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しらさぎ小麦の里から 連載第4回(最終回)・実りの秋

大倉 秀千代


田んぼの風景

[写真]しらさぎ小麦の里・岡山県長船町の風景

 秋は、稲の成長とともにやってくる。8月のお盆過ぎの頃から、早生の品種から順に穂が出始め、9月上旬には晩生のアケボノ(私がつくっている品種で、長船町では今のところ一番多い)まで穂が出そろう。
 9月下旬には、早いものから黄色く色付き始め、10月上中旬には待望の稲刈りが始まり、11月上旬には終了する。
 今年の稲の出来は、このあたりは非常に良い。岡山県全体で103(良)だが、このあたりはもっと良いようだ。
 ここのところの日照不足が気がかりだが、おそらく今年も豊作ではと思う。


アイガモ奮闘記

 今年5年目となる私の稲作は、今までで一番一生懸命やった年になった。おかげで、今年こそ今まで続いた収量の低下に、歯止めがかけられそうだ。
 でも、稲を育てたというより、アイガモを育て、アイガモに稲を育ててもらったという感じだ。思った以上に非常に大変だった(今も進行中だが)。
 7月1日に、初めて72羽の雛をたんぼの放して以降、何度かキツネにやられ、30羽ほど少なくなった。
 アイガモ農法には、いくつかの段階がある。

  1. 雛を育てるとき
  2. たんぼに入れるとき
  3. アイガモで稲を育てるとき
  4. 穂が出てアイガモをたんぼから出すとき
  5. 休耕田等で集団で太らせるとき
  6. 肉にするとき
  7. 肉を処分(販売)するとき

 たいがいの解説書には、1から3までのことしか書かれていない。しかし、実際に苦労するのは、4から7の時だ。
 私は今、5の段階にいるが、11月下旬に予定している6の段階は、まだ解体してもらえる業者を探し中だ(7は一文字で「鴨うどんすき」にしてだす予定だ)。
 私のアイガモ奮闘記は、11月いっぱいまだまだ続く。しかし、完全有機無農薬栽培の「アイガモ米」(注)は、まもなく収穫を迎える。


これからの農業を考える

 今日の朝刊に「野鳥に高濃度ダイオキシン」「汚染源は除草剤か」との見出しで、水田等で使った除草剤が水系に流れ、魚を通じて鳥に蓄積したとみられると報じている。
 今農家の方に、「除草剤を使用せず、米を作ってくれ」といえば、ほとんどの人が「そりゃあ無理だ」と答えるだろう。なぜなら、今の稲作の中で、除草剤はそれだけ決定的な力を発揮しているからだ。
 有機無農薬栽培というが、化学肥料にかえて有機肥料にすることは短期的な効き目を考えなければ、やればできることだ。農薬の中でも、稲の病気とか害虫を予防する農薬は、使わなくてもうまく行けば全く害を受けないし、通常は受けても収量がある程度低下するだけだろう。
 でも、雑草を抑える除草剤は違う。雑草は稲の何倍のスピードで成長し、稲より背丈が大きくなるものがたくさんある。放置しておくと水田一面雑草だらけとなり、さらに翌年は種が増え、やがて稲は作れなくなる。1人2人の人力で雑草を取ろうとすると、暑い中でそれこそ「死んだ目にあう」。昨年私は自分のたんぼで経験した。
 しかし昨今、これだけ農薬等の害が明らかになる中で、「有機無農薬栽培」を真剣に考えていこうとする動きが、確実に広がっている。
 だが、ここで問題が2つ。1つは、「有機無農薬栽培」の信ぴょう性、もうひとつは、この栽培方法による米・野菜などの健康・環境面に与える付加価値が、正しく評価されるかということ。
 残念ながら、今の流通市場にはこれらのことを解決する機能がないに等しい。現状、消費者と生産者との直接取引が、唯一の方法になっている。
 こだわりの消費者グループと、生産者グループが信頼関係で結ばれて取引する。その中で様々な交流が生まれ、都市と農村との文化交流がはかられていく。
 たぶんこれが、これからの農業の一つの軸になっていくのではないかと、1人夢想している。


広がるネットワーク

 4月号のこの欄で「一枚のはがき」と題し、アレルギーのお子さんをもつお母さんからのはがきを紹介した。その後、この方の属する「親たちの会」との交流が進み、会の広報紙に、一文字を紹介してもらったりした。外食できる店の少ない皆さんにとって、一文字のしらさぎうどんは安心して食べられると喜んでいただいている。
 最近、中国四国農政局の中でも、一文字のしらさぎうどんは評判になっているらしい。その生い立ちのユニークさで、職員の方たちがよく食べに来てくれる。来年の2月頃、国産麦の生産・加工・流通・販売・消費のシンポジュームをやろうという話も持ち上がっている。
 先日、女性誌「クロワッサン」の取材をうけた。ホームページから見つけたらしい。来年1月初旬発行の「手作り」「安全」をテーマにした別冊で、一文字のしらさぎうどんを、4ページにわたり、紹介してくれる。

 これらはみんな、私の宝物だ。


土くさく生きる

 今私は、首までどっぷりと田舎の中に浸かって生活している。町(ここでは岡山市内)に出かけるのは、月に2、3回、店で飲むとなると年に何回かだ。カラオケにはもう2年近くいっていない。
 東京のサラリーマン時代、若い仲間といった駅前の飲み屋、朝まで歌ったカラオケをいつも懐かしく思い出す。
 田舎にないものは、都市との交流の中でカバーして行くしかないと思う。情報通信網の発達した現在、それは可能だろう。

 そういうことを考えながら、これから土くさく生きていこうと思っている。(おわり)


注)「アイガモ米」玄米30キロ15,000円+送料でおわけします。精米にした場合、27キロ前後で15,300円+送料になります。ご希望の方はメール下さい。メールアドレスはdodomese@oka.urban.or.jpです。


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