オーロラ観望記  その1
フェアバンクス・チナ温泉リゾート編  (2013年1月)

 公開:2013年1月10日〜
更新:2013年1月14日 *内容を訂正・追加。

 1月2日撮影。機材を撤収していたら、いきなり出たオーロラ 。

  

子供の頃からの夢

 気づいたら天文大好き少年だったが、その頃から3つの夢がある。まずは「皆既日食」。これは3度体験できた。二つ目は「オーロラ」。これは、幼稚園の頃見た図鑑の“南極では オーロラ/極光というものが見える事がある”という説明と幻想的な絵が決定的に強いインパクトを与えた。40数年前にはオーロラの情報が無く、小学校の頃は、南極観測船で南極まで行かなければ見れないとても珍しい現象だ、と思っていた。3つ目の夢は絶対実現不可能で、「丸い地球を見る」事。丸い地球を見るためにはISSでは無理で、もっと遥かに地球から離れないと見られない。ただ、昨年のコズミック・フロントでのISSの美しい地球の映像は衝撃的で、今は丸くなくても「3つめの夢」になっている。

 時が経ちオーロラの研究も進み、そしてだいぶいろいろな事が分かってきて、今ではパリやニューヨークの観光旅行と同様、誰でもツアーで見に行けるし、観光産業としても大賑わいだ。私の周りにも見に行った、という人が何人かいて、しかし何故か天文ファンにはあまりいない。今年から太陽の活動が低下して行く、という話もあり、今回の年末・年始を逃したら、もう派手なオーロラは見れないのではないか、と焦り、昨年9月頃からオーロラ観望計画を立てた。今ではイエローナイフを始めとして沢山オーロラ観光スポットがあるが、マイレージの関係、便の関係、月明かりとの兼ね合い、そして設備等を検討した結果、12月31日に日本を立ち、同日シアトルに1泊、翌1月1日からアラスカ・フェアバンクスのチナ温泉リゾートに4泊し、5日目の夜中の1時30分にフェアバンクス→シアトル→成田、という便で帰国、という事になった。昔みたいに、アンカレッジへの便があれば半分以下の時間で行けるのに、今はアンカレッジ便は団体ツアーのみ(ようするに、チャーター便)なのが残念だ。

 まあ4泊すれば、1回は見れるだろう、と楽観していたし、10月は黒点もプロミネンスも派手に出ていたので、内心「しめしめ」とほくそ笑んでいたのだが、12月になったら黒点もプロミネンスも激減して、だんだん見れないかも、と弱気になってきた。皆既日食などの天文イベントは、「場所を選定する時から、すでに日食は始まっているのだ」等と、いつもえらそうな事を言っていたが、今回は、相当弱気の出発となった。

 

準備

 オーロラ・スポットやツアーでは、どこでも防寒具をレンタルしているが、私の場合は、普段の冬の観望用一式で特に新たに用意したものは無かった。ただ、温度が-10℃とかではなく、-40℃位まで下がる場合がある、という事なので、ホッカイロは沢山持っていった。防寒は、インナーで決まる。私の場合は、HONDA のバイク用下着(肌の上に直接着ないとダメ。間違っても他の下着を間に入れない事)の上に、ヒートテックの薄手のタートルネック、その上にタートルネックのセーター、その上にヒートテックの上着、そしてダウンジャケット。下は、同じHONDA のバイク用下着、コーデュロイのズボン、そしてシンサレートのオーバーズボンで、靴下は、2枚履き(外側は、登山用の厚手のもの)。

   Gitzo トラベラー三脚 GT1542T

 カメラはCANON EOS-5D Mark III で、ステージ写真の撮影の時に使う消音・防寒ケースを持参。 レンズは、いつものEF15mm FishEyeEF24-105mm F4L IS USM の他、EF16-35mm F2.8L USMEF70-200mm F4L IS USMEXTENDER EF1.4×III。三脚は、一昨年購入した重さが1Kg しかないGitzoGT1542T。この三脚は、1年中どこでも大活躍だ。また 、せっかくなので、Kowa Prominar TSN-883 も持って行く事にした。アイピースは、専用アイピース:TE-17WNagler Type6 5mm 。また、双眼鏡は、いつものように、Nikon TC-E2 テレコン・ビノCanon 10×42 L IS WP

