4−@ 新千歳空港への航空機整備事業の誘致

新千歳空港への航空機整備事業の誘致

1.はじめに

新千歳空港はわが国では数少ない大型空港であり、隣接の千歳飛行場を合わせると4本の滑走路がある上、周辺にも利用可能と見られる土地も多い。 故に、同空港への航空機整備事業の誘致は時宜を得たテーマであると確信する。 実は、このテーマについては筆者も長期にわたって取り組んだ経緯があるが、これまでの結果としては何ら成果を上げるに至っていない。その反省を含めて、本稿を取りまとめた。

 

2.運動の経緯

空港への航空機整備事業の誘致の運動は二つの流れがある。 ひとつは地元の経済界を中心としたもので、新千歳空港の計画段階から将来の航空機関連産業拠点空港化を目指して、関連企業の誘致を計ってきた。 

そのために、「新千歳空港周辺地域開発推進協議会」が、関連自治体、経済界、北海道関連企業などで設立された。 それらの活動結果としていくつかの調査報告書が作成されている。

(1)平成2年2月 航空機整備事業推進に伴う産業開発に関する調査研究 (財)北海道地域総合振興機構
(2)平成5年3月 航空機改修関連産業拠点形成推進調査 通商産業省北海道通商産業局

(3)平成5年3月 東南アジアにおけるハブ空港周辺地域開発および航空機改修整備基地視察報告書

                      新千歳空港周辺地域開発推進協議会

(4)平成11年6月 道内経済界の考える苫東活用プラン

                     苫東開発ビジョンを考える経済懇談会

(5)平成11年11月 「新千歳空港周辺地域における航空機整備施設の立地可能性調査」報告書

                      北海道経済連合会/日本政策投資銀行

 

いずれの報告書においても、新千歳空港周辺地域における航空機整備施設の立地可能性について確信を深めたものの、それ以上の成果に繋がっていない。

もう一つの流れは、民間のもので丸紅株式会社(丸紅)と株式会社日本エアシステム(JAS)が新千歳空港に航空機整備施設を建設する事業化研究を、平成6年頃より始めたことである。 当時、羽田空港は沖合展開工事を進行中で、その工事完成後は羽田整備場地区にある施設の移転が計画されており、その時期は平成12年度頃と考えられていた。 ここで考えられた運動は、これに合わせてJASの整備施設を新千歳空港に誘致しようと言うものであった。 その後、両者は北海道経済部企業立地推進室企業誘致課と接触し、共同で勉強会を持つことになった。 この勉強会は数回にわたって行われ、誘致のためには積極的な助成措置が必要との結論に達した。 企業誘致課はこの勉強会の結果を参考にして、平成9年4月に「北海道企業立地促進条例」を改正し、航空機改修関連施設も助成対象として最高12億円までの助成への道を開いた。  

しかし、このような措置にも関わらず、今日まで航空機整備事業の誘致は成功していない。

 

3.なぜ誘致に成功しなかったのか

それでは、なぜ誘致に成功しなかったのであろうか。 第一にJAS自体に羽田の整備施設を分散する意思がなかったことである。 航空会社には運航支援施設を集中するのが効率が良い、コストも安いはずだと言う認識が根底にあり、まして、当時のバブルの最中にあってはコストダウンよりも効率に重きがおかれていた。 新千歳空港への整備施設移転をJASの会社意思とすることは難しいが、羽田の沖合展開完成時には羽田整備場地区にある施設-JASはこの地域に3棟の格納庫を使用している-の移転が必要になるので、そのときには会社の意思に関係なく問題提起ができると期待していた。 しかし、それも東京都がバブル破綻により沖合展開完成後の羽田整備場地区買収が出来なくなり、移転そのものが未だに不透明である。 したがって内的動機もなく外的圧力もなくなったため、この問題はついにJAS内で正式に取り上げられることはなかった。

そこで、沖合展開完成後の羽田整備場地区移転と言う外的要因を利用することは出来なくなったので、あらたなモチベーションを作る必要があった。 その後の航空会社の財政状態は、誘致と言う仕組そのものの可能性をなくしてしまった。 すなわち、誘致とは基本的に航空会社の負担によって新千歳空港に整備施設を展開するものであるが、いま対象と考えられる国内の大手航空会社三社にその余裕があるとは見られない。 

また、最近出てきたJAL/JAS統合計画は、余計大手航空会社が将来どう言う方向に進もうとしているのかを見えにくくしている。 誘致の可能性がなくなったときに考えられる方法は、航空会社の負担が少なく新千歳空港に展開させる方法として、移転させる部分を別会社化し、それを航空会社外部資本と合弁事業とする、あるいは事業全体を外部で買収するなどの手段があるが、そのいずれも模索の段階である。

