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『太陽族の本だな』 − 本を読もう、紹介しよう −
〜2007年12月より〜
− 「本を読もう!なんでもええから。」という岩崎さんの発言から、今回はこんな特集をやってみます。
作家、演出家はもちろん役者もひとつの作品を創るにあたり、まずは戯曲と格闘します。戯曲を読む下地作りとしても、日々、本を読もうではないか。中には、活字中毒でつねに本を読んでる人、また資料であったり、息抜きであったり、たまたま出会ったりと、本の読み方や接し方も人それぞれ。ちょっと、そんな趣味の世界も紹介してみましょう。
―劇団員から読書メモが送られてきたら、ぼちぼち更新していくので、ぼちぼちご覧下さい。 岸部孝子の本だな
「恋と。」
百万遍 古都恋情 上・下
著:花村萬月 【新潮社】
三島が死んだ日に教護院を追い出された維朔17歳の物語。
花村の自伝的小説だそう。前篇「百万遍 青の時代」のラストで夜汽車「銀河」に乗って、今回京都へ着いたとこから始まる。
70年代の京大西寮にもぐりこみ、例によって暴力とセックスにあけくれる。
でもやっぱり繊細で、神経質で、自意識過剰で、清潔な17歳。きゅんとする。
鴨川べりでほんとうの恋をしちゃうんだもん。続編を待ってる一冊。「詩と。」
とげ抜き新巣鴨地蔵縁起
著:伊藤比呂美 【講談社】
大好きな詩人が去年出した長篇詩。私小説に思えるけど、これは長篇「詩」なのだ。
波のように襲ってくる生活のあれこれ。子どものこと、夫のこと、親のこと、仕事のこと。
立ち向かい、倒れ、立ち上がり、もう血まみれだ。
そんな自分の中身にぐさっと、ざくっと、手を入れて命がけで抽出されている言葉。
装丁・レイアウトは菊池信義。何度も読み返す本になりそう。
それにしても詩人てたいへんなしごとやな〜とつくづく。「イヌと。」
犬身
著:松浦理英子 【朝日新聞社】
犬好きが高じて犬になる物語。
犬好きていうても犬を飼いたいのでなく、自分が犬になりたいと願う房恵は「種同一性障害」だと感じている。
つまり人間に生まれるべきではなく、犬に生まれるべきだったという違和感。
で、bar天狼のマスターによって雄犬フサに変身、梓という陶芸家に飼われる。
梓は兄や家族と特異な関係を持っていた。
荒唐無稽な物語のようだが、すんなり読めた。
「親指Pの修業時代」の著者やからsexualityについての話かと思いきや、
これはcommunicationのことらしいな。魂のつながりというか。
■■■ 篠原裕紀子の本だな
「この本読みたくて探し回った。」
やがて目覚めない朝が来る
著:大島真寿美 【ポプラ社】
これは一人の少女が周りの大人たちに見守られながら成長していく話・・・ と書くとありきたりなので言い換えます。これは少女の周りの大人たちが 死んでいく話です。
両親の離婚を機に少女・有加は10歳より父方の祖母・蕗さんのところへ母子で移り住む。母が子供のころから親しかった2人の間の嫁姑関係は屈託ない。蕗さんは有名な元舞台女優で、周囲にはその頃からの友人たちが賑やかに集う。その大人たちに囲まれた満ち足りた日々。それを有加が回想するかたちで淡々と語られていきます。
語り手の有加の葛藤はほとんど語られず、蕗さんの波乱に満ちた人生と、それに関わる人々の人生が語られていきます。その穏やかでせつない、美しい日々。有加は老いていく周りの人々の愛情に包まれ、成長していく。そして大人たちも少女の成長を見守ることで自分らしさを増す。それは血の繋がり以上のものかもしれない。
回想、というかたちのせいか、登場人物の生活に現実感がないのだけど、蕗さんが元舞台女優、というのが効いている。最初は浮世離れ感を出す為かと思ったけどー。