 

シアトルでカウントダウン

 羽田ではなく、成田から出発。早く羽田から普通に行けるようになって欲しい。59番ゲートからはバスで飛行機に向かう、という。まるで羽田から僻地の空港へ行く時みたいで、成田・国際線でこんな事あるの?と思ったら、何と最新鋭のボーイング787にたどり着いた。

 シアトルにはボーイング社の工場があり(必見! 工場も面白いが、航空博物館には初期の飛行機からコンコルド、1機何十億円の戦闘機、エア・フォース・ワン、アポロ宇宙船、月面車に至るまで大量に展示)、流石に最初に787の大量発注をかけたANAの東京・シアトル間は787という訳か。最新鋭の旅客機、という雰囲気は漂っているが、どうやってもテーブルが途中で引っかかって出て来ない。結局CAが力任せにガン、ガンと勢いを付けて物凄い音と共に引き出した。恐ろしく古代的解決法だった。また、トイレの便座が小さい。この飛行機だけでなく、何であんなに小さな便座が世の中にあるのか、私には全く理解できない。便座を作っている会社の男は、よほど「極小・短小」なのか、「先が触れても平気」なのか!?

 面白いのは、液晶のウインドウ・スクリーン。5段階に設定でき、最も暗い設定にすると、太陽も直視できる!(写真右の白い点は太陽です)。 良くできていて、感心。何度もパカパカ試してしまった。

 

 見た映画は、「オーロラの彼方へ」。NYにオーロラが出現する程の磁気嵐の影響で、30年前に事故で亡くなった父と現在の息子が偶然無線で交信し、父を事故から救ってしまう、という感動的な映画かと思いきや、それは始まりで、結局やや強引な展開のサスペンスだった。?と思って原題を見たら、「Frequency」だった。「ヒマラヤ杉に降る雪」は、工藤夕貴が素晴らしい演技をしているのに、監督、特に編集が残念。もったいないなあ。

 シアトルは、1年半ぶりだ。パイク・プレイス・マーケット(スターバックス1号店には、また寄ってしまった)とその近隣をぶらぶら散策したが、以外に面白かったのは水族館。規模は小さいのだが、テーマが明確で見せ方のセンスが光る。



 シアトル水族館の「触れるヒトデ」、「シャコ貝」、「Octopus Talk」、「クラゲ」

 シアトル水族館は、パイク・プレイス・マーケットの左。その隣は大観覧車(割と行列)、木槌でたたいてカニを食べる有名なレストラン「Crab Pot」もここ。さらに行くと、Ivar's(名物・クラムチャウダー)。

 カウント・ダウンは、スペース・ニードルという展望タワーの花火大会。外は5℃だというのに、ドレスアップして恐ろしく薄着で集結している女性も多かった。都内の冬でもTシャツ1枚で外を歩いている白人をよく見かけるが、同じ人間とは思えない。食べたものが皮下脂肪にならず、熱で消費できたら、どんなに良い事だろう。花火は、なかなか派手にやってくれる。盛り上がるし、元気付けられる。そして、花火を見ると、いつも平和である事に感謝する。火薬を平和利用すれば、こんなにも人を感動させられるのに、兵器に使えば殺人の道具だ。

  

チナ温泉リゾートへ

 シアトルからフェアバンクスまで、飛行機で3時間50分もかかる。成田からグァムまで3時間だから、もっと先だ。北米は広い。空港からさらに北東に100Km行った道の終点がチナ温泉リゾート。ここは、北米唯一の源泉かけ流しの温泉地で、興味深い歴史がある。 北側には滑走路があり、“近所の人達”も、“自家用飛行機”で温泉に入りに来るらしい。