 

4.今後の取り組み

今後の取り組みこそ、これから北海道航空問題研究会の課題であるが、いままでの反省を含めて筆者の考えを述べてみたい。

まず言いたいことは、「誘致」はもう難しいことである。 「誘致」とは結局進出企業にすべての負担を負わせることであり、内外の航空機整備事業を問わず、そこまでして進出してくる企業は、少なくとも近い将来には期待できそうにない。 その理由は、現在の航空業界は、航空会社、航空機整備企業の両方とも積極的に整備施設を拡大しようと言うモチベーションの持てる状況ではないと言うことである。

いま、彼等が新千歳空港にその整備施設を移転、或いは新設しようとする唯一のモチベーションは、多分コストダウンとキャッシュフローの増加だけであろう。 航空会社は大幅なコストダウンを迫られており、わが国の航空会社にあっても、整備部門の別会社化は部分的には既に行われているが、全面的な別会社化も時間の問題とは考えるものの、それが自身から動き出すのは近い将来とも見えてこない。 また、資産の流動化を計るために整備事業そのものを売却することも、すでに世界的には前例もあり、いずれわが国の航空会社も考えるとは予想するが、それも近い将来とは言えないのであろう。

また、航空機整備専業企業が進出するのも、彼等側から見ればモチベーションが不足であろう。 彼等の市場は世界であるが、厳しい価格競争にさらされている。 新千歳空港への展開が、明らかに価格競争を有利に導くと言う確証がない限り、進出してくることはあるまい。 また、わが国では大手航空会社が基本的に自社整備体制であり、サード・パーティの整備会社にとって市場としての魅力はない。 

航空機整備事業にあっては、その場所に市場がないことは実は致命的なものではなく、整備する航空機そのものは世界中から集めれば良いのであるが、そこには何故新千歳空港で整備するのが有利なのかと言う理由-整備の料金、品質、工期などが必要である。 それは新千歳空港そのものが持つものでなく、そこで営業する航空機整備企業が提供するものである。 したがって、北海道地元が航空機整備事業の進出を希望するならば、進出企業に提供しなければならないものは、有利な営業のできる基盤を提供することである。 

しかし、新千歳空港のインフラストラクチャー、空港の広さや土地の安さだけの利点では不足で、これからは地元が事業のリスク負担も分担することが要求されるであろう。 企業誘致にあたって、その地で事業を有利に進められる利点を強調するのはどこでもやるが、それではそんなに有利ならなぜ自身でやらないのかと言う問いに答えられるものはいない。

それ故に、航空会社や航空機整備専業企業の要求に応え、且つ北海道地元の希望をかなえるとしたら、それはこちらから持ちかける合弁事業あるいは事業買収しかないであろう。 そのときの問題は、北海道に合弁事業を提案する、或いは事業買収を提案する当事者になろうとするものがいないことである。

仮に、その問題が解決するとしたら、やはり国内航空会社の整備事業の一部について買収し、合弁事業あるいは国内航空会社と提携した単独事業として始めるのが、現実的なやり方であろう。 既存の事業を買収するので当初事業量の問題はなく、それを軸として順次その他の航空会社の整備作業受託へと進めて行けば良い。 この方法は、航空会社にとっても資産の流動化を計れるので、条件次第では乗ってくる可能性がある。

例えば、JALとJASが統合するが、統合後の機種整理でJASのA300系列、特にB2/B4型機は早い時期に整理の対象になると予想される。 そのような場合、現在JASが保有するA300系列の整備能力も可及的速やかに縮小、整理して行きたいと考えるであろう。 故に、 A300系列の整備能力は条件次第で買収の対象になりうるのではないかと推察する。 また同じくJASのMD-80系列の整備能力についても可能性がある。

勿論、これらの機種はフリートの縮小過程にあるので長期的安定事業にはならないが、それでも5年間程度は安定事業量を供給できると推測されるので、その間に新規市場を開拓するのである。

それにはスカイマークや北海道国際航空等の新規参入航空会社が候補となるし、今後の拡大が予想される地域航空機も可能性がある。 ただ、いずれにしても北海道側が積極的な当事者にならない限り、事態の進展は期待出来ないと思う。 お願いだけする誘致ではなく、新千歳空港を中心とする航空関連産業拠点造りにパートナーを求めると言うことでなければならない。 そして、あくまでも北海道側に主体性を持った運動を展開するときのみ、新たな展望が開けるものと考えるものである。

以上