△ 「背中のイジン」シーン1


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舞台中央に一人の青年、瀬名周人(せなしゅうと)がベッドに横たわっている。
そでから看護婦が入ってくる。彼を見て、ため息をつき、廊下に向かい

看護婦 「お願いします。」

すると、少し年輩の女医が入ってくる。
彼のベッドの傍へ近付き、優しく声をかける。

女医 「周人さん…瀬名周人さん…」舞台写真

周人は寝返りをうつが起きない。女医、また優しく、

女医 「周人さん、起きて下さい…周人さん…」

周人、寝言を言う。

周人 「…あ、ボクはカルピスで…」

間。

女医 「カルピス。」
周人 「はい。あ、あと半チャーハン二つ。」
女医 「半チャーハン二つですね。」
周人 「はい…」
女医 「あれ、お願い。」
看護婦 「はい。」

看護婦、女医に指示されたものを持って来て渡す。

周人 「いや、照れます。ものすごい勢いで照れますって…」
女医 「(ハリセンで力いっぱい周人を叩き)照れてんじゃないよ!」
周人 「いってぇ!何すんだよ母ちゃん姉ちゃん二人してよ!」
道子 「『何すんだよ』じゃないよ、このスットコドッコイ!」
典子 「てめ、病室で勝手に寝るなって何べん言わせりゃ気がすむんだ!?」
周人 「いいじゃねえか、空いてんだから。」
道子 「いいわけないだろ!(ハリセンで叩く)」
周人 「痛いな!何だよ、人が気持ちよく眠ってるってのに。ハリセンはねえだろ!」
道子 「親心だ、バカヤロウ!」
周人 「どこが!」
道子 「ここが!」

ハリセンに『親心』と書いてある。

周人 「ざけんな!」
典子 「ざけんてんのはお前だろ!何だよ『ボクはカルピスで』って?どういう夢見てんだよ!」
周人 「いいじゃねえか、どんな夢でも!」
典子 「じゃ、何だよ『半チャーハン二つ』ってよ!普通に一つ頼めっつんだよ!」
周人 「ちょっぴり得した気に…」
典子 「ならねえよ!」
周人 「やめろよもう!こっちは朝までバイトで疲れてんだから寝かせろよ!」
道子 「寝るならてめぇの部屋で寝ろって話だよ、ボケ!(ハリセンで叩く)」
周人 「うるせえ、バカ!」

入口から、森島が入ってくる。

森島 「あの。」
道子 「あ、今何つった、コラ。」
周人 「バカっつったんだよ。」
森島 「あの。」
道子 「てめ、親に向かって何だその口のきき方ぁ?」
典子 「あやまれ、ボケ!」
周人 「うるせえ、ブス!」
森島 「あの。」
典子 「(周人の胸ぐらを掴み)てめ、覚悟できてんだろなクラァ!」

周人、道子、典子、取っ組み合いになる。舞台写真

周人 「バカブス、バカブス!」
森島 「あの皆さん。」
道子 「(周人をはがい締めにし)典子!こいつにカルピス注射しな!」
典子 「おうよ!」
周人 「やってみろコラ!カルピス上等だコラ!」
森島 「やめてくださいって!!!!」

三人、取っ組み合いの形のまま、止まる。
台詞だけおだやかに。

道子 「あ、森島君、おはよう。」
森島 「お、おはようございます。」
典子 「今日もウチのじいさんと実験?」
森島 「えぇ、はい。それでちょっと周人君に用が…」

周人、森島の言葉を遮るように、

周人 「あ〜〜っ!!」

周人、森島に小声で

周人 「し〜〜っ!!」

森島、無言でうなづく。

道子 「何?何の話?」
森島 「いやいや…あ、そうだ。下にもう患者さん来てましたよ。」
道子 「え?」
典子 「母さん、時間!」
道子 「行きましょ!」

道子、典子、ハケる。

森島 「…相変わらず朝から仁義ないよな、キミんちは。」
周人 「その昔火炎ビン投げてた母と、元ヤンキーの姉だぜ。」
森島 「しかも今や女医と看護婦。」
周人 「日本最強の町医者だよウチは…あ、そうだ。じいちゃんの方は?」
森島 「そろそろ呼んで来いって。」
周人 「おっしゃあ!五万円、五万円♪」
森島 「お前って、ほんとゲンキンな。」
周人 「何だかんだ言っても、世の中カネよ。」

周人、ハケる。

森島 「おい…少しは御先祖様を見習えよな。」

森島、ハケる。

(作:松本仁也/写真:広安正敬)

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