しらさぎ小麦の里から(大倉秀千代)

しらさぎ小麦の里から連載第2回・成長

大倉秀千代

田んぼの風景

　３月下旬の田んぼは、昨年１１月に種まきした麦が３０㎝位に成長し、日増しにたけを伸ばしている。空にはひばりが舞い、近くの山からはうぐいすの声が聞こえてくる。非常にのどかな風景だ。
　でも、今年は暖冬多雨の影響か、ビール麦の田んぼでは一部が黄色く枯れたようになっており、今年の収穫にも影響がでそうだ。
　私のしらさぎ小麦は、ビール麦より雨に強いため何とか順調に成長を続けている。少なくても去年よりは多く収穫できそうだ。

坂本竜馬生誕の地

　２月中旬、高知市で研修があり、自由時間に町のはずれにある「坂本竜馬生誕の地」へ行ってみた。司馬遼太郎著の「竜馬がゆく」の初めの部分にでてくる、竜馬が少年時代を過ごした地を、ぜひ訪れてみたかった。
　市電に乗り、駅前から１０分位、停車場で降り歩道を歩いていると、突然屋根に竜馬の胸像をおいた電話ＢＯＸがあった。そこが生誕の地で、横に大きな石碑があった。今はもうほかには何もない。
　ふらふらと、路地を入っていった。そこは静かな住宅地になっていた。竜馬の時代には郷士たちの屋敷町になっていたらしい。しばらくいくと、大きな川にでた。これが、潮江川（今の名は鏡川）で、竜馬は少年時代この近くの剣術道場に通っていた。
　川原は、公園になっていて、市民がジョギングしたり散策したりと、憩いの場になっていた。ベンチに座りぼんやりと竜馬のことを考えていた。一人の個人が、歴史の中でいったいどれだけのことができるのだろうかと。なにはともあれ、今４５才の私にとって、第一線で動きまわれるのはせいぜいあと２０年、ぼやぼやしてはいられないなと思いながら、集合場所へと帰路を急いだ。

近所付き合い

　私にとって、東京暮らしの「良さ」の一つに、人間関係のわずらわしさに惑わされなくていいというのがあった。会社を一歩出れば、周りにどんなに人がいようが、ほとんど孤独な状態でいることができた。家に帰っても、近所付き合いはほとんどなかった（それでも子供が生まれてからは、地域のつきあいも少しはできてきていたが）。
　岡山で暮らし初めてもうすぐ丸５年、今ではかなり深く根をはってきた。地元を歩けばみんなと挨拶をかわす。町内を車で走れば、知った顔とよくすれちがうし、近くの大手スーパーに行けば、知った顔に何人も会う。
　岡山は狭い。そしてそれ以上に人間関係が濃厚である。

町内会長

　そんな中、私に町内会長が回ってきた。日曜日が仕事のこともあり、町内会の行事にはほとんど参加していなかったが、こればかりは断りようがない。ところがなるやいなや、町内会の「コミュニティハウス建設」の話が持ち上がった。
　それまで、年に一回程度だった役員会を、ほとんど毎月開き、用地探しから始まった。各世帯からの積立の開始、地主さんとの折衝、町の補助金の相談、銀行からの借入の打ち合わせ、町内企業への寄付のお願い等、初めての経験の連続だった。
　何とか、今年中にはできあがるかなという段階で任期。ところが、もう一期やることになった。
　町内会長として、多くの時間と労力を使ってきて今思うこと。町内の皆さんの名前と顔をよく覚えた、また話ができるようになった。町内会はなぜ必要か。それは、結局は一緒に暮らしているご近所同士が、「おたがいさま」の精神で仲良くなるために必要なのだと思う。

一枚のはがき

　先日、一人の女性から私の会社宛に一枚のはがきが届いた。その方は、昨年１２月私のうどん屋に来店され、しらさぎうどんを食べられた。そして、ポイントカード会員になっていただき、その申込用紙の意見欄に、「大豆アレルギーの子供のために、天ぷらに使う油を『菜種油』にしてもらえたら・・・・」と書かれていた。
　無知とはこわいものだ。いわれるまで全く知らなかった。さっそく検討を開始し、コストは多少アップするものの、味も良くて２月から全面的に切り換えた。そしてこのことを、３月に発行した会員向け会報「こんにちは一文字第４号」で報告した。
　その女性は、郵送された会報を読み、油が変わったことを知り、わざわざお礼のはがきを書いてくれたのだった。「一文字さんの心意気に感激しました」と。その方以上に、私の方こそ感激した。「ちょっとした努力」だった。でも、こんなに喜んでいただけるなんて、うどん屋冥利に尽きるというものだ。

農学クラブ

　今年の正月、井上ひさし著の「農業講座」という本を読んだ。農業について非常に多面的角度からその意義が論じられており、私がもっていたもやもやがかなり整理できた。
　ここ長船の地でも、何とかこのような講座がつくれないものかと思い、友人知人に話しかけたところ、このほど１０人程度が集まり、「長船農学クラブ」をつくることとなった。４月より公民館の公開サークルの一つとして、活動を開始する。
　テーマがテーマだけに、すぐに形のあるものはできないが（ずっとできないかもしれないが）、本音で話し合える場になればと思っている。(つづく)

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