いろんな葛藤や愛憎、みんなひっくるめて生きてきた時間が人生。過ぎてしまえば美しい時間。それはだれか特別な人にのみ与えられるものではなく、みんなが特別な時間を生きている。そんな話です。「たまには漫画も。」
X Day
著:三原 順 【白泉文庫】
漫画といっても侮るなかれ。読むところがいっぱいです。
この作家の作品は、はまる人と受け付けないひとに分かれるようですね・・・。「三原順」と聞いて40代の方には「はみだしっ子」を懐かしく思い出す人も多いでしょう。親子、きょうだい、友人、男女、社会。それらの問題がてんこ盛りです。もう、いっぱいいっぱい。
メインテーマは「反核」だと思います。ストーリー構成が見事。ある男が都会の自由に疲れ、親の農場を継ぐことを口実にし、故郷に帰る。でも親は子供を当てにするつもりはなく。それを自分の存在価値にしようとしていたのに当てが外れ、男は一旦目標を失う。立ち寄った兄の家族は崩壊寸前。親の不仲に苛立った子供たちに振り回される羽目になる。けれど男にも願いがある。この子供たちの成長を見守りたい。自身の幸せな子供時代を過ごしたこの故郷がいつまでもあるように。
なんとか繋ぎとめられてもでも、どうしようもないところから不意に全てを失ってしまうかもしれない。その怖さがさりげなく最後に提示される。こんなことが繰り返されるのか。そのためにささやかな幸せさえ、押しつぶされてしまうのか・・・。
併録されている「今は静かな」。
残酷で悲しい話です。またもや崩壊していく家族の話。
父親は自身の理想と正義感からの仕事を選び、外国へと旅立つ。残された母親は寂しさを募らせ、後を託された長男は次々起こるどうにもならない出来事に、正義感を押し付けた父親への不満を憎しみに変える。
後味の悪い終わり方が嫌だという方が多いかもしれません。でも、ある意味このラストは、ハッピーエンドではないでしょうか?受け入れることで理解し許しあい、愛を確信することが出来るのでしょう。
理解しあえても時既に遅し。ですが。
■■■ 中西由宇佳の本だな
「読まなアカンと思って、人に本借りまっくってん。」
赤い月 上・下
著:なかにし 礼 【新潮文庫】
激動の上巻でおもしろかった。
戦争終結頃の満州から始まるのだが、日本人がしてきたことの報いと残酷さが描かれ、その中で一生懸命に生きぬこうとする主人公、波子の姿が美しかった。人間は生きようとすると、こうなってしまうのかなと思った。自己中心的ながら、自分自身を守るのではなく、家族や使用人たちを守るのに一生懸命なところがステキでした。
上巻後半は、結婚から満州に行く流れを説明するもので、やや前半のスピードより落ちる感じがありましたが、初めて満州を見たときの落ち込み、しかし、大陸の自然の厳しい中にとても美しい風景を見ることができることなど、前半とは違い、美しさを見ることができました。「読書感想文!」
嫌われ松子の一生 上・下
著:山田 宗樹 【幻冬舎文庫】
上巻を以前に読み、今回下巻を読んだ。
まず、上巻で、一人暮らしの女性が、自宅アパートで殺され、その甥が部屋の片付けに行くところからはじまる。初めは伯母の存在も知らなかったのだが、伯母について調べ始める。その伯母が松子なのだが、物語は松子の視点からのものと、甥の笙の視点のものとが、入りくむ。過去と現在が、行ったり来たりする物語。
下巻は上巻より、それが多く、かなりスピードを上げて読めた。結局、本当にツキがない女性の話(自分でその方向に行っているかな?と思う)だったのだが、最後は、神様の話?と思う終わり方だった。イイ話の終わり方なのだが、それまでの話とあまりにも違いすぎて、うん?と思った。でも、話に起伏はあるので、読みやすい本ではあった。「短編小説を読んでいるので、小出しにして少量づつ書いていきます。」