 着いたのは17時半頃。コテージや雪のかかった木々を見ると、アラスカに来たんだなあ、と実感が湧いてくる。この夜は曇り空で、木星と月の位置が分かる程度。ひと晩中1〜2時間置きに起きて空をチェックしたが、曇り空のままで、オーロラは見れなかった。ちなみにこの日の気温は0〜-5℃。暖かいのでびっくりした。リゾートのスタッフに聞いたら、先週は-40℃だったし、こんなに暖かいのは珍しい、と言っていた。


フロント・デスクとレストランがあるロッジ(左)

 

2日目、キャタピラー雪上車で夕日ツアー、そしてオーロラ・トリップ

 今日1月2日は、日本を出る時の天気予報では晴れ。オーストラリアでもここでも土地の広さが日本とはケタ違いなので、メッシュ天気予報、といったって200Kmとかが最小単位だったりするから天気予報は役に立たない。GPV気象予報、Astro GPVの何とありがたい事か! リゾートの従業員に「今日の天気は?」と聞いても、いつも答えは、「さあ、どうでしょうか」。
 今日は、薄雲がかかっているけれど、晴れそうだ。ここはオーロラ・ベルトの直下、晴れてさえいれば、まずオーロラが見れる」という。このリゾートには、オーロラ観望のための専用待機室や観望スペースが用意されているが、さらにキャタピラー雪上車で 標高490m程の東側の山頂まで登り、そこから大パノラマでオーロラを楽しめるようにもなっている。

 という訳で、今日は勝負! 雪上車ツアーを申し込んだ。最初は、夕日ツアー。アラスカの大自然のサンセットを山頂から見ようというもの。このツアーの参加者は我々夫婦しかいなくて、雪上車の10人用連結車両ではなく、運転車両に乗ったが、物凄い振動と音とゆれと衝撃で驚いた(ドライバーは耳栓をして運転していた)。しかし流石はキャタピラー雪上車で、けっこう急な坂をぐいぐい登って行く。30分程で山頂に着いた。途中、もう夕焼けが始まっていて、サンセットに間に合うのかな?と心配していたが、そこは北緯65°、太陽は稜線をなめるように横に移動していくので、なかなか陽が沈まない。写真のような状態が30分以上も続く。日没は14時半。薄明もかなり長く、2時間位かけてゆっくりと暗くなってゆく。

 この日の気温は-10℃位。持参したHOHER BERG デジタル・マルチメーターは-20℃まで測れると謳っているが、どうも-10℃以下になると表示が--℃となり失神してしまう。せっかくここに来て、どんだけ寒いのかチェックしようと思ったのに、これでは役に立たない。今度来るチャンスがあったら(本当は10月とか3月とかに来れれば良いのだが、私には無理)、-45℃まで測れる温度計を用意しよう。


写真右:山頂のパオ

 21時15分からは、オーロラ・トリップ。ちょうど、しぶんぎ座流星群の極大期に近いので、うまくいけば、オーロラ+流星群という絶好のタイミングだ。夕日ツアーと同じ山頂へ向かうのだが、待合のアクティヴィティー・センターでは、日本人で溢れていた。大手旅行会社は好んでこの地を組み入れるようで、数十人規模の団体が次から次へとやって来るようだ。キャタピラー雪上車は連結13人乗りで、この日は6台も出た。今度は、連結車の方に乗ったが、昼ほど揺れはひどくなかった。重くなってサスペンションが効いたのか(板ばねのトラック等も重くなると乗り心地が良くなる)。


