。それでありながら、そのプレイ感覚は、紛れもなく『ヒットラーの復活』の続編なのだ。 これからも新しい、素晴らしいアクションゲームはどんどん出てくるだろうが、それでも「スウィングアクション」を楽しみたくなったときは、また『バイオニック コマンドー』のディスクを取り出すだろう。そんな作品を作り上げた制作陣の「チャレンジ精神」に敬意を表したい。そして、難しいかもしれないが、続編の発売にも期待したい。このスウィングアクションは、たった一作で終わらせてしまうには、あまりに惜しい。 |
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