右上の図を見て頂きたい。魚は死ぬと活魚の状態から「死後硬直」「軟化」「腐敗」と変化しますが、その死に方の違いによって魚体の変化速度が大きく違ってきます。瞬時に即殺した場合は、長い時間の中で息も絶えだえに苦悶死した場合に比べると、活魚や死後硬直の時間が長く続き腐敗に至るまでの時間が長くなります。
また、魚の味の点でも大きな違いがでてきます。
動物は死ぬと比較的短い時間内に組織自体が科学的に変化し、旨味の成分が生成されます。これは生きていた時、生体にエネルギーを供給する元になっていたATP(アデノシン三リン酸)という、呼吸によってできる物質が呼吸停止のために合成できなくなり、魚体内の残存ATPが自己分解を始め、イノシン酸という旨味の成分に変化するからです。このATPは生きている間にエネルギーを使えば使うほど減少するので、長い間苦しんで死んだ“苦悶死の魚”は残存ATPが少ないということになります。つまり、残存ATPが少ないということは生成されるイノシン酸の量も少ないということになり、旨くない魚ということになるのです。活魚槽の中で餌止めされ、やせ細って息も絶えだえに死んだ魚は、たとえ活魚とはいえ「まずい魚」ということなのです。