肉眼では何も見えなくても、北の空が緑色に写ってきたらオーロラは近い。

 山頂には、暖房も効いてココアやカップラーメンなども自由に飲める快適なパオが2つあるが、着いてみたら雲一つ無い快晴、満天の星空だった。もったいなくてパオの中になんか居れない。星空を楽しんでいて23時半を過ぎた頃、北側の空に薄雲のようなものが見え出した。でもちょっと雲とも違うような... 写真を撮ってみたら、緑色だった。おお、これがオーロラか?! でも淡くて雲だがオーロラだか判別できない所もある。そうこうしていたら、急に明るくなってきて緑色のヒダヒダが出現! でも、頭上ではなく、正面のスクリーンを見ているような感じ。オーロラは刻一刻と表情を変え、消えたり、また突然出てみたり。でも、写真やTVで見るものとは随分違い、オーロラが明るくなければ夜空の雲みたいな感じで、色も感じない。しばらくしたら、オーロラが波を打って空を横に伸びていくのが見えた! これには感激。ギャラリーからは、「頑張れ〜、伸びろ〜、繋がれ〜。」と声援が飛ぶ。しかし崩壊現象/ブレイクには至らなかった。




オーロラが伸びていく様子(縮小前の写真には、星/星座がきれいに写っている)。

 月齢19.7の月も上がり、少し明かるくなってきた。流星群も不発。1時半頃、日本人の団体1つが一足早く引き上げた。このツアーは午前2時に山頂を後にしなければならず、2時近くなったらオーロラも消えてしまったので、月灯りの風景写真を撮ったり、三脚を片付け始めたら、突然、一番凄いのが出てきた。針状結晶が空に突き刺さっているような光が突然すっと現れると、思わず「おお〜っ!」と声が出てしまった。あわててカメラを三脚にセットしたが、ピントはずれるは、シャッターは ケーブル・レリーズではなく指で押すは、でドタバタ。何とか13枚撮ったが、オーロラはすぐに弱くなり、時間切れ撤収。ツアーが終了してから、再び空を見たが、おとなしくてオーロラの気配も無い。就寝。



オーロラは、天体写真と望遠鏡・眼視の関係に似ていた。明るくなければ、色は見えない。

  

3日目、今度はリゾートで観望


朝日に照らされる山々

 今日1月3日は、空は薄雲に覆われているが、朝日に山々が照らされて、赤く映えている。といっても時間は12時。日の出は10時半頃だが、14時半の日の入りで、後はずっと夜か、というと、薄明が2時間位続くので、思ったより明るい時間が長い。今日は、リゾートで観望してみる事にした。山頂とは見え方は違うのだろうか。昼間の気温はリゾートの温度計で-15℃。


アクティヴィティ・センターとオーロラ待機室

 21時過ぎに観望スペースにカメラを設置した。オーロラ待機室で待とうと思ったら、既に定員オーヴァー。アクティヴィティ・センター内も日本人で溢れている。このリゾートは英語/日本語表記だし、日本人スタッフが4人いて対応してくれるので、まるで、日本のどこかのスキー場に来たみたいだ。しばらくしてオーロラ待機室に空きが出たので、ここでしばらく待っていたが、ひっきりなしに人が出入りするので、その度にアクティヴィティー・センターの明るい光が正面の窓のガラスに反射して目が眩む。天文をやる人ならレッド・ライトは常識だが、ここではそんな人は我々夫婦だけで、明るいLED懐中電灯も普通に使われている。待機室内で昼間撮ったデジカメの画像をチェックする人もいて、その光が窓ガラスに反射して、星空なんか何も見えなくなる。昨日見たオーロラの感じからすると暗順応は極めて大切で、あんな調子でデジカメの画面を見て撮っている人達は、オーロラの微細なヒダや色は見えていないのではないか。団体ツアーで防寒具を準備するなら、レッド・ライト位用意すべきだ。また、事前に観望の最低限のマナーをきちんと伝えておくべきである。あんな星空でストロボを使って写真を撮るバカ者が毎日いるのだ。世の中の人々に迷惑を掛けない、お互いに快適に過ごせるためのものが“エチケット”、そしてそれはルールを強要するものではなく、知識と教養、教育であり、大恥をかくのは自分自身。しかしながら、これが欠如している人が多すぎる。リゾート側も、アクティヴィティー・センターから待機室への入り口にも暗幕を張って、ワンクッション置いてくれると良いのだが。貴重な休みに高いお金を払ってわざわざ来るのだから、より良くオーロラが見える工夫をしてもらいたいところだ。とりあえずの対策としては、明るい光が出そうになったら、その都度、目を閉じる。



