4−A 国産地域航空機サービスセンターの誘致

2004.6.11

国産地域航空機サービスセンターの誘致

1.目的
 第二次大戦後の初の国産旅客機YS-11が開発されてからすでに40年余りが経過した。 その間、YX、YSXなどといくつかの計画が持ち上がったが、米国ボーイング社の航空機開発に参加と言う形でしか進展せず、国産旅客機と胸をはって言えるプロジェクトは今まで実現していない。

ところが昨年度から経済産業省が「環境適応型高性能小型航空機研究開発」計画を発足させ、将来の商業生産を目的とする航空機の試作・開発プロジェクトをスタートさせた。 これを受けて既に我が国の航空機メーカーを始めとする関係団体で試作・開発する航空機の基本仕様の検討が始まっており、商業化には三菱重工株式会社(MHI)が主導することになっている。

今まで、YS-11に続く国産旅客機が開発されなかった最大の理由は、生産した航空機の販売について自信が持てなかったためと理解しているが、この事情は今でも変わっている訳ではない。 YS-11の頃は、当該航空機の整備や要員訓練は航空会社側で実施するのが普通であったが、近年は航空機メーカーの支援体制も含め、外部に依存するケースが多くなっている。 まして、このプロジェクトの国産旅客機は30-50席級と言う大きさから見て地域航空と言う一般的には中小航空会社で運用されるのが主となると予想され、そのような地域航空会社は自身で膨大な投資を必要とする整備支援体制や要員訓練体制を持たずに外部依託するのが普通である。 また、大手航空会社から大量に受注することは少なく、小さな単位での販売を強いられることになろう。 大量注文があっても、それはリース会社からである可能性が高く、リース会社は運航支援体制を保有していないので、より航空機メーカーのブロダクト・サポート体制に依存することが予想される。 故に次期国産機を成功させるには、YS-11の時代とは比較にならない充実したプロダクト・サポート体制が要求されると予想でき、そのためには、予備部品補給、技術支援、要員訓練等を集中して顧客にサービスするサービスセンターの設置が必要と考える。 航空機メーカーのサービスセンター設置は広い土地と多額の投資が必要であり、それらは航空機販売によって初期投資が回収できる前に必要となるので、航空機メーカーにとっても大きなリスクと経済的負担になる。
一方、国内の地域にあっては地域経済の活性化のために航空関連産業の誘致を研究しているところがある。 この報告は、航空機開発・販売のリスクを分散したいであろう航空機メーカーと地域の経済活性化を望む地域との間で、共通の利益が得られるような仕組での国産地域航空機のサービスセンターの誘致・設置について提案するものである。

2.国産地域航空機の開発計画
 この国産地域航空機は経済産業省が計画した「環境適応型高性能小型旅客機研究開発」の将来発展と見なされる。
 「環境適応型高性能小型旅客機研究開発」は2003-2007年の5年間で、高性能小型旅客機について燃費改善、操縦容易性向上、IT技術の活用による試作期間の短縮、コストダウン等について研究するものであるが、次段階での商業生産を視野に入れており、我が国の航空機メーカー、関連企業、日本航空機開発協会(JADC)、航空宇宙技術研究所等が参加して、MHIが幹事となって、2003年度よりすでに着手されている。 事業規模は5年間で官民合わせて500億円程度と見込まれ、作業分担はMHIが全体取りまとめ、富士重工が主翼の先進材料と加工成形技術、及び航空宇宙技術研究所が風胴実験と操縦性研究を担当すると伝えられている。 公表されている主なタイムスケジュールは次の通りである。
 2003    開発、設計
  2006     機体組み立て、ロールアウト
  2007     初飛行
  2008     型式証明取得