七つの黒い夢
著: 乙一, 恩田陸, 北村薫, 誉田哲也, 西澤保彦, 桜坂洋, 岩井志麻子 【新潮文庫】
「この子の絵は未完成」 乙一
我が子の不思議なお話。幼稚園に通う息子が、絵を描くと、絵から、その匂いがしてくるという話でした。初めは蟻の行列が、家の中に列を連ねて入っているのをみつけて、驚いて追いかけると、息子の描いたケーキの絵に群がっているのを見つけるのですが、常識を息子がわかっていない!と怒っているので、もしかして、生クリームを絵の具にした?と思ったら、息子が、絵を描く最中に絵にするものの事を思っていると、不思議にその絵から匂いがしてくるのだとか。かなり主人公の母は絵を描くことを怒り止めさそうとするのですが、私はこれが本当なら、素晴らしいな〜と思いました。魔法使いではないのに、小さい子供が、魔法を使っているようで・・・。最後にはその絵で、日常の問題を解決するのですが。ほのぼのするような、不思議な話でした。
「赤い毬」 恩田陸
夢か幻想か?きれいな描写が続くので、読んでいるとまぶしい感じになる。
「百物語」 北村薫
はじめは、男女の恋愛の過程の話かと思いきや、怖い話だった。怖い話なのに怖い話を一つづつして、ろうそくのかわりに部屋の電気を消していくとは・・・。怖い話は苦手なのでヒャーと思った。そして最後は・・・。
(ちなみに、佐々木はこれがいちばん面白かった、と言った。)
「天使のレシート」 誉田哲也
神様が決めたことは絶対に変えられない。すべて神様が思うようになったと言うことなのでしょう。環境問題も含みのある話だった。
「桟敷がたり」 西澤保彦
この本の中で一番ゾッとする話だった。本当にありえそうで怖かった。しかし、疑問な点が一つ・・・。疑わしいと思い人物と二人でタクシーに乗るところが、何故??と思ってしまった。??です。
「10月はSPAMで満ちている」 桜坂洋
この本の中で、一番好きな作品。不思議だけど、日常の不思議な話で、本当にありそうな話でおもしろかった。小さなビルに押し込められた人間の阿吽の呼吸と言うか何というか・・・。ほんわかしてしまう。
「哭く姉と嘲う弟」 岩井志麻子
少し狂っている弟の話だと思ったが、最後に何がなんだか分からなくなった。姉のことを思いつつ、話をいろいろしていくのだが、最後の最後で、話の続きなのか、その弟の話なのか、ワケが分からなくなった。
■■■ 佐々木淳子の本だな
「あれ、これって結末は言わないほうが良いの?」
朗読者
原著:ベルンハルト シュリンク, 翻訳:松永美穂 【新潮文庫】
だいぶ前に読みましたが、未だマイベストブック。
母親ほど年齢の離れた女性と恋に落ちた15歳の少年の目線で語られる物語。描写は細やかで、景色だとかにおいだとか美しく想像される。翻訳もいいんよね、きっと。
彼女は少年に本を朗読してもらい、少年は文盲の彼女に本をよんで聞かせるという特別な愛の形で心から結ばれる。
あるね、だれしもそれぞれの心のつなぎ方って。幸せだけど、不器用で切ないのだ。
しかしその女性との恋愛はある日突然終わる。数年後、二人は裁判所で再会することになる。少年は司法を学ぶ学生として。彼女はユダヤ人強制収容所の看守でホロコーストに加わったという罪で裁かれる被告として。
ここから、人間の罪と、個人の罪の意識と、彼女の愛、彼女の朗読者であった彼の心の揺れ、恐れや怒り、感情の麻痺が物語を色濃くしていく。 泣けたなぁ。
■■■ つづく
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