 今日は、南側の空は晴れているが、まずオーロラが出てくる確立が高い北側が曇っている。昨日は23時半過ぎからオーロラが出たが、今日は見えないのだろうか。雲の隙間からきれいなオーロラが見える場合もあるというし... 諦めたら絶対見れない。宝くじだって、買わなきゃ当たらない(でもこれは、当たる確立が低すぎる)。と、待つ事4時間。1時15分頃、北側の雲の写真が緑色だ。おお、オーロラがやってきた! 薄雲越しだが、今度は昨日より近くでオーロラはより高く、視野いっぱいに広がってきた。薄雲が無くなると、もっとはっきり見えてくるし、スッと明るさが増す時もある。 ただし色は感じない。また、テレコン・ビノで見ても色は感じなかった。今度は、Zeiss Victory 7×42 T*FL で見てみたいところだ。変化は秒単位。昨日もそうだったけれど、オーロラが出そうになったら張り付いて見ていないと、絶好の瞬間は見逃してしまう。私の場合は、写真派ではなく眼視派なので、とにかく見るようにして、ケーブル・レリーズで適当にパシパシ撮っていた。露出は、背景と星野写真の感じから、適当に設定。たまに露出や焦点距離を変えて撮ってみたが、その間、オーロラから目を離すのがもったいない感じがした。2時半を過ぎたら、オーロラも消え、三脚もカメラケースも凍り付いていて、レンズにも霜が降りていた。リゾートの温度計では-18℃だった。

 

リゾートのアクティヴィティー

 ここは、温泉リゾート。目玉はオーロラだけでなく、温泉も看板の一つだ。20世紀初頭に、ゴールドラッシュに沸いたフェアバンクスの鉱夫のリウマチの湯治として発展してきた経緯がある。今では、温水プールに入りに来る子供たちも多いようで、夕方は大賑わいだ。北米唯一の源泉かけ流し、という事だが、湯量は相当あるようで、外の岩風呂はプールのように大きく、深さも胸のちょっと下位まである。私の場合は、部屋のシャワーは使わず、まずここのシャワーで洗髪、体を洗ってから、屋内のジャグジーで体を暖め、一気に岩風呂まで直行。温度はちょうど良く、大きな風呂を歩いて一周すると、けっこうな運動になる。しばらく頭を出していると、髪の毛が凍ってくる。お風呂の湯気はけっこうあるので、星は時にやっと1等星が見える程度。相当明るいオーロラでないと、露天風呂でオーロラは無理のようだ。


源泉(左)と露天風呂(右)

 体の温まりは相当なもので、帰りはダウンは羽織るだけ。部屋でも1時間位は服も着れない。だから、行く時は、上はアンダー・シャツ1枚+ダウン、下は水着+ズボン1枚、普通の靴で行く。厚着していったら、帰りはえらい事になる。間違っても、オーロラ・ツアーの前に体を温めてから行こう、等と思わないように。湯冷めしたら一気に-20℃以下の世界なるので、大変な事になる(汗をかいた下着は、体温をぐんぐん奪う)。

 このリゾートの特筆すべき点は、地熱発電設備があり、リゾート全ての電力がまかなわれている事、さらに温室で野菜が栽培されていて、外が-40℃であっても中は27℃に保たれていてる事だ。Geothermal Tour(無料、ただし英語のみ。日本語のサイトには掲載されていなかった)に参加すると、この様子を見せてくれる。LED照明の下に整然と並んでいる野菜群を見ると、未来の巨大な宇宙船/惑星での生活を見ているような感じがした。シーズン・オフには、余った電気エネルギーで水を電気分解して水素を作り、これをプロパンガスに混ぜて、レストランの調理用燃料にしているとの事。えらいっ!