また次段階の商業化については前述したようにMHIが既に名乗りをあげている。

3.サービスセンターの必要性

この計画の航空機は30-50席級旅客機であり、このクラスの航空機は地域航空機のカテゴリーに属し、主として地域航空会社に使用される。 この商業化計画の成功の可否は、航空機自体の優秀性もさることながら、むしろそのアフターサービス体制-ブロダクト・サポートに大きくかかっていると考えられる。 それは顧客たる地域航空会社が一般的には中小航空会社であることが多く、それらの会社では航空機自体は購入できても、その運航支援体制-航空機重整備、装備品整備、部品補給、要員訓練などの体制を自社で準備することが財政的にも採算性においても難しいので、その大部分を外部委託によって実施している場合が多いからである。 また最近の風潮として多額な固定的な投資を避けるために可能な限り外注に依存して、低コストで且つ外部環境変化にも柔軟な対応のできる体制を選択するものが多く、そうしなければ航空会社としての事業存続すら難しい現状がある。 その外部運航支援体制の設置・維持のために航空機メーカーに寄せられる期待は大きいものと推察する。 いまや航空会社が求めるのは航空機そのものと言うより、その航空機の稼動がもたらす輸送能力であり、それが即、航空会社の商品である。 近年盛んに行われている整備サービス付きのオペレーティング・リースは、まさにこの要求を具現化したものと言える。 

この国産旅客機計画を商業的に成功させるには従来の「優秀な飛行機を売る」ことから「安全で確実な輸送能力を売る」と言うことに意識を変える必要がある。 言い換えれば、航空機メーカーは「安全で確実に稼動できる可能性のある飛行機を売る」のではなく、「安全で確実に且つ経済的に稼動できる航空機とそれを保証する運航支援体制をパッケージで売る」ことを考える必要がある。 そして、そのための中心が航空機メーカー側のサービスセンターなのである。

4.サービスセンターの機能

前項で述べたごとく、航空機販売においてはそのブロダクト・サポート体制の成否が大きく影響すると考えられ、運営の中心となるサービスセンターの機能は、顧客の要求するものを何でも最大限対応できることが望ましいが、一般的には最低限次の機能が期待される。
         技術支援-技術指導、技術指導員派遣等

  • 部品補給-中央倉庫としての機能、365日24時間の部品発送、予備機能装備品の保有と貸与、機能装備品の修理等の実              施或いは修理業者への仲介等
  • 要員訓練-パイロット(実機訓練を含む)、客室乗務員、整備要員、運航管理者、その他技術者等の訓練

特にパイロットの実機訓練は実施に必要な機材の手当や訓練空域の確保等難題が多く、航空機メーカーが必要な支援を提供できることが強く期待される。 一方、実機訓練を行うためには使用機材の駐機場所の確保や整備支援体制の設置も必要となってくる。 サービスセンターの設置場所は、大量の部品在庫を保有するために相当な面積が必要となり、さらに顧客への発送の便からは国際航空路線へアクセスしやすいこと、また365日24時間の部品発送のために通関業務が障害にならないことも必要である。 実機訓練の見地からは空港隣接であることが望ましく、総合的に見て国際線の就航している空港周辺が適当である。

5.サービスセンターの誘致

前述のような機能を持つ国産旅客機のサービスセンターを北海道、新千歳空港周辺に誘致しようと言うのが、この報告のもう一つの目的である。 新千歳空港においては建設の段階から航空関連産業の拠点空港にと言う期待があり、その実現のために様々な努力がなされてきたが、残念ながら「航空関連産業の拠点空港」と言うには程遠い現状である。 この提言の理由の一つは、停滞しているこの運動に一つの目標をかかげようとすることであり、そして、このサービスセンターの誘致をもって「航空関連産業の拠点空港」とする足掛かりを作ろうと言うものである。

もう一つの理由は、YS-11以来の国産旅客機計画を成功させるために、それが有効であると考えるからである。 まだ商業生産の進め方について発表されてはいないが、常識的に考えればMHIが主導するプロジェクトであるので、名古屋空港に隣接する同社小牧南工場で組み立てられると見て良いであろう。 しかし、同工場周辺はすでに都市化が進み、サービスセンターを新たに設置する土地の入手が困難ではないかと推察する。 また、同工場は自衛隊関係航空機の製造・整備も行っているので、多数の部外者が工場内あるいはその周辺に立ち入ることは保安上の見地から歓迎されず、その理由からもこの地域にサービスセンターを設置されることは可能性が低いと推量する。

実は現名古屋空港は2005年2月に中部国際空港が開港すると定期便はすべて新空港に移動し、空港は愛知県営空港になる予定である。 そのために現在のターミナルビル等が全て空家となるので、それらの活用と言うアイデアも出てくると思われるが、既存の建物では天井高さが不足して自動倉庫やフライト・シミュレーターの設置は物理的に困難であろう。 また、愛知県は空港用地を国から買収するので、その使用料が現在より安くなる可能性は少ないと予測する。 即ち、現名古屋空港の既存施設等の利用は物理的にも、コスト面からも良案とは言えないと思う。 結局、サービスセンターに充実した機能を持たせるには安価で広い土地と良好な交通の便が必要であり、それには新千歳空港が一つの候補地としてあげられる。

