オーディオ日記 第39章 扉を叩け、開け(その1)2016年9月10日


TOP Audio Topics DIARY PROFILE LINK 掲示板

デジタル方式のチャネルデバイダーに移行してから既に暫くの時間が経つ。その間に我が家のシステムは2way+スーパーツィータのスタイルから、3way、4wayへと発展してきた。並行して、Omni Micによる周波数、位相、タイムアライメント測定の手法のキャッチアップにも努めてきた。結果として、デジタルチャンデバの当方の音作りへの恩恵は計り知れないものがあったと考えている。調整・設定の自由度の大きさもさることながら、特にホーンを使用したシステムにおいてはDSP処理によってタイムアライメントを合わせることによる音の改善効果は大きく、これは最早必須、不可欠のものだと考えている。だがしかし、一方で新たな課題も出てきていることは事実で、それらのすべてが現状解決できている訳ではなく、今後これらにさらに手を付けていかねばならないと考えている。

デジチャンを使う上での一番のポイントは(デジタル音源再生に於いては)デジタル入力を行うこと。これが結果として最善の音に繋がる。もちろん一度DACを経由してアナログ化し、更にそれをデジチャンにて再度A/D変換してDSP処理し、またD/A変換する、という方法(こちらの方が一般的かも)が無い訳ではないのだが、、、心理的にも音的にもこれは避けたいのだ。また、デジタル信号のDSP処理は現状PCMしか対応できず、DSD音源はそのままでは対応できないのだ。したがって、DSD音源の場合は、DACにて一度アナログにしたものを入力するか、前段でDSDtoPCM変換をするか、いずれかの対応を選択しなければならない。(現時点での当方の選択はリアルタイムのDSDtoPCM変換処理により176.4KHz/24bitにするというもの)

Dante Audio Networkのテスト において、 MPP,DSP というデジタルチャンデバソフトウエアを試したことは先に記した。このソフトウエアはFIR(finite impulse response:有限インパルスレスポンス)によるチャネルデバイダー機能を持っているのであるがこれがとにかく素晴らしく正確なDSP演算処理を行ってくれ、その結果が聴感にも測定にも如実に現れる。

このMPP,DSPのテストにおいて、クロスオーバー周波数、スロープ特性、出力レベル、ディレイなどの各設定を当方のデジチャン(Accuphase DF-55)と全く同じにしているにもかかわらず測定の結果は異なるのだ。これはDF-55がIIR(Infinite impulse response:無限インパルスレスポンス)のDSP処理なので、一般的にはFIRフィルタに比較して高速で安価だが、バンドパスフィルタとしての性能や安定性が劣るとされており、それは測定結果を比較すれば明らかである。

(注記)IIRフィルタとしては、チェビシェフフィルタ、バターワースフィルタ、ベッセルフィルタなどがある。

上記MPP,DSPソフトウエアによる計測結果は こちら に記載しているが、このようなインパルスレスポンスの結果はDF-55のパラメータをいくら変えてみても我が家では得られることはない。Analog Devices社のSharc DSPチップは汎用的で優秀な性能を持つとは思うのであるがやはり処理方式ならびにDSPチップの演算パワーの差に起因するものと考えている。パソコンのCPUの高速性を十分に生かしたFIRによるチャネルデバイダー機能などのDSP処理。この優位性は明らかだと思う。

さて、現状の我が家のシステムではこのデジタルチャネルデバイダー(DF-55)は4wayマルチアンプシステムを構築する上での最重要となるキーデバイスでもあるが、この結果で正直悶々としている。これはまた測定結果だけではなく、聴感上にも差をもたらす。MPP,DSPを使用した場合とDF-55の音楽を聴いての感想で云えば、明らかにMPP,DSPの方が「音場形成の自然さ」が勝るのだ。おそらくこれはインパルスレスポンの正確性、スムーズな位相の繋がりなどが貢献しているものと思う。MPP,DSPは音像がかっちりしているが、比すればDF-55ではやや曖昧でおぼろになる。

このDSP,MPPはDante Audio Network専用のソフトウエアであるため、全面的にDante構成への移行を行わなければ導入することはできない。ここが今とても悩ましい。一方で音の質感という観点からは実は若干ながらDF-55が勝る。これがどこに起因しているものか正確には判断できていないのだが、弦の響きや音色などはDF-55に好ましさを感じるのだ。単にこれは「聴き慣れ」ということも影響しているとは思うのだが。もちろんトータルなシステムとして音は送出されるものであるので、これがDante Audio Networkの仕組みに依存しているのか、DAC部分の音の支配力なのかは定かでない。このため、どうしたものか、という思案の日々が続いている。

また、デジチャンの使用に際しては、デジタルインプットを前提とする、という先に述べたような自分なりの不文律があるので、音量調節のためにはDF-55後段にマルチチャネルボリュームが不可欠となっている。もちろん、前段入力のところでデジタルボリュームを利用するという手もあるのだが、当方は敢えてこれを避けている。従ってデジチャンとセットとなる「4way、8ch分の音量調節」を一括して行うことのできるボリュームが必要なのだ。もちろん市販品などない。現状はL-PAD型のロータリーアッテネータを連結した スペシャル品 を是非にと(分捕るように?)譲ってもらうことができたので何とかこの構成を維持できている。この入手までに約2年の年月がかかったという経緯もある。

もちろん、このマスターボリューム(10ch仕様)にも課題がある。ローターリーアッテネータを縦に連結しているパッシブ構成なのだが、音量調節はその構造からもリモコンで行うことができない。また、L-PAD型のシンプルな抵抗によるボリュームなので非常に鮮度感の高い音を聴かせてくれるのであるが、その構成故に微妙な音量調節は不得意で、云うなれば音量調整ステップ間の音量差がやや大きい。楽曲に応じた適切な音量調節をこまめに行うこともまたベストな音楽再生には不可欠だと思うので、「リモコンによる微妙な音量調節」という機能をこのマルチチャネルマスターボリュームにおいても希求しているのだ。しかし、そのような製品などどこにもないのが現状である。

が、やっとここに一筋の希望が見えてきたのだ。L-PAD型の音量調節をロータリー式ではなく、リレー方式でコントロールするという画期的な手法。それ故にステップ数制限のあるロータリー式よりも微妙な音量調節も可能となり、更にリモートコントロールも可能となる。これだけでも当方にとっては「血沸き肉躍る」ことなのだ。このような機器が入手可能となれば、何をさておいても最優先で迎え入れたいと思うのもまた人情というものであろう。もちろん、マルチチャネル(8ch)マスターボリュームはデジチャン(含むDAC機能)の後段に位置する機器なので、MPP,DSPとも当然ながら共存することも出来る。

翻って考えてみれば、デジタルチャンデバをベースにしたマルチアンプシステムは「実はハードルが高い」と言わざるを得ない。だがしかし、ここにはそうしなければ得られない音があるのもまた事実だと思う。求めよ、さらば得られん。運命の扉を叩け。余命幾許の当方にとって辿り着かなければならないゴールは近いようで、まだまだ遠い。


next index back top