氷のグラスでアップル・マティニを飲んだ。

 有名なアイス・ミュージーアムも面白いが、感激したのは、犬ぞり。今はどこのオーロラ・スポットでも犬ぞりが体験できるが、イエロー・ナイフで乗った人から、「犬だって寒いし、やる気もなくていやいや走っていたわよ。」等と聞いていたので、全く期待していなかった。ところがビックリ。美しい大自然の中を軽快に走る自転車以上のスピードで走って行く。しかも、御者の号令に従順に応答し、ちゃんとコーナーでは減速するし、停止もする。けなげでかわいくて、降りてからもしばし犬達と戯れてしまった。

 4人以上集まれば、飛行機で北極圏ツアーもある。今回はタイミングが合わず、残念ながら行けなかった。他にもいろいろ充実。

 

持参した望遠鏡

 せっかくなので、普段、Obsession のファインダーとして活躍しているKowa Prominar TSN-883 も望遠鏡として持っていった。アイピースは、専用アイピース:TE-17WNagler Type6 5mm 。昨年P.S.T.双眼とEMS対空双眼鏡の雲台が代わり、Manfrotto 701 を手放してしまったが、やっぱり軽量のヴィデオ雲台は必要になったので、Zitzo G2180 を購入した。わずか570gしかない操作性抜群の雲台だ。バード・ウォッチング専用の雲台GH1720QR もあるが、目的が違うのか、何度か触ったけれど、メリットが感じられなかった。いつもの繰り返しになるが、口径約9cmのフローライト屈折望遠鏡、正立像、架台込みで総重量わずか3.2s。片手でラクラク、トート・バッグに入れて持ち歩ける驚異の望遠鏡だ。

 自宅でフードに付いているの照準器で月と木星が導入できたので、今回はファインダー無しにしてみたが、これが大誤算。防寒のための専用ケース(写真右上)を装着すると、星空では照準器は見えにくく、レッド・ライトでフードを照さらないと見えないし、今度は星空が見えにくくなる。やはり、Sky Surfer III をきちんと装備する必要があった。お陰でメシエ・メジャー天体の導入も大変で、結局持っていったものの、あまり活躍の場は無かった。

 

リゾートの食事・水


レストラン(左)。リゾートにはいろいろなお土産があるが、Alasca Gold Nuggers $7.50 は美味しくておすすめ(写真右)。

 リゾートにはレストランもあるが、3食お世話になると、出費も相当な金額になってしまう。また、リゾートの外へは買出しに行けないので(お店が無い)、朝食用のパン、昼食用のカップ麺、レトルトのお粥等を事前に買い込んでいった。毎日1食はレストランにお世話になったが、1品2人シェアで丁度良い位のものも多く、レストランもそれに慣れている。また、テイク・アウト用の容器も用意していて、良心的だ。

 水は、そのままだと各種金属イオンの味がして、美味しくない。また、その影響で便が緩くなる人もいるようだ。しかし、ポットで一旦沸かすと何故か全くOK。水は買わないで済んだ。旅には湯沸しポットをいつも持ち歩き、部屋ではいろいろなお茶やココアをを飲んでいたが、今回は、特に大活躍した。

 

ホッカイロはどこに貼ったら一番有功か?

 いつもは、ダウンジャケットのポケットに「貼らないホッカイロ」を左右1個ずつ入れて、手・指を暖めているが、今回は、さらに「貼るホッカイロ」で増強した。毎日、いろいろな所に貼って、どこが一番効くか試してみた。
 まずは、背中を三等分した上側1/3あたりに1枚。座った時に背もたれでしっかり圧着され、これが一番効いた。体温を暖めたり下げたりするには、体の大血管のある所、例えば太ももの付け根の内側や脇の下に冷たいもの/暖かいものを当てると有効なのだが、ホッカイロをここに貼るよりは、おしりに左右1枚ずつ貼るのが良かった。貼る場合は、下着に貼ると低温火傷になるので、ダウンの内側で何枚か着る服の一番外側に貼るようにした。ホッカイロは、冷気に触れていると効力を失ってしまうので、ポケットに手を入れていて抜いた時は、ポケットをきちんと閉じるようにしておかないと、ホッカイロが冷えてしまう(再び閉じてしばらくすると復活)。