6.新千歳空港が適当な理由

前項でサービスセンターの誘致に必要な条件として安価で広い土地と交通の便の良さをあげたが、後者の交通の便は一般的な意味ではなく、顧客である地域航空会社に対するものである。 故に、国産30-50席級旅客機の将来顧客はどこに居ると考えられるかが問題になる。 勿論、これは最終的には実際の結果を見なければ答えは出て来ないが、販売を成功させるためのマーケティングの第一はどのような地域航空会社を見込み顧客とするかと言うことであろう。 それは常識的に言えば将来現れてくるかも知れない航空会社を想定するよりも、現存する地域航空会社の現存機材の更新需要や将来見込まれる需要拡大や旅客嗜好の変化に対応する機材導入が調査、検討の対象となる。

新千歳空港周辺にサービスセンターを誘致するにあたっては、只々関係先にお願いをするだけでは効果も薄いし、それにこの運動が過去からの「航空関連産業の拠点空港」形成の一部と考えるならば、新千歳空港サービスセンターは将来に向かって発展して行くと言う見通しが必要であり、それには地元がどのように関与して行くのかと言う視点が必須条件である。 故になぜ新国産旅客機のサービスセンターが新千歳空港周辺であることが良いのかは、地域発展の立場だけではなく、国産旅客機プロジェクトの成功にどのように寄与できるのか説明しうるものでなくてはならない。 また、そのために地元がどのような協力をし、どのような関与を期待しているのかを予め用意しておく必要がある。

(1) 安価な広い土地

「安価な広い土地」については説明し易い。 我が国の空港周辺で比較的安価で且つ広大な遊休土地が存在するのは北海道の空港だけであり、新千歳空港もその中に入る。 また北海道や関係地方自治体による企業誘致のための助成措置も、多分日本の中では条件の良い方であろう。 それらを組み合わせると相当の助成措置にはなるが、ここでは将来を見通して必要な土地の無償提供も考慮すべきであり、想像するにそれが設置のための最大のインセンティブになる可能性がある。 安価な土地と言うのは単に土地価格だけではなく、その土地に展開することによって影響をうける地域の物価や特に人件費の高さなども含んで考えるべきである。 2003年の一人当りの県民所得で見ると、指数表示で全国平均を100とすれば北海道は92.0であり、例えば愛知県の113.7に比べると2割近くも安くなっている。 この数字が即、支払い賃金の額に連動するわけではないであろうが、北海道の方が人件費は安いことを伺わせている。(朝日新聞社編”03民力”による)

(2) 交通の便
新千歳空港は24時間運用空港であり、国内各地との航空の便も良く、成田空港や関西空港からの国際線乗り継ぎについても、我が国の空港のなかでは便利の良い方に入るであろう。 また限定的ではあるが新千歳空港からの国際線発着もあり、それらを組み合わせればサービスセンターの機能を発揮するに足りると考えられる。 しかし、前述した想定される顧客との関係では次項以下に述べる。

なお、この旅客機の主力生産場所であろう名古屋地区との交通は問題ないと見ている。

7.国産旅客機の将来顧客の予測

正確には予想される顧客と言うよりも、狙いとする顧客層と言うことであろう。 それを特定する方法として現存の世界の航空会社から現在30席級の地域航空機を使用している地域航空会社をまずピックアップして見た。 19席級については世界的にはすでにマイナーな存在になっており、またその運航地域等を見ると近い将来に30席級を必要とする可能性は低いと見たので、これは取り上げなかった。 また原則として50席以上の現世代の地域航空機については、特にリージョナルジェットについては将来もこのクラスの航空機が必要と言うよりも、より大型機の導入に向かっているのでこれも除外した。

故に、買い替え、或いは将来の事業拡大のために新30-50席級を必要とするのは、現在30-40席級を運航している会社と最大座席数は50席を超すものもあるが、旧型機のため比較的需要の少ない路線に就航していると推察される航空機を運航する会社を対象とした。 このような旧型機にはアントノフ24/26系列、Bae748、コンベアCV240/440/580、及びフォッカーF-27/フェアチャイルドFH227が含まれる。

