4−B 苫小牧東部地域への航空機組み立て工場の誘致

2005.12.19

苫小牧東部地域への航空機組み立て工場の誘致

1.始めに

たまたま、2005年12月6日日経産業新聞に掲載された「北海道の苫小牧東部地域 航空機組み立て工場の誘致 3セクなどが研究会」と言う記事のスクラップを友人から頂いた。 これからの研究なのでこんなのは無理だとか駄目だとかけちをつけないで、これをどうしたら実現する見込みができるのかを筆者なりに検討してみた。 実は2004年に現在三菱重工(株)で進めている国産地域航空機構想による地域航空機のためのサービスセンターを新千歳空港に誘致しようと言う考えを提案しているが、残念ながら今迄どこからも反応はない。 この記事によれば、株式会社苫小牧東部地域(以下苫東と略す)の言う売りは、「広い土地があり滑走路も併設できる」と「苫小牧港・新千歳空港に近接する利便性」とある。 このうち後者は現実のことで苫東の南端は苫小牧東港だし、新千歳空港も直線距離で最も近接しているところは7km位しか離れていないから、この利点はそのまま受取っても良いであろう。 但し、苫東と新千歳空港が直接、接しているところはない。 そうすると売りの中心は「広い土地があり滑走路も併設できる」と言うところにかかってくるのであろう。

2.国産航空機組み立て工場誘致に必要な条件

この記事では誘致の対象は国産航空機となっているので、多分筆者が以前から取り上げている現在三菱重工(株)で進めている国産地域航空機構想が念頭にあるのであろう。 これは当然で、この他に国産航空機としては自衛隊向けの軍用機があるがどれも生産機数が極端に少ないので、新たに組み立て工場建設が必要になるとは考えられない。 それで研究の焦点は、国産地域航空機構想による航空機の組み立て工場の誘致と想定して良いと思う。 それでは三菱重工(株)はこの構想のために新たな組み立て工場を必要とするのだろうか。 それには二つの条件が考えられる。

  • 同社の航空機関係施設で飛行場に隣接しているのは小牧南工場で、県営名古屋空港に隣接している。 この工場に新地域航空機を組み立てる余地があるのか。 或いは新組み立て工場を作る余地があるのか。
  • 新地域航空機が専用の組み立て工場建設を必要とする程の生産機数-販売機数が見込めるのか。

第一項については筆者の記憶も古いのだが、敷地に余裕はないと思う。 しかし既存の施設では相当以前になるのだがYS-11を組み立てていたし、現在自衛隊関係の仕事もそんなにあるとは思えないので、多分ある程度の生産ペースまでは現施設で対応が可能ではないかと推察する。 また旧第二種空港としての名古屋空港が県営名古屋空港になって、最近そこに設置される格納庫等のための土地の配分が発表されたが、その中に三菱重工(株)の名前はない。

第二項については異論が出てくるであろう。 もともと我が国でYS-11以後の国産旅客機が開発されなかったのは、その販売に自信が持てず採算がとれる見込みか立たないからと言うのが通説であり、本音でもあろう。 それ故に今回のテーマの最大の問題点は、誘致対象として想定する国産地域航空機構想の販売見込みはどうなのかと言うことになる。 しかし、三菱重工(株)がなにか画期的なことをやるのでなければ、過去の経緯からして今度は販売に自信があると言い出すとは考えられない。 この構想自体、最初は30席級を目標としていたが、この頃は70席級の声が大きくなって来ている。 即ち、航空機の基本仕様すら揺れ動いていると言うことは、一口に言えば販売に見通しが立たないからと言っても的外れではないと思う。

そう言うことを背景にすれば、苫東への進出は難しいと見られる。 まして滑走路も作るとなれば、3000m滑走路を想定すると、それだけで3120m×300m=936,000平方mにもなり、これに本来の組み立て工場用地、艤装用のランプ用地等を考えると2百万平方m位は必要になろう。 苫東は株式会社で所有する工業用地を売却するのが仕事だから、この面積の土地の買い上げを期待しているはずだが、いくら比較的土地価格が安いと言ってもこれだけの土地を購入するほど、今回の国産機構想の採算性とその後の見通しに当事者が自信を持っているとは想像すら出来ない。 北海道の工場誘致に対する助成は全国的に見ても良い方だと思うが、それでも15億円が今の所の限度と見られ、多分想定される投資総額に対してないよりましと言う程度ではないのか。 従って、今の所の結論は、やはり飛行場については近接の新千歳空港を利用することとし、今回の動きは苫小牧側に誘致するのが目的であろうから、新千歳空港の苫小牧市区域で空港に隣接するところに航空機本体の組み立て工場を建設し、そのバックアップ施設は苫東内に設置すると言うのが妥当なところではないか。 それですぐ三菱重工(株)が出てくるとも思えないが、滑走路建設付きよりも話し合いの余地があると考える。 また単に土地を買って下さい、工場もそちらの費用で建てて下さいと言うのでは、進出者にどれほどのメリットがあるのかと言うことになる。 航空機の開発には莫大な初期投資が必要である。 加えて、三菱重工(株)の場合は大勢の技術者と熟練工を名古屋地区から移動させることも考えなければならない。 それらを少しでも軽減してやる配慮が必要であり、具体的にはこれらの対象施設を苫東が建設して航空機メーカーにリースすることも一案と考える。 

3.誘致施策案

以上にのべたような環境を前提として考えて、少しでも航空機メーカーに魅力的な提案とするには次の点に留意しなければならない。

  • 航空メーカーの初期投資負担を少しでも軽減できる可能性があること
  • 投資額が莫大となるので、施設の有効活用が図れるように複合的な能力を持たせるよう配慮すること。 そのためにここに投じられる投資総額は大きくなる可能性は大であるが、重複する施設、能力の合理化が図れるため総合的にはコストダウンとなるような仕組が必要

そのような観点から次のような誘致施策案にまとめてみた。

  • 必要な工場施設は苫東側で建設し、長期リース。 可能な公的助成も活用
  • 従業員住居の手配も支援(建設してリース、市営住宅の斡旋等)
  • 誘致対象となる事業は、当然航空機メーカーの意向を尊重しなければならないが、次のような事業を想定。 但しかならずしもここに挙げる施設を一度に作らなくても良く、ここはメーカーとの話し合いであろう。
  • 航空機組み立て工場(客室艤装を含む)(新千歳空港隣接地)
  • 航空機テストセンター(新千歳空港隣接地)
  • 機体モジュール組み立て工場(苫東内)
  • 主倉庫(苫東内)
  • プロダクト・サポートセンター(苫東内、但し窓口は新千歳空港)
  • 要員訓練センター(苫東内)
  • 工場管理機能(苫東内)
  • 航空機重整備工場(新千歳空港隣接地)

以上の施策案が完璧とは言わないが、議論の叩き台には役立つと思う。

4.まとめ

苫小牧東部地域を中心とする地域に国産航空機関連生産施設の誘致施策案を取りまとめてみた。 今迄良く見聞する誘致策は、誘致する側の利益の方が目立つケースが多いように思う。 勿論、そう言う目的で誘致するのであるが、まず呼び掛けられる側が魅力と感じるものがなければ、話には乗ってくれない。

それで如何にこちら側の利益と誘致される側の利益が一致させるかと言う工夫が要求される。 この報告がそう言う議論の切っ掛けにでもなれば幸いである。

以上