 靴に入れるタイプ、「オンパックス 中敷カイロ」は5時間持つ、と書いてあるが、日本で使っても持って3時間。オーロラが出る頃には、やはり冷えていてダメだった。そこで、ホッカイロ・ミニを2個を防寒ブーツの中に敷いてみたら良かった。

 また、カメラのバッテリーにも貼るホッカイロを貼り付けたが、これだけでは外の冷気に負けてすぐに冷えてしまう。私の場合はタオルをあてがって保温に努めた。しかし、日本のデジカメ(というか、日本製しかない)は凄い。何もしなくても、-20°なんて何のその。皆何も考えなくて使っていて、そして撮れている。
 ただ、外から暖かい室内にそのまま持ち込むと一気に結露し、ボディもレンズも痛めてしまう。私の場合は、外から室内に持ち込む時は、カメラ全体をタオルで包み、それを大き目のバッグに入れて温度が室内になじむまで開けないように気をつけた。結露したまま外に出すと一気に凍り危険、故障を誘発する。

  

4日目、リゾートで観望

 早くも4日目、1月4日になってしまった。嵐が近づいていて、天候不良、という話も耳に入ってきた。夕方はけっこうな曇り。今日は無理か...
とりあえず、雪上車でのオーロラ・トリップはパス(1人$75かかるので)。天候の様子を見ていた。ちなみに、山頂でオーロラが良く見えた1月2日だが、リゾートでは北側の山に遮られ、見れなかった、との事。やはり登る価値はあるようだ。

 20時頃、ロッジから出てみたら、けっこう晴れている。しまった!山頂に行くべきだったか? とりあえず急いでカメラを設置した。この日は日本人の団体が全て引き上げたせいか、リゾートも閑散としているし、アクティヴィティ・センターにもオーロラ待合室にも観望スペースにも誰もいない。また、オーロラに全く興味が無く、夜はロッジに篭る人達(ラテン系、と聞いた)もいるらしい。とりあえず、私達夫婦2人でじっと待った。23時過ぎに北天に向けて写真を撮ると、 薄雲が緑色なのだが、オーロラは見えてこない。出ることを信じて、ひたすら待つ。2時過ぎには、雪上車もツアーから戻ってきた。それでも、待つ。


オーロラは、写真に撮ると、実際に見た感じとは随分違う。上の写真3枚は、実際に見た時に近づけてみた(ただし、わかりやすいように、緑色は淡く残した)。

 2時45分位だろうか、薄雲越だが、いきなり出てきた。はっきりと明るいオーロラではないので、色は感じないが、刻一刻と表情が変わる。 写真でははっきりしないが、カーテン状のヒダヒダも見えていた。諦めなくて良かった! その後はオーロラは出なかったが、薄明まで星空を楽しんだ。


温泉の湯気は上には行かず、水平に雲のように横に広がって行く。

 

星座の動き

  ここは、ちょうどオーロラ・ベルトの直下なので、うまくいけば空いっぱいに広がったオーロラが見れるが、オーロラの輪が小さければ北側の空に見え、逆に大きければ南側に見える。12月には、南側で見えていた時もあった、との事。一応北天中心に気をつけていたが、南天もチェックしておく必要がある。


北極星を中心に。りゅう座もきれいに姿が追える。

 という訳で、いつも空を見渡していたが、流石に北極星が高い。空は暗いので、星座も末端まで容易に追える。21時には、はくちょう座、そしてヴェガが西の空に沈みかけている。あれ、まだ見えたっけ? 1時間経っても2時間経っても、まだ見える。西の空に沈んで行くのではなく、そのまま北→東の空へ移動して行くのであった。つまり、星座の書いた大きなおわんを被って、そのまま回転させている感じ。さすが北極星が高いとこうなる訳だ。理屈ではわかるのだが、この星座の動きがけっこう面白くて、オーロラを待っている時も、見終わった後も、かなり楽しめた。

 