最終的にピックアップした機種は次の系列の航空機で、プロペラ機としてはアントノフ24/26系列、Bae748、CN235系列、コンベア240/440/580、ボンバルディアDash 8-100/200、ダグラスDC-3、ドルニエ328、EMB120、F-27/FH227、Jetstream 41、Saab340、Short 330/360の11機種、ジェット機はドルニエ328JET、ERJ135/140/145、YAK-40の3機種、合計で14機種である。 これら機種の保有航空会社の元データはFlight International誌27 March-2 April 2001号に掲載された「World Airlines 2001」を利用した。 この結果は次のように要約できる。

将来顧客と見込む航空会社の位置と保有機数(第1表)

大陸

航空会社数

保有機数

保有機数/会社

アフリカ

26

81

3.1

アジア

90

596

6.6

欧州

139

113

5.5

大洋州

27

1,356

4.2

北アメリカ

65

64

20.9

南アメリカ

17

768

3.8

合計

364

2,978

8.2

なお、ロシアは会社の所在地により欧州とアジアに分けて計上している。

次に主要な国について存在する地域航空会社数で上位10ヶ国を表示する。

将来顧客がいると見られる国の現況(第2表)

国名

航空会社数

保有機数

保有機数/社

ロシア

70

470

6.7

米国

39

1,154

29.6

英国

13

111

8.5

ウクライナ

13

72

5.5

オーストラリア

13

70

5.4

カナダ

11

104

9.5

中国

9

56

6.2

スウェーデン

9

44

4.9

イタリー

9

35

3.9

ドイツ

8

30

3.8

194

2,146

11.1

ここにおける調査では、ロシアと米国に大きな潜在的可能性があると見られる。 しかし、米国においては例えば2002年7月から9月の3ヶ月間の運航ダイヤで見ると、既に使用航空機の大きさは50席級が主力になっており、さらに大型化の傾向が見られる。(第3表参照) 第3表でも明白なように米国ではすでに50席級はジェットの時代に入っており、30席級の主力はターボプロップ機であるが、これが同じクラスのリージョナルジェットに移行するとは考え難い。 それは2002年の段階で30席級リージョナルジェットを生産していたフェアチャイルド・ドルニエ社は倒産し、もう一つのEmbraer ERJ-135の引き渡し数がわずか3機であることを見れば、少なくともリージョナルジェットの最大市場である米国では、近い将来に30席級リージョナルジェットの需要が急増する可能性は極めて少ないと見られる。

航空機座席数による運航回数の分布例(第3表)


座席数

欧州

米国

運航回数

%

運航回数

%

ターボプロップ機

19席級

242

5.2%

1,751

15.7%

30席級

937

20.3%

3,874

34.6%

50席級

1,738

37.7%

335

3.0%

2,917

63.2%

5,960

53.3%

リージョナルジェット

30席級

125

2.7%

704

6.3%

50席級

1,572

34.1%

4,524

40.4%

1,697

36.8%

5,228

46.7%

合計


4,614

100.0

11,188

100.0%

*Airline Business誌 November 2002 “Regional low-down”の記事をベースに作成

 一方、ロシアは未だに旧ソ連時代の航空機を多数使用しており、機材交代に迫られていると推測できるので、ロシアに大きなチャンスがあると考える。  。

旧ソ連から分離独立した国の現状(バルト三国を除く)(第4表)


国名

航空会社数

保有機数

保有機数/社

欧州

ロシア

45

142

3.2

ウクライナ

13

72

5.5

ベラルーシ

1

7

7.0

モルドバ

2

13

6.5

61

234

3.8

アジア

ロシア

25

228

9.1

アゼルバイジャン

1

12

12.0

アルメニア

1

6

6.0

ウズベキスタン

1

24

24.0

カザフスタン

5

51

10.2

キルギス

2

16

8.0

グルジア

2

2

1.0

タジキスタン

1

24

24.0

トルクメニスタン

1

3

3.0

39

366

9.4

合計

100

594

5.9

また旧ソ連から分離した諸国の多くは航空においては依然ロシアの影響下にあるところが多く、これらを加えると相当規模の市場になる可能性がある。 ロシアの交代対象機470機の内訳はアントノフ24/26系列機が364機、ジェットのYAK-40が164機であり。他の諸国の主力機も同じ2機種である。 