5日目、リゾートを発つ夜


降雪量は多くないようだ。雪の無い山肌もある。

 いつもの事ながら、過ぎてみればあっという間。今晩、22時にはリゾートを後にしなければならない。今日は快晴! 温泉に漬かった後、チェックアウトする時間までの時間、観望スペースに張り付いていた。北天の空は写真では緑色がかっているが、オーロラは見えなかった。今日、山頂に行く人はラッキーだなあ。 気温は-22℃。-30〜40℃も体験したかったのに、これも残念だった。なくなく荷物をまとめてチェックアウト。空港に向かう車の中でも見れなかった。

 フェアバンクスからシアトル行きの飛行機は深夜便だが窓際の席は取れなかった。真ん中の席だったが、たまに外を見てようか、と思っていたら、窓際の席に座った大きな黒人が、すぐにサッと窓を閉めてしまい、オマケに席を120%の幅で占拠して万事休す。やれやれ。

   

 ようやく帰路 、再び787だ。しばらくしてリクライニングしようとしたら、ちょっと動くだけですぐに直立してしまう。CAに言ってしばらくしたら、「立ち上がって操作すれば、動く場合がある、と報告を受けています。」、との事だが、動く時とそうでない時があり、これではやってられない。「何とかならないの?」、「あいにく今日は満席です。」、「報告してきます。」という返事を受けたが、「何か出来る事はないか、検討してみます。」という言葉はなかった。30年近く前の新婚旅行で、ニューカレドニアからタヒチへ向かう 夜の便で(昔は直行便が無くて、行きはニューカレドニア経由、帰りはハワイ経由だった)座席が壊れていて満席。直角の座席で寝れなくて8時間も拷問だったが、二度とこのような思いはしたくない。しばらくしたら、ANAの職員と座席を交換する、という事になった。今からこんなトラブルでどうするの? 昔、フェラーリ328という名車のエンジンを一度ばらしてきれいに研磨して組み上げ、物凄い車に仕上げたアイディングという会社があったが、その会社がフェラーリを「設計最高、工作最低」と名言を残した。行きの便ではテーブルが出なくて、その言葉を思い出したが、どうやら設計も工作も怪しいような気がしてきた。という事を書き出したら、連日ニュースで787のトラブルを報道している。そのうち落ちるのだろうか.....?

 そういえば、行きの便の着地の時に、タイヤと路面が擦れる臭いがした。タイヤから煙が出るような運転をした人ならわかる、あの臭いだが、数え切れない程飛行機に乗っていて、初めての経験だった。外気との交換がこんなにも早いとは信じがたく、不思議な飛行機だ。

  帰路では、滝田洋二郎監督の「天地名察」を見た。江戸時代に正確な暦を研究した安井算哲の物語だが、V6の岡田准一が素晴らしい役者で 驚いた。拍手! 食後にコーヒーも持ってこないCAのどんくさい対応を補ってくれる位、面白い映画だったが、やたらと日食と月食が頻発し、その映像のリアリティが無い。最後の皆既日食は、思わず「何だこりゃあ?」と吹き出すほど 実際と違っていて、日本映画伝統のリアリティの無さ、詰めの甘さが残念だった。

 

死ぬまでには一度は見ておきたいオーロラ

 

 死ぬまでには一度は見ておきたいオーロラ。誰しもがそう思う。今回、一応達成できた。12月には10泊して一度も見れなかった人もいた、と聞いたので、4泊で3日見れたのは、非常に幸運だったかもしれない。しかし、ブレークは起きなかった。やはり空いっぱいに広がった壮大なオーロラは見てみたい。12月には、過去6年で最大のオーロラがあり、赤色まで見えた、という。長く滞在するか、地球の地磁気が弱くなった時か、相当太陽活動が激しい時か、あるいは運にかけるか、だが、いずれも難しいところだ。

 夢は叶ったが、また新たな目標が出来た。「死ぬまでに、ブレイクしたオーロラを見たい。」


リゾートを散歩すれば、美しい風景に出会う

     続く.....!

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