結局、国産ジェット旅客機は当初は30席級でスタートすると見られるが、そうであればその目指す市場は米国ではなく欧州とアジアであり、特にロシアと旧ソ連から分離した諸国に機会があると予想している。

8.新千歳空港の地理的利点

前述したとおり、新千歳空港は我が国の空港の中では運航路線数は多い方であり、国際線への接続もそれほど悪い訳ではない。 しかし、サービスセンター設置の面から見れば、同空港からの直行国際線が少ないのが難点であろう。 2004年6月の時点で中国方面は2路線あり、オーストラリア・ケアンズ線も再開されるとのことなので、オーストラリア方面にも直行便があることになる。 また香港線があるのでアジア各地への連絡も可能であろう。 問題になりそうなのは、当該旅客機の市場としてロシア及びその周辺国を見るとすれば、この方面への路線がユジノサハリンスクだけなことであろう。 少なくともロシア国内に接続し易いと見られるハバロフスクやウラジオストックへの路線が欲しいところである。 

前項で述べた通り、アジア側のロシアとその周辺諸国だけでも300機以上の需要が期待できる市場と見られ、この地域に対する北海道の地理的な利点は大きい。 特にこの利点は後述するサービスセンターの将来拡張の方向に航空機重整備を置くとすれば、より大きなものになる。 北海道としては欧州側のロシアとその周辺諸国も含んだ地域に対する国産旅客機の販売の前進基地として、そして絶好の運航支援基地を提供できることを関係先に売り込むべきである。 この地域は既存の西側の航空機メーカーに占有されていない唯一、且つ広大な市場圏であり、旧ソ連以来のロシアの航空機メーカーは現在半官半民のような形で運営されているらしいが、どこも国産旅客機に直接対抗しうる旅客機を開発していると言うニュースは聞いていない。 加えて、筆者の少ない体験も含めた知識によれば、旧ソ連にあってはこのサービスセンターの持つような機能はすべて航空機メーカーに依存していたようである。 筆者の見たウラジオストック、ハバロフスク及びユジノサハリンスク空港には整備格納庫すら見られなかったことを思えば、充実したプロダクト・サポート体制に加えて、そのサービス基地が少なくとも心理的に近く感じられるようなところにあることは、販売にとっても有利な条件になるのではないか。 前に掲げた表に示すように、調査対象機種に限れば、会社当たりの保有機数は大きくなく、自社ですべての運航支援施設を保有、運営するには経済的に正当化できる規模ではない。 即ち、これらの航空会社の大部分はここで提案するようなサービスセンターなしでは国産旅客機を導入、運航できないと見るのが順当であろう。 ここに新千歳空港周辺にサービスセンターを設置する妥当な理由があると考えるものである。

9.新千歳空港へサービスセンター誘致運動の施策

新千歳空港周辺にかかるサービスセンターを誘致するについて、従来よく行われたような誘致陳情だけでは不足である。 我が国の中では恵まれた環境にあるとは言え、もしサービスセンターを海外に設置すると言う構想が出た場合には、どれくらい優位性があるのか分からなくなってくる。 民間機ビジネスは国内だけが相手ではなく、このプロジェクトにしてもその成否は海外にどれだけ売れるかにかかっている。 従って、北海道にサービスセンターを誘致しようとするならば、海外の候補地-例えば世界最大市場である米国内、ここであげる未開発市場としてのロシア国内、部品発送等の便の良いシンガポールなどとも競合することを念頭におかなければならない。 それには関係地方自治体の財政的支援措置と陳情だけでは不十分である。 民間機ビジネスは初期投資が極めて多額で、その回収に長期間を要する事業であり、また採算のとれる事業規模を獲得・維持するのに非常な努力を要する業種である。 そして、もし北海道が新千歳空港を「航空関連産業の拠点空港」としたいならば、単発的な誘致に終わらせてはならない。

その両方の立場を勘案すると、一案として北海道側が必要施設等をすべて用意し、それを航空機メーカーにリースすることが考えられる。 具体的には北海道側で特定目的会社(SPC)を設立、資金を集めて必要な使節・設備を用意して航空機メーカーにリースすると言うものである。 こう言う形の参加であれば地元に航空機生産のためのノウハウや技術者がなくとも、実質的にリスク・シェアする事業参加ができることになる。

また、その用意できる資金量によっては、サービスセンターの機能をさらに拡大することを提案できる立場にもなる。 必要な資金量は3桁の億単位になると予想するが、その資金は道内で集めた資金を核に、国の内外の投資家に呼び掛けることも可能であり、且つ必要なことである。

多額の投資と大きなリスクを伴う事業の誘致をただ陳情にだけ依存するのは、呼び掛けられる側から見れば無責任と取られかねない一面を持っている。 故に、地元が地域の発展を願うのは当然であるが、この国産旅客機プロジェクトの成功のために地域としても応援すると言う立場を示す必要があろう。

国産旅客機プロジェクトと新千歳空港の「航空関連産業の拠点空港」形成の両立する施策を研究し、実行すべきである。

10.サービスセンター機能の拡大

もし、サービスセンターの誘致に成功できたとすると、その機能が大きい方が地元への経済的波及効果は大きく、また「航空関連産業の拠点空港」への発展により近付けるので、前述した最低限の機能よりももっと拡大できないか考えるのは当然であり、拡充を提案できる機会に恵まれればそれは利用すべきである。 

ここで参考までに前述の「技術支援」、「部品補給」、及び「要員訓練」に加えて考えられることを列記する。

  • 重整備施設--メーカー認定の整備施設は先に述べたように特にロシア方面への販売について強力なツールになると考える。 またこれがあれば実機訓練などの使用航空機の整備支援の問題がなくなる。 付属的に機能装備品の修理工場の併設も可能性がある
  • テストセンター--航空機は組み立てラインを出た後で試験飛行を行い、必要あれば手直し的な修理を行い、それから顧客に引き渡す機能を持つ。 このテストセンターには、もし販売が順調に行けば広大な駐機場と航空機整備機能が必要である。 また近くに試験飛行のできる空域がある必要がある。 この作業は組み立てラインのような流れ作業ではないので、かならずしも組み立てラインの近くにある必要はない。 例えばエアバス社はテストと顧客への引き渡し作業は仏、ツールーズのテストセンターで集中して行っていたし、旧ダクラス社は試験飛行を組み立てラインのある米、カリフォルニア州ロンクビーチではなく、アリゾナ州ユマで行っていたと聞いている。 もし前項の重整備施設も併置できれば、整備能力の問題は解決し易いし、実機訓練体制維持とも共通する部分が大きい。
  • 室内艤装工場--航空機の室内内装工事は顧客ごとに違うので、流れ作業に乗り難い工事であり、そのために内装工事を別工場で行っている場合もある。 エアバスA300の組立工場は仏ツールーズであったが、内装工事は独ブレーメンで行っていたし、スウェーデンのSaab340は内装工事を英国に空輸して行っていた。 故に名古屋の組み立てラインを出た機体を空輸して新千歳空港で内装工事をすると言うのは突飛なアイデアではない。 問題は名古屋で一貫工事としてやるよりも、新千歳空港で内装工事を分離して行う方が、コストとしても工期としても有利になる仕組ができるかにかかっている。

もし基本的なサービスセンター機能に加えて、上記の3項目が実現すればそれだけでも新千歳空港周辺に相当規模の航空関連産業の集積がなされたことになる。

11.まとめ

この報告では、国産旅客機のサービスセンターを新千歳空港へ誘致することを提案しているが、実は本報告の段階ではこの国産旅客機ブロジェクトの詳細が分かっている訳でも、その実現について約束されている訳でもない。 しかし、もし本気で北海道にかかる航空関連産業を誘致しようとするならば、今から声をあげ、誘致・参加する体制を構築する準備を始めなくてはならない。 プロジェクトの進め方が固まってしまえば、もはや新千歳空港の出番がなくなっているかも知れないし、そこまで行かなくても他の候補地との激しい競合もあるかも知れない。 重要なのはすべての計画が固まる前に新千歳空港サービスセンターの設置を検討して計画に入れて貰うことにあり、そして、そのためには地元がこの国産旅客機プロジェクトの一員となる姿勢を示すことである。 地元として誘致・参加組織の準備を行い、必要な資金や土地確保の見込みなどをたてる必要があるほか、新千歳空港空港からの直行国際線のさらなる充実や輸出入手続きに問題は生じないか等研究課題は多々ある。 必要なのは「誰かがやってくれることをお願いする」ことではなく、「今から、自分から立ち上がる」ことではないのか。 勿論、我々も出来うる限りの協力を約束するものである。

以上